<食堂>
大和「ん~っ、おいひ~い♪」
長門「この稲荷、すごく美味しいな」
陸奥「私達顔負けの腕ね。間宮さん達のお手伝い、やろうかしら?」
飛龍「んぅ~っ、この煮物も美味しいわ!」
テーブルに並ぶ、色とりどりの料理に皆は舌鼓を打っている。特に、俺の稲荷には皆が大絶賛である。
翔「んぅ……成人の焼き魚は相変わらずだな。ちょうどいい焼き加減だ」
成人「それはどうも。貴方は、お菓子が得意なのですよね。何か、用意して?」
翔「ハハハ、勿論シャーベットを用意している」
筑前煮を口に運ぶ成人とちょっとした談話をしながら、俺も焼き魚の身を取って食べている。
キイィィィ……!!
その時こんなに微笑ましい食卓から一転して、この鎮守府に砲弾の雨が振るのが見えた。
……オーバーロードの一つの特殊能力だ。ヒロの見たカイロホテルの爆発も、本当はそうなりかけたものだ。
翔「……」ガタッ
赤城「……?どうなされたのですか?」
翔「ちょっと、散歩だ」
そう普通に嘘をついて、独りで食堂から出る。
玄関はなく、アメリカ式のように全員が鎮守府内でも靴を履いている。だから、俺はそのまま玄関からオリンピック選手顔負けの背面跳びで裏に回った。
翔「……ちょっと荒れているな」
鎮守府の裏は、とても広い平地。しかし、草が生えたりと自然の姿へと戻りかけていた。その草の壁を掻き分けて、海の水平線が見える岸まで足を動かす。
翔「……綺麗だな」
俺が今の自分を見つけられた故郷には、海なんて無かった。その代わりに自然溢れる山々に覆われ、天空にも大地がある楽園のような世界だ。
潮風が吹き、小さく波が打ち付けるコンクリートの岸に座る。地平線の先にある太陽は、ゆっくりとだがその赤い顔を海の淵へと隠れていく。
翔「……来たか」
赤い太陽の中に、無数の人や魚のような何かの影が見えた。深海棲艦の群れ、というより艦隊だ。……航空母艦系統がいないようだ。その代わりに、夜戦に強力な駆逐艦系統や巡洋艦がいる。その後ろに戦艦だ。前方警戒の陣に近いようだが……いける!!
俺の能力はある高性能ホビーロボット『LBX』の能力だ。簡単に言えば、そのロボットの武器を形成したりそのロボットに変身して戦ったり、LBXを遠隔操作したりその機体に憑依したりする能力である。
聞けば大したことではないかもしれないが、LBXは12~14cmの大きさでも侮れない力を持っている。
例えば、500km/hのリニアモーターカーを止めたり、宇宙シャトルを入れるために搬入ドック外層にギリギリ入るくらいの穴を開ける、といったものである。
ある究極のLBXに至っては、アメリカの艦隊をたったの数時間で壊滅させたというキチガイすぎることもあった。
つまり、LBXは玩具とすればとても楽しいものであるが、遊び以外に使うとするならとんでもないことになるものにもなる。
しかも、その力と武器が人間と同じサイズである。その能力は、明らかに圧倒的なものだろう。
翔「……必殺ファンクション」
『アタックファンクション・ブリザードボム』
ドラゴンの頭を模したロケットランチャーを構え、口のバレルから氷の弾を発射する。
大きな放物線を描いて飛ぶ氷の弾は艦隊の……中央付近の海面に着弾した。
ドオォォォンッ!!!
ヒュオオォォォォッ!!!
『『『!?!?!?』』』パキパキッ…
着弾すると氷の柱と共に周りが凍りつき、深海棲艦の足を取った。しかも、氷の柱は周りの空気と急激な温度差で風が吹き、かつ海上で水蒸気が氷の粒に変化したため、猛吹雪が吹く。
深海棲艦は足を取られ、かつ吹雪によって凍りつく。そして、そのまま大半は氷に覆われたオブジェへと変化した。
翔「水上じゃあ、メチャクチャ強いなぁ。
あっ、もしかしたら……って、うおっ!?」
残った奴らが俺に向けて砲撃してくる。それに、わざとぎこちなく避けた。それと同時にブレイズドラグーンも質量をなくす。そして砲撃のタイムラグを突いて、接近する。
翔「氷の華となりなっ!!」ザクッ!
接近した目が輝いているル級とリ級の背中に、短剣を刺す。それに大して平気そうに思えたが、二人共バキバキと凍りつきながらも亀裂が走る。
氷刃裂華……この凍りついた刃に刺されたら最後、氷の花となるえげつない短剣である。他にえげつないのあるけど……
翔「(へぇ、流石にLBXの武器じゃあ敵わんのか)」
中段蹴りで2つの氷像を花吹雪にして、砲撃する奴らと距離を取る。氷刃裂華を腰に取り付けて、その代わりにレーザーを照射するレーザーキャノンを構える。
翔「……一薙ぎで!!」
レーザーを照射しながら、横に薙ぐ。レーザーはゆっくりだと直線に見えるが、早く薙ぐと少しだが曲がるから、少しはラグがあるが大して意味はない。深海棲艦の群れは、この一撃で真っ二つに斬れ、汚い花火を咲かせる。
何せ、レーザー……粒子を収束させて加速させたものだ。それなら、戦艦なんざ斬れて当たり前だ。
翔「……ふぅ」
太陽はいつの間にか海の淵へと隠れて、藍色と白の点がある空へと変わっていた。
目の先には、深海棲艦の残骸と氷の床と柱が穏やかな波にゆらりゆらりと揺れている。
翔「……これで、終わりか?」
周りを見渡しても、何もいないことが分かる。ただ、まだ赤い水平線がある。
翔「……帰ろ」
レーザーキャノンを光の粒子に変えて。踵を返す。もう暗くなった鎮守府へと戻るのだった。
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翔「ただいま~」
食堂の扉を開くと、三分の一に減った稲荷ピラミッドとほとんどが空になったテーブルに、皆が食堂で後始末をやっていた。
咲姫「あっ、お帰り~」
翔「ただいま。あっ、もう食べ終わった?」
作りすぎたか稲荷……。
間宮「流石の大和さん達でもこれ以上は無理だと稲荷寿司残しちゃったようで……」
翔「あ~、いいんだよ。ちょっと作りすぎたし、ラップして朝御飯にでもするか」
俺も後始末に加担するように、皿を器用に積んで厨房に持っていく。
咲姫「__それよりもさ、翔。君……何で氷刃裂華腰につけてんの?」
翔「あ゙っ!!」
直ぐ様それを消そうとするが、両手が塞がってしまってどうにもならない。厨房のテーブルに皿を置いて、氷刃裂華を消す。
咲姫「まさか……独りで深海棲艦を迎撃したわけ?」
翔「いや、あの……」
皆からも、ジト目で見られている。
ため息を一つ……そうして、皆に戦ったことを告げる。
翔「ああ、未来予知でこの鎮守府が襲撃されるのを見てな……独りで敵艦隊を潰したんだよ」
長門「そ、それは本当か!?」
翔「ああ。だが、目が輝いてる変なやつもいたけど、ケロッと全滅させた」
『えっ』
皆がまるで時間が止まるかのように、動く手が一瞬で止まり顔も青くなった。
翔「……えっ?何かおかしいの?」
大淀「え、ええと……その目が輝いてる奴は標準的な深海棲艦達の最高クラスなのですよ」
翔「……へっ?マジ?」
それに大淀はマジです、と応答した。
その後も、気まずい空気が流れる……
翔「……えぇ~、マジかよ……いやあ、超弱かったから気づかなかったよ」
『(あっ、この人に常識は通用しないな……)』
な、何か可哀想かつ悟った目で見てるんだけど、皆……そこまで!?
成人「翔さん……常識に囚われてください」
翔「イヤだ。ツマンナイから」
成人「お前な……」
呆れた顔で俺を見ている成人。
間宮「……ええと、手伝ってくれません?」
翔「アッハイ。了解です」
空いた流し台の前に立ち、使った皿を器用に洗うのだった……
※翔は常識に囚われないバカです。今後、度肝を抜かすことをしでかすでしょう……