やはり俺が甲賀弦之介なのはまちがっている。   作:世間で言うジョージさん

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今回の作品は一人称視点ではなく、
ナレーションみたいにやっていきます。
すっごい今更ですが。

イメージ的に時代劇のあらすじを語るような
感じです。




第3話 平塚の策略と第三の転生者

 

 

 

早朝、公園内を走り込む男の姿があった。この男は、近所の早朝ランニング組合と、ウォーキングサークルの間では少し名の知れた存在だ。コミュニティに属さず、いつも独り黙々と走り込む。雨の日も風の日も走り続けるその姿は、日の浅いルーキーや、昔から走り込んでいる常連の人々の心を打ったという。さながら、忠犬ハチ公の様であったと。そんな彼を人々は畏敬の念を込めてこう呼んだ。『中堅八幡』と。

 

 

 

「ふぅ~、今日はこのぐらいで帰るか。」

 

 

 

八幡はこの公園で中堅的な立ち位置だった。朝の鍛練を終えた八幡は少し眠たい眼を擦りながら、帰宅の途へ着くのであった。昨晩は遅くまで雪乃と話し込んでいた八幡。数百年の時を経て再び出逢えたのだ。積もる話もあったが、端から見ればバカップルの会話である。だが、誰も二人を責める事は出来ないであろう。妹御の小町はこの時の様子をこう語る。

「電話二時間、メールが30分。もう一度電話一時間後に、家の固定電話から二時間かけてました。」

高校生である八幡には、携帯料金は高いものである。ましてや、それまでボッチであった彼が、お得なプランに入っている筈がない。家族間通話無料のみである。そんな八幡が家の固定電話を使用するに至るは自明の理。そんな彼を責める事が、誰に出来るであろうか?そわな訳で、八幡は寝不足であった。

 

 

「そろそろ朧殿にモーニングコールの時間じゃ。」

 

 

 

八幡と雪乃は、気を抜くと口調が戻っている時がある。キャラがブレている訳ではない。仕様である。

 

 

 

『おはようございます。弦之介様。』

 

 

「おはよう、朧殿。朝から其方の声が聞ける、儂は果報者じゃ。」

 

 

『あぁ…弦之介様…。朧はいつまでもお慕い申しております。』

 

 

「朧殿……」

 

『弦之介様……』

 

 

 

昨晩のやりとりを再現する二人。

家に帰宅しても、登校時も、朝のHRまで二人の電話でのやりとりは続いた。その光景を見たものは少なかったが、その中の数人に異変を起こすのには充分であった。

 

 

 

 

 

「姫、様……っ!何だ?俺は何を言って……?」

 

「朧様…。へ?あーし、何か言ってた?」

 

 

 

またある処では…

 

 

「弦之介様…!あ、あれ?僕なんでこんなこと言ったんだろ?」

 

「やはり女子は一人より二人、二人より三人じゃのぅ。ケプコンケプコン!我のキャラが崩れるではないか。今の感覚はなんだったのだ?」

 

 

 

 

異変は二人の預かり知らぬ処で、徐々に大きくなっていく事となる。そして、授業も終わりを迎え放課後となった。最早、奉仕部は二人の逢い引きの場と化していたのは言うまでもないだろう。そんな日々が数日続き、それを見かねた平塚教諭は、二人に釘を差す事にした。

 

 

 

「君達、ここは曲りなりにも学校で部室だ。不純異性交遊ではないようだが、少しは周りの目を気にしたまえ。」

 

 

「お言葉ですが、先生。俺達はずっと前から人目を忍んで逢瀬してたんですよ?周りの目を気にするのにかけては、定評がありますよ。」

 

 

「私も八幡と同意見です。もう二人を縛るものが無くなった現世において、誰に憚る必要がありますか?」

 

 

 

 

二人のコンボに頭を悩まされる平塚静。その時、彼女に天啓が訪れる。二人を変える転機ともいえる策を思い付いたのだ。私は天才か!自分はもしや周瑜の生まれ変わりでは?と思う平塚静であったが、勿論、周瑜の生まれ変わりでは断じてない。

 

 

 

翌日、放課後。

今日も二人の愛の巣と化した奉仕部に、変化が訪れた。ドアをノックする音がする。平塚静はノックをしない。そうなると残る可能性は、この場所に用事のある者という事になる。八幡は怪訝な顔をし、雪乃はまさかと驚きの顔を見せた。意を決して入室の許可を出す。この間、0.3秒である。

 

 

「どうぞ。」

 

 

「こんにちはーて、ヒッキー?なんでここにいるの!?」

 

 

 

 

部室に入るなり早々、突然騒ぎ出した少女。いったいここに何をしに来たのか?そもそも八幡は、奉仕部が何をする部活なのか知らないままだった。入部してからも問い質す機会がなかったからだ。そこで八幡は幾つか質問を投げ掛けた。

 

 

「もしかして、ヒッキーって俺のことか?それとお前誰だ?そして雪乃、奉仕部は何をする部活なんだ?」

 

 

「そういえば説明がまだだったのね。平塚先生の怠慢ね?貴女の名前は由比ヶ浜結衣さんで良かったかしら?」

 

 

「うん!そーだよ。雪ノ下さん、あたしのこと知ってたんだ…。」

 

 

「おい由比ヶ浜とやら。ナチュラルに俺のことを無視するな。あとヒッキーは止めろ。」

 

 

「ヒッキーはヒッキーだし!て、もしかして、あたしのこと知らないの?」

 

 

「どこかで会ったか?」

 

 

「同じクラスだよ!クラスメイトの名前も知らないなんて、サイテー!ヒッキーマジキモいッ!」

 

 

 

何故知らないだけで罵倒されなきゃならん。と、八幡は思うのだった。世の中は知らない事のほうが多いだろう。それこそ生涯を賭けても、人智を超えた未知の出来事も沢山あるのだ。それはさておき、このままでは話が進まないので、話題を切り換える。

 

 

「で、結局のところお前何しに来たの?」

 

 

「あ!すっかり忘れた。ここって、悩める生徒の願いを叶えてくれるんだよね?平塚先生に聞いてきたんだけど。」

 

 

 

忘れてたのかよ!と、ツッコミたい八幡であったが、願いを叶えるという謳い文句に、不穏な気配を感じ取った。これは平塚先生による策略だと。

 

 

 

「ちょうど良かったわ。八幡にも奉仕部の内容を伝えるわね。由比ヶ浜さん、願いを叶えるのではないわ。ここは魚を欲しい人に与えるのではなく、魚の捕り方を教える。それが奉仕部の理念よ。」

 

 

「なるほど。自立を促すということか。願いを叶えられるかは、本人次第ってことだな。」

 

 

「そういうことよ。由比ヶ浜さん、それでも構わないかしら?」

 

 

 

余程アフォなのだろう。由比ヶ浜は知恵熱を出し、プスプスと煙がその頭部より噴き出していた。

 

 

「う~。うん!それで構わないよ。あたしのお願い聞いてくれるかな?」

 

 

 

由比ヶ浜はよく理解しないまま返事をしていた。この子の将来を鑑みるに、数々の詐欺行為に引っ掛かり、悪い男に騙され、知らぬ間に犯罪の片棒を担がされる事だろう。八幡と雪乃は、由比ヶ浜の冥福を祈ったという。

 

 

「お前の意思はわかった。それで、肝心の依頼内容だが何だ?」

 

 

「や、え~と。ここでは何とゆーか、その…ね?」

 

 

 

女の勘だろうか?雪乃は機微を感じ取り、八幡に席を少し外すよう促した。

 

 

 

「八幡、ちょっとお願いがあるのだけれど。少し飲み物でも買ってきてくれないかしら?ゆっくりで構わないわ。」

 

 

「ん?あぁ、そういうことか。わかった。んじゃ、俺チョイスで買ってくるわ。その間に頼むな。」

 

 

「えぇ、任せてちょうだい。」

 

 

 

 

八幡も雪乃の機転を察して、飲み物を買いに行くことで席を外した。席を外すことで対話の為の舞台を演出したのだ。女同士でしか話せない事もあるのだろうと踏んでの演出である。

 

 

 

「これで八幡は暫く帰ってこないわ。さて、由比ヶ浜さん。貴女の依頼を聞かせてくれるかしら?」

 

 

「あたしは、ある人にお礼を言いんだけど、上手く言えないんだ。だから手作りクッキーを代わりに渡したいの。手伝ってくれるかな?」

 

 

「そういことなら、この依頼承ります。誰か好きな人に渡すのかしら?」

 

 

「そ、そんなことないよ!それより、さっきヒッキーのこと八幡って呼んでたけど、二人はどういう関係なの?恋人……とか?」

 

 

 

乙女の詮索は尽きない。今も昔も、恋の話は一番の話題である。あと一人でも女性がいれば更に賑やかになっていた事だろう。女三人集まれば姦しいとは、よくいったものである。

 

 

「私と八幡は恋人というより、婚約者よ。前世からの。」

 

 

雪乃の恋愛レーダーは察知していた。八幡に対するものなら、その性能たるや計り知れないものである。よって恋敵になりそうな女に先手を打ったのだ。それも前世というワードを付ける事により強調する。

 

 

「ぜ、前世からって……。もしかして雪ノ下さんって痛い人なの?それならあたしのほうがヒッキーのこと好きだし。救ってもらった恩もあるし。」

 

 

「あら?聞こえなかったのかしら?私と八幡は婚約者なのよ。ポッと出の貴女にはチャンスすらないわ。」

 

 

「そんなことないもん!雪ノ下さん、本当に恋人なの?高校生なのに婚約者とか、重すぎるよ!」

 

 

二人の乙女の闘いはデッドヒートしていた。互いに譲らぬ想い。雪乃の前世からの八幡との因果を知っていれば理解も出来たであろう。しかし、ただの高校生に許容できる内容ではない。売り言葉に、買い言葉。雪乃はつい口調を荒げてしまう。それが引き金になるとも知らずに。

 

 

「重たいですって?私達の事も知らずに!朧は、弦之介様を誰よりもお慕い申しております!誰にも譲れません!」

 

 

「弦之介、様?あぁぁぁ!!!」

 

 

 

朧の口より出た、弦之介という言葉を聞いた由比ヶ浜は、突然頭を抱えて叫び出した。由比ヶ浜の脳裏に見たことの無い記憶が過る。死にゆく仲間、殺した相手、そして想い人の笑顔。今、由比ヶ浜結衣は前世の記憶を思い出したのであった。

 

 

 

 

「私は、甲賀卍谷衆の陽炎……だった?あの御方が…弦之介様?」

 

 

「陽炎?……もしや!」

 

 

 

 

ここに再び転生を受けた者が新たに誕生した。名は陽炎。甲賀十人衆の忍の一人として伊賀と戦い死んでいった。そして弦之介に想いを寄せる女でもある。そして朧に深い憎悪を抱く女でもあった。

 

 

 

事態は思わぬ展開となる。

だが、未だ八幡は戻らず。

 

 

 

 




書きたいように書いた。
シリアスっぽいけど、ここは平成なので
期待された方はすみませんと言っておきます!

シリアスとほのぼのでいきますので。
次回もお楽しみに!

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