<厨房入り口>
一航戦「「……」」ジュルリ
どうも、航空母艦赤城です。
ええ今現在、翔さん達がお料理を作ってる厨房の入り口で加賀さんと隠れております。
えっ、何をしてるかって?勿論……つまみ食いです!!だって、私達の部屋までとてもいい匂いがしたのですから。いいですよね?よね??
赤城「ふふふ……美味しそうな匂いです」ジュルリ
加賀「味噌汁煮物焼き魚……和風で質素なもののようです。私の気分は高揚してます」キラキラ
しゃがみこみ、あの六人の視線が外れた時がチャンス!!しかし、離れそうもありませんね。
……特に翔さん。酢飯に油揚げを巻いてピラミッド状に置いています。翔さん、稲荷好きなのですかね?
・・・・
赤城「ん、何か話してますね」
加賀「ええ、けど聞こえないわ……」
様子を見ると、何か話しているようだ。すると、全員が稲荷寿司とは別の方向に向いた。
赤城「今ですっ!!」
加賀「ええ!」
タイミングよく、かつ瞬時に稲荷寿司のピラミッドに近づく。そして、崩さぬようピラミッドの天辺にある稲荷寿司に手をかける。
翔「つまみ食いする空母はここかねっ!!」
バアアァァンッ!!!!
すると、頭にとんでもない衝撃が走る。甲高い金属音と影によって暗くなる。
私は手を付けるのをやめて、頭を押さえる。
「「ッ~~~~~!!!」」
咲姫「ふふっ、すぐ来ると思ったら案外早かったようね」
間宮「あの、そんなやり方でいいのですか?」
成人「心配しないで下さい。僕らこういう撃退法なので」
伊良湖「あわわ、赤城さん加賀さん大丈夫ですか!?」
聞き覚えのある声が聞こえる。私は、嫌な予感を想像しながらゆっくりと振り向く。
そこには
翔「よう、大きなネズミさん?」ゴゴゴ…
両手に私と加賀さんを叩いたと思われるフライパンを持ち、黒く気味の悪い笑顔を浮かべた翔さんだった。その後ろに、同様に笑顔を浮かべる咲姫さんと成人さん、そして何かと慌てている間宮さんと伊良湖ちゃんの姿があった。
加賀「あ、あぁ……」プルプル…
赤城「わ、私達は決してつまみ食いをするために来たわけではありません!!ただ、見張ってただくぇっ」
翔「嘘つけ~。稲荷寿司に手をかけてるの見えてたぞ~」グリグリ
加賀「い、いや、ひまいまふから(い、いや、違いますから!)」
私の頬にお玉をぐりぐり押し付ける翔さん。隣にいる加賀さんの頬にも押し付けているのが見える。
翔「じゃあ、何しに来た?」
こ、怖すぎる翔さん……こんなに怖いのですか……翔さんという人を味方についていた私が運が良く思えます。
赤城「……ごめんなふぁい、わらひほはははん、ふまみふいにきふぁのふぇふ(……ごめんなさい、私と加賀さん、つまみ食いに来たのです)」
翔「よろしい、正直で」
すると、あっさりと頬に押さえた玉を戻した。しかし、黒い笑みはまだ浮かんでいる。
翔「ったく、カー○ィが……。小腹減ったなら言えよな。ほら、稲荷だ」
「「えっ?」」
さっといつもの顔に戻った翔さんは、菜箸で器用に稲荷寿司を掴んで私達に差し出したのだ。
翔「ほら、あ~ん」
赤城「あ、あの流石にそれは……/////」
翔「だが断る。これはちっちぇえ頃からの罰だからな」
ば、罰ですか……幼稚い罰ですね。でも、これはこれで得ですかね。
赤城「あ、あ~ん……/////」
パクッ
菜箸が掴んでいる稲荷を一口で食べる。そして、ゆっくりと咀嚼する。
赤城「!?!?!?」
とてもおいしかった。
ちょうどいい酢飯の酢の具合に稲荷の甘味、ただの稲荷寿司でもこれは物凄く美味しいものだった。こんなに美味しい稲荷寿司なんて初めてだ。
正直一番の驚きは、翔さんがこれを作っているという事だ。翔さんは外見からして、料理なんてしない人だと思っていた。でも、料理はしていた。それどころか、こんなに美味しいものを作れることに驚きを隠せない。
翔「どうだい、味は?」
翔さんからの質問に、私はすぐに飲み込んで即答した。
赤城「……物凄く美味しいです。ただの稲荷寿司なのに酢の加減や油揚げの味付けが完璧です。
何より、少々失礼ですがこんな美味しいものを作れる翔さんに驚きを隠せません」
翔「そうか?一人暮らしするときに料理できなきゃあ、栄養バランスが偏るだろ。だからちゃんと料理できなくちゃいけねえだろ」
やっぱり、彼は凄い。私達女子も顔負けの女子力を誇り、実力も圧倒的なものだ。提督の目は間違いではなかったのですね。
翔「あっ、加賀。あ~ん」
加賀「あ~ん……////」
ふふっ、加賀さん恥ずかしそう。
そして、咀嚼をすると同時に目の色が変わり驚きの表情が現れる。
加賀「(こ、これが翔さんの稲荷寿司!?お、美味しすぎるわ……飽きない味付けで甘く、かつ酢の酸味のバランスが完璧だわ!こ、こんな稲荷寿司を作るなんて……提督は凄い人を私達に託したものね)」
徐々に冷静な表情と戻る加賀さん。翔さんも何かと嬉しそうな顔をしている。
翔「んじゃ、そろそろ盛り付けをするか。赤城と加賀、手伝ってくれよな?」
赤城「はい!食b……盛り付けます!」
あわわ、つい本音が……
翔「んじゃあ、頼んだぞ」
そのまま私達を見ていた五人は、それぞれ自分の作業に戻る。翔さんも、手際よく酢飯を取って油揚げを巻いているようだ。
間宮「赤城さーん、加賀さーん。皆さんの分のお味噌汁、ついでいただけますか~?」
はーい、とそう答えて加賀さんと一緒に間宮さんと伊良湖ちゃんの元へ向かった。
~~~~
<食堂>
さて……赤城と加賀の協力(という名の手なずけ)によって六時ジャストに完成した夕飯。35人という訳で奇数だが、何故か俺が真っ正面で皆は対峙しているようになっている。提督でこれですかい……
大和「おぉ~!」キラキラ
武蔵「大和、よだれよだれ」
電「はわわっ、稲荷寿司のピラミッドなのです!」
金剛「Oh、Japanese dishネ!」
皆、その豪華そうに見えて、伝統的かつちょっと質素な料理を見て、感嘆の声を上げる。特に、稲荷のピラミッドは皆、驚きを隠せないもののようだ。
大淀「たったの一時間で、こんなに作るなんて驚きですよ、翔さん」
翔「大したことねえさ、大淀。
間宮と伊良湖にも手伝わせてもらったからな、あと赤城と加賀も」
付け合わせでそう言うが、二人は不満そうじゃないな。まあ、稲荷やったしね。
翔「まあ焼き魚は成人、煮物は咲姫、味噌汁は間宮と伊良湖、そして稲荷寿司は俺が作ったもんだしな」
俺が作った稲荷寿司は約100個。その代わりに白米の入ったお椀はない。
望「……?そういえば、父さんってやけに稲荷寿司を作るよね。まあ、味付け変えたりしているけど……どうしてなのだい?」
翔「ああ、望は知らないのか。簡単に言えば、稲荷寿司は俺が初めて作った料理だからだ」
その一言により、皆は意外そうな顔をした。
比叡「意外ですね……最初作る料理とすれば卵焼きとかと思いましたが……」
翔「あぁ~……まあ、確かにそうだよな。ただ、料理の作り方を教えてもらった相手が、稲荷……もとい油揚げが好きだったからな。まあ、そいつの作る稲荷には勝らんさ」
ケラケラと笑う。赤城と加賀はだからか……と謎が分かったような表情になる。
翔「……と、雑談はこれくらいにして、話を変えよう。
……唯一の大本営の大将さんの東郷清志提督は、更迭された。今頃、海軍本部で聞かされているな」
ちょっとしたシリアス、皆も真面目な顔になった。
翔「そうして、幸いにも前提督がどっか行ったこの鎮守府を盗んだわけだが……俺達五人が提督となったわけだ。
……その上で、ちょっとした約束事と宣言をしよう」
翔「この鎮守府は海軍と深海棲艦を敵にした一つのちっぽけな組織だ。でも、俺はお前達艦娘を酷使、虐待、そして一人たりとも犠牲にしないと誓う。
……そのためにはお前達の力がある。
まず、お海軍に負けないほど強くなり、大本営の艦娘だ!っと胸を張れるような人間にもなっとほしい」
全員の頭が少し縦に揺れる。わかってくれているようだ。
翔「次に、この鎮守府で楽しく暮らしてくれ。清志の鎮守府と同じようにでいい。まあ、喧嘩してもいいさ。それが、人間として大切な事だからな」
翔「そしてっ!!
……皆一人一人が、この鎮守府の『家族』の一員だ。一人は皆の為に、皆は一人の為に尽力してほしい。俺達も勿論力になるさ」
『……はい!!』
笑顔を浮かべてそう言った。すると、皆心無しか皆自然に笑みを浮かべて返事をしてくれた。
翔「それじゃあ、メシだ!近くにあるコップを持って規律!!」
ガタッ
バラバラだが、皆がコップを片手か両手で持って席を立つ。
俺は皆が俺を見たと同時に、天高くコップを上げて叫んだ。
翔「俺達はこの佐世保鎮守府で共に、海軍と深海棲艦と戦おうじゃないか!!
それじゃあ、カンパーイ!!!」
『乾杯!!』
皆の声の後にカチン、とコップ同士がぶつかる心地よい音が聞こえる。
さて……俺達の戦いは始まったばかりだ!!