艦隊これくしょん~五人の最強提督~   作:ODINMk‐3

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第7海 戦う提督が成すべきこと(前編)

<執務室>

 

大淀「ふふっ、午前中は新造艦とお楽しみだったようで」

 

翔「おい、何故か如何わしく聞こえるぞ」

 

昼食後、潮達と別れて執務室に戻った。正直、新造艦……特に引っ込み思案な潮と羽黒の事だから、どうにか付き添いたいところだが、遠目で他の艦と仲良くなっていたから良かった、と安堵した。

そして、今執務室で執務を行っている。今やっていたのは、資源の計算。暗算余裕だったのですんなりと終わって、それに潮達も鎮守府付近に出撃させて、机の横に立っている大淀と談話している。

 

大淀「あっ、すみません。……けれど私も遠目から見てましたけど、あのLBX?というロボットを動かしている様子を見て、面白そうと……」

 

大淀が思い出すかのように左上に目を泳がせ、こめかみを人差し指で掻く。

何だ、大淀も執務だけの事を考えているんじゃないのだな。

 

大淀「ん、他の事考えて悪いのですか?」

 

翔「いや、そういうわけじゃない。ただ、ずっと清志の横に立って書類を渡したりする真面目キャラの大淀でも、本当は普通の女の子なのだなってな……」

 

大淀「ふふっ、所詮地球上にいる女性は普通の女の子なのですよ。

私のような頭の堅い委員長キャラでも、テレビで歌って踊るアイドルでも、化け物沈めるために海を駆け抜けるこの艦娘も、元は普通の女の子なのですから」

 

翔「そうか……」

 

そう言って机に置かれている湯呑みを掴み、温かいお茶を口に流し込む。と同時に、あの楽園に住む可憐で強靭(?)な俺の女友達との思い出を一つ一つ、思い出す。……全部、些細な事ばかりだったが、それが俺とあいつらを変えるきっかけにもなった……異常なくらい、鮮明な思い出であった。

 

翔「……今も昔も、俺の立ち位置(女絡み的な意味で)は変わらんな……」ボソッ

 

大淀「?提督、何か言いました?」

 

翔「いや、何も無いさ……」

 

持っていた湯呑みをそっとコースターに置き、何かないと艦隊や敵に関する資料をパラパラと数回繰り返して早読みする。全て把握したところで、目を瞑って資料の内容を思い出す。

 

翔「(……?そういや、深海棲艦の目的は書かれてなかったな。ただ、その代わりに鹵獲したル級に説いたところ、艦砲で自殺したと書いてあったな……。そこまで、聞かされたくないことなのか……)」

 

まるでバンデットのようだ。アイツらは機体が機能停止した際、正体隠密のために自爆を起こしていた。

……それくらい、野望は大きいのか…?

 

大淀「……平和ですね…」

 

翔「……だな。だが……それくらい平和というものは長引かんさ」

 

そう言い捨てると同時に、遠くから絨毯を革靴で叩く音が忙しく近づいてくる。それがわかると、大淀は

 

大淀「ですね……」

 

と、戦争の残酷さを悟ったような悲しそうな表情をする。

そして、扉が乱暴に開かれた……

 

天龍「翔っ、大変だぜっ!!」

 

翔「何だ、天龍」

 

現れたのは、息を上げて何か恐怖に満ちた目で自分を見上げる天龍だ。戦いに関して、恐怖なんてほとんど無い天龍がここまで怯えた目をするとは……どうやら、昨日のアレが原因だな……

 

天龍「マ、マズイ事になっちった……!!」

 

翔「兎に角、落ち着いて説明してくれ。そうじゃなきゃ、何かマズイのか分からない」

 

すると、天龍は心を落ち着かせるように深呼吸を一つ。それで、天龍な落ち着いたようだが、それでも恐怖に満ちた瞳に変わりはない……

 

天龍「……赤城さん達が彩雲や二式艦上偵察機を飛ばして近海の偵察をしているの知ってるだろ……?」

 

翔「あ、ああ……!!!まっ、まさか……」

 

その時、とんでもなく嫌な予感が頭に走った。あいつら四人が海に沈み逝く予想ができる……

 

天龍「そしたら……近海に、レ級やタ級といった相当強い奴らがこの海をウロウロしてやがったんだ!!」

 

それに、俺はとんでもない驚愕と絶望感がドロドロに混ざりあったかのような思いに溺れた。

 

翔「ウソ……だろ……?」

 

天龍「……本当だ。だから、赤城達はあいつら四人を助けるために一足先に出ている。オレは、お前や咲姫達に連絡する為に残ったんだよ」

 

翔「ッ、クソ!!」

 

俺は机に強く叩き、立ち上がって提督服を乱暴に脱ぐ。散乱した提督服を畳める時間もなく、菊一文字を持って窓ガラスを割って出る覚悟を持つ。

 

翔「大淀!すまないが、掃除を頼む。ガラスの弁償と謝罪は後でするから!!」

 

大淀「……提督、いや翔さん。そんなのはいりません。ただ……私達の『家族』を守ってくれればいいだけです……!!」

 

返事をする暇もなく、俺は飛び出して海へと突っ走る。ただ、大淀の言葉に返事できない俺はすまない、と心で彼女に謝罪の言葉を放ったのだった……

 

[ストライクモード]

 

『アタックファンクション・JETストライカー』

 

ビュウゥンッ!!!!!

 

~~~~

 

<鎮守府付近海域>

 

潮「……」

 

提督から、初めての出撃命令を出された。艦隊は、新造艦の如月ちゃんと村雨ちゃん、そして羽黒さんだ。

大淀さんや電ちゃん曰く鎮守府の近くは弱い深海棲艦ばかりで、戦いのいろはを知るには打ってつけと聞いた。提督も初めての艦隊運用らしく、大淀さんとの検討で単縦陣での航行となった。

私も三人も、戦いに慣れようとした。しかし……

 

レ級『ククク……』

 

目の前には、とんでもない深海棲艦が艦隊を成して砲弾と爆弾の雨、魚雷の群れを発して現れてきた。

それで私達は避けられるわけもなく、如月ちゃんも村雨ちゃんも羽黒さんもやられて倒れたまま海に浮かんでいる。そして、私も仰向けになってひしゃげた連装砲を手放し、服も艤装もボロボロになっている。

空には大量の敵の艦載機が飛び交い、魚雷やら爆弾やらを落としてきている。それでも、沈まないことに私達は幸運かもしれない……

 

レ級『コノレ級様ト指シ違エルトハ……貴様ラモ不幸ダッタナ……』

 

異様に雷ちゃんに似たレ級が高笑いをする。先に砲が付いた生物のような尻尾を震わせている。

 

潮「(ああ……私、沈むんだ……)」

 

もう、沈む覚悟はできている。

あの人達の言葉に反して、こんなに残酷で一方的な戦いになった。でも、提督達に恨みはない。寧ろ、『私』として生まれて沢山仲良くしてくれた。

提督は初対面で怖かったけど、眩しい笑顔やLBXのおかげで『提督』として信頼できる存在だった。そして、最初からいた艦娘の皆も、私達に優しく接してくれた。

 

レ級『フッ、覚悟ハデキテイルヨウダナ……』

 

レ級の尻尾の砲が私に向けられるように、艤装の金属音が近くで聞こえる。

私は沈む覚悟はできている。のに……何故だろう、怖い……。沈むのが、死ぬのが怖いよ……。

ずっと、如月ちゃんや村雨ちゃんや羽黒さんや吹雪ちゃん達とあの鎮守府で笑い合い、共に深海棲艦を討つべく戦いたい。LBXのペルセウスと一緒に強くなって、提督に勝ちたい。そして……あの優しくて格好いい提督の元で戦いたい……!!

 

潮「……てぇ…と、く……」

 

目に生暖かい感覚が現れて、その感覚は頬を伝わる。私はっ……死にたくないんだ……。

怖い……怖いよぉ、漣ちゃん、朧ちゃん、曙ちゃん、敷波ちゃん、綾波お姉ちゃんっ……私、どうしたらいいの?

どうしたら……提督や皆と一緒にいられるの……?

 

レ級『ソレジャア……沈メ……』

 

レ級が鉛のように重い声で、私に終止符を打つ予告をする。

その前に、何か言いたいな……聞こえても聞こえなくても……

 

潮「提督……、貴方の事が好きでした……」

 

これで、もう心残りはない……

後は、このレ級が私を撃ちさえすれば……

 

「必殺ファンクションッ!!」

 

『アタックファンクション・グングニル!』

 

その時、目の前に回転する大きな灼熱の槍がレ級を溶かし貫いた。溶けた断面は熱でどろどろに溶けており、かつ上半身は跡形も無くなっている。そして、レ級は爆発、チリヂリに砕けた。

 

パシャ

 

「っと……ふう、間に合った……」

 

仰向けになる私の上に、一人の青年が槍を持って水面に着地する。肘よりも短い半袖のシャツ、膝下の半ズボンを着て、細い四肢の肌を晒している。

 

潮「あ、あぁ……!!」

 

整った顔つきで、漆のように黒い髪と空のように青い瞳を持つ。笑顔が太陽のように眩しいあの人だった……

 

「潮、大丈夫か?ごめんな……俺の不注意のせいでこんな……」

 

整った顔を歪ませ、私を謝罪の眼差しで見る。そんな事より、嬉しかった……来てくれたことに……!!

 

潮「でぇ……どぐぅ……!!」ポロポロ…

 

翔「ん。何だ、潮?」

 

相変わらず、私を慰めるかのように笑顔を見せつけた提督。それに、私は安心して、意識が彼の笑顔の太陽によって溶かされるようにゆっくりと消えた……

 

~~~~

 

翔「(ふぅ……良かった、四人共生きてくれて……)」

 

ストライクモード+JETストライカーで急行したもののギリギリ間に合った自分を褒めたいが、今はそれどころではない。四人共、撃沈寸前までやられていた。潮は意識があったものの、俺の笑顔でゆっくりと夢の世界へと向かったようだ。それくらい、嬉しかったんだな……

 

島風「翔~!四人共、大丈夫~?」

 

翔「ああ。だが俺の過ちのせいで、危うく殺すところだったよ……」

 

不注意にも過ぎ四人を出撃させた自分を罵り、殺したいと思った。この過ちは、これで帳消しなのだろうか……?

後ろから、高速艦の駆逐艦や巡洋艦が此方に集まってくる。深海棲艦の襲来は、空母達による爆撃や雷撃でどうにか食い止めているようだ。

 

雪風「翔さんは何も悪くありませんよ!」

 

翔「だが……俺は昨日のあれで、警戒心を高めさせて、潮達を殺すも同然の事をした……」

 

金剛「翔、ノープロブレムネ!このエネミーズを倒しさえすれば、後はグッドなことネ!!」

 

金剛の説得に、ちょっと何と思えばよいのか分からない……

 

霧島「翔さん、気を悔やむことはありませんよ。ただ、敵を倒せば後は良しです」

 

翔「だが……」

 

その時、背中に大きな衝撃と痛みが走った。それに体勢が崩れかけるがどうにか保ち、振り向く。そこには、赤城達空母達がいた。

 

瑞鶴「何クヨクヨしてるのよ。アンタ、それでも提督?金剛達がこんなに言ってるから前向きなさいよ!!」

 

加賀「そうよ、提督。今回は不慮の事故と思えばいいわ。それに、彼女達の命が助かっただけマシよ。そんな事考える前に、深海棲艦を沈めるわよ」

 

流れるように、加賀は弓を引いて矢を射る。空切る矢は一瞬で天山へと形を変えて魚雷を海に落とす。

 

翔「……!!」パァンッ!!

 

金剛達に慰められたのにまだ心の奥底で悔やむ俺に嫌気がさして、頬を両手で腫れるくらい思いっきりブッ叩く。すると、負の感情全てが溶けるように消える。これで……やれるな!!

 

翔「すまん、皆。俺は感情の差が大きいからな……。

兎に角、こんな暇はねえ!全力でアイツらをブッ潰すぞォッ!!!」

 

暁「ようやく、翔らしくなったわ」

 

響「ハラショー、こうでなきゃ翔は翔ではないな」

 

リタリエイターの穂先を敵に向け、とびっきり鋭い眼光で睨みつける。その時後ろから凛々しい女性の声が微かに聞こえる。目付きをふっと切り替えて振り向くと、大和や長門達も到着したようだ。

 

長門「遅れた!すまない、潮達は……」

 

榛名「大丈夫です。四人共、気絶していますが無事です」

 

大和「そうですか……。兎に角、四人を私達の後ろへ!大和型戦艦の装甲は伊達ではありませんからね!」

 

長門「おい大和!それ、私の台詞だぞ!!」

 

小さい茶番が開かれたが、状況が状況ですぐに私語をやめた。早く着いた高雄と愛宕、龍田が四人を介抱してすぐに大和達四人の後ろにつく。

 

翔「さてと……深海棲艦のザコ共、忠告しておこう。

俺は本気で怒っている。お前らの生きている可能性なんざゼロだ。潮達を傷つけた借り、何万倍に返してやんよ!!!」

 

ビームランスのリタリエイターから、スタンフィール・インゴットを素材としたタイラントティターニアに変化させ、海面に立てて片方の手でgoodサインを上下逆にしたものを敵に見せつけた。


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