GMCは動揺しない
そして、試合当日。試合までの間はずっと砲撃訓練と操縦訓練をさせた。授業度外視で。また、事前に戦う予定地の地図を入手し、四方20km何もない丘を見つけ、そこを陣取る事にした。開始地点より少し離れているが、まぁ、仕方ないだろう。
布陣が完了したのは開始して1時間後だ。上空に無線傍受用の気球が上がっていなかったが、念の為に携帯で連絡を取った。と、言うか、ラインが便利過ぎて無線機要らんレベルだ。無線機では誤情報を流しまくっているのでまぁ、もし仮に傍受してたら、相手はアホを見るわけだ。その為、複数の無選手には砲隊鏡の使い方を教えて、複数で見張らせている。
「敵が来るまでは自由って言われたけど、流石にこれは弛みきってませんか!?!」
脇でローが何か怒鳴っている。面倒臭いわね。
「馬鹿ね。相手が来たら、狭っ苦しい戦車の中で油臭い、鉄臭い、むさ苦しい作業をしなくちゃいけないのよ?」
「だからってなんで水着で肌焼いてるんですか!!ほかの学校や、あの月刊戦車道も取材に来てるんですよ!!!」
ローが観客席があるだろう方角を指さす。上空には、実況と監視用のヘリコプターが飛んでおり、カナリスとローが車長用機関銃で撃ち落とそうとしているので止めさせた。
「それに、ユークレイン本社からも偉い人が来てるって噂ですよ!!怒られたらどうするんですか!!」
「馬鹿ねぇ、某聖杯戦争でも我様が言ってるでしょう?『慢心せずして、何が王か』って」
「だから負けたんでしょうが、あの金ピカは!!兎に角、服を来て下さい!!」
ローが私に上着を投げる。嫌よ、せっかくオイルまで塗ったんだから。
「ミラコ先輩の縄を解きますよ?」
「貴様そんな事をしてみろ!105mm砲の的にしてやるかな!!」
「なら、服を着ろっつってんでしょーが!!!」
ちなみに、ミラコは縛ってマウスの上に放置してます。
「湖畔側に敵影確認!!距離40kmです!」
報告確認係の剣道部1年が叫んだ。まぁ、ラインの定時連絡とかを眺めてるだけ良いけど、かなり重大な役目なんだけどね。
「車種と数は?」
「数は2、車種はシャーマンです!」
「捨て置け、斥候だ。それに、シャーマンなんぞ、相手にならん。それより、
「まだ、確認出来ていません」
ふむ、ここらで一旦、地形について確認しておこう。我々は東側に居り、そこから北にある広大な丘を占領した。相手は西から来るわけだ。そして、西を正面、0時として3時方向は湖畔と林が見える。9時は山岳地帯で、標高は900m程の山があるが、戦車が登るにはかなりキツイ。
0時は森があるが、正直、ここを走破するには少々、難がある。6時方向は街に繋がる街道があるが、まぁ、見張りが立っているので直ぐに陣営を変えられる。
「全車両に告げる。9時を背中に回頭15度。監視班は報告をより密に。森は特に気をつけろ。異変があれば、すぐに報告。鳥が飛び立った、何か動いた、何でも良い。些細な情報でも報告するように。
判断は全て私がする。少しでも疑問に思ったら報告すること!」
ラインに命令を流すと全員から了解と返ってくる。
さぁって・・・・・・隊長は常に笑っていないといけないらしいわね。
「~~♫」
「楽しそうですね」
「ああ、楽しいとも。隊長は常に笑って余裕ぶっこいてないといけないのよ?
例え“下痢っ腹”を抱えて
答えると、ローが驚いた顔をして、それから呆れた顔をした。
「部長、アンタは悪魔に成りますよ」
「こんなうら若き乙女に向かって何たる言い草よ?」
「うら若き乙女がそんな
ローがフッと笑う。いい笑顔じゃないか、ローデリア。アンタは次期部長だよ。えぇ?
デッキチェアーに背中を預け、冷たいコーラを呑む。シュワシュワと炭酸が効いていて実に上手い。ポテチも完備してあるし、我が軍はあと10年は戦えるわ。
「森で鳥が大量に飛び立ちました!距離20kmです!!」
「敵襲!?!」
ローが私を見る。私も、双眼鏡で森を覗く。しかし、飛び立った鳥が
「ありゃ、囮だな。シャーマン部隊だ森側のマウスとケーニヒスは牽制射。本命は、道路側だ」
「えぇ!?」
「全員騎乗!ファッキンアメリカーナの来襲だぞ?えぇ!」
全員に怒鳴ると、それまでの和やかな雰囲気が一変。慌ただしく、それでいて緩やかに戦車に乗り込んだ。そうだ、そのとおり。慌てる事はない。我々は、撃ち抜かれないのだから。
『緊急報告!街道側からこちらに向かって猛進してくる蛍4、将軍1を確認!距離は35kmです!!』
ラインの画面に『警告』の顔文字と共に現れた文章。それ見ろ、私の睨んだ通りだ。
「それ来た!そいつ等を全力で叩く!観測!位置知らせ!!間接で仕留める、距離は20kmぞ!!」
『了解!』
指示を打ち、確認が返ってくる。
「各!各々!!
砲手はプッシュに変更し、観測班から報告を聞け!」
『『『了解!!』』』
無線機で叫ぶと、無線機で返ってくる。T28もギャリギャリと車体を動かし、大間かな方角を設定、あとはミーナが砲を動かして設定をするだけだ。携帯を通話に変え、全車両の準備が整うのを待つ。
『全車照準完了!』
「よろしい。観測班の合図で各自発射」
『了解!!』
観測班に任命した生徒には弾道学とかそう言うのを全て叩き込ませた。勿論、善し悪しもあるので、
会長は物凄い文句を言いたげな顔だったが、言質は取ってあるので何も言えない。『君は僕を過労死させる気かい?』と嫌味を言われたので、そのまま死ねばどれだけイイかと返してやったら大笑いしてから、盛大に溜息を吐いていた。ザマー!
『撃て!』
そして、観測班からの合図。最低105mm最高で128mmの砲弾が10発、空を舞った。砲声で、耳は一瞬潰れ、周囲が砲煙で見えなくなる。
「ん、ん~ん?耳が聞こえないわ」
15秒ほど経つと、脇ではローが何かを喜んだ顔で叫んでいる。携帯に目を落とすと、5両中3両を撃破で2両を擱座させたと出ている。撃破したのは蛍2両、将軍1両らしい。蛍が2両残ったが、どれも、履帯に尋常成らざる被害を受けたとか。ちなみに、フラッグ戦なので、後はこちらに向かってくるシャーマン部隊をやるだけだ。
「残ったシャーマンをぶっ飛ばせ。囮にはフラッグ車がいる筈だ」
全車に回頭させ、こちらに突っ込んでくるシャーマン部隊を砲撃させる。最早、鴨打が如くだ。決定打を欠いたサンダースに出来る事といえば、バンザイぐらいだろう。
「