(翌日…)
飛龍「あー、腕治ったわー」
蒼龍「あー、消毒やら麻酔が切れて後から来る激痛やらで疲れたわー……」
マルゴーマルマル、私達は成人の治療で失った腕を治してもらって彼のいるハザマから出てきた頃だ。
そろそろ太陽も昇ってくる頃で、私達も治療中に寝たわけだしこの島での日の出を見ることとなるだろう。
蒼龍「まだ、皆寝てるわけだし部屋で大人しくしておこうか」
飛龍「さきに弓道場に行って自主練習する?……あー、そういえば腕酷使すんなと言われてたなぁ」
学問を司れる彼でも、腕を万全の時のように動かせるようなものじゃない。そういうことで、絶賛フリーなう。
……というか、夜戦好きなあの軽巡が夜でも大人しいとはねぇ。まあ、騒がれたら迷惑だけど。
~♪~♪
飛龍「……あっ、何か聞こえる」
蒼龍「箏……?にしても、とても落ち着きのあって有明にはちょうどいい曲。こんなの聞いたら朝も気持ちいいだろうなぁ」
どこからだと廊下の窓越しにグラウンドや埠頭を見通すと、埠頭のど真ん中に人影が見えた。動きや膝元の横に伸びる影からして、きっと昨日気絶してた子だろう。
それを眺めていると私達はその美しい音色に釣られて、無意識にまだ暗い外に出て箏を弾いている子にそっと近づいていた。
「……ふぅ」
蒼龍「いい曲調ね……聞いてたら釣られちゃった」
飛龍「箏の音色は初めて聞くわ。なのに、何故か懐かしい音ね……」
その子がゆっくりと振り向く。それに、私と蒼龍は気さくに挨拶をするとその子は此方に正座して浅く一礼した。
「ご静聴、ありがとうございます」
飛龍「いやいや、いい音色がしたからいいの。それにしても……とても珍しい艤装ね」
「えっ、これただのお箏ではないのですか?」
そのとぼけた言葉に私と蒼龍も、この子も首をかしげる。
この子の使った箏には弦が着艦フックのように黒く、この楽器の土台となる部分には私達とは異なるが同じような灰色の飛行甲板が塗装されているからだ。しかも側面には大量の対空砲や機銃も配備されており、改造されてない私達よりも重厚に感じられる。
私の予想だと箏の絃を鳴らして艦載機を発艦するのだろう。着艦はそのまま箏に戻ればいいわけだし……あれ?これってメチャヤバくない?
蒼龍「あ、そうだ。ねえ貴女、名前は?」
「わ、私ですか?私は改大鳳型の……あれ?名前が思い出せない……」
飛龍「改大鳳型?一応、大鳳は日本の装甲空母だけど、その改良型ってあったっけ?」
そう蒼龍に言うと首を横に振った。
大鳳といえば、日本の装甲空母。だが、日空母共通の密閉式格納庫が災いして魚雷一本でやられた子だ。
その大鳳の改良型が存在していたのか……否、存在しない。恐らく、計画にあったものだろう。
蒼龍「とりあえず、どうしよう……改大鳳型というのは分かったけど、その艦名が分からなくちゃ何て呼べばいいのか分からないよ……」
飛龍「落ち着いて、蒼龍。とりあえず……ねえ、とりあえず君の容姿と艤装を詳しく見せてくれない?」
「えっ?あ、はい。どうぞ……」
すっと立ち上がった改大鳳型の子を私は入念に見る。
美しい着物を身に付けており、動きやすさを重視したのか丈は膝上くらい。流れる風や空がイメージされている爽やかな模様で、水色と白で彩られている。髪も赤城さんのようなロングヘアで色は白く、顔はたれ目で薄化粧を施して艶かしさがある。腰には艦橋と煙突を思わせる収納袋があり中には予備の爪や箏に使う柱、外に対空砲の10cm連装高角砲が装着されている。
箏を弾くのに用いた爪は先端が鋭いもので、箏は飛行甲板どころかその船に見える。前らしきところにハリケーンバウがあり、後ろには舵とスクリューがある。ただ箏の装飾の一つに、龍の彫刻があった。恐らく陸上でも置けるように折り畳みできる前方の龍の足が2本と、側面や下部に龍の鱗のような凹凸がある。
蒼龍「どう、飛龍?」
飛龍「うむ……どうやら彫刻やらから見て、この子の名前には『龍』が含まれてるね。
ほら、この子の爪は龍の爪っぽいし艤装の足も艦底部とかも龍っぽいでしょ?」
蒼龍「確かに……でも、龍の付く子って多いわよ。私達といい龍驤といい龍鳳といい雲龍といい……」
そう二人でこの子を見下ろしつつ首を捻ると、何を悟ったのかこの子は箏の前に座った。
「……私の名前を考えてくれてありがとうございます。でも、流石にどうかと思いますのねちょっと弾きますね」
~♪~♪
飛龍「凄いわ……こんなの聞いたら加賀さんどう思うかしら?」
蒼龍「何故に?」
飛龍「だって、あの人執務室で翔さんと加賀岬?とか言う演歌歌ってたもん。音楽好きだよね、あの二人……」
加賀さんが作詞し、翔さんが作曲(嘘)したというあの曲は聞いてても二人の美しい歌声に魅了された。というか、歌が上手であることにも驚かされている。
「なら、『空龍』ってのはどうかしら?」
飛龍「うぉっ!?……って、咲姫さんじゃないの」
蒼龍「驚かさないでよ、吃驚したぁ」
ごめんね、と手を合わせて謝る咲姫さん。可愛さと美しさが黄金比で両立されており、思わずキュンとしてしまう。これなら、あの翔さんが惚れることが可笑しくはない。
咲姫「貴女が、新しく来た子?」
「えっ、ああ、はい。そうですけど……」
咲姫「私は咲姫。此処の鎮守府の提督の奥さんという立場よ」
「そうなんですか……、提督さんはどちらに?」
咲姫「私が搾取しちゃった☆」テヘペロ
蒼飛龍「「このボケ……深い(意味が)!!」」
「?」
下ネタに、私達は思わず某○ーちゃんが川に溺れる物真似の台詞でツッコミを入れた。しかし、当の空龍(仮名)は首をかしげている。ピュアだなぁ……
咲姫「大丈夫、あの人あんなんでやつれるワケないから」
蒼龍「(普通なら腹上死するわ!!)」
「あ、あの……提督さんを貴女が搾り取ったのですか?」ガタガタ…
咲姫「いや、どっちもどっちよ。私も食べられた☆」キラキラ…
飛龍「(カニバリズムで考えたかぁ……)」
空龍(仮名)のピュアぶりは、長門さんに似ている(胸除く)生徒会長の学園の柔道部部長並だ。というか本当に大丈夫かなぁ、この子。龍が○くやG○Aをプレイさせたり、金剛型のマイクチェック眼鏡に会わせてやるか。
「それにしても、空龍ですかぁ……」
咲姫「貴女が会ったのは、蒼龍と飛龍。
空は『蒼』いし、貴女達が飛ばす艦載機は空を『飛』ぶ……どちらとも、空に関係あるの。
いい名前でしょ?」
「……あ!その名前です!!
改めまして、私は改大鳳型装甲航空母艦『空龍』です。どうぞ、宜しくお願い致します!」
よろしく、と嬉しそうに握手する二人。にしても、空に私と蒼龍の名前が関連しているのかぁ……しかも、それが当たったなんて。
何か……嬉しいな。
~~~~
<執務室>
翔「よう、お二人さん。いい夢を見れたか?」
空龍「はい、それに貴方の奥様から名前を思い出させてくれました」
「Zzzzzz…」
……片方寝ているよ。にしても、コイツの服大胆すぎだ……普通のチアよりもヤベェよ、恐らくコイツの容姿のモチーフとなった別の世界の(軽)航空母艦並だろ。
空龍「……起きて、ミッド!提督さんから見られているよ!」
「……ふぁっ!あぁ、空ちゃんと……誰?」
翔「鎮守府の提督だ。普通なら、上司の前で寝るとか解体もんだぞ」
ごめんなさ~い、と頭を掻いてウィンクと舌をちょこっと出して頭を軽く下げる。
コイツ……咲姫とか希に似てやがるな。希は胸がないが。
翔「ええと、まずそっちの水色の着物を着てるのが『空龍』で、そっちのレンj……じゃなかったチアはミッドウェイか?」
空龍「はい」
ミッド「そうだよ~、あたしはミッドウェイ級装甲航空母艦1番艦『ミッドウェイ』。空ちゃんからミッドって呼ばれてるの。宜しくね!」
お、思わず元ネタ口にしかけた……とりあえず、ミッドウェイは実在した空母のようだな。だが……やけに英語を言わないな。サラは普通に言ってたのに。
翔「んじゃあミッド。How are you?」
ミッド「へっ!?は、はう?あぁ?ゆ、ゆうぅ?(ど、どどどどどうしよう!!あたし、英語なんて分からないよぉ)」
……簡単なのに分からんのか。
なるほどな。英語を勉強してない……おまけに戦闘を軍艦時代に経験したような素振りもない。
どうやら、コイツらは俺達のようなイリーガルな存在ってわけか。いや、ミッドは横須賀を母港にしていたからな……実際そうでありそうだな。
翔「まあ、英語が分からないならすまない。
改めて俺が鋼翼団団長、及び鋼翼鎮守府提督である雄崎翔だ。提督や司令官などとは呼ばずに名前で呼んでくれ」
空龍「はい、是非とも宜しくお願い致します」
ミッド「うん、宜しくね翔!」
空龍は礼儀正しく深く、ミッドは可愛らしい笑顔と共に浅く俺にお辞儀をした。それにちゃんと俺も応える。
コンコン…
「提督、成人さんが今晩……あら?」
翔「ん、羽黒か。今ちょっとな」
羽黒「……!!ああ、貴女達が帝級の艦娘なのですね。私は、元重巡洋艦の羽黒です」
羽黒が成人に関する事の報告をしてきたようだ。確か……艦娘が売買されるオークション会場を叩くと聞いたな。まあ、アイツの能力ならば簡単にやれるだろ。証拠すら残さずに。
翔「羽黒、オークション会場の件か」
羽黒「ああ、はい。もしかしてご存じで?」
翔「いや、勘さ。だが、アイツのことだ。きっとオークションに賭けられる艦娘を連れて帰るだろう」
羽黒「確かに……一応、大淀さんや間宮さんにそうなるだろうと報告しておきますね」
羽黒が一礼の後に執務室を後にして、また三人の空間となる。このやり取りに何を察したのか、空龍が口を開いた。
空龍「……やはり、此処はただの鎮守府ではないのですね」
翔「ああ、二つの勢力に戦う少数精鋭共の集まりだ。といっても、半分以上がまだまだだけどな」
ミッド「うわぁ……でも、あたし頑張るよ!!」
翔「おうっ!Go for it!!」
がんばれ!と英語でそう激励すると、意味が分かったのか二人は笑顔でガッツポーズをした。
とりあえず……コイツらの今後は赤城達に匹敵するものだろうな。将来が、楽しみだ。
成人に史実での二人の詳細資料を頼まないとな。
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パリィン
成人「……此処ですか」
・空龍(Lv.1)
龍神棲帝の龍から変化した装甲航空母艦の艦娘。改大鳳型であるが名前が分からなかったが、咲姫が命名した名が見事に当たった。
航空機運用では類を見ない箏を用いており、箏の音や曲を弾くと絃から艦載機が具現化されて発艦する。また、艦橋と煙突を模したポシェットには予備の絃や柱、爪が入っている。
大人しくおしとやかな性格で、明るく元気なミッドウェイとは対照的である。しかし、褒められたり激励するとちゃんと応えるという素直さもある。得意の箏の技術は音楽好きである翔や成人をも一目置くほど。加賀さんも演歌伴奏に勧誘したいらしい。
乗っている艦載機は100機で、性能はミッドウェイには大きく劣るものの日空母としての性能は間違いなくトップ。艦載機は烈風や流星、彗星といった(鋼翼鎮守府基準で)比較的性能が低いものだが改装されると『陸風』と呼ばれた戦闘機や彩雲の艦攻版等を持ってくると本人は言ってた。
・ミッドウェイ(Lv.1)
龍神棲帝の人型から変化した装甲航空母艦の艦娘。145機の搭載数とアングルド・デッキへの改装を成された経験があるミッドウェイ級のネームシップ。しかし、横須賀を母港としていたのか英語はあまり……。
空龍同様にミッドウェイの航空機運用も独特で白と青が混じったボンボンから紙を飛行甲板を模した旗に流し、それが艦載機へと姿を変える。雲龍型と同じように見えるが、あちらは式神を用いる為本人曰く全く違うそう。次いでに旗は簡単に破れないものである。
大人しい空龍とは対照的で、明るく元気な性格。所々抜けているところがあるが笑顔を絶やさず、持ち前の応援で元気を振り撒いている。それが、艦隊のアイドルを再起させる引き金となるとは後の話…。
艦載機数は145に加えてカタパルト搭載、そして対空もアイオワを勝るものであり、しかも装甲航空母艦という航空母艦ではトップのチートスペック。乗せているのは戦闘機ベアキャットや攻撃機スカイレイダーと最新鋭のものばかりで、改装された時には大型ジェット機の運用も可能であるかもしれない……