<執務室>
「「「「……」」」」
葬式を終え朝御飯も食べ終わり、ようやく自由な時間となった。舞鶴の艦娘も自由の身になり、話し合ったり遊んだりと以前より賑やかになった。傷ついた心も、少しずつ癒えてくれることを願っている。
しかし……その雰囲気を不快にさせる者がいた。大艦巨砲主義を上げる戦艦や重巡や“ただの囮”や“逃げるだけしか能のない奴ら”と駆逐艦を罵る艦娘だ。それ故に遊べた駆逐艦もそれで自由に遊べなく、かつ心に余計な傷が開いた。
鋼翼団はその怒りを奴らに売り、演習をすることとなった。そうして、最強の実力を誇る四人が提督がいない執務室で顔を合わせていた。
潮「ハァ、折角気分が晴れたのに……」
村雨「生き残った奴ほど粋がるのね。まあ、きっと意図的に駆逐艦盾にしたと思うよ、アイツら」
如月「そういうものよ、この世の中……」
羽黒「……」
四人の目は死んでおり、ギリリと歯を軋めたり拳を強く握り締めたりとその怒りを露にしていた。
だが羽黒だけは重巡……駆逐艦を罵る側の艦娘に立つ艦種なので怒りと躊躇が混じっていた。
羽黒「ねえ、私は重巡だけど……貴女達と一緒n「当たり前じゃないですか、羽黒さん」う、潮ちゃん……」
潮「私達は提督の指示で建造された唯一の艦娘。私達にとっては、この四人は綾波型と同じくらい大切な『姉妹』なのですよ」
村雨「そうそう。折角四人建造されたのに、貴女だけ置いて戦うなんて私達にとって何かが足りない感じで嫌なの」
如月「私達三人の駆逐艦と羽黒さんという重巡。私達は建造された時に一緒になった『姉妹』であって、提督はいないけど一つの『チーム』なの。貴女をこんなことで外すことなんて出来ないわ」
まさに、その四人の姿は本物の『姉妹』であった。髪の色も、目の形も、制服の色も、体の大きさも違えど、それでも翔という提督の元に建造されたのだ。
形が同じ=姉妹というわけじゃない。形が違えど、共に戦ってきたからこそ本物の『姉妹』なのだ。
羽黒「……!!ありがとう……!」
潮「私達はそうなのですから、当たり前ですよ羽黒さん。
……それよりもアイツらを叩き潰す作戦なのですが、やはり提督が前に指示されたようにやりましょう」
村雨「つまり私が大型艦、羽黒さんが遠距離にいる艦、如月ちゃんが接近している艦、そして潮ちゃんが高速艦というわけね」
如月「OK、リフレクトビットは……まあ、いらないわね。私達の装甲を考えたら、弾きそうだし」
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<工廠>
「……」ギイィィ…
「……よし、これを使わせてもらおう」ガチャリ…
「フッ、駆逐艦共がやられるのをただただ眺めておけ。お人好しな提督と艦娘め」
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<演習場>
長門「あー、あー。
戦艦長門だ。提督こと翔代理で、これより演習を行う。ルールは相手が戦闘不能及び降参で雌雄を決す。他には非人道的行為を行った場合この試合は相手チームの勝利とする」
長門が埠頭の先にある艦娘達に演習の注意事項を淡々と述べている。それに、戦う艦娘は耳を傾けながら相手を睨んでいた。特に、ウチの鎮守府の四人は目が死んでいた。その目だけで怒りが強く感じとれる。だがそれを、相手は流していた。
翔「……」
「……失礼していいかしら?」
翔「!!アンタらは……」
一番遠い所でその光景を眺めていると、俺の存在に気づいたのかある艦娘達が近づいてきた。
翔「……足柄に曙、夕立に睦月か」
足柄「あら、覚えてくれたのね」
翔「……どっちにしろ、俺に呼ばれる資格は無いか。んじゃ、何と呼べばいい?」
曙「知らないわ、アンタが決めなさい」
あっそ、と流して始まった演習を眺め始める。
潮が前進、後の三人は相手を分断するために別方向に離れながら撃ってくる。相手はその動きに彼女達のままに動きながら迎撃を始める。
夕立「あ、あれが村雨の艤装っぽい?」
翔「ああ、やらかした詫びに作ったんだ、俺が。でも、四人共上手く使ってくれてるよ」
睦月「でも、普通に考えて駆逐艦が一隻で突撃したら……!!」
翔「大丈夫だ、アイツらの装甲は特殊なのでね。その性能が評価されてるからウチの艦娘全員の装甲をそれにしようって話になったんだ」
足柄「全員が使えるくらい軽く硬い装甲……だから、あのように突撃できるのね」
ああ、と頷く。
潮はなるべく白兵戦を仕掛けようと試みるが相手は太刀を構えてそれを阻止している。よく見ると、まるで俺達の方が密集させられてるような……
望「父さん!大変だッ!!」
翔「!!どうした望?」
望「そ、それが、工廠の倉庫に保管しておいたr」
ビビビビュウウウウウウウウゥゥゥゥゥン!!!!!!!
その時、俺の耳と目を疑っていた。いや、観戦していた艦娘もそうだろう。恐ろしい銃声と共に放たれたビームは、潮達に直撃して爆発したからだ。
それに、俺と望は咄嗟に相手の持つ銃を見た。それには……!!!
望「あ、ああぁぁ……」
曙「な、何よ……あの武器……!?」
翔「ル、ルミナス、シューター……!!」
電達に会ったときに、使ったあの銃だ。それを、まさか奪ってアイツらに向けるなんて……!!!
望が絶望した顔になった。周りもその火力に唖然としており、俺の近くにいる奴もその一人だった。
……俺はアイツらの異変にすら気づくこともできずに、ルミナスシューターを使わせたことに恐ろしい罪悪感と絶望に苛まれる。
夕立「るみなすしゅーたー?」
翔「俺達が使う狙撃銃の中でもトップクラスの破壊力と貫通性を持つ銃だ……実際俺達に対して使っても効果があって、俺が設計した艤装の持つ装甲を考えても貫通されないのがやっと……」
睦月「な、何そのバケモノ兵器!?!?」
足柄「……と、すると……!!」
黒煙が消えかけるそこには、艤装の一部を破壊されて大量の血を流して倒れる四人がいた。
翔「ッ……!!クソッ!!!」
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痛い……いたいよ……!!
あのビームで腕のブラストガーダーが壊されて、爆発と同時に体が吹っ飛ばされてしまう。体が熱くて、痛くて堪らない。目も痛い、赤と黒に染まって左目だけしかアイツらを睨みつけれない……!!
日向「フン、所詮それはただの飾りか……」
摩耶「へっ、弱かったな。でも、次のが撃てねえな……」
加古「使えない銃だ」
パシャン
潮「……!!」
ふざけるなよ……それは、提督の銃なんだ。勝手に使うなよ……駆逐艦を殺してきた、この弱虫が……!!
“だったら、アンタはそれを使う資格があるの?”
っ、アンタは誰なの?提督の事も知らずに……!!
“ああ、知ってるぜ。お前達の言う『提督』のこと”
……じゃあ、どういう人なの?教えて。そしたら、資格があるのかないのか教えてやるよ。
“そうねぇ……昔っから明るくてバカな人だったわ。でも、そのおかげでお嬢様の妹様や沢山の人達を助けてきたわ”
……!!!やっぱり、昔でも提督は提督だったんだ。じゃなきゃ、私達を助けてくれない……
“……でも、貴方達は知らない。彼は昔に誰からも愛されずに独りで生きて独りで死んだことを”
……ええ、知ってます。提督は、独りだったと今朝聞きました。私が生まれた時には沢山いましたけど、提督は独りだと……
“はい。でも、翔さんはそれを隠して私達に笑ってくれました。いつも、私達に笑顔をもたらしてくれました”
……昔から、貴女達がいた時もそうだったんですね。ホント、バカな人です……提督は。
“ええ、そうわね。本当にバカだったわ。
それより、私の質問は?”
……ありません、全く。私は艤装を修復不可能なまでにやられたからこそ、提督の武器を握れたんです。でも、提督ぐらいに上手く扱えません。私なんかに……
“ああ、そうだな。
……でもよ、お前らは今アイツと自分達の為に戦ってるじゃんか。すげえよ、お前らは”
“ええ、貴女達は私達のように翔の近くにいれることができるの。私達も彼が弱ったら助けてきたの。
それに、貴女達が翔の武器を持てたことも貴女達の艤装とやらが壊れたといえども翔が貴女達を他とは違う特別な存在として見てくれてるからよ”
そう、だったんですか……提督が言っていた五人の親友さんですか?最初のあの言葉は申し訳ありません……
“いえ、所詮私達は死人。生涯を終え、迷いを断ち切った者です。謝れる理由はありませんよ。
……それよりも、立ちなさい。翔さんの為にも、貴女の為にも”
……当たり前じゃないですか。立たなきゃ提督の誇りが崩れる……私が守らなくちゃ……!!
それに、駆逐艦をザコ扱いしてるアイツらを潰したい。その腐った根性をブチ壊してやる……!!
“その調子です。私達は貴女達を見守ってます。翔さんと肩を並べた数少ない親友として……!!”
……ええ、やってやろうじゃないの!!!
潮「うぅ……」
大井「チッ……まだやるつもりなのね。沈めてやるわ」ジャキッ
ドォンッ!!
雷巡からのヘッドショットを首を傾けて回避する。そして、私はぼろぼろの体のままで、右目が血や破片で見えないままに奴らの前に立った。
潮「……生きてますか」
羽黒「ええ……!!」
村雨「勿論よ……!」
如月「こんな奴らに死んだら提督が地獄まで追いかけてくるからね。次いでに、あの人達にも……!!」
後ろには、ぼろぼろの姿で立ち上がる三人がいた。羽黒さんは右肩のキャノンが破壊されて右腕が動かせない状態に、村雨ちゃんはブレイズドラグーンの誘爆で両腕が血だらけに、如月ちゃんは背中のMWRがやられてシールドがなくなっており、左頭部から血を流している。そして、私達全員の体に壊れた部品が刺さっていた。全身が痛い……けど、意地でもやらなきゃ提督の立場がなくなって駆逐艦の皆が怯える。
日向「ヒッ……バ、バケモノ共が……!!」
潮「……やれますか?」
羽黒「はい、やれます……」
村雨「ええ、火傷ぐらいで大丈夫よ」
如月「槍は大丈夫よ。いける」
怯えて何かを口に出しているアイツらを無視して、唯一無傷だった武器を取り出して構える。だが、右目をやられた以上、目を押さえなければと髪を結っていた死んだ私のリボンを包帯のように使って、右目を隠した。
その時、変な感覚に飲まれる。水が私に力を貸してくれるような感覚だ。どこか、気持ちいい……
潮「……此処で、殺してやる」
キュイィィィン……!
何かの起動音が響き、私の感覚が研ぎ澄まされ始めた。これなら……アイツらを殺せる……!!!アイツらの利用で沈んでいった駆逐艦達の無念を……晴らせる!!
~~~~
翔「……」
俺は唖然としていた。ルミナスシューターを使った時より唖然としている。動くこともできない。いや、動かないのだ。
何故なら……
潮達の髪が目の色に変化し、目がその目の色に輝き出し始めた。その光がそれぞれの目の方向に流れている。しかも、見たところエターナルサイクラーの出力が全開、いやそれ以上のものとなりバックパックから大量のエネルギーが放出されている。しかも傷ついているので、余計に不安定そうに見えてより恐ろしく見える。
まるで、悪魔と一体化した人間がその悪魔が持つ底力を発動してるかのようだ。天使という最凶の殺戮兵器を討つために放つ力のようだった。
唖然……いや違う。俺は戦慄してたのだ。四人のあの悪魔のような姿にキラードロイド並に戦慄してたのだ。
しかし……そんな中に何かが分かった。潮達がビジョンで見た覚醒の力を出しているのだ。姿はそのままでもその力はビジョンの姿に匹敵、いやそれすらも凌駕している。
この戦いは……どのように傾くのか……?