<工廠>
望「……」
何枚もの設計図が机に散乱している。そのうち、ある戦艦の艤装設計図に頭を悩ませていた。
机を足で蹴って、パイプ椅子を浮かせながらトタン板の天井を仰いでいた。
望「(……金剛型の改二設計図に、どういうアレンジを加えるか……)」
数ある改二設計図の中に、目を入れたのは日本の高速戦艦である金剛型の艤装である。
現在の艤装は金剛と榛名のノーマルタイプと比叡と霧島のアームタイプがある。だが、それらは改二になると四姉妹全員同じノーマルタイプに近いのものになってしまう。厳密には装甲の形状が異なっているものの、どっちにしろ同じだ。
望「(……父さんなら、これらをどうするのかな?)」
父さんはまだ前の世界にいた時、そこにいた仲間達に友情の証としてオリジナルLBXを渡していた。しかし性能は凄まじく、既にある技術を応用して常識をも覆すLBXを作ったのだ。しかも、
そんな彼は、『ダンボール戦機』の世界では、LBXを作り永久機関『エターナルサイクラー』や究極のLBX『オーレギオン』『アキレスD9』『オーディーンMk-2』を製作したLBXの父、山野淳一郎博士の“再来”とも言うべき天才であった。
シャーペンを歯で噛み、上下に動かしたまま天井を仰ぐ。何も思い浮かばない。
“むーさん、どうしたのですか?”
望「ン……?ああ、工廠長」
机に跳び乗って僕の目に現れたのは、身丈数cmにしかすぎない大きさの小人だった。歯に噛んでいたペンはほろりと僕の腹に落ちた。
艦娘と共に現れた存在、通称『妖精』である。艦娘のあらゆる面で世話をしており、艤装の修復や装備開発、更には艦娘の建造をやる何気にスゲェ存在だ。昔の妖精って、バカばっかりだったからな。弾幕で正面安置とか……
工廠長であるこの妖精は安全第一ヘルメットを被り、色あせた青いツナギを着ている。手にはスパナを持っており、僕の不機嫌そうな顔を覗きこむように見ている。
次いでに、むーさんは僕のことである。みーちゃんこと希は“みーさん”、成人さんは“なりさん”、母さんは何故か“提督夫人”、父さんは当然“提督”と呼ばれている。妖精さん、何故母さんに恐縮したかのような呼び方を……
望「大したことではない。君が乗っている設計図にどのようなアレンジを加えるか考えていたんだ」
“へぇ~。で、それが思いつかないと”
不意に図星を突かれて、明後日の方向を向いてちょんと頷く。それに、工廠長は意地悪そうに笑って軽い身なりで僕の肩に乗った。
“ハハハ、まあいいじゃないですか。私も考えますよ”
望「恩にきる。時に工廠長、この艤装にアレンジを加えて性能を向上させるとして、何を追求する?」
“うーん……金剛型は速力も高速ですし、戦艦の中でも燃費もいいですからね。しかし、防御力と火力に欠けてしまいます。それに戦艦なだけあって、懐に……いわば近距離に来られると迎撃が難しいです”
望「つまり、火力や防御、近接戦闘をどうにかしろとね……」
なるほどな。それもあるが、長所を良く……つまり速力を上げるという手もある。それなら、駆逐艦並のスピードと戦艦の火力が重なる。そうすれば、動き次第では相手を翻弄できる。
……そうか!その手があった!!
望「……!!!閃いたぞ!」
“おお、悩んでいた割には頭のキレが凄いですねぇ”
机に下りる工廠長を無視して、すぐに設計図に書き込みを入れた。それは、艤装の装甲をただの装甲としてだけでなく、他の用途を取り入れるということだ。
装甲の形状上、すぐにというわけではないが案外早く装甲部の改造設計図が書き込めた。
望「これならイケる!!」
“おお!艤装の装甲をただの装甲としてじゃなくて、それを展開または合体して他の用途を取り入れたんですね!”
改造設計はこうだ。
金剛は、舷部装甲のアームを延長化させて正面に装甲を合わせることで『盾』に変化させることで正面防御力の大幅向上。
比叡は後部装甲の裏にブースターを装着、両舷に移動させて翼状に展開させることで機動力と速力の大幅向上。
榛名は舷部装甲の下部を五指に展開できるように、近接戦闘や防御、汎用性を向上。
霧島の舷部装甲は喫水線から分割、それをハサミにすることで近接戦闘の大幅向上。
ということである。
※元ネタはAGPの金剛四姉妹フィギュアから。
“あっ、確か四姉妹でも僅差で性能が異なります。確か……金剛がバランス、比叡が防御、榛名が回避、霧島が火力に向いていたはずです”
望「なら比叡のを榛名に、金剛のを比叡に、榛名のを金剛のに取り換えよう。これなら、それぞれの長所がより伸びるだろうね」
工廠長が納得するように何度も頷く。
ようやくという安堵と達成感に入り浸る中、工廠の扉が開かれた。明石と夕張である。二人は何か資料を持って話し合っているが、僕の存在に気づいて近づいて来た。
明石「ああ、望さん。それに工廠長さんも」
望「やあ、明石に夕張。今、金剛型の改二艤装の設計図にちょっとアレンジを入れてみたんだよ」
書き込みを入れた設計図を二人に見せた。それに、二人は自然と感嘆と感心の声が漏れていた。
明石「おぉ……!!艤装の装甲に他の用途を入れたのですね。それなら、高速戦艦としての速力低下が防げれますし、何より高速戦艦の短所を補ったり、長所を伸ばしたりできますね!」
夕張「装甲をこんなに扱うとはね……私も驚きだよ!」
望「いや、工廠長が高速戦艦の弱点を言ってくれたおかげさ。で、明石に夕張。それを改二艤装として取り入れてくれるかい?」
「「勿論!!」」
二人は揃ってそう答えた。それに、僕は自然と笑みが溢れるのだった。
“なら、妖精達に説明せねばなりませんね。それでは、皆に話してきますので”
そう言って、工廠長は机から下りて何処かへと走っていった。それを僕達三人は眺めて、そして僕は目を二人に向けた。
望「そういえば、それは何?」
夕張「これ?これは、翔さんが艤装を失った潮ちゃん達の為に設計したものよ」
望「見てみていい?」
そう言うと、明石がその設計図を僕に渡してくれた。
望「……!!?」
それには、LBXの武器や技術を用いたものだった。主砲は片手銃二挺か両手銃一挺を装着、換装可能な基部を一から設計。背中にはマルチウェポンラックによる手数増加や死角からの防御向上。装甲もスタンフィール・インゴットに差し替えたりと、通常の艤装よりも数十倍の性能を発揮するものであった。
その父さんの設計に、僕との差の圧迫感や恐ろしさで冷や汗を流して息を飲む。
明石「翔さんって、凄いですよね。私達の常識を覆すような発想や自らの持つ技術を惜しみなく用いて、こんな物を設計するとは、工作艦としてのプライドをズタズタにされた気がしますよ……」
望「……ドンマイ」
やはり、父さんには勝てないや。
流石、『山野博士の再来』だね……
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翔「四人共、元の艤装が破壊されたが為に出撃ができなくて、本当にすまない。
だが、今週中に新しい艤装が完成する。俺が設計したものだ。楽しみにしてな」
村雨「提督って、兵器開発も得意なのね」
如月「ホント、完璧すぎて恐れ入るわね♪」
翔「そりゃ、どうも。というより、兵器よりLBXを専門としてたな。昔はハンドメイドLBXを仲間に贈ったりしていたな~」
羽黒「提督のハンドメイド……ですか」
潮「え、LBXを作ったりしてたのですか!?」
翔「まあな。だが……全部チート性能なものばかりだったなぁ。究極のLBX達が霞むようなLBX作り過ぎたよ、アハハ…」
「「「「(笑い事じゃない気が……)」」」」
・雌雄 望(しゆう のぞむ)
年齢:約1兆歳(希とほぼ同じ)
身長:165cm
体重:52kg
<容姿>
希同様に黒髪で黄色い目をしている。顔つきは父似であるが、右目を髪で隠して長い髪をポニーテールで結んでいる。
服装は家族の中でも珍しく長袖長ズボンだが、時々捲ったりしていることもある。
モチーフはダンボール戦機Wの『灰原ユウヤ』。しかし顔つきはあまり似ていない、服装と髪が似ているのだろう……。まあ、顔つきはカゲロウプロジェクトの『キド』に似ているため、ある意味こっちのほうがモチーフかも。
<概要>
提督の翔と咲姫の子にして、希と双子の弟。
父譲りの大胆さと母譲りの冷静さで、敵を一撃で粉砕したり陣形を乱したりと戦闘においては重要な役割を担っている。
<性格>
母譲りの性格であるため、大人しくて心優しい。口調も父よりは丸いため話しかけやすい。また、口調は響にとても似ているため、響と間違われることも。
鎮守府においては姉の希とほぼ同じ扱いだが、正直言うと翔鶴姉妹と高雄姉妹に溺愛されている。DTが卒業しかねないレベルだそう……(それで、父母に四人は怒られている……)
感情の表裏が存在せず誰が相手だろうと対等に接しているが、時々厳しくなったり弱気になったりと、とても個性が溢れる存在である。
姉同様狂ってはいないが、怒らせる(特に身内や仲間を侮辱する)と鬼神ともいうべき怒りを露にすることもある。その怒りは翔曰く「チビりそうだった……」と翔すらも恐れるくらい。
<戦闘能力>
父母には劣るが、姉と同等の戦闘能力を誇る。ハンマーやショットガンを用いた範囲攻撃や陣形の破壊を主な目的としており、対多数ではその力を大きく発揮する。作戦においても中距離に留まっていることもあって、姉と比較してとても安定した戦いができる。
(翔は近、咲姫は遠で固定されているが希は近~遠と極端であるため、非常時の対応が優れていない)
また大胆に正面突破するということもあったりと、猪突猛進なことも時々ある。
<弱点>
まず、日差しが苦手である。特に夏の太陽には勝てぬ……。理由はやはり父母であって、幼少期に熱中症を患ってしまったから。(子供の弱点は大体両親が原因)
次に、ウサギである。理由とはいうと別世界で生物兵器の量産型、通称『八頭身ウサギ』が人々を惨殺して喰っていたのを見ていたから。それからというものの、ウサギを見ると母親の背に隠れて震えている。
怖がるものが比較的可愛いため、いじられることも少なくはない。しかし、いじりすぎると本気で怒ることもあるため、いじる際は限度をもって御願いします……