オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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〜前回のあらすじ〜
屋敷に現れた不届き者を歓迎した。


第54話 月下に踊る仮面

 早朝にもかかわらず、第三王女ラナーの部屋では茶会という名目の秘密会議が行われていた。テーブルについているのは部屋の主であるラナーと蒼の薔薇のフルメンバー。ラキュースだけではなく全員が呼ばれたのは、先日密かに襲撃した八本指の麻薬製造工場の件に関係しているからだろうと予想は付いた。その裏付けとして、テーブルの上にはラナーが解読した八本指の秘密文書から各部門の拠点を絞り込んだ地図が用意されていた。それをつまんでヒラヒラと振りながらガガーランが口を開く。

 

「姫さんよぉ、俺らを呼んだのはこれの話だろ? 何かあったのか?」

「ええ。それらは八本指の麻薬以外の部門拠点を示したものでした。この前はこっそり一箇所ずつ潰していこうと言っていましたが、そうもいかなくなりました」

「ちょ、ちょっと、ラナー? 数日前と全然話が違うじゃない。いったい何があったの?」

「実は……」

 

 驚き詰め寄るラキュースにラナーは数日前の出来事を話した。もちろんクライムの死とそのあとに起きたことは一切悟らせず。功績だけを抽出してみれば、彼の行動は多少無謀なところがあったとは言え称賛に値することは確かだ。実際、蒼の薔薇はこれまでの付き合いでクライムの実力をある程度知っているために尚のこと意外に受け止められ、高評価だった。

 

「噂に聞く六腕の一人を捕縛するとはな……」

「弱ったところを叩くというわけね」

「そうです。できればこれらを一気に攻めてしまいたいのです」

 

 一箇所ずつこっそり攻めるはずだった計画を、全部同時に。多くの人手を用意できない現状では、ラナーの言っていることはただの願望、机上の空論に過ぎない。八本指は王派閥貴族と反王派閥貴族の双方に通じて癒着しており、奴らを叩くため下手に貴族の手を借りることができないのだ。加えて襲撃を失敗して地下に潜られてしまえば相応の反撃を覚悟しなければならない。それは全員の共通認識だったはずだ。

 

「ひ、姫さんよぉ、そうは言っても手が足りねぇだろう。最悪俺らは一箇所一人で当たれば五箇所潰すのも無理じゃねぇさ。でもこいつに書かれた候補は……七箇所だ。残りの二箇所はどうするつもりなんだよ。童貞にゃ荷が勝つだろうしよ」

「クライムは先日の娼館襲撃の負傷と疲労が溜まっているので万全ではありませんから、今回頭数には入れません」

「ラナー様、私は大丈夫で……うっ」

 

 丸一日もすれば身体の自由は完全に取り戻すことができていた。安心させるという意味でも一層精力的な働きを見せたいところだったが、その意気込みはいまにも泣きそうな眼を向けてくるラナーの前にしおしおと萎んでしまう。もう彼女を悲しませる真似はしないと誓ったのだ。少々反応過剰にも思えるが、負い目も手伝ってあまり強い主張はできない。

 

 そうすると残る戦力は蒼の薔薇だけということになる。襲撃場所の中には当然、八本指最強の暴力である六腕の姿もあるだろう。不覚を取ることは無いにしても手強い相手には変わりない。六腕を捻じ伏せて別の拠点へとなれば骨が折れるといった程度の話ではない。もし運悪く六腕に連続で当たれば失敗の可能性はグンと上がる。

 

「手を貸してもらえそうな貴族に心当たりがあります。クライム、レエブン候を呼んでもらえるかしら。先日の会議に出られていたからまだ王都内に滞在しているはずです」

「レエブン候……。信用していいの、よね?」

 

 レエブン候と言えば王派閥と反王派閥のあいだを日和見で行ったり来たりしている印象が強く、影ではそのフラつきようを揶揄して蝙蝠などとまで呼ばれる貴族だ。噂の信憑性には疑惑の余地があれど、万一にも失敗できない作戦に白とも黒ともつかない人物を噛ませるのはラキュースから見れば大きなリスクに思えた。だがこの局面で博打をうつタイプの友人ではないことはよく知っている。

 ラナーはゆっくりと、しかし確かに自信を持った頷きを返した。

 

「クライム、レエブン候を呼んでください」

 

 

 

 ラナーの推測通り、レエブン候は王都内にまだ滞在していた。呼び立てに対して異様な早さのレスポンス、加えて第二王子のザナックを伴って現れたことは少なからず蒼の薔薇を驚かせた。実際に動くのはラキュースたちだが、レエブン候からすればそれは知ったことではない。故にこの会合はラナーに呼ばれたレエブン候と、それに付いてきたザナック三人だけの場である必要があった。最高位のアダマンタイト級であっても蒼の薔薇は一介の冒険者でしかない。お付きのクライムともども、その場に居座ることはできなかった。

 

 会合を終えたラナーから告げられたのは、レエブン候から兵力提供の確約を得たことと、ザナックたちが中心となって調査している八本指の麻薬部門の拠点が一箇所襲撃候補に追加されたことだった。全てを同時に襲撃するのは不可能であり、残りの三箇所は手が空き次第襲撃を掛けるということで落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

「ああ、そっちは放っておいて構わない。三魔将の彼にはくれぐれも気を付けるように念押ししておいてもらえるかね」

 

 ≪メッセージ/伝言≫を切ったデミウルゴスは王都の見取り図に黒水晶でできたポーンを三つ置いた。他に丸で囲われたポイントが四つあり、それらにはそれぞれビショップやルークの駒が配置されている。ちなみにキングの駒は地図の外へと置かれており、クイーンの駒は見当たらない。

 

 ナザリックから動員した戦力へはすでに作戦の概要と配置指示を伝えており、現在は最終確認の段階に入っている。全体の責任者はデミウルゴス。計略もまた彼の得意分野の一つであり、その真価を発揮する機会を与えられたことで並々ならぬ意気で現場指揮に臨んでいた。

 

「デミウルゴス、楽しそうだねぇ」

「はっ。申し訳ございません。作戦の進行が順調だったためについ」

「いやいいよいいよ。気持ちは分かるからね。事前に立てた作戦がそのものズバリ決まったときはすごくスカッとするし」

 

 跪こうとしたデミウルゴスは触手の一本で制される。チームリーダーにも近い役目を果たしていたぶくぶく茶釜はこういった策を考えることには長けているのだろうが、今回は総指揮であるデミウルゴスに遠慮しているのか横から口を挟むようなことはしなかった。かといって頑として不干渉というわけでもなく、意見を求められれば鋭い指摘をする。いわばアドバイザーである。実際彼女が話に噛んできたのは作戦開始前。デミウルゴスが話した全容に当然と言うべきかアインズとぶくぶく茶釜は要員として含まれていなかったのだが、シナリオを作ってアインズを要員に組み込んだのだ。当の自分は作戦開始後適当なタイミングでナザリックへ帰還すると最初から宣言している。

 

「何? ……そうか、もう一箇所。了解した。こちらも対応しておこう」

 

 影に潜みながら移動してきた影の悪魔(シャドウ・デーモン)からの情報を受け取り、≪メッセージ/伝言≫の巻物(スクロール)を使用する。王都で仕入れた分以外にも司書長作成分を含めて在庫の保有は十二分にあった。

 

「私だ。申し訳ないが襲撃する箇所に追加があった。第一段階に出番は無いと言っていたが、そちらを頼んでも構わないかね? 君なら梃子摺って遅刻するということもあるまい。ああ、そうだね。第二段階を考えると万が一のリスクも消しておきたい。ぜひそれで頼むよ」

 

 テキパキと臨機応変に指示を出していく。急遽の変更にも即応できるのは、こちらの手札に対して相手の戦力がまるで考慮に値しない貧弱さという報告をセバスから受けているためだ。もちろんそれはひとつの参考でしかないのだが、司書長やソリュシャンからの報告も踏まえるにその判定は概ねにおいて正しい。

 

 最後にナイトの駒を見取り図に追加した丸の上に置き、懐から取り出した仮面を装着する。それは耳元まで裂けた口が狂気の表情を作っている緑色の仮面。

 

「私も出撃致します。どうぞご存分にお楽しみください」

 

 いつも通りに完璧な最敬礼をして、獄炎の悪魔は屋敷を出ていった。

 

 

 

 

 

 

「……もうじきか」

 

 絞り出した声はテーブルの空気をさらに重苦しいものにした。

 

 元々の原因はゼロの部下が一日経っても戻らないことだった。たかが小娘一人の拉致、さしたる時間は掛からないはずが陽が沈もうとも朝が来ようとも一向に部下が戻る気配は無かった。いよいよ痺れを切らしかけたゼロのもとへ、部下の一人が一枚の羊皮紙を持ってきたのだ。

 書いてあった内容を要約すると、「人質など取らなくとも相手をしてやるから逃げるなよ」だった。それを見たゼロは当然怒り心頭に発し、他のメンバーは目を合わせないよう貝のごとく沈黙を保っていた。

 執事が現れるはずの、もとは六腕が指定した時間まではあと十五分も無い。

 

「どこへ行くつもりだ」

 

 無言で立ち上がった影を咎める。漆黒のローブの袖には炎をモチーフにしたデザインが編まれ、その奥からは鼻が削げて骨と皮だけの骸骨の顔と、鬼火のように揺れる青い目がゼロへと向けられた。

 彼の名はデイバーノック。不死王とも称されるその正体は死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、純然たるアンデッドモンスターである。

 

 少し普通と違うのは、デイバーノックはアンデッド全般に多い生者への憎しみが乏しい。無いわけではないのだが、それを容易く押し込めるほど新たな魔法習熟に対する欲が強いのだ。

 その個人的な欲望のために魔法を習う対価としての金を得ようと追い剥ぎ殺人に近いことをやって冒険者に討伐されそうになったり、情報の集まりそうな傭兵団に入ったらモンスターであることがバレて逃げだす羽目になったりするなど妙に抜けているというか運が悪いところがあるのだが、その実力は本物だ。

 中位冒険者には切り札になり得る≪ファイヤー・ボール/火球≫を連発可能なうえ、アンデッドの種族特性のために暗所での戦闘に有利で罠の仕掛けにありがちな毒や麻痺は効かず電撃や冷気にも強い。

 

 八本指が実力至上主義的な組織であることも好都合だった。組織の者は「稼げること」以外に基本的に興味が無い。途方に暮れていたデイバーノックにとって幸運だったのは自分を拾ったゼロがクレバーな実利主義であり、互いに利する関係さえあれば種族の違いなど単なる個性程度にしか見ていないということだった。

 だからこそデイバーノックは組織に身を置くことができている。末端の構成員などにはある程度隠しているものの、六腕の連中が正体を知ってもあれこれと騒ぎたてることをしなかったのは少なからずゼロの影響がある。

 

 柄にもないと訝しがられるだろうからこそ口にはしないが、デイバーノックなりにゼロには感謝していた。

 

「見張りだ。私の方が夜目は利くからな」

「分かってると思うが、勝手にさっさと殺すんじゃないぞ」

「フン、そんなことをしたらそいつよりよっぽど高い恨み料を請求されそうだな」

 

 組織へ身を寄せる理由は元々新たな魔法の習熟とその対価としての金を得るためだ。ゼロが身内からでも取れる筋があれば死なない程度に容赦無くむしり取る男だというのはついさっきサキュロントが証明した。

 いらぬ恨みを買って金を払うなど阿呆のすることだ。

 

 ゼロは止めない。デイバーノックがそういう損得勘定のできる奴だと分かっているから。場を支配しているゼロが止めないなら、他の六腕が動く理由も無かった。

 

 会議室から出て廊下を進むと、いつもより警備動員の多さが目に付いた。両脇をがっちりと固めた階段の前を通るときに思い出す。

 そういえば今日の処刑を一種のショーとして悪趣味な貴族を集めていると聞いた。

 

 確かに、建物の間取りを考えると三階の窓際から見下ろせば正門と繋がる広場はよく見えるだろう。血なまぐさい刺激に飢えた豚どもは安全圏から愉悦の甘露を味わうことができる。

 

(刺激的な見世物とでも考えているのだろうな。バカな連中だ)

 

 ゼロの狙いはパトロンを楽しませることなどではない。この機会に六腕の圧倒的な強さを見せつけ自分たちの価値を高めるとともに、絶対に敵に回してはならない相手だという楔を打ちこむことだ。

 裏切られるリスクを減らし、かつ今後の交渉で優位を得るための布石。頭が冷えて血の気が引きはじめる頃には既に術中というわけだ。

 

 四半刻としないうちに鮮血に染まるであろう広場でデイバーノックは足を止める。木々が遮蔽しているため見えないが、続く通路の先には鉄格子が配置された正門があり、目立たない場所で常に見張りが立っている。

 あの余裕ぶった文書が虚勢であろうがなかろうが、人質を取れていない以上相手にはこの場所を訪れる理由が無い。それでも現れるとするなら真正面からしか考えられなかった。

 そしてデイバーノックの推理は正しかった。見張りに出てから数分、刻限よりも少し早く現れたダークスーツの男が木々の陰から姿を現す。迷うことなくゆったりとした足取りからは警戒や恐怖といった感情を微塵も感じない。

 

 それよりもデイバーノックを困惑させたのは、その男の横に第三者がいたことだ。腰まで届く金髪と純白のドレスに綴られた白銀の刺繍。歩くたびに裾から覗くハイヒールも高価そうな煌めきを放っている。他にも宝石商が喉を鳴らすほどの品がよいネックレスやイヤリングといった装飾品を惜しげなく身に着けていた。白亜の仮面によってその表情が隠されていたのは異様の一言に尽きるが、仮面舞踏会から抜け出してきた大貴族の令嬢という表現が端的で的確だ。

 

「このようなところで道草を食っていてよろしいのですか?」

「前半は割り振られている仕事がなくてヒマでありんす。なら、愚かで阿呆な連中の散りざまを見て愉しむのに問題はありんせん。心配しなくても邪魔はしないから安心しなんし」

 

 まるで物見遊山の姫と執事といった雰囲気だが、ここがどういう場所かを考えれば二人のやりとりはあまりに場違いだった。だが六腕の側からすれば細かいことはどうでもいい。一人が二人になろうが大した問題ではないのだ。むしろ奴隷部門のコッコドールへの詫びにそのまま回せそうな商品が付いてきたと思えばラッキーな話だ。

 アイテムや服飾は専門外だが、見たところ少女の着ている服一式はそうやすやすと手に入る品ではない。そもそもドレスに類する服は王族や貴族と言った上流階級のためのものであり、最低ランクのグレードでもそれなりの値が張るはずだ。それを着て外へ出歩くなど、貴族であっても中の下程度の財力では身に付かない価値観だ。

 

(待てよ、だとすると少し……)

 

 肩越しに建物の三階を見る。あそこには今日のショーを見るために各方面のお偉方が集まっている。当然その中にはそこそこ有力な貴族も含まれているのだ。もしこの少女がその貴族の身内や近しい関係にある存在だったなら、下手に手を出すと色々と面倒なことになりかねない。

 

 アンデッドは生物的な繁殖をしない。本能にも近い憎悪をもって正者に仇なすのが一般的な特徴だ。

 デイバーノックは違う。知性ある彼は本能よりも高次の知識欲のために正体を隠して人間社会へと潜りこんだ。過去に不手際や失敗はあったものの、いまとなっては貴族連中の心情を慮るくらいわけはない。

 媚を売るためではなく、自分に降りかかるリスクを最小限にするためにそれは必要なことだった。

 

 どちらにしても他の六腕が揃うまでまだ多少の時間がある。もしこの娘が殺してまずい相手なら、広場の様子がよく見える三階から警備員を通してストップがかかるだろう。それまでは適当に理由をつけて巻きこまないようにだけ気を付けておけば問題は無い。

 

「まさか本当に来るとはな。よほどの自信過剰か狂人か」

「これは異なことを。呼んだのはあなた方でしょう。私がここを訪れる理由も書いてあったはずですが?」

 

 来たこと自体にも驚かされたが、その理由はさらにデイバーノックを驚かせた。この男は本当に「うっとうしいから」という理由だけでここへ来たと言い放ったのだ。それは取りも直さず六腕に手を引かせる自信があるということ。

 あり得ない。自分が六腕の一角であるからこそなおさらそう思う。もはや求めているのは金銭的な搾取ではなくデモンストレーションのための生贄だ。その生身に流れる血と命によってしか六腕を止める(すべ)は無い。

 

 およそ合理的ではなく己の理解を越えた思考の持ち主を前に、もう少し話を聞いてみたいという考えが湧きあがってくる。魔法の習熟に対する衝動にも通じる、知的探究心とでもいうべきか。

 その目はあくまでも珍妙な存在に対する好奇の眼差しであり、魔法実験の被験体に向ける一方的な観察だった。

 上で見ている観客からしてもこの接触はちょうどいいオープニングセレモニー代わりになるのだ。

 

 両者の距離は有利も不利も無い中距離といったところだが、広場に配置されている照明のおかげでデイバーノックが人間ではないことは既に男へ知れているはずだ。だがそんなことで精神を乱したりはしない。元冒険者が用心棒紛いの仕事を生業にしているのは珍しくもないし、元冒険者ならばアンデッドもそこそこ見慣れているはずである。

 

 何にしても最大の懸念であった見世物の確保はできた。もしこのまま誰も現れなかったとしたらわざわざ人を集めて評判を落とすことにもなりかねなかった。名声がそのまま依頼の数と報酬に直結する裏の世界では力と運の足りなかった者から淘汰されていくのだ。その点、六腕の持つ力は比類ない。そしてここで獲物が現れたということは、ボスであるゼロの運はまだまだ尽きないことの証明でもあった。

 

「六腕というからには、全部で六人いるものかと思っていましたが……」

 

 広場にいるのは十数人。デイバーノック以外は服装も装備品も似たり寄ったりの警備員たちが徐々に集まりつつあった。彼らの強さはたかが知れているが、それでも裏組織の人間だ。束になればそれなりの脅威となる。

 

「じきに来る。ところで、どういうつもりか知らんが隣の娘は下がらせておけ。恐怖で泣き叫ばれてはかなわん」

 

 存在に気が付いていなかったのか、少女の視線はデイバーノックに向きつつも放心したようにその表情はキョトンとしていた。世間知らずの貴族にはよくあることだ。生まれたときから危険を知らないせいで生物としての危機察知能力が乏しく、誰かが自分を無事に守ってくれるのが当たり前だと思っている。

 この少女にとっては隣の執事が守りの盾たる存在なのだろう。

 

 すぐにでも知ることになる。この世に不滅のものなどないことを。ヒトはいつか死ぬ。木はやがて朽ちる。水はじきに腐り、岩はいずれ崩れる。

 

(そう、寿命も無く食事睡眠も要らぬ。アンデッドこそがこの世で唯一不滅たる存在! 魔道に精通するは世界を一手に掴むと同義なのだ)

 

 守り手と護衛対象の関係ならば執事が娘を庇って前に出るかと思ったが、一向にそんな気配は無かった。

 頭が回っていないのか、恐怖で足が竦んで動けないのか、どちらにしてもこの位置関係で膠着するのはデイバーノックとして望ましいことではなかった。

 

「娘、死にたくなければ下がっていろ」

「驚いたでありんす。冗談のうまいアンデッドでありんすねぇ。……面白くはないけれど」

 

 わざとらしく口元に手を当てている。アンデッドであることは理解していたらしいが、それでもこの場に合わないズレた反応をするあたり世間知らずの貴族という線は大ハズレではなさそうだ。

 もう一息脅せば恐怖で逃げ出すか執事の背に回るだろう。

 

 過去の経験からデイバーノックはそう判断した。

 

 だがそれは間違いだった。決定的で、致命的な。

 

「舐めるなよ、人間! 魔法の一撃で黒炭にしてやろうか!」

「おお、怖いでありんすねぇ。いったいわたしにどんな仕打ちをするつもりでありんしょう、この死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は」

 

 どこからともなく取り出したファー付きの扇子で口元を隠してはたはたと扇ぐ。

 

(バカな人間め。高飛車の代償は高くつくぞ)

 

 なるべく娘を傷付けまいと考えていたプランは破棄だ。それなりの時間は与えたし、殺さないにしても女としての一生が終わる程度の火傷は覚悟してもらう。

 そうすることで六腕を侮った者は老若男女問わず報復を受けるという評判の強化にも繋がる。ある意味この二人の組み合わせは効率的でラッキーだったのかも知れない。

 

「フン、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を知っていたか。だがこの不死王デイバーノックはいずれそれらをも超越する存ざ」

 

 デイバーノックの宣言は唐突に終わりを告げた。

 

 誰が分かっただろう。突然デイバーノックが消えた理由を。誰が聴こえただろう。少女が叩いた手の平の音を。誰が理解(わか)っただろう。この少女こそが────。

 

「シャルティア様」

「手を出して悪かったとは思いんせん。『不死王』だなんて不敬極まりないモノ、一秒でもこの世界に在るのが許せなかったでありんす」

「いえ、私も同じ思いです。私ではこれほど跡形も無くとはいかなかったでしょう。ありがとうございます」

 

 セバスの力をもってすれば打撃の一発で死者の大魔法使い(エルダーリッチ)ごときを滅することなど造作も無い。だが肉体が崩壊しようとも元々内在していた負のエネルギーはその場に残り、やがて近くの力場に吸収されてある意味闇の輪廻転生へと回帰する。

 一方神官でもあるシャルティアの浄化であれば負のエネルギーごと完全に昇華させてしまうため、文字通り塵ひとつ残さずに消滅させることができる。アンデッドにとっての消滅は生物でいうところの死であり、不敬者に与える罰としては妥当な線だ。

 

「おい、いま何が起こった?」

「し、知るか! とにかく他の方たちを呼ぶんだ!」

 

 その瞬間を目撃していた者はにわかに慌ただしく、決定的瞬間を見逃した者も何か異様な雰囲気を察して警戒あるいは伝令に走った。全く監視の目を無くすわけにもいかず十人あまりは残ったが、下手に手を出すこともできず遠巻きに様子を見ている。

 少女は片手を耳に当ててここにはいない誰かと会話をしているようだった。

 

「────ええ、手は空いていんす。でも、あとの部がありんしょう? 〈血の狂乱〉が発動してまた前みたいなことになったら困りんす……。多少残念ではありんすが、眷属を使いんしょう────」

 

 ≪メッセージ/伝言≫を切り、扇子も懐へとしまう。

 

「彼ですかな?」

「潰す拠点のおかわりでありんす」

「そうでしたか。それは……」

 

 歯切れが悪い。気になることがあると沈黙が語っていた。苦虫を噛み潰した気分でシャルティアはため息をつく。

 

「デミウルゴスにも釘を刺されんした。でも殲滅は眷属にやらせるから、<血の狂乱>が発動する心配はありんせんえ。はー、愉しめると思ったんでありんすが……」

 

 残念、というのは。セバスは追及しない。明言させることに意味は無く、ナザリックに盾突く愚かな罪人たちの行く末がどうなろうと知ったことではないからだ。

 

「それじゃセバス、わたしはもう行きんす」

「ええ」

 

 見送りの礼を済ませたセバスは屋敷内の殲滅を開始した。警備の報告を受けて出てきた六腕はセバスを殺すどころか傷ひとつ付けることができなかった。六腕を片付ける前と後で変わったのことは純白の手袋が赤黒く染まっただけであり、それは高みの見物を決めこんでいた連中の恐怖心を増大させるだけだった。六腕が全滅した時点で彼らを守るための暴力もまた失われているのだ。六腕を血の海へ沈めても老執事の形をした恐怖そのものの足は止まらない。

 圧倒的な強者のプレッシャーはそれだけで部屋の入口に近かった数人の意識を奪った。恐怖のあまりに失禁する者すらいた。

 

「他言は無用。もし情報が漏れたら連帯責任であなた方全員に死んでいただきます。そこに倒れている方々にもよくよくお伝えください」

 

 誰一人として言葉を発することなく沈黙が支配する、異様な空気の中でかけられた露骨な脅し文句。これを笑い飛ばせる者がいたとしたら帝国の鮮血帝並みに豪胆な人物か、すでに正気を失った誇大妄想狂だろう。全力で首を縦に振る以外、彼らに選択肢は無かった。

 

 

 

 

 

 

 襲撃箇所への配置はあらかじめ時間を決めておき、各員がばらばらのルートで現地集合するという形をとった。城からアダマンタイト級冒険者を含む武装集団が一斉に出てきたとなれば高確率で相手の情報網に引っかかるからだ。

 この集合方法ならギリギリまで計画を気取られずに済む。先走りは厳禁で、特に急作りのチームならなおさらのことだ。

 

「だってのによぉ、こりゃいったいどういうことだ?」

 

 軽々と肩に担いだ刺突戦鎚(ウォーピック)を揺らしながら困惑の表情を浮かべるのは蒼の薔薇の戦士ガガーラン。後ろにはレエブン候の協力によって動員できた私兵の数人がついているが、兵士は基本的に上官の命令によって動くものであり一部を除いて現場判断のウェイトが大きい今夜の作戦などには不慣れな者が多かった。まして班内における最高戦力が男勝りで有名なこのガガーランであることは誰が疑う余地も無い。そんな彼女が様子を見ているところへ口を差し挟んだりできる者がいるわけもなかった。

 襲撃をかける予定の時刻にはまだ多少の猶予があった。だが実際現場に着いてみると対象の建物は燃え上がってはいないもののあちこちの窓から黒煙を上げており、どう見ても何らかの異常事態が起こっているとしか思えない状況だった。

 

 肩越しに後ろの連中を見ても、その顔に浮かぶのは不測の事態に対する疑問と不安の表情ばかり。ということはレエブン候の仕込みでもない。どうするかの迷いは一瞬。咄嗟の判断でどれだけベストに近い行動ができるか、それもまた一流たる者の持つ資質だ。

 

「俺が様子を見てくるからお前らはここで待ってな。合図したら突入してくれ。とっとと片して他の場所のフォローに回るぜ」

 

 無言で頷いた兵士たちの視線を背負い、ガガーランはなおも黒煙を上げる屋敷へ歩を進めた。

 

「なんだありゃ……」

 

 塀に阻まれて見えなかったが、敷地内に入るとひとつ異様なものが見えた。それは無造作に積まれた人間だ。しかも開きっぱなしの正面扉の奥から雑に放られた数名がさらに積み重なり、山は現在進行形で大きくなっていた。扉の陰から小さな影が姿を見せる。

 

「ふんふんふーん、……ん、だれぇ?」

「よお、いい夜だな。こんなところで何してんだ?」

「散歩ぉ……えーっと、お掃除?」

 

 顔を覆う仮面のせいで表情は見えないが、声はどこかで聞いたことのあるような少女のものだった。興味なさげに答えたそいつは両腕に引き摺っていたものをそれぞれ「んしょっ」と投げてさらに山を高くする。

 

「これでぇ、おしまいかなぁ」

「待ちな」

「なあにぃ?」

 

 長い袖に隠れた両手をポンポンとはたいて踵を返そうとする得体のしれない少女に刺突戦鎚(ウォーピック)を突きつける。脅しのためだったが、ガガーランの経験と勘がこの少女に警鐘を鳴らしていた。その直感はアダマンタイト級冒険者の威圧を前に一切狼狽えない態度を見て半ば確信へと変わる。

 

「どこの誰だか知らねぇが、はいそうですかと帰せる状況じゃねぇ。話を聞かせてもらうぜ」

「わたしも貴方を知らないからぁ、お互い見なかったことにしないぃ? あんまり邪魔だとぉ、そこの人間と同じにしちゃうよぉ」

「まともに話は聞けそうにねぇな。悪いが無理にでも喋ってもらうぜ!」

 

 

 

 振りかぶった刺突戦鎚(ウォーピック)が打ち下ろされる。本気の殺意は乗っていない、いわば様子見の初手。反撃に出るでもなく、宙に舞う紙のようにヒラリとそれをかわした。さすがに戦闘しながら≪メッセージ/伝言≫での報告はできない。折角仕事に目処がついたというのに、高揚していたところへ水をかけられた気分のエントマは内心のイライラが蓄積していくのを感じていた。

 

 男とも女とも判断し辛いそいつの攻撃は空振るごとにより精度と速度を増していった。いきなり最大の一撃でこないのは向こうも探り探り戦っているからだろう。一際(ひときわ)力の込められた得物が急角度でコースを変えて襲い掛かる。いくら格下の相手とはいえ、その重量はエントマが素手で受けるには相応のダメージを覚悟しなければいけないものだった。一瞬でそこまでを見極めたうえで、エントマは体をかわすことはしない。むしろ踏ん張るように両脚を肩幅より広げて左腕を掲げた。伝わる衝撃に長く余った袖とフリルの付いたスカートが揺れる。

 

 硬質な音を響かせたのはエントマの左腕に張り付いた八本以上の足を持つ硬甲蟲(こうこうちゅう)だ。蟲使いの使役に応えて両者の攻防に滑り込んだ。見たこともない『生きた盾』に男女(おとこおんな)がわずかな驚きの声を上げ、硬甲蟲は主へのグリップを確かめるようにギチギチと軋みにも似た鳴き声を上げながら足を器用に動かした。それは刺突戦鎚(ウォーピック)の一撃を受けても依然健在であることの証明であり、この戦いが生易しく決着するものではないことを予感させた。

 

「おいおい、盾の次は剣かよ。もう何でもありだな」

「もう時間が無いからぁ、知らないぃ」

 

 作戦の一部を担っている身としては襲撃完了の旨を一刻も早く報告する必要がある。だがいまの状況ではそれも叶わず、かといってむやみやたらと殺してはならないとの指示も受けている。空いていた右手に剣刀蟲(けんとうちゅう)を取り付かせて狙うのは、傷が浅くてもそこそこ派手に出血する胸元もしくは機動力を奪う足。殺害さえしなければなりゆき上の不可抗力として弁明はできる。問題があるとするなら、エントマはあくまで蟲使いであって本職の戦士ではないことだ。剣士としての技量を有しているわけではないため、単純に身体能力に頼った力押ししかできない。相手が回避技能を持っていれば、不本意ではあるが手持ちの中でも最強の蟲を呼ばざるをえない可能性があった。その場合、作戦中止になることはないにしても後々不都合が生じたときに非常にマズいことになる。それで至高の御方々に失望でもされたらと思うと振るう(やいば)に思わず殺気がこもってしまうほどの恐怖であった。

 

圧力(プレッシャー)が変わったな。いよいよ本気ってわけか」

 

 表情は読めないが、優れた戦士は攻防から巧みに相手の心情を拾い上げる。心理を読むことは次の手を読むことに繋がる立派な技術のひとつだ。もっとも読み取った心情がかえって混乱を招いてしまう場合もあるため、中途半端な者ほど危なかったりするのだが。ガガーランにもまた迷いがあった。相手の意図が見えなかったからだ。分かっていることは人間の山を作ったのはこいつだということ。警戒するべき存在であることは疑いようが無いが、(やいば)に乗せられた感情は憎悪などではなく、恐怖。それを上回る悲しみだ。

 

()せねぇ。向けてくる冷たい殺気はマジモンだが、なんか気持ちが入ってねぇんだよな)

 

 斬撃の鋭さは侮れないが剣士としての習熟度は高くないらしく、虚実の無い攻撃であれば回避や防御はなんとかなる。受けて、返して、受けて、返して。元々刺突戦鎚(ウォーピック)は手数の多い武器ではないが、ある程度相手のパターンに慣れたこととガガーランの人並外れた膂力によって二者の打ち合いは拮抗する。得物の強度も互いに負けていない。

 

(まずいな、こりゃ)

 

 膠着状態に陥っている以上、予定していた他襲撃場所への協力は難しい。そしてガガーランと真正面から近接で打ち合えるほどの強さを持つ得体の知れない存在。それもまだまだ全力ではない様子で、レエブン候が用意した連中ではおそらく足止めも不可能だ。こいつを好き勝手に動かさないためにガガーランはこの場を離れることができない。

 本来なら自分の担当を早々に片付けて他の襲撃箇所へ加勢している頃合いだ。歯がゆさを感じながらも埒はあかない。その苛立ちのせいか、少し大振りになった刺突戦鎚(ウォーピック)は空を切って地へ突き刺さる。引き抜きに取られる時間はわずかだが、勝敗を決するには充分な隙だった。

 一か八かで踏み込むか、得物を手放して飛び退くか、判断は一瞬。柄を握る手を緩めた瞬間、切りつけてくると思われた相手は逆にバックステップで距離を取った。仮面のメイドがいた場所に見慣れた()()()が刺さる。

 

「らしくない。中途半端」

 

 後方から音も無く現れたのは前垂れのついた軽装に口元まで覆うストール、後ろに束ねた髪が箒状に天を突く身軽そうな装いの女性。

 

「ティナ、気を付けろ。そこの連中はこいつの仕業だ。しかも異様に強い。強いんだが……」

「ガガーランと正面から打ち合ってる時点でまともじゃないのは分かる」

「妙だぜ。本気で殺しに来てねぇ」

「制圧が先。聞き出したいことは後にすればいい」

「いまの状態だと話は聞けそうにねぇし、仕方ねぇか。でも油断すんじゃねぇぞ」

 

 仲間の忠告にかすかに視線を流し、足元の()()()を回収する。柄尻にある輪に指を引っ掛けて再び投げつけるが、これは剣刀蟲の刃にあっさりと弾かれた。

 どこに隠し持っていたのか、両腕を交差させると指のあいだに左右合わせて六本の()()()が挟まれている。すかさず二本を投擲。反応を確認する前に距離を詰めながら、さらに二本。残りの二本は片方を順手に、もう片方を逆手に持ち相手の懐へと飛び込んだ。小回りの利きにくい剣は至近距離ならその本来の威力を発揮できない。いくら身体能力が優れていると言っても、重量級の戦士であるガガーランではそこまで距離を詰められない。さらに彼女の持ち武器である刺突戦鎚(ウォーピック)もまた、密着距離では性能を活かしきれないからだ。

 

 懐に入りこんでしまいさえすれば()()()は小回りが利く点で封殺にも近い有利を取れる。剣は最も威力の発揮される物打ちを当てることができず、突くにしても大きく腕を引かなければならないため速度も乗らない。密着距離で晒すには大き過ぎる隙だ。

 

「う〜、うっとうしいぃ」

 

 距離を取ろうと引けば同じだけ踏みこむ。ぴったりとくっついたままで繰りだされる攻撃は回避すらも困難なのだが、攻撃に転じるのが難しいと判断してから硬甲蟲での防御に徹することで本体へのダメージは全く通っていなかった。

 

 優位な状態がこれだけ続いても決定打を与えられない。攻めを重ねれば重ねるほど、下手に距離を空けられない状況へと追いこまれていたのはティナの方だった。一方的に攻撃しているように見えるものの、緊張と焦りからじわりと汗がにじむ。

 

「ティナ! いくぞぉ!」

 

 優れた戦士であるガガーランは正しく状況を見極めていた。そして掛けられた声だけで何をするつもりか察したティナは飛び退くと同時に手持ちの()()()を投擲する。一本は自分への追撃を防ぐため、もう一本は相手の頭上へ。

 当てようとは思っていない。ただわずかにでも不用意な跳躍を警戒さえしてくれれば。

 

 再び叩きつけられた刺突戦鎚(ウォーピック)を起点に辺りの地面が大きく揺れた。対策装備を身に付けているガガーランはもちろん、空中にいたティナにも影響は無い。だが何の備えも無いエントマには効果があった。石畳を割った超局地的大地震にバランスを崩し、足止めされる。

 

 倒れ伏すほどではないにしても、揺れる足下に転ばないようにするのが精一杯だ。揺れの影響が少ない場所に人間が着地するのが視界の端に見える。その両手には空中で取り出したと思われる()()()が再び握られていた。まっすぐにこちらを見据える視線に、着地の次の行動は直感的に読めた。

 

(これはぁ、ちょっとぉ)

 

 危ないかもと感じたときには遅い。強者は弱者を細々と観察などしないために、ナイフを首元に突きつけられるまで気付くことができない。

 

 着地と同時に地を蹴る。弾丸と化した全身は一瞬で男女(おとこおんな)を後方に置き去りにし、前に交差して構えた刃が夜の光を反射してぬらりと光った。

 分かりやすく構えた()()()がどこを狙っているのか、流石にこの速度でフェイントを入れられては身体能力の優位任せで完璧な反応はできない。このままの勢いでぶつかられただけでも相当な威力だ。一か八か勘で防御するという手もあるが、明確な根拠がなければ頭部や心臓といった致命傷に繋がりやすい部位を守る以外の選択肢を選ぶのは難しい。

 下手に小競り合いを長引かせたのが裏目になった。式蜘蛛符の一つでも使っていれば壁にできただろうが、いまこの瞬間に()んでも間に合わない。

 

 術者に属するエントマは職業(クラス)レベルに重点を置いているため特殊性の高い符術を使いこなすことができる。その代わりに素の能力は突出したものがなく、やや抑えめで平均的という具合だ。得意の符術と蟲遣いの本領も支援や手札を使った中距離戦闘であるため、彼女自身は本来敵と直接剣を交えることなどあるべきではないのだ。

 命令に従うために全力が出せなかったというのは、言い訳だ。いまはただエントマの頭の中を後悔と慙愧の念だけがぐるぐると渦を巻いていた。死にはしないとしても、至高の御方のシモベとして敗北を喫してよいはずがない。全てが折り込み済みであった先日の蜥蜴人(リザードマン)制圧とは違うのだ。

 死に体のエントマにできるのは、妙にゆっくりと感じる時間の中で取り返しの利かない失敗に自責することだけだった。

 

 それは強烈な一撃だった。バウンドした衝撃で石畳が欠け、吹き飛ばされた勢いのまま激突した外壁はもろともに崩れる。エントマと人間の初戦闘はあっけなく幕を下ろした。




出てきて早々さようならデイバーノック。
二つ名が悪過ぎた。せめて不死の賢者とかならまだワンチャンあったかも知れないけど。

原作12巻は何度も繰り返し読んで楽しめるね!
アニメ2期の放送時期も決まったようですしいまから待ち遠しいです。


10/5 ご指摘いただいた言葉の誤用を修正しました
2018/11/9 行間を調整しました。

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