オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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今回短めなので2話まとめて投稿します。


第11話 襲撃

 巨大ジャンガリアンハムスターに跨り街の大通りを冒険者組合へ向かう。初めの内は精神抑制が発動していたが、すれ違う者達が例外無く強大な魔獣の姿に心底から驚嘆したり、その魔獣を乗り慣らしている勇壮な人物は何者だとか評価の高いヒソヒソ話ばかりするものだから、今では開き直ってどっしりと構えていた。遠くを見ると乗り物酔いしにくいと聞いたことがあるが、視線を上げれば遠くまで続く人波が割れていく様がありありと見えるのは少々心地良いものもあった。

 漆黒の剣とンフィーレアとは別行動だ。彼らは先にバレアレ商店へ行って荷下しをしている。別れ際にペテルが教えてくれたのだが、テイムした魔獣を連れ歩くには組合への登録が必要との事だった。街中で暴れでもしたら責任の所在はその主人という事なのだろう。加えて名前を登録する必要があるため、森の賢王ではいささか据わりが悪い。

 道中特にやる事もないので、下にいる能天気そうな奴の呼び名をああでもないこうでもないと思案するモモンであった。

 

 

 

 

 

 

「奥に冷やした果実水がありますから、みなさんどうぞ」

 

 モモン達と別れて荷下しのためバレアレ商店へ着いたンフィーレア一行は、作業の前に一休み入れることにする。陽が落ちているとは言え、夜の熱気は気力を殺ぐ。作業終わりにもう一杯もらえば気持ちもスッキリするだろう。コップやらを取りに台所へ向かおうとしたンフィーレアの足が止まった。

 

「おかえりぃ。ぜーんぜん、帰ってこないんだも〜ん。待ちくたびれちゃったぁ」

 

 奥の部屋から出てきたのは金髪ショートヘアの女。軽装のために露わになった四肢は、弛まぬ鍛錬を続けてきたであろう力強さを感じさせた。

 

「えー、どちら様でしょうか? あいにく今日は臨時休業で」

「あたしクレマンティーヌってーの。普通じゃ使えない魔法で、ちょっと街を阿鼻叫喚にしてみようかなぁってさあ! キミを攫って叡者の額冠を使えば魔法の発動は問題ナシ、アンデッドの大群を細かくは指示できないけど、方向の誘導は可能! かんっぺきなけーかくだよねー!」

「ンフィーレアさん、下がって!」

 

 知り合いでもないのに留守に上がりこんでいた奴。その時点で警戒心が湧き上がっていた漆黒の剣の動きは早かった。ンフィーレアを後方へ庇い、近接武器を持つペテルとダインが前に出る。スティレットを腰からゆっくり抜いた女からは、野生の獣を前にしたようなプレッシャーが吹き出ている。全員の頬を汗が流れた。この女はヤバいと本能が告げている。弾かれたようにペテルが叫ぶ。

 

「ニニャ! あなたはンフィーレアさんを連れて逃げなさい!」

「で、でも」

 

 身体は反射的に対応しても、思考の切り替えには個人差が出る。まだ多少混乱している様子の魔法詠唱者(マジックキャスター)に他のメンバーが指示を出す。思考が鈍っている人間には具体的な行動を伝える方が動きやすい。冒険者として何度か危険な場面には遭遇してきた。その経験から学んだことだ。

 

「組合に行ってモモンさんたちを呼んで来てくれ!」

「それまでは耐えてみせるのである!」

「行きなさい! あなたには生き別れになったお姉さんを救うという目的があったはずでしょう!」

 

 必死にもがく漆黒の剣。目の前の女は楽しくてたまらないと言わんばかりに口元を歪に吊り上げている。

 

「んふ、逃げられると思ってんの? でもざーんねん。流石に目撃者は消しとかないと後が面倒みたいでさー。とりあえず……そのちっこいのは後のお楽しみにしておこう、か、な、っと!」

 

 言い終わるが早いか、ゆらりと身を揺らしたかと思うと腰よりも低い位置から高速で迫るクレマンティーヌのスティレット。一直線に迷いなく前衛の男へ向かう刺突は革鎧(バンデッドアーマー)など紙のごとく貫通し、なす術なくその命を奪うだろう。

 アダマンタイト級に匹敵する強さだと自負する彼女の攻撃は、(シルバー)級冒険者の対応力を遥かに上回っている。運が悪くて虫の息、運が良ければ死んだことにも気付かない。そんなレベルなのだ。

 深々とスティレットを突き刺した腕にはなんとも言えない感触が伝わってきた。




咄嗟の判断力もあるし漆黒の剣って有能だと思います。クレマンティーヌとカチ合ってしまったのがとびきり不運でしたね……。

2018.11.3 行間を調整しました。

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