オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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 地の文の表記をアインズ・ルプスレギナに統一しようかと思いましたが、やめました。


第13話 死者の群勢

 魔獣の登録を済ませたモモンとレジーナは冒険者組合をあとにして、予定通りバレアレ商店へ向かう。大通りに出てすぐの所へ声を掛けられ、その老婆はンフィーレアの祖母リイジー・バレアレであると言う。ちょうどこれから帰るところだったので、一緒に行くことになった。

 森の賢王改めハムスケの姿にリイジーも驚愕の様子を見せていたが、もうその手の反応には慣れを通り越して飽きてきたモモンであった。

 

「モモンさん!」

「皆さん……?」

 

 組合とバレアレ商店の中間の辺りで、息を荒くしたペテル以下漆黒の剣が路地から飛び出してきた。バレアレ商店で待ち合わせのはずだったが待ちきれなくて呼びに来たのかと思ったモモンは、ハムスケの組合登録の際に金をケチって魔法ではなく時間の掛かるスケッチを選択したことを少し後悔した。

 

「モモンさん、ンフィーレアさんが攫われました」

「なんじゃと!」

 

 孫が攫われたと聞いて取り乱すリイジーを余所に、あくまで冷静にモモンは思考を巡らせる。なんにせよ道端で話す内容でもない。一旦バレアレ商店へ移動し詳しい話を聞くことになった。情報が無ければンフィーレアを探すことすらできない。リイジーも同意して一行は足早に現場へ向かった。

 

 バレアレ商店にて、漆黒の剣から一部始終を聞いたモモンはリイジーに断りを入れて奥の部屋へ引っ込んだ。扉を締め切ると同時に≪メッセージ/伝言≫でコンタクトを取る。当然、相手はぶくぶく茶釜である。

 

『茶釜さん』

『はいごめんなさいすみません姉を慕う弟妹はジャスティスなんです仕方なかったんです』

 

 不用意に動いたのは多少咎めておくが、内心怒ってはいないと言うよりむしろ結果的にはぶくぶく茶釜の助けはありがたかった。咄嗟の判断とンフィーレアを攫っていった時の身体能力。どう考えても漆黒の剣より相当格上の相手らしい。危険な発言もしていたようだし、今後モモンの名声を高める役目のある彼らが全滅する目もあったのだ。幸いぶくぶく茶釜とモモンを繋ぐ情報は漏れていないし、自分も知らぬ存ぜぬで通すことにした。

 

「さて、問題はンフィーレアだな……どうするか」

 

 ぶくぶく茶釜とのやり取りを済ませ、兜に指をコツコツと当てて一考する。リイジーにはンフィーレアを探すためだと言って部屋を借りている。何かしら手掛かりに繋がる結果を出さなければ森の賢王の1件でますます尊敬の念を集めている漆黒の剣の手前格好が付かない。

 

「敵が持ち去った物を特定できれば追跡する魔法もあるのだがな」

「ンフィーレアはナマモノっす」

 

 ナザリックへ戻ればンフィーレアを確実に探知する方法はあるが、時間と手間がかかる。冒険者として動いている以上、この場の手札で解決を図るべきだ。何かとナザリックの能力を濫用するような事は避けたい。それに軽々しく部下に頼るのは忠誠心を損なう事に繋がるのではと表には出せない不安もある。

 しかし現状ではまるでいい案が浮かばない。最終手段を使うか少し迷ったが、手持ち無沙汰にしているレジーナを見てふと思い浮かんだことがあった。

 

「レジーナ、お前ならどうする? この状況からンフィーレアを見付ける方法は何があると思う。なに、ちょっとした余興だ。間違っていても怒ったりしないから言ってみろ」

「え! うーん、そうっすねー……」

 

 顎元に指を一本当てて頭を捻るレジーナ。水を向けてみたものの、実のところあまり期待はしていない。探査に優れた能力を持っているソリュシャンとかならまだしも、能力的には直接戦闘向きの彼女には荷が重いだろう。

 解決できる切り札があるので、折角だしNPCたちに思考する機会を与えるのにちょうどいいと思ったのだ。だが出てきた答えは予想だにしていないものだった。

 

「臭いで追跡、かなぁ」

「できるのか!?」

「ひえっ」

 

 机に両手をつき身を乗り出す。勢いに驚いたレジーナは目を大きく開き、顔を青ざめさせるとガクガク震え始めた。語調が強かったからこちらが怒っているとでも勘違いしたのか。

 

「ゴ、ゴホン! いや、怒ったりしている訳ではないぞ。それで、臭い、つまり嗅覚でンフィーレアの追跡ができると?」

「は、はい。特に薬草を普段扱ってるからか特徴のある臭いですし、街の外とかに連れ出されていなければ多分いけます」

 

 確かに宿で盗聴したときは人狼の身体能力の一部を使っていたが、人よりいくらか優れている程度だと思っていた。しかしこの追跡能力はまるきり本物の狼ではないか。

 

(まあ絶滅してたから本物なんてデータでしか見たことないけど)

 

 図鑑データに載っていた一説によれば、狼の嗅覚は犬のそれを凌ぐとか。正体は人狼であるルプスレギナにも類似した身体能力があるのかも知れない。

 

 その提案を聞くなり、リイジーに言ってンフィーレアが最近扱った薬草数種類とエ・ランテルの見取り図を借りる。必要なものを手にするなり再び部屋へ篭ったモモンを全員が呆気に取られて見送った。

 

「ちょっとこれ借りるっす」

 

 入れ替わりで出てきたレジーナはダインの腰から鎚矛(メイス)を抜き取ると、制止する間も無く裏口から外へ出ていった。

 

 音も無くバレアレ商店の屋根へ飛び上がると、月夜に照らされた群青色のキャンバスに黄色の絵の具を垂らしたように街の灯が煌めいている。あれら一つ一つにちっぽけな人間たちの生活があると思うとレジーナの胸は熱くなった。

 

(ああ……モンスターの群れに蹂躙されて死都になったりしてくれないかな。なーんて)

 

 恐らくまともな感覚の者なら聞いただけで顔を歪ませるであろう個人的な願望はさておき、今はパートナーである主人の指示通りにンフィーレアの残り香を追う。暗闇に包まれた家々の棟を疾走し、跳び渡っていく。それに気付く者は誰もいない。

 

 やがて居住区とは少し距離を開けられた円形の壁が視界に入った。追っている臭いは他の死臭に紛れながらも壁の奥へと続いている。

 壁にはめ込まれた格子状の門の両脇には武装した人間が警備に立ち、壁の上は巡回出来るように1メートル程の幅があるらしく、そこに立つ人間は壁の内側を見回している。

 ≪パーフェクト・インヴィジビリティ/完全不可視化≫を使用したレジーナは壁に向かって助走し、強く大地を蹴った。反動で飛び上がった体はきれいな放物線を描いて壁を軽々と越えていった。着地までまだ数秒ある。右手で(ひたい)の辺りに(ひさし)を作るようにして周囲の様子を確認する。月明かりが眩しい訳ではなかったが、あれを見るとなんとなく気持ちが昂るのを感じた。いまは見ない方がいい。

 

 エ・ランテル共同墓地の中央には霊廟があり、それを取り巻くように墓石が配置されている。地下で冷やされた空気が温度差で漏れ出す隠し階段の入り口にレジーナはいた。奥からはンフィーレアの臭い。そして優れた聴覚は男女の口で語られる、これからエ・ランテルを襲う惨劇のシナリオを拾っていた。人間にしては面白いことを考える。

 

 彼らの目論見がうまくいったときの光景を想像して思わず口角が残忍に上がる。だが今は勅命を受けた身、放っておく訳にもいかない。行きより幾分か軽い足取りで墓地の外周へ向かいながら、モモンから預かっていた巻物(スクロール)を使って≪メッセージ/伝言≫を繋ぐ。

 

 

 

 

『そうか、分かった。墓地の手前で待機していろ。すぐに向かう』

 

 レジーナからの報告を受け、モモンは部屋を出た。漆黒の剣とリイジーの視線が集まる。

 

「ンフィーレアさんの居場所が分かりました。これから救出に向かいますが、少々厄介なことになっているようです」

「本当ですか! 一体どうやって……」

「そ、それより孫はどこに!? 無事なのか!」

 

 食ってかかるリイジーを落ち着かせ、場所を共同墓地と伝える。だが漆黒の剣は動かない。ついさっきモモンが口にした、厄介な事を警戒しているのだ。

 昼間に、アダマンタイト級にも匹敵する実力を直に目の当たりにしている。あれほどの力を持ったモモンが、厄介と評する事態。それは果たしてどれほどの状況なのか。

 ンフィーレアは共同墓地にいるとモモンは言った。墓地。おぼろげながら嫌な想像が膨らむ。

 

 そんな漆黒の剣の心境を知ってか知らずかモモンはリイジーに借りた薬草や地図を返し、こちらへ向き直った。

 

「共同墓地にアンデッドの大群が湧いている。放っておけば四半時としない間に内壁から溢れ出すでしょう」

 

 墓地からアンデッドが発生するのは珍しいことではない。散発的な発生は邪気が溜まる墓地において避けられない。内壁で生者の領域から隔離して、定期的に冒険者に夜回りの依頼が組合から出されているのをペテルたちも知っている。

 だが数の暴力は侮れない。壁から溢れる程のアンデッドを相手取るには、こちらにも相応の手数が無ければいずれ物量で押し潰される。

 

「不自然な発生量から考えて、墓地にはこの事態を引き起こした黒幕がいる。ンフィーレアを攫った奴と繋がりがあると見て良いだろう」

「そ、そんな……」

 

 血の気が引いた顔で呻き声を漏らしたのはニニャだった。

 

 墓地から溢れる程のアンデッドを召喚するなど、普通の人間には不可能だ。何らかのマジックアイテムを使ったとしても、ミスリル級冒険者以上の魔法詠唱者(マジックキャスター)でなければそこまでの事態は起こし得ない。

 

 その事に即座に思いあたり、また同時にエ・ランテルにいる冒険者達で対処しても容易ではない事態だと理解したのだ。

 

「皆、いまから言うことをよく聞いて欲しい」

 

 どうしようもない恐怖が溢れかけたニニャに、焦りを一切感じさせないモモンの声はよく通った。気付けば、他の面々も緊張した面持ちでモモンの言葉を待っている。

 

「もはや事態はンフィーレアさんの誘拐だけでは済まない、エ・ランテル全体の危機だ。そこで漆黒の剣にはリイジーさんを伴って組合への通報と、その後住人達の避難誘導を頼みたい。街でも名の通ったバレアレ商店店主の話ならば、与太話と無下にもできまい」

 

 異を唱える者はいない。そして改めて問うまでも無いことだったが、どうしても不安が拭えずニニャは口を開いた。

 

「では、首魁が居ると思われる共同墓地へは……」

「そちらは私とレジーナで片を付けます」

 

 あまりにもあっさりと当たり前に言い放つモモンの態度に虚勢は見られない。間違いなくそう言うだろうと他のメンバーも分かっていたようで、安堵にも似た空気が流れる。張り詰めた緊張が少し緩んだようだ。

 

「私たちも住人の避難が済んだ後は墓地へ向かいますよ」

「ありがとうペテルさん。だが気持ちだけで十分だ。悪いがいまの君たちでは足手まといにしかならない」

 

 

 完膚無きまでに鮮やかにンフィーレアを目前から攫われた負い目のあるペテル以下漆黒の剣に、この指摘は効いた。

 

「討ち洩らしたアンデッドが居住区へ流れるかも知れん。壁の外はお任せしますよ?」

 

 気落ちしていた漆黒の剣の面々はモモンの言葉に顔を上げる。その目には憧憬に満ちた輝きがあった。

 

 あまりのんびりもしていられない。皆に気力が戻ったのを確認すると、モモンは軽く頷いてバレアレ商店を後にした。向かう先はレジーナの待つ共同墓地だ。

 

「ハムスケ! 共同墓地へ!」

「殿! 承知仕ったでござるよ!」

 

 森の賢王を右手に並走している状態から少し身を縮めたかと思うと全身鎧(フルプレートアーマー)を着ているのが嘘のような高さに跳躍する。空中で右足が弧を描き、月明かりを反射して煌めいた。

 ハムスケの背に跨った英雄は身を屈めて方角を指示し、それに従う魔獣はどんどん加速してあっと言う間にペテル達の視界から消えた。

 

「敵わねぇなあの人には」

「ええ。でも私にもやれることはあります。皆、行きますよ!」

 

 先頭を行くペテルに引き続いて、各々が今やれることを。モモン達に対する心配は不思議と湧かなかった。

 

 

 

 

 

 

「急げハムスケ」

「こ、これでも全力でござるよー」

「もっと急がないとレジーナに食われるぞ」

「た、食べないでほしいでござるよー!」

 

 一層加速したハムスケ。最初は普通に走っていこうかとも思ったが、全身鎧(フルプレートアーマー)の戦士がガチャガチャ走るのも威厳に欠ける。なにせ今回の事態は名声を得るのにもってこいだ。その効果を最大にするには、誰よりも先んじて解決の中心になる必要がある。宣伝効果を重視してハムスケの背に乗る事を選んだ。その姿は後に強大なる魔獣を駆る漆黒の英雄と語り草になるのであった。

 

 共同墓地から二百メートル程のところまで近付くと、不可視化を解いたレジーナが手を振っているのが見えた。ハムスケから降りて合流する。

 レジーナは自力で結果を出せたのが嬉しいのか、ニコニコといつにも増して眩しい笑顔をこちらへ向けてきた。

 

「行くぞ」

 

 赤いマントを翻して死の臭いが混ざった夜の空気を裂いていく。どうやらアンデッドは内壁ギリギリまで迫っているらしく、にわかに正門の辺りに警備兵が集まり騒がしくなりつつあった。

 

 

 

 

 

 

「人を集めろ! ここは絶対に通すな!」

 

 墓地の警備は内壁に守られていることもあって危険は少ない任務だが、割がいいので普段の人員配備に困ることはまずない。そもそもアンデッド自体が滅多に発生しないのだ。夜間警備の最大の敵は睡魔だと組合でももっぱら揶揄されている。

 誰が想像し得ただろうか。墓地を囲む内壁から溢れんばかりのアンデッドが一夜の内に発生するなど。当然、警備兵たちの装備はなんの魔法付与も無い槍や棍棒(クラブ)といった武器ばかりであり、複数のアンデッドに対抗し得る神官などいるはずもなかった。

 

 たとえ骸骨(スケルトン)の一体一体は問題にならずとも、それが同時に大量にいるとなれば話は変わる。単純に手数が三倍四倍になれば脅威になり、さらには倒しても倒しても次から次へと湧いて来られては、精神的にも肉体的にも重なる疲労がミスを誘発し、いずれ押し潰される。それは時間の問題に見えた。

 

「門を開けろ」

 

 突如居住区側からとんでもないことを言いながら現れたのは全身鎧(フルプレートアーマー)に身を包んだ冒険者と思しき男だ。主張はともかく、猫の手も借りたい今通りかかってくれたのはありがたい。警備兵の表情が明るくなり、胸元のプレートを見て瞬く間に陰鬱なものに戻る。

 (カッパー)級冒険者と言えば駆け出しも駆け出し、立派な鎧を着込んではいるが、一山いくらの戦士が一人増えたところで現状は打破できない。と言うか最悪足手まといになる。

 

「門を開ければアンデッドが溢れ出してくる。組合へ人を呼びに行ってくれ」

「それはもう手配してある。そして私モモンは事件解決のためにここへ来た」

 

「なんだあれは!」

「あんなの無理だ!」

 

 叫び声につられて視線を上げると、そこそこの距離があるのに内壁から上半身を見せた巨体が見えた。

 

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)か」

「あ、あんなのどうすりゃいいんだ……お、おいあんた何を」

 

 背に負った2本のグレートソードを引き抜き、半身に構えた全身鎧(フルプレートアーマー)に恐る恐る尋ねる。何か異様な事をしようとしているのだけは分かる。警備兵は無意識に後退った。

 

「いいぞ。そのまま少し離れていろ……フン!」

 

 暴風を打ち出したが如き大剣の投擲は猛烈な勢いを落とすこと無く集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)の胸元へ到達し、台風の目のような大穴を開けてその巨体を消滅させた。現実味の無い光景に警備兵達は誰もが唖然としている。

 

「レジーナ、ハムスケ、行くぞ」

「りょーかいっす!」

「お供するでござる!」

 

 モモンと名乗った全身鎧(フルプレートアーマー)は内壁をひとっ飛びに越え、それに続いて神官のような格好をした赤毛の女、一目見て強大と分かる魔獣が壁の内側へ飛び込んでいった。

 

 警備兵達には多少の混乱が興奮とともに広がっていく。一体何が起こった。全身鎧(フルプレートアーマー)の男は何者だ。モモンと名乗ったそうだ。あれが(カッパー)級な訳無いだろう。アダマンタイト級にも匹敵するんじゃないか。

 

 思考が回っていない者達の会話は、ふと打ち切られる。ついさっきまで、骸骨(スケルトン)の蠢く乾いた音が辺りには撒き散らされていたはず。風の音が聞こえる程に、辺りは静まり返っていた。

 

「お、おい」

「ああ……」

 

 異変を感じた警備兵の一人が墓地の様子を確認するために壁に作られた階段を登る。彼が目にしたのは、大量に残された骨の山。元骸骨(スケルトン)の残骸だった。視線を少し奥にやると、竜巻さながらにアンデッドを斬り飛ばし散らかしながら突っ込んでいくモモンたち一行が見えた。

 その光景を壁の下にいた連中に伝えると驚愕に目を見開いた者が多数いたが、嘘を吐けと疑う者は1人もいない。全員が()の冒険者の比類無き力を目の当たりにしている。

 

「一体彼は何者なのでしょう」

「分からん。分かるのはモモンと名乗った彼が英雄であることと、俺たちは伝説を目にしたのかも知れんということだ」

 

 

 

 

 

 

 内壁に群がっていた骸骨(スケルトン)を鎧袖一触とばかりにあっさりと蹴散らしたモモンたちは敵の本拠地たる墓地の中央へと歩みを進めていった。

 

 グレートソードを両手に携え、振り回しながらアンデッドの海を物理的に割っていく様はまさに疾風怒涛。一薙ぎで片手で数えられる以上の骸骨(スケルトン)が物言わぬ骨へ還り、同様に動く死体(ゾンビ)が腐った内臓を撒き散らす。小刀を振るように刃に付着した汚物を落とし、なおも嵐は止まらない。

 後方を見やると、レジーナがどこから取ってきたのか片手用の鎚矛(メイス)骸骨(スケルトン)の頭を軽快に殴り飛ばしている。ハムスケも尻尾を使ってそこそこの戦果をあげていた。だがアンデッドの群れが減ったようにはとても見えない。

 

「キリが無いな」

 

 特殊技術(スキル)で二体のシモベと、死霊(レイス)骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)を飛ばし抜け駆けを防止しておく。

 一対多の戦闘に向いていないハムスケには二体のシモベに付かず離れず、もし他の冒険者が来たら邪魔だから追い返すように伝えた。ハムスケの妨害を抜いてくるようなヤツならそれなり有用な利用方法もあるだろう。

 モモンの作ったシモベに初めはこの世の終わりみたいな悲鳴を出していたハムスケだったが、にこやかな笑顔をレジーナに向けられた途端全身の毛を逆立て、絶叫に近い返事をしながらアンデッドの群れへ突っ込んでいった。

 

「まったく、ああいうとこはやっぱケダモノっすね」

「アンデッドには魅了(チャーム)が効かないから相性悪過ぎるのは分かるがな。まああれはあれで広告塔の役割がメインだ。意外と役に立つのさ」

「そーゆーもんすか」

「そういうものだ」

 

 世間話程度の軽い会話を交わしながら二つの人影は一つの弾丸のごとくアンデッドの群れを一直線に突破していく。目指すのは墓地中央の霊廟。この事態を引き起こした犯人と救出対象の少年はそこにいる。




 今回結構悩みました。漆黒の剣が助かったので、プレート持って行かれてないんですよね。そこまで書いて、「やっべンフィーレアどうやって探そう」って壁にぶち当たってしまいまして。
 そこで思いついたのがルプスレギナの嗅覚でした。捏造設定ですが、人狼ならまあこのくらいはあってもおかしくないかなと。パートナーが彼女じゃなかったら詰んでたかも知れません。ウチのルプーは有能みたいです。多分。今のところは。

11/4 ご指摘いただいた誤字を修正しました。
1/21 リイジーの表記を修正しました。
2018.11.3 行間を調整しました。
2019.2.16 指摘のあった誤字を修正しました。

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