とある不動のGMC   作:はち   .

13 / 25
対黒森峰戦
GMCは高らかに


「まさか、あの黒森峰と戦う事になるとは、思いもしませんでした」

 

 隣でローが告げる。手には砲隊鏡を持っている。我が方は12両のマウスに3両のE-100、あれから、ティーガーをバラして新たに作らせたシュトゥルムティーガーが4両、M26E4が20両、そして、私の乗るT28が1両の計40両だ。黒森峰も同じ40だが、編成は大洗での編成をもう一つ用意しただけだ。

 

「今回は、偵察を20kmの範囲でしかも10両しか出してませんけど」

 

 ローが砲隊鏡から目を離さずに私に告げる。私もデッキチェアーに寝転び、読んでいる少年誌から目を外さない。最近、ローは素直になってきた。どうやら、自分が次の部長になると感づいたらしい。

 

「ふふん?相手の戦術は知っているんだ。

 ロー、相手はどういう攻撃を取ると思う?」

「そうですね。先ず、目であるM26パーシングを潰しにかかるでしょう」

 

 ローが漸く砲隊鏡から目を離し、私を向く。

 

「それから?」

「側面から遊撃隊を放ち、戦力を分散し、本体にはマウスを主力とした本体が突っ込んでくると思います」

 

 ローが地図を使って戦術を披露する。よろしい。私と同じ考えを持っているな。

 

「それじゃあ、私の作戦は?」

「10両のM26はダミーです。側面に展開させているM26もダミーです」

「ふふん」

「狙いは本体のマウス2両とヤークトティーガー、パンターにエレファントです。

 マウスや駆逐戦車は4両のシュトゥルムティーガーとマウス、E-100で叩き潰し残る残存部隊をT28や生き残ったM26で叩きます」

 

 ローが周囲で待機している化け物共を見遣って告げる。

 

「パーフェクトだ、ローデリア次期戦車部部長」

「有難うございます」

「我が校の戦車部は戦車製造に関して『実際に動いているのを見て勉強する』という程度で作られた部だ。実際、練習試合もチームワークや協調性など皆無で、『重戦車の不便な点と故障箇所』を直に体感するためにしていたようなものだ。

 だからヤークトティーガーが一人、敵の戦列に突撃していき、糞にも劣る日本戦車にボコボコにやられたり、イタリア戦車に撃破されたりしていた。

 私はね、()()()()()。やるからには、徹底的にやる人間だ。部の存続の為に、必勝の戦術を編み出し、今は将来の永久就職先の為に全力を出している」

「そうですか。私は、()()()()()ですし、貴女の戦車道も嫌いです。見ていて吐き気がします。

 もし、許されるのであれば、今直ぐにでも黒森峰の人達に布陣と作戦を伝えに行きます」

「ほぉ?すれば良い、と言ったら?」

 

 言うと、ローがニッコリ笑って顔を寄せる。

 

「私を見縊るなよ、()()()()

 私にだってプライドはある。()()()()()()()()()()プライドがある。私が部長になれば、こんなクソみてーな戦術は取りませんが、()()違う」

「よろしい。流石、私の装填手だ。ロー」

「ありがとうございます」

 

 ローがそう告げて、また砲隊鏡に視線を戻した。そろそろ、来るんじゃないかな?

 そして、一人の無線係が走って私の下に。

 

「ほ、報告します!左舷に展開している観測用M26E4から敵の戦車が距離30km接近中との報告!そして、報告してきたパーシングと別の1両が破壊されました!!」

 

 ふふん、来たな黒森峰。

 

「よし、全車両、マウスを前面に鶴翼之陣を敷け!前方に展開しているパーシング以外は全て戻らせて、右舷に集まれ。敵さん本体がお出でになるぞ!!」

 

 デッキチェアーから、起き上がり叫ぶ。竹刀を振ったり、キャッチボールをしていた剣道部員や野球部が素早く戦車に戻り、エンジンを始動させる。

 

『う、右舷より土煙発見!距離5kmです!!』

 

 無線から報告が流れてくる。双眼鏡で覗くと、エレファントとラングにパンターが10両程こちらに向かって来ている。

 

「E-100とマウス各1両と残ったM26で対処しろ。奴等は囮だ。本命は正面から来るぞ」

『しょ、正面のパーシングから報告!!黒森峰のパンツァーカイルが来てます!!

 2両のマウスを先頭に時速10kmの速さでこちらへ!!距離は本隊から見て20km!!』

 

 報告が次々と入ってくる。流石、黒森峰。教科書通りの戦術をしてくるな。

 

『こちら、右舷のパーシング隊!この数でなら勝てますが、突撃をしてもよろしいでしょうか?』

「ダメだ。お前達が持ち場を離れたら、相手の思う壺だぞ。そこから、間接砲撃しろ。E100を盾にしても良い」

『りょ、了解です』

 

 M26とE-100にマウスが砲撃を開始したらしく、ドーンドンと砲声が聞こえてくる。正面に構えるマウス達はまだ射程圏外だ。15kmに入ったら砲撃開始になるから、大体30分後か。

 

「部長」

「何?」

「大洗は、どう言う戦術を取ってきますかね?」

「知らんよ。それと、次の大洗戦では貴女に新しい戦術を教えるわ」

 

 ローが少し不可解な顔をする。

 

「新しい戦術ですか?」

「そうよ」

 

 私はこの戦術を変えるつもりはない。だが、この戦術以外にも度肝を抜く戦術がまだ一つあるのだ。大洗はこれで仕留める気はない。何故なら、大洗には私を倒して貰わねば困るのだから。

 

「ミラコ」

『何?』

「この試合が終わったらデートしましょ」

『ほぉ、珍しいな・・・君からデートのお誘いとは』

 

 隣のE-100に乗るミラコが意外そうな顔で私を見ている。

 

「ふふん?嫌なら、別に良いわよ?」

『いいや、有り難く受けさせて貰うわ。何処に行くかはそっちに任せても?』

「ええ、構わないわ。

 全車両、気を引き締めて。勝てる相手でも、相手は名門よ!」

『『『了解!!』』』

 

 ふふん。あと少しで15km圏内か・・・

 

『敵部隊、完全に15km圏内に入りました』

「よし」

 

 周囲の戦車が砲塔を動かし、砲身を小刻みに調節していく。

 

『砲撃準備完了!』

「撃て」

『撃て!』

 

 ドドドドンと凄まじい砲声がし、上空を十数発の砲弾が舞った。周囲が砲煙で真っ白になる。

 

『弾着5秒!4、3、弾着、今!!』

 

 遠くで、ゴォォンと爆発音がする。着弾結果を聞くために耳を澄ませる。

 

『ラングが4両にパンターを2両撃破!ヤークトティーガーやヤークトパンター等の一部が足回りをやられて陣を離脱してます!』

「よし、次、15kmよ。装填急げ」

『『『了解!!』』』

 

 ガコンと車内で装填される音がする。全車、砲身を下ろして装填をしている。弾種は徹甲だ。

 

『敵のマウスが17km圏内に突入!』

『右舷M26です!エレファントを撃破しました!!

 残りの戦車も撤退始めてます!』

「追わんで良い。陣に加わって、敵を砲撃しなさい」

『了解!』

 

 マウスとE-100に6両のパーシングが15kmでの砲撃に加わる。

 

『敵16km!』

「各車準備はOK?」

『『『OKです!』』』

 

 全車両が配置に付き、砲塔の角度などを合わせている。1度撃ったから大体の位置はつかめているのだ。

 

『15km入りました』

『発射準備完了!』

「撃て」

『撃て!!』

 

 2度目の斉射。腕時計に目をやると、開始から丁度三時間が経っていた。

 

『着弾5秒!4、3、弾着、今!!』

「撃破した車両は?」

『や、やりました!!

 敵フラッグ車撃破!!!勝利しましたよ!!!』

 

 無線を聞いたらしい各車の乗員から完成が上がる。損害はパーシングが2両だ。全員、浮かれている。

 

「全員、帰るわよ」

『『『ヤー!!ヤーヴォール!!』』』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。