やはり俺が甲賀弦之介なのはまちがっている。   作:世間で言うジョージさん

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新しく書きたいやり方を見つけたので、
今回はチャレンジ投稿!
反響よければ続きます。

悲恋や、バッドエンドを覆してやりたい。
そんな作品です。




第1話 来世邂逅

 

 

 

朧殿…………

来世では、必ず……………

 

 

 

薄れゆく意識が、深く暗い闇へと誘われていく。次に眼が覚めるとそこは光に満ち溢れた場所であった。

 

 

「ここは何処じゃ?確かに死したはずじゃが……もしや、此処が極楽浄土なのか?」

 

 

 

『いいえ、違います。甲賀弦之介よ。』

 

 

「っ!御主、何者じゃ!我が名を何故知っている!」

 

 

『私は神と言われています。貴方は愛し合う者と、悲業の死を遂げました。ここまでは覚えていますか?』

 

 

「あぁ、覚えている。相違ない。」

 

 

『両一族の長として望まぬ戦いに巻き込まれ、愛し合う者を殺さなければならなくなった。その運命を貴方達は覆したのです。ですが、死して救われるとは余りにも不憫でなりません。そこで私からの救済を与えに来たのです。』

 

 

「儂は、甲賀の忍としてあまりにも多くの命を奪ってしまった身。御気持ちは嬉しく思うが、死んでいった里の仲間や、伊賀の者達を思うとそのような好意を受け取る事は出来ぬ。」

 

 

 

『貴方はただ平和に暮らせたらそれで良かったのでしょう?貴方の心配は杞憂です。他の死んでいった者達も転生していますよ。あとは貴方だけなのです。』

 

 

 

「なんと!儂だけと申すか。朧殿も既に……それならば勝手を申すようじゃが、是非ともお願いしたい。来世では必ずや朧殿との誓いを果たしたいのじゃ。」

 

 

『その願いを聞きたかったのですよ?甲賀弦之介。貴方達はまたいずれ出逢う運命です。来世では貴方の願いが叶うよう祈っています。』

 

 

 

 

儂は光に包まれて、意識が無くなった。

 

 

時は平成。場所は日本。

千葉県某所の病院で一人の男児が出生した。その名は、比企谷八幡。彼こそが甲賀弦之介の生まれ変わりである。幼少期よりすくすくと育ち、平和と笛を愛する男の子に育っていった。

しかし、思春期の人格を形成する小学校、中学校時代に人の悪意に晒されてしまう。悪意に対して敏感となったそんな彼に、人生を変える一つの事件が起きた。

家族で買い物に行くことになり、預金を引き出しに銀行に立ち寄った時である。比企谷一家は不幸にも銀行強盗に巻き込まれてしまう。人の悪意に敏感な八幡少年は、恐怖で泣き止まない妹の小町に対して悪意を向ける存在に気付いた。「泣くなガキィ!うるせぇーんだよぉ!」精神薄弱気味の男が銃を構えるのを見て、咄嗟に盾となった。悪意に対して眼を反らしてばかりいた八幡少年だったが、この時ばかりは、最愛の妹を狙った暴漢の悪意に対して睨み返したのだった。刹那、八幡少年の眼は金色に輝き、悪意を持った強盗犯は自分に銃を向けて、引き金を引いて果ててしまう。

 

 

こうして無事に解放された人質達。喜びあう両親と妹。誰も八幡少年の眼の秘密には気付かなかったが、少年は自分の力を理解してしまう。そしてあまりにも強力すぎるその力は、いつか大切なものを壊してしまうのでは?と危惧する。故に、少年は力を欲した。たゆまぬ修練により、ようやくこの力を制御出来るようになる。

 

時は経ち、八幡は高校生となる。

入学式初日に交通事故に遭い入院するものの、日頃の鍛練のおかげかすぐに退院することができた。他者からの視線に晒される事に敏感になっていた少年は、何者にも気配を悟られない術を身に付けていた。いわゆるボッチである事で視線を回避してきた。力を使わず済むように。そしてまた一年が過ぎていった。

 

 

場所は職員室。時刻は放課後である。

少年はその日、生活指導の平塚先生に呼び出しを喰らってしまう。提出課題である『高校生活を振り返って』というテーマのレポート内容についてだ。目立たぬように暮らしてきた少年には、何故自分が呼び出されたのか理解が出来なかった。平塚先生は語る。

 

 

「比企谷、君はなぜ呼び出しを受けたか理解しているかね?」

 

 

「いえ全く。レポートの枚数にしろ、テーマにしろ、どこに落ち度があるのか解りません。基準はクリアしているものと考えています。」

 

 

「はぁ…もう一度読んで見たまえ。今、私の目の前で。」

 

 

 

八幡は渋々といった態度でレポートを手に取り、読み上げる。

 

 

 

 

 

「高校生活を振り返って。青春とは、笛の音と平和である。心がとても落ち着くし、晴れやかにもなり、端々まで澄み渡る笛の音はもはや…………………(中略)………………よって、平和を享受し、笛を奏でて生きていきたい。……これのどこが駄目なんですか?」

 

 

「比企谷、確かに君は博愛主義者だ。笛が好きなのは個性だろう。だが内容は、平和と笛の事だけじゃないか!ピューと吹くアレにでもなりたいのか!?」

 

 

「はぁ、そう言われましても。平和は悪い事ではないですからね。笛はそこまで真剣にやっている訳ではないですし。」

 

 

「それに、君には友達がいないだろう?他の者は程度の差こそあるが、友達の名前を列挙していくものだ。だが、君にはそれがない。違うか?」

 

 

 

 

この先生はつまり友達を作れと言っているのだろうか?まぁ、確かに友と呼べる存在は確かに居ないが。

 

 

 

「まぁいい。少し着いて来たまえ。」

 

 

「うす。どこにいくんですか?」

 

 

「君に逢わせたい人物がいる。そこなら君も変わる事ができるだろう。」

 

 

 

 

平和に過ごせるなら、別にどこでも構わない。そう思ったので、黙って着いていった。平塚先生は特別棟にある文化部の集まる所へ向かっているようだ。どこかしらの部室前に着くと、平塚先生はノックもせずに扉を開け放った。

 

 

「ここだ。比企谷、入りたまえ。失礼するよ。」

 

「うす。失礼します。」

 

 

「平塚先生、あれほどノックをと!」

 

 

「悪い、悪い。返事が無かったものだからついな。」

 

 

 

 

部屋の中には、可憐な少女が座っていた。そこにいるだけで圧倒的な存在感を放っている。所謂、美少女と呼ばれるものがそこに居た。この女の子と俺はあまりにも不釣り合いだ。ならば必要以上に親しくならなくても構わないだろう。

それが彼女との邂逅だった。

 

 

「平塚先生。そこのヌボーっとした顔の人はいったい誰ですか?」

 

 

「あぁ、彼は2年F組の比企谷八幡という。折り入って、雪ノ下に依頼があってきたのだ。」

 

 

「依頼……ですか?それは構いませんが、彼が依頼者なんですか?」

 

 

「違う。彼は入部希望者だ。依頼主はこの私だ。で、肝心の依頼内容だが、彼の更正を頼みたい。彼は重度の社会不適合者だ。他者とのコミュニケーションがとれるようになるまで頼みたい。」

 

 

「なるほど。俺の入部と更正か。て、おい。勝手に決めるなよ!」

 

 

「…あ?タメ口か、小僧?」

 

 

 

何、この人!恐い!恐すぎるだろ!

 

 

 

「決めないでほしいです…。」

 

 

「よろしい。そういう訳だから頼んだぞ雪ノ下。」

 

 

「ちょっと待ってください。その男の下卑た視線から身の危険を感じます。」

 

 

俺からの視線って、適当な事を言ってんじゃねぇよ。だいたいお前のその悪意のある視線のが一番辛いわ!

 

 

「まぁ雪ノ下の言い分もわかる。だが、この男のリスクリターンの計算と平和主義にかけては肩を並べる者はいないだろう。」

 

 

「ちょ、一般常識が備わってると言って下さいよ。平和主義者なのは認めますけど。」

 

 

「なるほど。確かに一理ありますね。」

 

 

 

俺の言うことは無視かよ!

てか、納得しちゃうのかよ…。

 

 

 

「わかりました。この依頼を正式に受理します。」

 

 

「え?俺の意思は?無視なの?笛吹いていい?」

 

 

「ハッハッハ。無事に決まって何よりだ。それでは雪ノ下、頼んだぞ。」

 

 

 

 

平塚先生は好きなだけ好きなことを言うだけ言って、立ち去っていった。あ、ありえねぇ。横暴過ぎんだろ!もういいや、平和にいこう。とりあえず流されておこう。

 

 

 

「ボーッと突っ立ってないで座ったらどうなのかしら?」

 

 

「あ、あぁ。そうさせてもらうわ。」

 

 

 

俺は部室の後ろに無造作に積んである椅子を一つ取って、長机の端に置いて座った。そして沈黙が続いた。

………気まずい。何がって、この沈黙が気まずい。とりあえず気まずいから笛でも吹くか。

 

 

「あら、何をしているの?この男は通報されたいのかしら?」

 

 

「オイ、止めろ。さらりと携帯取り出してんじゃねえよ。ただ笛を吹くだけだ。」

 

 

「あら、そうなの?それと…それは和楽器ね。横笛なんか吹けるの?」

 

 

「舐めるなよ?その道こそ目指してないが、ずっと吹いてきたんだ。平和に生きたいからな。」

 

 

「驚いたわ……本当に平和主義者なのね。なぜそうも平和主義に固執するのか理由が知りたいわね。あくまで更正の一環として。」

 

 

「んなもん俺も知らねーよ。ただ両者がいがみ合ったりすんのを、見てるのが辛いだけだ。何故かは知らんがな。」

 

 

 

話を遮るように俺は笛の音を奏でる。

別に楽譜なんかは見たことはない。なんでか知らんが昔からこの曲は吹ける。訂正、この曲しか吹けない。気が付くと俺の奏でる笛の音に乗って、雪ノ下が舞いを踊っていた。少しぎこちなさの残る舞いを見て、素直に綺麗だと思った。そして意図せずに呟いてしまった。

 

 

 

「………朧…殿?」

 

 

「あ……弦…之介……様…?」

 

 

 

 

 

俺達が何を口走ったのかは解らない。

だが、脳裏を過る数々の風景、仲間達、想い、死んでいくたくさんの人、人、人、そして最後の人は最愛の人。そうだ、俺の、儂の愛した女じゃ。

全て…思い出した!

我が名は、甲賀弦之介。

甲賀卍谷衆の甲賀弦之介じゃ。

 

 

 

甲賀弦之介の記憶を取り戻した、比企谷八幡の青春はここから始まる。

 

 

 

 




神様転生っぽくなかったかも。
特典は前世の忍術と知識、教養ぐらい。

ラブコメ苦手だけど描写頑張る!

てな感じでいきます。


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