自分が思ってる以上にプレアデス好きな人が多いんでしょうか。
今起こった事をありのままに話すと誤字脱字のチェックをしていたら本文が1.8倍に増えていました。
幅の広い廊下を二人並んで歩く。目を引くのは腰まで届く
「あー、お腹空いたっすねー。今日のメニューはなんだろ? たまにはドラゴンのステーキとかもいいっすけど、そのまま齧るとユリ姉が怒るし困りモノっすね。てゆーか銀食器使って食えってひどくないっすか? DVっす。虐待っす。動物虐待もセットでどーぞ。なんつって」
放っておくと永久に独り言を吐き出し続けるのではという勢いで、隣からやる気の無さがだだ漏れの声がする。頭の後ろに両手を組み、後ろにはこちらも腰に届くくらいの長く赤い三つ編みが二本揺れている。足を前方に放り出すような歩き方をしているせいでくるぶし丈のトゥニカが必要以上にバサバサと暴れ、左右に深く入ったスリットからは白いオーバーニーソックスを吊る黒のガーターベルトと、浅黒い肌が惜しげも無く披露されていた。
歩速を合わせて普段よりゆっくりめに歩いてはいるのだが、話題が節操無くあちらへこちらへと二転三転するめまぐるしいトーク。そして無駄なボディランゲージをほぼ全編に亘って交えてくるため、たとえ聴覚を遮断できたとしても視覚的に
「でもシーちゃんはいつも通りのあれだし……今日はバナナにでもするっすか?」
「今日は……」
「おっとバナナと言ってもアレじゃないっすよ。まあ副料理長はキノコらしいっすから生絞……ん? おげっ、ユリ姉……!」
遠目に見えたのは何かと細かく、罰と称して苦手な銀食器をチラつかせることもある
もっとも本気で争うつもりは無いし変に口答えすると余計な労力を使うため「はいはい」などと適当な返事で流しているのが常である。
さらに都合の悪いことに、ユリはこちらへ歩いてきており数秒後にすれ違う。捕まって小言を言われる未来が予知能力の無い自分にすら容易に想像できた。しかし現実は往々にして想像を上回ることがある。
「ルプス、それにシズ。ふふ、あまり騒がしくしないようにね」
スローモーションと背に散る花吹雪を幻視しそうな程、日頃の態度とは乖離した反応が返ってきた。思わず鼻をひくつかせる。
シズは相変わらず無言かつ無表情ではあるが、多少なりとも驚いているらしい。よく見ないと分からないくらいに右眼が大きめに開いている。
「ユリ
「………アンデッドは状態異常無効。それに飲食不要」
離れていく長姉の背中を見守る2人の
「ははぁ、コレはアレっすね」
「……なに」
ユリとは全く違う種類のニヤニヤした訳知り顔を浮かべる。
一応シズが返事をしたのは、放っておくとこっちが聞くまで鬱陶しく周りをぐるぐるされるのが目に見えているからだ。さらに放っておくと表面上はカラッと切り上げるクセに結構根に持つタイプで、それはそれで面倒だ。
シズは姉妹の中でも自分から誰かに話し掛けたりすることは少ない。だが燃えるような赤髪を持つ姉、
無駄に茶化して引っ掻き回すのが大好きなのだ。
「それは乙女のヒ・ミ・ツ! っす!」
「食堂、席なくなる」
ルプスレギナの冗談にいちいち付き合っていては時間がいくらあっても足りない。シズは先を急いだ。
「シズちゃんだー!」
一般メイドが主に利用している食堂だが、別に専用という訳ではない。
「ほい、ほい、通るっすよー」
トレーに山盛りのポテトとハンバーガー。人波をスルスルと抜けてシズの横の席まで辿り着いたルプスレギナがそれを机に置き、端にちょこんと乗っけていたボトルを差し出した。
「はいいつもの」
「……ん」
軽く頷きを返すと、ストローに口を付けた。ルプスレギナはポテトとハンバーガーをやっつけに掛かっている。
周りには主にシズを愛でるメイドの人だかり。いつものことなので、特に感慨も無さげに無表情なシズは特製の超高カロリー飲料ストロベリー味をちびちび飲みながら視線を彷徨わせる。
するとシズの正面に座ったルプスレギナの向かって左に一席空けて、二人並んで食事をしていたメイドの中にいつも一緒にいる顔の一つが無いことに気付く。眼鏡と短髪ウェーブとよくいるあともう一人。誰だったか。二人はルプスレギナの優に二倍ほどの山盛りになったポテトの山を黙々と切り崩していた。自分たちが来る前から食べていたことを考えると凄まじい量だ。以前見た時はもう少し会話が多かったような気がするが、あいだを取り持つ一人が欠けるだけでこうなるとは、隣に座って同じメニューを注文しているし仲が悪い訳ではないのだろうが、不思議な距離感である。
姿の見えない一人についてはわざわざ聞くつもりも無かったが、早くもトレーの半分を空けた姉はそうではなかったらしい。3本ほどまとめて摘んだポテトを大口に放り込んで快活そうな短髪の方に言葉を投げる。
「いつものもう一人はどうしたっすか?」
少し大きめの声だったのはメイドたちの担当ローテーション管理は基本的にメイド長であるペストーニャが行っているため、常にお互い全員の所在を把握しているとは限らないからだ。なにせ四十一人以上いる彼女たちだ。こうやって聞けば誰か1人くらい知っていてもおかしくは無い。
「え、ああ、シクスス? 私は見てないなぁ。リュミエール、知ってる?」
「なんで知らないのよ……あの
呆れ顔で答えた隣のリュミエールに、ざわっと周りの目が集中する。至高の御方々の話となれば聞き逃す訳にはいかない。ナザリックの忠誠心は一般メイドだからと言って何も変わらず、耳目を集めるのも仕方の無いことだった。
もちろん、興味を持ったのは
その場の全員から続きを話せと無言のプレッシャーを受けたリュミエールは少々気押されながらも口を開く。
「べ、別に何か特別にって訳じゃないわよ。たまたまあの娘が当番だった日に至高の御方々が
「そんでその
「それはこれから分かるわ」
メイドの輪の外から掛かった声。人垣が割れる奥から現れたのは、守護者統括アルベドだった。礼を取ろうとするメイド達ににこやかに手を振って遠慮する。
「ああ、いいのよ。楽にしてちょうだい。ルプスレギナ、あなたに用があるの」
「珍しいですね」
「アインズ様とぶくぶく茶釜様がお呼びよ。急ぎアインズ様の執務室まで来なさい」
今度は違う意味のざわつきが場に溢れた。至高の御方々から指名された呼び出し。ある意味とても恐ろしい事態である。メイドたちのひそひそ話にはあれやこれやと推測が飛び交っているが、ルプスレギナ本人が眉をひそめるような予想ばかりだった。
最近活躍した話があるならまだしも、それが特に噂になっていないと言うことは何かやらかしたと見るのが妥当だろう。
「……ルプー、ちゃんと謝る」
「何もやってないっすよ!? ひどいっす! シーちゃんのマスコット! キュート! 髪サラサラー!」
「ちょ、ちょっと! ルプスレギナ!」
嘘泣きしながら褒めてるとしか思えない捨台詞を吐いて食堂を飛び出していくルプスレギナ。しっかりトレーは空になっている。
慣れるとひょうきんにも思える姉だが、したたかな所もあるのをシズは知っていた。あれはどちらかと言えば愉快犯の類いだと。困り顔のアルベドであったが、彼女はそれを知らないのだろう。
飲み干したボトルをトレーに乗せて片付ける。
「………大丈夫。執務室に行った」
「そう? ならいいのだけれど。それとシズ、少しいいかしら」
「?」
くりっと小首を傾げるシズを見て、それを引き出したアルベドに対するメイドたちの好感度が少し上がった。シズの可愛い仕草はメイドたちの心の清涼剤なのだった。
食堂を飛び出したあと、わざとらしい女走りで廊下を一呼吸走って角を曲がる。
「さーて、と……」
さっきまでのふざけた雰囲気は鳴りを潜めて、指一本に至るまでの所作は別人のごとく優雅に、
己の歩みを確かめながら一歩、二歩。早過ぎず、かと言って遅く動いてバランスを崩すことも無い。それでいて上下にぶれない頭は、いちメイドとしての基本動作を高い質で習得していることの証左だ。
最近は以前に比べて至高の御方々の姿を目にすることが減った。そのため、元は半々くらいだった真面目とおふざけのバランスがどうも後者に偏っている。ような気がする。メイドの基本動作の練習などやるつもりではなかったはずなのに。あるべき姿を維持するために無意識の内に釣り合いを取ろうとしているのか。その答えは自分自身にも分からない。
身体も適当にほぐれ、いつも通りの軽快な足取りでルプスレギナは目的の場所へと向かった。
◆
「お待ちしていました。ルプスレギナさん」
至高の御方の執務室にて用聞きの役をこなしているのはシンプルなセミロングの髪型が人当たりの良い性格とマッチした一般メイド。至高の御方々の側で働けることはナザリックに仕える者にとって何物にも代え難い光栄だ。シクススの表情に疲労の色は見えない。彼女ら一般メイドは
朝から通してだとすると現在でおよそ四時間。当日いきなりの話ではなかったので朝は普段より多めに詰め込んでいるのだろうとは思うが、そろそろ腹の虫が暴れてもおかしくない程度の時間は経っている。
扉に掛かった彼女の左手に、食堂にいたメイドたちは着けていなかった指輪が光る。
あるいは上位者であるセバスの権限によって運用されているのか。とにかく至高の御方々の前でメイドが腹を鳴らす無様の心配は無いらしい。
「どうぞ」
再び声が掛かる。隙間から感じる気配は間違い無く偉大なる御方々のものだ。首筋がざわつく。本能的な恐れから来るものか、分かっていても完全な平常心ではいられない。
執務室に入ると、奥に並んで座った至高の御方々が見えた。ぶくぶく茶釜が帰還した日に近くで目にしたものの、あのときは直接的なやり取りは何も無かった。それが何故いきなり呼び出されることになるのか。本気で心当たりは無いのだが、もし知らずの内に何かやらかしてしまっているなら、面と向かってそれを尋ねるのは
内心に不安と期待を抱えつつルプスレギナは歩を進めた。
「ルプスレギナ・ベータ。御前に」
廊下での動きをトレースするかのように、一寸の狂いも無い美しさを兼ね備えた所作で最敬礼をする。心のざわつきと身体が記憶している動作は切り離されて動揺が表面に出ることは無かった。内心安堵の息を
「ご苦労。では早速始めるとしよう」
「ルプスレギナ、これからいくつか質問をするから、それに答えてね。深く考えなくていいから、パッと思い付いたことを答えるように」
「分かりました」
「では第一問! あなたにとって人間とはどういう存在?」
「面白い生き物です」
高度で複雑な社会を形成する人間は、個人個人が多種多様なバックボーンを持っている。それ故に絶望の色も一つとして同じものは無い。ルプスレギナにとっては飽きの来ないオモチャである。
至高の御方々はそれぞれ手元にあらかじめ用意してあったボードに何かを記入している。
「第二問! 人間が喧嘩売ってきたらどうする?」
「うーん、その場は適当に流します」
第一の判断基準は、面倒かそうでないかだ。
どうせなら助けでも求められた方が叩き落とし甲斐がありそうだ。幸福であればあるほど急転直下で落ちたときの絶望はより悲劇的で喜劇的なものになるだろう。自信が吹き飛び恐怖に染まり、心が折れる音を聞くのは身震いする程の愉悦だ。
「第3問! アインズさんが身分を偽っている場合、対等のパートナーとして相応しい対応を取って下さい」
漆黒の剣士となったアインズが近付いてくる。一瞬キョトンとした表情を見せたルプスレギナだったが、見間違いだったかと思うほどすぐにそれは引っ込んだ。
「私のことはモモンと呼ぶように」
「……りょーかいっす! モモンさん!」
「うおっ、ああ、いや、ゴホン!」
「どうしたっすか?」
「き、気にするな何でもない。えー、あー……」
「はいそこまでー。アインズさん後でお話が」
「あ、ハイ」
他にもいくつか質問をされたが、中でもよく分からなかったのは表情なども含めて演技をした話し方をするようにぶくぶく茶釜があれやこれやと注文を付けてきたことだ。
気弱な娘っぽくとか、無口な性格とか、人を地獄に叩き落とすのが大好きそうな奴とか。
何のために、と問うのは愚問だ。至高の御方が望まれているなら、自分は指示されたことを完璧にやり切るだけなのだから。
最後の締め括りには
もしかしなくても姉も同じようなことがあったのだろう。口外してはならないと言われたので面と向かって聞くことはできないが、さっき鼻が僅かに拾ったものは間違いではなかったといまは確信できる。姉のあの態度も無理は無いが、一つ解せないことがある。
執務室を充分に離れたと判断し、フリルが付いた胸元や、左右のアームカバー、長い2本の三つ編みまでもをくんくんと匂いを嗅いでみる。特に変わった匂いはしないが、その分謎は深まった。
「うーん……。なんでユリ姉にはアインズ様の匂いが付いてたんだろ。後で聞いてみよっと」
呼び出された用件自体に大した時間は掛からなかったので、食堂に置き去りにしてしまったシズを迎えに行くことにした。放っておくとメイドたちに囲まれていつまでもぼーっとしていたりするけれど、あれが自分なら退屈で死んでしまいそうだ、
今日はアルベドがあの場にいたから、メイドたちは解散しているかも知れない。それでもシズは待っているだろう。なら行かない訳にはいかない。
◆
「アインズさん、面談する側のあなたがしどろもどろになってどーすんですか!」
「すみませんでした……いやそれにしてもルプスレギナの切り替えがあまりに見事だったもので、こっちから突っ込むことが無かったんですよ」
「うんまあ、あれは確かに大したものですけど。こりゃ決まりかなー?」
ボードに重ねた紙をペラペラとめくりつつ、ぶくぶく茶釜が見解を述べる。それにはアインズも概ね同意しており、首肯をしながら相槌を返した。
「取り敢えず、現時点では最有力候補ですね。と言うか残ってるのってソリュシャンとシズ、あとエントマでしょう? ソリュシャンは能力的に王都での調査に回すなら、もうほぼ確定ですよこれ」
この面談のもう一つの隠れた目的が、アインズの外出に同道するお供、
いかにも人間ではないエントマと歩くオーパーツなシズは人間社会への潜入に不向きだ。
そして人外であることも隠したうえの行動ならば、相応の演技力と咄嗟の対応力が要求される。
それらの見極めは実質的にこれで終わりなので、肩の荷も降りようというものだ。残る三人は彼女らのことをもっと知るための面談に方針転換する。
正直同じ質問を何度も繰り返すのは結構精神的に負担になる。今後の外での活動に関わることであれば気が抜けないということもあり、嫌気が差してきていたところだ。
ここからは小難しいことを考えずに、ただ話を聞くだけだと思うと幾分気が楽になるアインズであった。
◆
食堂に戻ると、相変わらずメイドがわらわらと群がっている。その中心にシズは居た。人垣を割っていくと、シズもこちらに気付いた。
それに釣られてルプスレギナに気付いたメイドたちが席を空けてくれた。
軽く礼を言ってシズの隣に腰掛ける。彼女も食事は既に終わり、ボトルとトレーは片付けられていた。まだ食後のシズ談義に花を咲かせている連中が多いところを見ると、アルベドは既に引き上げたようだ。
ならばもう少しシズと
ポン、と迷彩柄のグローブがルプスレギナの頭の上に乗る。ぐにぐにと手慣れていない感じに前後しているのは、撫でられているのか。
「どんまい」
「なんか慰められたっす! 怒られた訳じゃないっすよ?」
「じゃあ……なに」
「あー、それはその、乙女のヒミツ。……っす」
半分ほど地の混じった口調は、滅多に見せない素の姿。ほんの一瞬のこととは言え、見逃すシズではない。
それ以上の追及をすることは無く、流石シズとルプスレギナは素直に感心する。自分からアウトプットすることが少ない分、感情の機微に対するアンテナは中々電波良好なのだ。この妹は。
後日、ルプスレギナは再び玉座の間に呼び出されることになる。恐れ多くも至高の御方のパートナーを拝命するために。
失望ネタはもう許してやって欲しい。
実際ルプスレギナって言われた事はちゃんとやるし8説明して8理解する頭はあると思うんです。
ただ8までしか説明しなかったら9以降を想像もしないし出てきても指示されてないからそのままポーイってしてしまうだけであって。
まあその時点で報告しなさいよって話なんですけどね。
常に指示を出せる状況なら駒として有能なタイプ。
狼も群れ社会だからある意味種族に忠実とも取れますね。
それにしても面談と銘打ちながらその前後の方が長くなってるけど、まあいいか……。
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