<ハザマ 海上>
ガキイィィン!!カアアァァァン!!!
翔「オラオラァッ!!大地を踏みしめ、耐えてみろォッ!!」
潮「そ、そんな事言ったってぇ……!!」
その直後、銀色の刃のメイスが私のいた場所を叩きつけた。大きな水飛沫が、私の顔や服を濡らす。その時、水飛沫の隙間から見える提督の顔はいつものような顔ではなかった。
羽黒「(今だ!)」ジャキッ
翔「おせえよ!!」
足を止めた提督に羽黒さんは銃を構えたが、目にも止まらぬ速さで背後に回り、羽黒さんをぶっ飛ばした。
如月「羽黒さん!大丈夫ですか?」
羽黒「うぐっ……だ、大丈夫。盾でカバーしたから」
村雨「訓練の時の提督ってまさしく『鬼』よね。そんな彼に爆撃する赤城さん達って物凄い度胸わ……」
倒れる羽黒さんに、三人で砲を撃って提督との距離を離す。村雨ちゃんは雰囲気を和ませようとしているが、震えた口で言う言葉に何も和みは無い。寧ろ、恐ろしい緊張感がより酷くなるだけだ
翔「(距離を取らせてるか。此処は素直に取るとしよう)」
潮「(提督が引いた……?いや、これは……)」ガシャン
ダァンッ!!
即座にMWRのシールドを前に回す。それに、予想した通りに提督の銃から放たれた弾を受け止める。
羽黒「遠距離戦……私が撃ちます」ジャキ
その時、羽黒さんの握ったライフルの銃身が凹み吹き飛ばされた。宙に舞うライフルに目を奪われ、時間がゆっくりになる感覚がする。
翔「はい。ヤラレチャッタ」フッ
潮「あうっ」
羽黒「ひゃっ」
村雨「ふにゃっ」
如月「きゃんっ」
直後私の耳に吐息が吹き掛けられ、変な声が出た。耳と顔が熱くなる感じがして、全身の鳥肌が立つ。
翔「はい、敗けだ。ちょいと休憩するぞ」
潮「休憩するぞ、って何やってるんですか!/////」
翔「いや、耳ガラ空きだもん。つーか、昔俺の友達にもふっつーにやってたし」
羽黒「普通にって/////」
何も変わらない提督に、私達は顔を真っ赤にして反論する。だが、ことごとく返す提督。
翔「あと、二日。それにしちゃあ随分と動きや連携が並外れている。仲間が倒れた時の援護や相手の行動で次の一手を予測、即座に相手の背後に回るなどよくやれている」
村雨「貴方のおかげでその心地はしないけどね」
翔「……昔もそう言われたな、俺。強すぎて『アンタとやり合ってると強くなってるのか分からないわ』とか普通に言われたわ」
そういえば、提督の昔を知りたい気がする。成人さんとかに聞けば、提督や咲姫さん、成人さんはある世界で出会った仲らしい。
艤装をしまいこみ、近くの島に上陸してそこの小屋(にしては豪邸)に入ってゆっくりする。
翔「ホレ、ブラッ○サンダーだ。次の訓練は半時間後だ。あと二日。時間を無駄にしちゃいけねえからな」
如月「わかったわ。髪が傷んじゃって気になるから、塗るわね」
部屋に置いてあるボトルを手にして、如月ちゃんは出された液体を紫色の髪に塗っていく。手慣れた様子で、すぐに全体に塗った。
翔「んじゃ、何する?」
潮「……提督の過去を知りたいです。特に、成人さんと咲姫さんと出会った時の所を」
村雨「私もそれ知りたいわ。提督の過去ってちょっとしか触れられてないから提督の口から聞きたいの」
マジか……と提督は何やら嫌そうな顔をしたが、すぐに顔を変えてブラック○ンダーをかじった。
翔「まあ、いいぞ。俺だって彼処は故郷だし話したいことは山ほどある。まあ、食いながら聞きな。
そこは現代世界から隔離され、現代に幻となった物や人が流れ着く世界なんだ。だから、江戸時代みたいな感じで自然溢れている。星も綺麗だし四季も色鮮やかですることは尽きなかった。
まあ……普通じゃなかったがな」
如月「……どこがなの?」
翔「まず、隔離された世界故に『海』が無かった。でも、大したことはない。
次に、人間以外の種族が多く存在していた。妖怪の天狗や鬼といったのがゴロゴロいて、人間なんざ下等生物みたいなもん。でも、流石に妖怪も人間無くして生きられないから喰う者は多くはない。
そして……何よりその世界でとりわけ強い連中、全員女だった。しかも、絶後の美女だが凶暴だったよ。まあ、その全員友達だけど」
「「「「うわぁ……」」」」
まさかの私達に会う以前にも女達と絡んでいたなんて。しかも絶後の美女と言われるとどんな人なのかを知りたい。でも、提督に対する怒りが僅かに現れる。
この女タラシめ。私達より先にそんな女達と……
翔「例えばその地域入っただけでビームぶっ放してくるドS花妖怪とか、子供の癖してパワーは人間の数十倍にもなる吸血鬼とか、酒を溢さずに戦うのがルールの鬼とか……でも、全員バカで楽しい奴だったよ」
潮「(そう言われるとどんどん嫉妬する……)」プクー
翔「まっ、その時の俺は来たのは16くらいだったし、でもメッチャ強かった。その世界の強者よりも何倍も強かったさ。それ故に、皆俺と戦え戦えとうるさかったよ」
へえ、提督ってあの世界でも強かったんだ。そりゃあ、あの姫級を弄ぶような人で、爆撃を喰らってもほぼ無傷の人だから。
村雨「そうなのね。じゃあ、それより前の記憶も教えてくれないかしら?」
翔「……すまん、それだけは嫌なんだ。思い出すだけで、人間に対する憎悪が増す」
あんなに軽々しかった提督の口が、まるで塵から山になるかのように重くなった。それに、目の色もとても暗い。
村雨「……ああ、ごめんね提督。でも、それで提督の何が備わったかを知りたいの。いい?」
翔「……ああ。いいぜ。
俺が生まれて15年……俺は『人の痛み』と『人間に対する憎悪』と『平等さ』、そして『人間のくだらなさ』を身をもって知った。そして、俺がお前らを『人間』として見る理由が根本的にある」
これ以上聞くのは非常に危険だろうと察した村雨ちゃんは、それだけで納得がいく表情をした。私も如月ちゃんも羽黒さんも、空気を読んで頷く。
翔「……先行ってるわ。ゆっくりしときな」
潮「えっ、ああ、はい……」
ゆっくりと椅子から立ち、豪邸から出る提督の姿は、どことなく何かが渦巻いている感じがした。
提督の生まれた過去は、いつ知ることになるのか。私は、僅かな期待と緊張を覚えて唾を飲んだ。
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翔「ハァ……」
あんの野郎共、変に彼処まで漬け込みやがって。まあ、それで何が増えようが減ようが関係ねえがな。
翔「……」
空が青いなぁ……目に写る何もかもが鮮やかすぎて目が痛い昔を思い出す。まあ、その後々にもこの視界は暗くなってきたがな。
翔「フゥ……ッ!!?」キイィィィ…!
ふと、感覚が研ぎ澄まされるような感じがして、目に何かが写った。そこには……
『翔!私達で姫をやるわ!!』
『邪魔すんじゃないわよ!!』ドゴォッ!!
『ふう……ザコは全滅したね。翔、一緒にやるよ』
『翔、私達でやっちゃいましょ!』
視界には曇り空の島の元、ボロボロになった姫を奥に四人の少女が俺の方を向いていた。
だが……俺の知る奴だが、身長が俺と同じくらいだったり俺の事を名前で呼んだり目や髪の色が違ったり武器が双剣やナックル、槍と盾、ハンマーだったりしている。
でも、俺があの時感じている力が完全になっているのが見えた。彼女達は、恐らく……
「……とく、提督!」
翔「……!!」
ふと肩をつついた感じがして振り向くと、何もいなかった。だが、視界を下に向けると潮がいた。だが、どこか心配そうな表情だった。
潮「提督。どうかなされましたか?」
翔「……いや、何でもねえ。ちょっと考え事をしただけさ」
そうですか、と潮はまた正面を向く俺の右に立った。ふと目に入れると、あの時に見た少女を思い出して何故か重なる。
翔「……なあ。もし、お前に隠された力があったとしたら、どうしたいか?」
潮「……?私は、その力でお姉ちゃん達を守りたいです。そして、提督の傍で共に戦えるようになりたいです」
翔「……お前ならやれるさ」
潮の頭に手を置き、優しい手つきで撫でる。驚くが、ままに目を細めてどこか猫のように俺の手に頬づりをしてくる。
翔「俺は有り得ない程沢山の力を隠し持ってた。まあ、簡単に扱えるようなものじゃねえけどな。まあ、今は使いこなせている。
正直、最近のお前には隠された力が目覚めかけてきている。もしかしたら、MI作戦で覚醒するかもな」
潮「えっ……?」
頬から手を離し、後ろから近づいてくる三人の気配に俺はティターニアとAMライフル47式を取り出す。
翔「んじゃ、また訓練だ!さあ、どっからでもかかってこい!!」
四人に隠された力が、徐々に膨大になってきた。目覚めの時は近いだろう……。
四人が接近する中、俺はまた空を仰いだ。