(1週間後…)
翔「ええと……丁字戦では味方が横、相手が縦一列なのだな」
加賀「ええ。軍艦は相手に対して横になった時が火力が高まるのです。しかし、被弾する可能性も高いリスクがあります」
俺達が、この鎮守府に来て早1週間。最初は俺と面識のある人以外は警戒をしていたが、俺達独自のコミュニケーション方法で全員の警戒心を解かせた。
俺と咲姫は金剛型四姉妹と暁型四姉妹、そして赤城と加賀がこの前の戦いの影響で非常に仲良くなっている。
成人はビッグセブンの二人や雪風、蒼龍と飛龍、特型駆逐艦の吹雪、そして天龍型姉妹に対して友好的になり、あの成人でさえも呼び捨てするほどに仲は深まった。
希と望は、翔鶴と瑞鶴に可愛がられている。それに加勢する高雄と愛宕、苦笑いする夕張に、かけっこをせがむ島風。そして、その光景を微笑ましく見る大和と武蔵という形だ。
それぞれ、友好関係を築いた艦娘はバラバラだが、意外にも皆とは仲が良い。たまに天龍が剣術を教えてくれと頼んできたり、夕張には装備開発を手伝ってとせがまれている。
翔「所詮は諸刃の剣だな」
加賀「ええ、丁字だからといって気を抜いてはいけないものよ」
翔「ふふっ、お前は慢心したくせに?」
加賀「うぐっ……それは……」
次いでに、今は暇そうな加賀に艦隊の指揮や戦闘の方法を教えてもらっている。
何故加賀を選んだかというと、友好関係が強い10人の中では一番艦隊の指揮等に優れている、と思ったからだ。
翔「まあ、あの時は仕方なかった。
今は今で教訓を活かし、慢心せずに十分な警戒態勢で行くことだ。それが、お前達の特権というものだ」
加賀「……ええ、そうわね」
寡黙な加賀が、僅かながらも頬の口角を上げた。
すると、鎮守府内の放送のアラームが鳴る。
提督『私だ、皆。
すまないが、今すぐ講堂へ来てほしい。非常に重要な話なのだ。それと、翔君達も来てほしい』
翔「……俺達の指名……、やな予感がするな」
勘だが、もしかしたら提督さんの命が危ないかもしれない……。
俺は持っていたシャープペンシルを置き、加賀と共に講堂へ向かうのだった。
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<講堂>
提督「皆。突然此処に集めてしまった事、本当に申し訳ない」
提督……東郷清志は並んでいる29隻の艦娘と五人の男女に頭を下げた。そして、頭を上げると重々しい声で自分の境遇を説明した。
提督「皆……私の命はもう、後僅かだ……。海軍の元帥から『更迭状』が届けられた。
そして……君達の横須賀鎮守府の転属と共に私の死刑が確実となった」
『!?!?』
その衝撃的な報告に、艦娘は勿論翔達でさえも目を丸くした。
金剛「ど……どういう事ネ!?」
赤城「提督っ……!!」
艦娘からの質問の声を全て流し、彼は口を動かした。
提督「当然、君達は嫌だろう。横須賀鎮守府は成果を上げながらも裏では艦娘の解体や撃沈が絶えない。
……私は、あることを決断した……!!」
提督は深呼吸を一つ、そして艦娘にある命令を下した。
提督「この大本営鎮守府に所属する全ての艦娘は、翔達五人の指揮下とするっ!!」
その命令に、まず口を開いたのは翔だった。
翔「ま、待ってくれ、提督!!
分かってるだろう、俺達は軍人じゃねえしお前みたいな提督でもねえ!!金剛達皆を指揮するなんて無理だ……!!」
咲姫「そうです!私達には貴方のような統率力も信頼性、それに提督としてのカリスマは微塵もありません!!なのに、余所者である私達をですか!?」
咲姫も、提督の言葉に反発した。成人は前に立つ二人の姿をじっと眺め、希と望は提督を見つめている。
提督「……たわけっ!!!
私は君達のような人を探し求めていた!艦隊の統率力が無くとも、その寛大な態度があれば、金剛達も嫌な顔せずについて行くはずだ!!
だからこそ、私は君達に私の道を共に歩いてきた彼女達の指揮を頼みたいのだ!!」
それに気圧された二人は、黙りこんだ。金剛達も、左側に立つ五人を見た。
その時、成人が挙手をして宣言した。
成人「……分かりました、提督。彼女達は僕達の元で指揮させて頂きます。こんなところで、貴方が貫いてきたものを終わらせたくはない。彼女達もそうでしょう。
貴方の代わりがもういないのなら、僕達がその代わりになるまでです!!」
いつもは謙虚で真面目な成人。でも、今回は自分の気弱なバカ二人に代わって宣誓した。
長門「成人……」
成人「すみません、自分のバカな二人が失礼な事を言ってしまって。
……二人共、過去のトラウマで自分が万全な態勢じゃないと心がへし折れたりさっきのような発言をしてしまいます。
……しかし、二人共きっと貴方に勝るような提督になる価値は十二分にあります!!」
「「成人(君)……」」
その言葉に、二人は自分の頬を思いっきり叩いて、提督を見上げた。
翔「すまない、提督……。さっきの発言は無しにしてくれ……。
そして……こいつらは俺達が守る事を誓う!!深海棲艦、そして海軍の魔の手にもな!!!」
咲姫「お任せ下さい、提督!私達の手で、勝利を刻んでみせますっ!!」
いつも通り、キリッとした目つきに変わった二人に、成人と提督は笑みを浮かべた。
提督「ふふっ、その意気だよ二人共。
そして、頼んだぞ……!!」
『ハッ!!』
提督の言葉に、五人は敬礼をした。成人はできているが、残りは脇が開いてたり逆だったりしているが、提督は安心した。
提督「それじゃあ金剛、比叡、榛名、霧島、暁、響、雷、電、赤城、加賀、吹雪、天龍、龍田、雪風、蒼龍、飛龍、長門、陸奥、大和、武蔵、島風、夕張、翔鶴、瑞鶴、大淀、明石、間宮、伊良湖……翔君達のバックアップ、そして世界の事を頼んだぞ。彼らなら、それを成し遂げてくれるよ」
金剛「テートクッ……!!」
金剛達は笑みを浮かべる提督に、無意識に敬礼した。中には涙を流している者もいたが、全員ははっきりと提督を見て敬礼をした。
提督「……それじゃあ、皆。私を更迭しに来るのは翌日のマルキュウマルマルだ。その前に、彼らと共に佐世保鎮守府に逃げてほしい。彼処は、前任提督がパラオ泊地に転属した後の所なんだ。君達の鎮守府としてはベストだろう」
成人「分かりました。情報によりますと8時出発の新幹線があります。それに乗って行きます」
成人が説明すると、提督はよくやったと笑みを浮かべた。
提督「それじゃあ、解散だ。皆、それぞれ荷造りをしてくれ。それと……執務室の机の引き出しに500万が入った封筒がある。それを使ってくれ」
翔「足りない場合は俺達の金を使う。心配しないでくれ」
申し訳ない、と提督は頭を下げて講堂から出ていった。翔達はそんな彼の後ろ姿をただただ眺めることしかできなかった……
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<PM8:00 食堂>
『…………』
……何ですか、この通夜のような空気の重々しさは。もう、『ズーン……』というオトマトペがリアルに出てきてしまいますよ!!
成人「か、翔さん、どうにかし」
翔「Zzzzz……」
ね、寝てる……あまりにも空気に馴染んでるよこの人。というか、皆ももうちょっと明るくしてよ!!
咲姫「ええと……34人分で6人が中学生以下と考えると……」カタカタ…
本来は僕の役割だった計算は咲姫が電卓で計算をしている。そして、白紙にその計算を書いている。それくらいかかっても仕方ないな……
成人「ええと……のぞm」
望「……」カチカチ…
希「……」ペラッ…
まさかのあのうるさい希ちゃんですら黙って読書している。望君は相変わらずゲームだが、音を完全に切っている。どんだけシリアス空気では空気読むんですかこの溺愛家族は……
成人「はぁ……(外の空気を吸いに行くか)」
こんな重々しい空気は久しぶりだ……。
僕は長椅子から立ち上がって、近くの裏口からサンダルを履き、外へと出ていった。
成人「……ハァ、ったく色々と不幸だなぁ」
テロリストに祖父母(後にそのテロリストの首領と判明)以外の家族全員を殺されてしまった……。ハァ、あのクソジジイとクソババアは魔女裁判の拷問でも足りないほどだ。
そして、翔と咲姫の最初の子にあたる息子を殺され、二人が匿ったあの娘さえも殺された……。翔と咲姫のあまりにも残酷すぎる不幸が僕ら三人に強く取り巻く。
僕は……この不幸がどういう形でまたなるのか分からない。もしかしたら、あの中から……いや、そんなわけない。彼は、運命を逆転させるほどの力の持ち主だから……!!
提督「どうしたのだい?君」
成人「!!……提督じゃないですか」
突然、声が聞こえたが故に驚くが提督が目に飛び込んだから安堵する。
提督「君がため息をつくなんてね……ため息つくと幸せ、逃げるぞ?」
成人「元々から幸せなどありません。……僕らはこの残酷な不幸をただねじ曲げているだけです」
提督「ハハハ、それくらい力があるのか。なら、皆も大丈夫だろうな」
成人「……僕らの残酷すぎる不幸が、現れなければですがね……」
提督「そ、そこまで残酷なものかい?」
それに僕は、ゆっくりと頷く。
成人「ええ……残酷です」
提督「…………もう、何も言わないでいい」
それに、話そうとして開けた口をそっと閉じる。
成人「……提督、貴方は近づく死に、恐怖は抱かないのですか?」
提督「……勿論そうだとも。本当なら逃げたい。逃げて私のお袋や親父の元に帰りたいさ。
でも……此処で逃げたら金剛達が海軍に転属させられてしまい、『死』に怯える毎日になってしまう。だから、私は逃げない。
それに……私は君達という良い友を得られた。君達に会えたことで金剛達も安泰さ。これで、未練もなく逝ける……」
成人「提督……」
何て清々しい人だ。信頼する部下を逃がし、自らを犠牲にする……翔にほど近い……いや、それ以上の黄金の精神だ。
成人「提督、長門達は絶対に守ってみせる、と誓います!!」
提督「ああ、分かった。頼んだぞ……」
そう言って、提督はゆっくりと踵を返して鎮守府に入っていった。それに、僕は敬意を評して彼が見えなくなるまで、敬礼したのだった……
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(翌日 AM6:30)
提督「さて……もう、お別れだな」
翔「ああ……1週間だけだったが、世話になった」
翌日、俺達は最低限の荷物をキャリーバッグやリュックを持って白い軍服を着た提督と対峙する。資材や資源、艤装といった持っていくことのできないものは全て成人の能力で全て異空間に収納されている。
成人「1週間、ありがとうございました」
提督「いいさ……。それと、皆。元気にしてな」
吹雪「司令官……」
いつもとは違う、私服を着て少しイメチェンをした艦娘は提督に心配や別れを惜しむ顔をしている。
提督「ああ、忘れてた。翔君、咲姫君、成人君、そして希君と望君に渡したいものがある」
提督が提げていた紙袋を探り、白い服を取り出した。そして、一人一人ずつ手渡した。
翔「……!!これって、提督服!?」
提督「ああ、君達は提督となる。だから、妖精さんに頼んで仕立ててくれたのだよ」
咲姫「(あっ、私のスカートだ)……ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」
俺も御礼を一言。提督服はあまり着ないだろうが、キャリーバッグに入れた。
提督「それでは……」
翔「『さようなら』……とは言わせんぞ、提督……いや、東郷清志」
その発言に提督は勿論、艦娘や咲姫達ですら驚きの表情を見せた。
翔「清志……俺とお前じゃあ雲泥の差みたいなものだ。まだ、お前に習いたいことが山程ある。
……もし、生きてたら俺達が海軍に攻め込んで助けてやるよ!!」
提督「……ああ、待ってるさ」
清志と俺は同じ笑顔を浮かべて、拳と拳をぶつける。彼の笑顔は、とても清々しいものだった。
翔「それじゃあ……またな!!」
清志「ああ……また会おう!!」
そうして俺達は鎮守府を背に、新しい鎮守府へと向かうのだった……