<佐世保鎮守府 指令室>
大淀「翔さん達はW島を通過中、0時、6時、8時方向の艦隊を迎撃しながら撤退しております」
成人「そろそろか……補給の準備を行いますので、オペレーターを離席します」ガタッ
咲姫「了解。そちらも状況を報告するわ。大淀、損傷は?」
大淀「艦娘達は無傷です。しかし、翔さんは装甲部に相当な傷があります」
咲姫「ドットフェニックスは簡単には壊れはしないわ。それくらいの損傷は大丈夫。だけど、油断はできないわ」
大淀「はい、咲姫さん!
……MI島から反応あり!これは……艦娘でも深海棲艦でもありません!!これは……!?」
咲姫「……この巨体、フォルム。まさか……(ウソでしょ……!?奴が、この世界に!?)」
大淀「……?咲姫さん!!」
咲姫「……ハッ!翔に今すぐ連絡して!!」
大淀「は、はい!!」
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<MI島~佐世保鎮守府間>
長門「全艦、ありったけの砲弾をブチまけろ!!」
リットリオ「はい!!」
アイオワ「Yes sir!Fire!!」
赤城「第一次攻撃隊は着艦!!」
蒼龍「援護します!」
島風「おっそ~い!!」
深夜何時かも分からないが、きっと日が変わった直後なのに威勢のある艦娘達の声が響く。共に砲撃音が轟き、レシプロエンジンの音が右往左往し、魚雷が放たれる音が無尽蔵に聞こえる。
翔「オラオラァッ!!俺の後ろ盾に触れるんじゃねェぞっ!!!」
ドドドオォォンッ!!
ガコッ、ビイィィィ!!
俺もドットフェニックス翼部のミサイルや基部のレールガン(という名のビーム砲)を撃ちまくる。そして、急速で接近して機首の槍で串刺しにする。
俺という存在に恐怖する敵は、駆逐艦だろうが戦艦だろうが逃げ惑う。だが、その背に容赦なく撃つ。
その戦闘の最中に、耳に付けておいたインカムからノイズが走る。
『……さん、……るさん!翔さん!!』
翔「ん、大淀か。どうした?」
大淀『緊急事態です!MI島から艦娘でも深海棲艦でもない未知数の敵が現れました!!とても大きいです!!』
翔「何っ!?動きはどうだ?」
大淀『それが……敵がいるにも関わらず尋常じゃないスピードで此方に向かっております!!80ノットは出てます!!』
80ノット……下手すれば1時間で此方とぶつかる。いや、アイツだろうという前提で向かうしかないか!!
翔「60!?……分かった。俺が迎撃に向かう!代わりはいるか!?」
咲姫『大丈夫、成人君が君の代わりになるよ。だから、この子達の事は安心して』
翔「分かった。大淀、咲姫!!」
体を急反転させ、潮達の上を通過する。何か察したのか、俺の戦艦は下部の副砲を前方に向けて砲撃しまくる。
次いでに言うと、この戦艦は名などは存在しない。だが、フェニックスの姿に酷似しているため、何かそれに関連した名前を付けたいものだ。
大和「!?翔さん、どうしましたか!?」
翔「悪い情報が入った!すまないが、成人が代わりになる!!」
夕張「翔さん一人で迎撃にですか!?」
翔「ったりめーだ!佐世保鎮守府に無事に帰れよ!!」
足のブースターをフル出力で急加速する。その時、悲鳴にも似る潮達の声が聞こえたが、聞こえなかったことにしておこう……
翔「(さてと……相手のタイプは何かな?)」
一応、奴らの弱点を突く為の装備を考えなくてはならない。それに、相手は確実に俺の動きを読める……
『ギギャアアアァァァァァァァァ!!!!』
翔「ッ!!このタイプは……」
胸部が弱点で足をやれば怯む。だが、翼や尾のブレード、両腕の銃には用心しないといけないな。
無意識に正面を目に入れると、暗闇の中にぼんやりと橙色の光が妖しく光っていた。しかも、当然のようにデカい。
翔「(……ジーエクストで行ってみるか)」
装備対策せねばならんのに、この武装で立ち向かうバカが唯一見ることのできない自分という存在がいた。
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ガシャアァァン……
翔「さてと……よう、久しぶりだな」
翔「相変わらずデケェ図体に尋常じゃないスピードだな」
翔「だが……すまないが、俺だけを相手にしてくれないか?後ろには、俺の新しい仲間がいるんだ」
翔「生物としての定義は1つだけ除いてクリアしてんのに、人間に『兵器』扱いされている可哀想な奴らだ」
翔「お前に意思があるなら、是非とも海軍のクズ共を喰らってほしいが……やれるわきゃねえな」
翔「まっ、いいさ。んじゃ……来い!!」
『ゴオオオオオォォォォォッ!!!!』
ガチャ キュイィィィ……!
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<指令室>
大淀「『キラードロイド』ですか?」
ええ、と私はレーダーを見る大淀があの兵器の名の呼ぶのに頷く。
大淀「キラードロイド……名前からして、『殺し屋』の名を持つ恐ろしい兵器ですね」
咲姫「そう。アイツは人間といった強い生命に反応すると近いものから破壊し尽くす本物の『兵器』よ」
大淀「!?つ、つまり、深海棲艦が破壊されたってことは……つまり!!」
何かを察した大淀に、私は言うこともなく心の中に押し留める。艦娘は言わずとも分かる。翔君達に近づいたのは遠いが多くの生命が玉となっているからだろう。
咲姫「しかも……アイツは学習するわ」
大淀「へ、兵器なのに学習ですか!?」
咲姫「あれは元々LBXでの非行を防止するものだったの。でも、此処では巨大化して本物の兵器になったの。それに……学習するから戦うごとに強くなる」
大淀「それだけでも十分なバケモノね……」
それだけじゃない、と私は大淀に追い討ちを仕掛ける。まだ!?と彼女は目を丸くしている。
咲姫「性能も規格外なのよ。バケモノみたいな耐久力に攻撃力、それに巨体に見合わぬスピード……姫級なんてアイツにはただの案山子同然。
私達でも一目置いている敵よ。アイツは……」
大淀「そんなものを、貴女達が相手に……」
ええ、と私は翔君とキラードロイドが一騎討ちしている戦闘光景を目にしていた。
咲姫「(……私も出たいところだけど、この鎮守府の警備を緩めるわけにはいかないの)」
振り向くと、置いたソファの上で規則正しい寝息を立てる文ちゃん。それに、間宮さん達も隣室で就寝。希は正面、埠頭に望が立ち、明石も監視カメラで屋内を監視を行っている。此処で出れば、一大事になった時に対処できない。だから、持ち場を離れられないのだ。
咲姫「(ごめんね、翔君……)」
私は、愛するあの人に謝ることしかできなかった……
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<Kフィールド『滅びの街』>
『ゴアアアアァァァァァ!!!!』
ビビビビュンッ!!!
翔「(ッ!!完璧に動きが読まれてる……!!)」
ジーエクストの機動力で暗雲の下、滅びたビル群をかい潜る。通った直後にビルが次々と倒されていき、後ろに奴の目が妖しく光った。
翔「これでも喰らいやガァッ!?!?」
ドゴオォドゴオオォォン!!!
レールガンとミサイルを放とうとした直前、飛んできたキラードロイドの銃の腕によって叩き落とされた。しかもそのままビル2つを貫き破り、地面に激突する。
翔「(くぅ……やっぱ強ぇ!!まあ、何年もコイツと交えてきたからな……強くて仕方ないか)」
コイツは、俺達との戦いであらゆる戦法を解析されたのだ。だから、最初はほぼ単体でも容易に倒せたが強くなっていくと多数による連携が必要となった。
まあ……奥の手はあるのだがな……!!
ドゴオオオオオォォォォォン!!!!
翔「っと、危ねぇっ!!……ん?」バチバチ…
踏み潰されないように体を回転させて回避する。その時、左足のブースターにスパークが走っていた。背中を見れば翼のほとんどがへし折られている。レールガンは一門だけに、ミサイルは3発しか一斉発射できない。
翔「(まあ、コイツは一応量産されたものだ。弱くて当然だな)」
『ギイイィィィィッ!!!』
両腕、翼からパルスビームが照射される。それを寸前で回避して、キラードロイドの頭部にスパークの走るブースターを放った。爆発して、大きく怯む。
ドゴオオォォォンッ!!!
翔「目くらましだけは忘れていたな。まあ、意味はないけど……」
ビイィ!!ビイィ!!
ドドドオォォンッ!!
すぐにキラードロイドの下をかい潜り、両足のケーブル向かってミサイルとレールガンを撃つ。
『!?グオオォォォ……』
翔「必殺ファンクション!!!」
『アタックファンクション・真刀・カムイ』
左手に持つ槍を高く上げる。槍に内蔵されているエネルギー放出装置が激しく回転すると、巨大なビームソードが形成される。それを、キラードロイドの胴体向けて振り下ろした。
『!!!』
ガギイィィンッ!!!!
翔「クソッ!!!」
しかしキラードロイドは寸前に動いてしまい、カムイは右腕右翼を斬り落としただけだ。
その時、尻尾の剣が
ザシュッ!!!!
翔「ァッガァッ!?!?」
槍を持つ左腕が斬り落とされた。赤熱された剣の為、傷跡が熱く、そして激しく痛んだ。しかも、嗅ぎたくない臭いが鼻腔を刺した。
『ゴオオオォォォォォ!!!!』
翔「チッ、逃げんじゃねェぞオォ!!!!」
ドゴオォッ!!!!!
盾を放り捨て、振り向いたキラードロイド頭部を拳で殴りつけて装甲をブチ壊す。大きく怯んだ隙に、レールガンとミサイルを頭に至近距離で使い物にならなくなるまで撃ちまくる。
『グオオォォォォッ!!!!』
翔「ハァ……ハァ……」
すぐに距離を取り、ひび割れた道路の上に転がっている左手に握られた槍を手に取る。
翔「(次の必殺ファンクションまであと5秒。今度は至近距離からコアをぶった斬る!!!)」
右足のブースターをオーバーロードするレベルの出力で噴かせ、キラードロイドのコアめがけて接近する。相手も、腕と翼を入れ替えて翼の剣を横に構えた。
『キギャアアアアアァァァァァ!!!!』
ガキイィィィンッ!!!!
翔「もらったァッ!!」
ブースターが足諸とも斬り落とされた。だが、十分なスピードのままにコアに槍を突き刺した。
翔「必殺ファンクションッ!!!!」
『アタックファンクション・真刀・カムイ!』
そのまま、まるでビームで貫通させるかのように槍からビームソードを発生させた。そして、振り下ろした。
『!?!?』
ドゴオオオォォォン!!!
キラードロイドは、言葉に表せない咆哮を上げて爆発した。それに、逃げる術もなく爆風に吹き飛ばされる。
翔「うぐぁっ!!!?……ハァ、ハァ……」
Kフィールドが歪み始める。動くこともままならない。
そして暗雲が暗い夜空になり、ひび割れた道路が静かな海に変わった。
翔「おっ!?うわぁっ!!」
そのまま重力に引かれて、海の中に落ちる。どうにか浮こうともがくが、海の中に引き摺りこまれるように沈む。
翔「(クソッ、左腕と右足やられたせいで上手く泳げない……)」
沈んだら、マズい……そう思えても泳ぐことはあまり……
翔「(あっ、ヤベッ……意識が……)」
もう……敵となるのかな……?手が自然と助けを求めるかのように水面へ、空へ向ける。
「「「「……提督ッ!!!」」」」
翔「ッ!!!」
その時、上げた腕に四人の手がしっかりと握られた。そして、海上にゆっくりと引き上げられる。
翔「プハァッ!!!」
潮「提督!大丈夫ですか!?」
羽黒「ッ!腕と足が……!!」
欠けた四肢に恐怖を覚えるが、すぐに俺の体を四人係りで抱えた。
成人「お疲れ様です」
翔「ああ……だが、コイツらは?」
成人「皆さんは佐世保鎮守府の方に帰られました。しかし、この子達が貴方の事を心配して」
翔「そうか……ありがとな」
成人「ともかく、帰りましょう」
ああ、と答えると俺にすがるように四人が顔を近づけてきた。
翔「わりいな、心配させてもらって」
如月「本当に心配したのよ!?」
わりいわりい、と笑って答える。
帰るか、俺達の家に……
<対生物殺戮兵器『キラードロイド』>
別名ラージドロイドの名を持つ、あの翔達ですら一目置いている兵器という名のバケモノ。以前の世界でもこの兵器が確認されており、当時の実力者ですら自らの力をもってしても倒せなかった。
<特徴>
深海棲艦すらも凌駕する巨体と匹敵する禍々しさ、そして生命反応を感知するとブッ殺しまくる凶暴性を持つ。見かけた艦娘は勿論、深海棲艦すらも殺しまくる。(実はというと、海軍の被害の70%はこの兵器らしいが……)
姿に関しては数多く確認されており、竜や牛、蛇、蟷螂、更には戦車に酷似した姿が見られる。その為、性能も大きく異なる。
また咆哮も恐ろしく、500m範囲内で聞いた者は戦意を喪失し失禁するという。しかし、翔達は慣れている(というか別の形で知っている)為怖じ気づくことはない。
<性能>
一言で言えば、翔達に匹敵するチート。艦娘は勿論、深海棲艦すらザコ同然の兵器である。
攻撃力は姫級を余裕で消し炭にし、防御力は姫級の砲撃すらもただの豆鉄砲過ぎないくらいのバケモノ。スピードにおいても、瞬発的だがフルスピードの島風の目の前に回り込めるほど。
だがこのチート性能より恐ろしいのは『学習する』ことだ。敗北……つまり破壊されればされるほど、より強く、より賢く、より凶暴になる。それが翔達が一目置いている一番の理由として上げられる。
まさに、キラードロイドは生物達を破壊し尽くす為にある艦娘よりも、深海棲艦よりもより無慈悲かつ凶悪な兵器なのである。
<対策>
翔の家族と親友以外は逃げた方がいい。というか、逃げろ。それしか生き残れる方法はない。
だが、一応弱点は存在する。動力部であるコアとケーブルである。コアに壊滅的なダメージを与えれば爆発し、ケーブルに攻撃し続ければキラードロイドは電気系統をやられて動きが鈍くなる。しかし、それを容易にできる者は艦娘の中では(現段階において)誰もいない。
また、このバケモノを簡単に討伐できるのは翔を初めとする五人だけである。姫級すら倒せる武器や必殺ファンクション、そして逆らうことのできぬ『学問』ならば、倒すことはできるのだ。
<実は……>
キラードロイドは、元々LBXを用いた非行を防止する為に作られたものである。だが、製作者はこれを『LBXを狩るモノ』として完璧な対LBX破壊兵器として産み出したものなのである。つまり、今この世界にいるのは我々が『LBX』という獲物となっているのだ。
翔と咲姫はLBXの能力を持ち、以前の世界においてキラードロイド討伐の主力でもあった。無論、同じ性能なのに強さは徐々に差を詰められてきている。
この場でも彼らとこの兵器がぶつかるのは、LBXというものの必然的なものか、彼らに渦巻く人間に対する憎しみや怒りなのか……