とある不動のGMC   作:はち   .

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とある不動のGMC

 私の眼前には十数台の重戦車が並んでいる。E-100、マウス、シュトゥルムティーガー、ヤークトティーガー、ヤークトパンター、T26E4、そして、T28どれもこれも、私の乗るⅣ号D型H仕様では正面から撃ち合っても勝つ事は不可能だろう。

 パンツァーカイルの陣形で、2両のマウスとお姉ちゃんが指揮する黒森峰、カチューシャさんの指揮するプラウダが分厚い傘を作り、間を聖グロリアーナのクロムウェル達が入っている。

 

《こちら、カリオペ隊、準備完了よ!》

 

 無線にはサンダース付属のケイさんから連絡が入った。サンダース付属には大きく迂回し、山を越える形で布陣してもらっている。そして、合図と同時に、山を越えてロケット砲であの重戦車群を一網打尽に攻撃して貰うのだ。正直、“正々堂々”とは到底言えないが、こうでもしないとあのメンゲレさんには勝てないのだ。メンゲレさんは、気が付いていない。

 

「西住殿」

 

 優花里さんが私を見上げていた。彼女はとても気が利く。彼女のおかげで私は何度も厳しい戦いをくぐりぬけられたのだ。

 

「どうしたの優花里さん?」

「いえ、その、何故、サンダースのチームをこちらにも半分持ってきたので?」

「えっと……」

 

 優花里さんの質問に私は思わず答えるのを躊躇ってしまった。何故か?そんな事は、私にも分からない。だが、何故か全車両を向こうに配置するのは嫌な予感がしたのだ。何とも言えない。所謂、虫の知らせとか言う奴だろう。

 

「乙女の勘、なんて……」

 

 言うと、優花里さんが成る程と頷く。

 

「確かに、時には自身の勘に頼るのも作戦!流石西住殿です!!」

 

 優花里は感心しましたと嬉しそうに頷いていた。ごめんね、優花里さん。そこまで大層な物じゃないの。本当に、“なんとなく”なの。だから、あんまり大きな声で言わないで欲しいな…

 

『みぽりん、全車両配置完了したって』

 

 沙織さんからの報告が入る。距離にして15km。しかし、周囲にはT26E4は居ない。つまり、全車両があの重戦車だけで作ったパンツァーカイルに居る訳だ。突破こそ重戦車の本懐。それがあれだけいるのだから、タイミングを見なければ、私達の方が蹂躙されてしまう。

 

「各車、Panzer vor!!」

 

 私の合図と共にパンツァーカイルが進み始める。時速は20km程だ。少し遅れて、向かい側のユークレインも前進を始める。しかし、速度は10kmと非常にゆっくりだ。T28に合わせて前進しているのだろう。確か、あの戦車は最高時速が13kmで、多分、今の10kmでも恐ろしく足回りには無茶をさせているはずだ。

 

「ユークレインは、黒森峰や聖グロリアーナレベルで訓練が行き届いてますね!」

 

 装填手ハッチから体を出している優花里さんが感心したように私に言う。確かに、そうだ。眼前の重戦車達は黒森峰と聖グロリアーナの作るパンツァーカイルに負けず劣らずの綺麗な傘型である。各車、前面にいるマウスとE-100はちゃんと、側面及び前方を死角無く捉えている。

 思い返してみれば、彼女達は何があろうと陣を離れて独断専行しなかった。私達大洗もプラウダ戦では調子に乗って痛い目を見た。ユークレインは重戦車なのだから、余計に調子に乗っても良いはずだ。しかし、そんな事はせず、ズッと相手が此方に攻撃を仕掛けてくるまで耐え抜いていた。

 

「優花里さん」

「なんでしょう?」

「絶対、勝とうね」

 

 言うと、優花里さんは少し驚いた顔をし、それから何時も通りの溌剌とした笑顔を私に向けて頷いた。

 

「もちろんでありますよ!西住殿!!」

 

 優花里さんが頷いたと同時に、前方ではパッパッパと光る。

 

『敵、発砲!!!』

 

 私達は慌てて車内に引っ込む。すると、シャシャシャッと空気を切って砲弾が降ってくる音がする。そして、ドドーンと凄まじい振動と土砂が車内に振り込んでくる。

 

『大洗連合T-34、3両撃破!!』

 

 アナウンスに思わず、耳を疑った。距離はまだ13km程あるし、向こうは躍進射だ。それなのに、当てに来ている。偶々、と言う事も考えられるが、それでも此処で被弾は士気に関わってくる。現に、私も手が震えている。カリオペがあると言う余裕すら吹っ飛ばしかねない威力だ。

 

「凄い、凄いです…」

「に、西住殿?」

 

 右側に座る優花里さんが心配そうに私を見上げている。

 

「大丈夫。確かに、怖いけど、みんなが居るから。それに、今回はカチューシャさんやケイさん、ダージリンさん、そして、お姉ちゃん。

 勝てるよ」

「っ!はい!そうですね!!」

 

 半分は心配そうな顔をしている優花里さんに、もう半分はビビっている自分に。距離は丁度10kmに入った。

 

「当たらなくても良いので、各車適度に撃ち返してください!」

 

 指示を下すと、早速黒森峰の重戦車部隊がその勇ましい砲声を轟かす。敵にした時には圧倒的なまでに私達を恐怖のどん底に陥れた88mmの咆哮。それが味方に回ると是程までに安心出来るとは……

 

「命中弾が出ても、やはり弾き返されますね…」

 

 双眼鏡で相手方を覗いている優花里さんが口惜しと言わんばかりに告げる。と、言うか近距離で撃って貫通するかどうかの重戦車に10kmも離れて当ててくる方が凄いのだ。黒森峰が負けた日、お姉ちゃん達は泣いていた。

 

「撃破出来るとは思ってないけど、やっぱり、こっちも遣り返しておかないと、士気が下がっちゃう物」

「そうですね。それに、向こうも貫通しないとは言え被弾するだけで少しはビビるでしょう!」

 

 そして、私達の距離は8kmと迫った所で合図を出す。

 

「ケイさん!突撃お願いします!!」

《任せて!!》

 

 ドンドーンと遠方からシャーマンの75mm砲の音がし、濛々と煙を上げるシャーマン・カリオペの軍団が現れた。総勢50両で、こちら側にも50両のシャーマン・カリオペが居る。カリオペは装弾数60発で、計6000発のロケット弾がこちら側にあるのだ。

 

『慌てて陣地転換するユークレインが目に浮かぶな!』

『ああ、全くだ!』

『『ハッハッハッハッハ!!!』』

 

 隣を走るカバさんチームがそう言って笑っていた。双眼鏡を覗くが、マウスやE-100に変化はない。T26E4が数量その場に停車して、砲撃を開始している。まるで、それを()()()()()かのように。

 

「っ!?バレていた!!」

 

 そう、バレていたのだ。スーパーパーシングが停車して進んでくるシャーマンカリオペの部隊を射程外から次々と砲撃して仕留めていく。カリオペは5km程しか射程がない。しかし、それでもロケット弾を発射して最後の抵抗を試みる車両もいたが、全ては無駄に終わった。

 

『大洗連合M4シャーマン50両、撃破!』

「まさか!!!」

 

 優花里さんが装甲をガンと殴った。

 

「優花里さん、大丈夫。まだ、50両いるから。私達はあの50両を守れば勝ちだから」

 

 そして、私達の距離が4kmになった。カリオペのギリギリ射程内だ。確実性を出すには更に近づきたい。しかし、余り無茶をすると我々が負ける。

 

「せめて、あと1km…あと、1km前進したい!」

『任せろ、みほ』

『ミホーシャには仇をとって貰うんだから、それぐらいお安い御用よ!!』

 

 どうやら、無線が開いていたらしく、私の声を聞いたお姉ちゃんとカチューシャさんが答えてくれた。

 

『聞いたな。全車両、後1kmだ!あと1km前進すれば、我々の勝利だ!!』

『1km前進しなさい!でないと、シベリア送り25ルーブルよ!!』

 

 各戦車が一斉に砲撃し、ユークレインの重戦車部隊も応戦する。虎の子のKV1やKV2、IS-2が落伍し、T-34シリーズも尋常ならざる被害を受けている。ヤークトティーガーやヤークトパンターも履帯を破壊され、正面装甲を平然と撃ち抜かれ、ラングやパンターの砲撃は通用しない。

 マウスも、128mm砲が折られた方は私の前に立ちはだかって、砲弾をよく防いでくれている。副砲で応戦するも、やはり重戦車を撃ち抜くには力足らずだ。

 

「1km!!カリオペチーム!!」

『騎兵隊の突撃よ!!』

 

 私の方に来ていたアリサさんが叫び、シャーマン・カリオペが一気に前に出て、カリオペを発射する。上空に無数の白い線が飛んで行った。

 

『ユークレイン高校、フラッグ車及びE-1002両、シュトゥルムティーガー、T26E43両撃破!!

 大洗連合の勝利です!!!!』

 

 勝利にしては、余りにも呆気ない勝利だった。しかし、犠牲は甚大だ。試合に勝って、勝負に負けたのだ。やはり、ユークレインのメンゲレは強い人だ。




クッソ長かかった…ようやく終わったね、うん

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