やはり俺が甲賀弦之介なのはまちがっている。   作:世間で言うジョージさん

17 / 18
長らくお待たせしますた。
とりあえず更新です。
話を忘れてたので自分の作品を読むことになるとは
思わなかったのは内緒です。

でわ、ドーゾ。




第17話 潜入捜査、そして転生者

 

 

ホテルニューオークラ前にて。

打ち合わせをする三人の姿があった。

 

 

「これより先は落ち着いた大人の行動をしてほしい。雪乃は安心だが、由比ヶ浜はあまり喋らないように。いいな?」

 

「はぁ~!?なんであたしだけ??」

 

「貴女のそういったところよ。由比ヶ浜さん、私達は年齢を詐称しているのよ?その事を忘れないでちょうだい。」

 

 

三人はホテルのロビーへと足を踏み入れた。

由比ヶ浜は納得はいかないものの、理解は出来ているのか、少し落ち込んだ表情を見せながら二人の後を追いかけるのであった。

この時に見せた由比ヶ浜の顔は憂いを帯びており、儚さと切なさをその身に纏った薄幸の少女そのもの。故にその姿は、通り行く男性の庇護欲を掻き立てるものであった。とある高名な人物もその場にいたのは偶然であったが、それは彼のインスピレーションを揺さぶるものがあった。彼は『泣きゲー』で知られる人物であったが、それはまた別の話。

 

 

 

そうこうしている内にエンジェル・ラダーに辿り着いた。順調に目的地に入ることが出来た八幡一行。店内は薄暗かったが、カウンターの辺りは少しの灯りがある。その灯りに照らされて一人の女性が浮かび上がる。

 

女性はバーテンダーであり、

川崎沙希その人である。

 

 

 

三人はバーカウンターに座ると、各々に注文を口にする。

 

 

 

「玉露を頼む」

 

「ペリエを」

 

「すみません!メニュー下さい。」

 

 

 

バーテンダーは黙々と言われた内容をこなしていく。そうして八幡の前には玉露、雪乃にはペリエが置かれ、由比ヶ浜にはメニュー表が渡された。

八幡は玉露を口にする。

そして深呼吸をすると、バーテンダーに話し掛けた。

 

 

 

「川崎沙希だな?俺達は奉仕部の者だ。依頼人に頼まれてお前を止めにきた。何か弁明はあるか?」

 

 

「お客様、ここは楽しくお酒を飲む場所です。そして私はバーテンダーです。ここでの揉め事は御法度なのです。…どうぞお引き取りを。」

 

 

「川崎さん、貴女の身分は高校生じゃなかったかしら?もう子供の時間は終わったのよ。」

 

 

「それならば、お客様にも言える事ではないでしょうか?高校生は帰る時間ですよ?どうぞお引き取りを…」

 

 

 

川崎は一歩も引く姿勢を見せない。

このまま店側に密告することもできるが、八幡は穏便に済ませたかった。仮に密告したとしても共倒れになる。互いに身を滅ぼすだけである。

現状は千日手の様相を呈していた。

何か状況を打開する一手はないものか?互いにその機を伺っていたその時である。カウンターに従業員と思わしき人物がやってきた。

 

 

 

「失礼します。お客様、当店の従業員が何か粗相でも?」

 

 

「店長!いえ、何でもありません。少しお客様とお話をさせてもらっていただけです。」

 

 

「そうね。私達は少し世間話をしていただけよ。」

 

 

「あ!ゆきのんのそれお酒じゃん!あたしらまだ高校生だから飲んじゃ駄目なんだよ~!あ、あたしはカルピス下さい!」

 

 

 

 

由比ヶ浜のおかげで全て台無しである。

 

 

 

「…君達は未成年だったのか?もしかして川崎さんもかな?」

 

 

「すみません、店長!ですが…」

 

 

「事情は事務室で聞こう。君達も付いてきてもらう。いいね?」

 

 

 

店長と言われる人物は、八幡達を事務室へと連れていった。連行される際にようやく事態を認識した由比ヶ浜がビビりだす。

 

 

 

「どどどどーしよ!?お巡りさんとか呼ばれるの?あたし達どうなっちゃうの?ねぇ、ゆきのん…」

 

 

「はぁ…貴女は少し黙っておくべきよ。それと由比ヶ浜さん、ペリエはアルコールじゃないわ。」

 

 

 

 

事務室の大きめのソファーに三人と川崎は座らされる。向かいには店長が座り、質疑応答が始まる。

反応は四者四様であった。八幡は笛を吹き出し、雪乃は凛とした姿勢で臨み、由比ヶ浜はちゃっかり持ってきた雪乃のペリエを飲んでいた。

そして川崎は遂にこの日がやってきたかと覚悟を決めた顔になっていた。

大体の事情を説明する雪乃と、それに対して同意する川崎。話を聞いた店長は暫く黙り込んだ。部屋の中に重い沈黙の空気が流れた。八幡の笛の音も流れた。そして、その静寂を打ち破るように店長が口を開く。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…なるほど。君達は川崎さんを止めにきたと言う訳だね?わざわざ大人の振りをしてまで会いに来たと。なかなかの友達想いじゃないか。そういえば川崎さんは何故バイトを始めたんだい?わざわざ年齢を偽ってまで。…あとそこの君は笛を吹くのを止めたまえ。」

 

 

この問いに対しては八幡達も気になっていた。おおよその見当はついていたが、本人の口から聞くには是非もなし。

川崎は少し考える素振りを見せるが、すぐに開き直ったかのようにハッキリと答えた。

 

 

 

「店長、すみませんでした。年齢を偽って働いた事でお店に迷惑を掛けてしまいました。理由は言えませんが、大金が必要なのです。私はどのような仕打ちも覚悟しています。警察でも親でも連絡して下さい。」

 

 

 

 

これには店長も八幡らも驚いた。

あまりにもサッパリとした川崎の答え。この状況であっても理由は言わずに、店への謝罪だけはキッチリとする姿勢は好感が持てた。川崎とは仲良くなれそうだと八幡は心の中で思った。

隣で由比ヶ浜が「かっこいい…」と呟いていたが無視した。

店長と川崎の応対は続く。

 

 

「事情はどうしても話してもらえないのかな?もしかしたら情状酌量の余地があるかもしれない。それでも話してくれないのかな?」

 

 

「それだけは何があっても言えません。本当にごめんなさい、店長。けれど私はこのお店に、店長に感謝しています。こんな粗雑な女である私に社会での常識や、接客での口の聞き方、仕事のイロハを教えていただいて本当にありがとうございました。その恩だけは生涯決して忘れません。」

 

 

「川崎さん……君のいなくなる損失は店としても計り知れないものだ。君には期待をしていただけにね。当店の『接客の教え』にある第2章2節を覚えているかね?」

 

 

「…っ!それは、覚えています。『人材とは人財。人は財産でありかけがえのないものである』です。」

 

 

 

川崎は思い出した。短い間であったが色々と教えてもらった日々を、仕事あがりにゴチになった飯の味を、大きな失敗をして落ち込んでしまった時にかけられた言葉と優しさを。それら全ては川崎にとって、かけがえのない宝物の一つであった。

そして店長は言葉を続ける。

 

 

 

「今回の件は僕の胸の中に留めておこう。もう夜も遅い、君達は帰りたまえ。それから川崎さん…この店にとって間違いなく君は『人財』であった事を覚えておきたまえ。」

 

 

 

「店長……今まで…ありがとうございました!」

 

 

 

川崎は目から大粒の涙を流し、店長へ別れの挨拶と感謝を込め礼をした。それは店長に一番最初に習ったものであり、一番大切な所作。『ありがとうございました』の姿勢は見ている者にしっかりとその感謝が伝わるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

そうして一行は、ホテルニューオータニを後にした。

 

 

場所は変わり、某ファーストフード店内。

現在は泣いてボロボロになった川崎を由比ヶ浜が慰めている。ちなみに未だ現在進行形で川崎は涙を流している。

八幡達は何か悪いことをしてしまった妙な罪悪感と、胸が熱くなる良いものが見れた感動とで揺れていた。そしてこのままでは後味の良くないものを残す事が各々解っていた。八幡は川崎との対話を試みるのであった。

 

 

 

「川崎…その、なんだ。すまないことをした。他にも手段はあったかもしれない。こんな形になってしまってすまん…」

 

 

「…いいよ。あんたらも仕事のだったんだろ?あたしは満足のいく結果だったさ。また別の働き口でも探すよ。」

 

 

「なぁ、どうしても金が必要なのか?理由を教えてくれないか?」

 

 

「それだけは言えないんだ。そういえばアンタは依頼だと言ったね。依頼人は誰だい?そいつに余計なお節介だと伝えといてくれない?」

 

 

 

全く話は進まない。平行線である。

現状を打開出来ればと、依頼人の名前を打ち明ける事にした。このような時の為に、依頼人である大志には既に了承を貰っている。

 

 

 

 

「お前の弟の大志だ。アイツは姉ちゃんが朝帰りしたり、疲れてる姿を見てお前の事を心配していた。それでもまだ同じことを言えるのか?」

 

 

「同じさ。大志め、余計なことを…」

 

 

「おい!お前っ!!」

 

 

 

 

川崎の兄弟の心配に対するその言葉に八幡はキレた。が、その時である。八幡達の間に割って入る影が一つ在り。

その人物とは戸塚である。

 

 

 

 

「待って、八幡!川崎さんは嘘を言っているよ。僕にはそれが解る。ちゃんとした理由も知っているんだ。」

 

 

「…ほう?そこまで言うのなら当ててみなよ。確か…同じクラスの戸塚だったかい?まさかアンタも絡んでいたとはね。」

 

 

「…悪いけど、川崎さん家について調べさせてもらったよ。結論から言うと、川崎さんは自分の学費を稼いでるんじゃないかな?大志君が塾に行き始めた時期と川崎さんが働き出した時期が同じだったんだ。家の経済事情も芳しくなかったようだしね。違うかな?」

 

 

 

まさかの戸塚による名推理である。

だが侮ることなかれ。戸塚は前世に於いて諜報活動に長けた忍であった。このぐらいの情報等は朝飯前である。余談だが、覚醒してからの戸塚は政治、経済、流通、娯楽等の情報にも精通しており、日々の鍛練と情報収集には余念がないのである。

 

 

 

「くっ…!当たりだよ。だが、当たったところであたしは止まらない。大志にもそう言っておきな!」

 

 

「川崎さん、貴女はどこまで愚かなのかしら?戸塚くん、他に手はないのかしら?」

 

 

「もう何もないよ。川崎さんがそこまで言うんならね…それじゃ仕方ないね。だそうだよ、八幡?」

 

 

 

 

ここまでは戸塚こと左衛門に頼んであった。ここからは八幡の出番だ。ところで皆さんには無いだろうか?そう、ここで特別ゲストを紹介したいと思う瞬間はないだろうか?八幡にはある。筆者にもある。そう、まさにこの瞬間の為に八幡は策を用意していたのだ。

 

 

 

「小町、出番だぞ。」

 

 

 

八幡の呼び掛けに対してその人影は、丁度死角となる席から現れた。

小町と大志である。

 

 

 

 

「じゃーん!おにーちゃん、小町登場であります!」

 

「ウス。大志登場ッス。ねーちゃん、もうこんな事は止めてほしいッス。皆が心配してるッスよ。」

 

 

「大志…あんたの仕業だったんだね。けどね、あたしは止めないよ?なんと言われようと続けるつもりさ。」

 

 

「ねーちゃん……」

 

 

 

 

八幡には策があった。川崎は弟の泣き落としで陥落させる。こいつは重度のブラコンに違いない。八幡のセンサーは初見からそう告げていた。事実当たっているのだが。それでも尚、陥落しない川崎に対して最早打つ手は無かった。あまりの無力感に、圧倒的敗北感。八幡はカイジが負けた時のように世界がグニャ~と歪むのを感じた。

 

 

ガタンっ!

 

 

椅子が倒れる音と共に八幡は床に倒れてしまった。

 

 

 

 

「「「弦之介様ぁ!」」」

 

 

 

三人が八幡の安否を憂い叫ぶ。

祈りが通じたのだろうか?

八幡はゆっくりとその眼を開ける。

眼前には焦った顔の戸塚。

顔面蒼白の由比ヶ浜。

そして、涙を流す雪乃がいた。

 

 

 

「涙を拭かれよ…朧殿……。美しい顔が台無しじゃ……。左衛門よ、そちの活躍を活かせなんだ……すまぬ……!」

 

 

 

八幡は雪乃の涙を拭う。

しかし眼を覚ましたものの、現状は打つ手無し。どうしたものかと思い、ふと残り三人の様子がおかしな事に気付く。皆、一様に頭を抱え悶えている。

 

 

 

 

 

「げ、弦之介…様?」

 

「朧…様…?」

 

「さ、左衛門……?如月…左衛門!?」

 

 

 

 

川崎沙希、大志、そして小町までも様子がおかしい。八幡達の脳裏にある種の予感が走る。

これはまさか……転生者か?

 

 

 




新たな転生者とは誰か?
謎が謎を呼ぶ展開。んなわけねー。
さぁ、誰が誰なのか?アンチヘイトなので
苦情はご勘弁を(笑)

それではまた次回にでも!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。