GMCは高らかに
「まさか、あの黒森峰と戦う事になるとは、思いもしませんでした」
隣でローが告げる。手には砲隊鏡を持っている。我が方は12両のマウスに3両のE-100、あれから、ティーガーをバラして新たに作らせたシュトゥルムティーガーが4両、M26E4が20両、そして、私の乗るT28が1両の計40両だ。黒森峰も同じ40だが、編成は大洗での編成をもう一つ用意しただけだ。
「今回は、偵察を20kmの範囲でしかも10両しか出してませんけど」
ローが砲隊鏡から目を離さずに私に告げる。私もデッキチェアーに寝転び、読んでいる少年誌から目を外さない。最近、ローは素直になってきた。どうやら、自分が次の部長になると感づいたらしい。
「ふふん?相手の戦術は知っているんだ。
ロー、相手はどういう攻撃を取ると思う?」
「そうですね。先ず、目であるM26パーシングを潰しにかかるでしょう」
ローが漸く砲隊鏡から目を離し、私を向く。
「それから?」
「側面から遊撃隊を放ち、戦力を分散し、本体にはマウスを主力とした本体が突っ込んでくると思います」
ローが地図を使って戦術を披露する。よろしい。私と同じ考えを持っているな。
「それじゃあ、私の作戦は?」
「10両のM26はダミーです。側面に展開させているM26もダミーです」
「ふふん」
「狙いは本体のマウス2両とヤークトティーガー、パンターにエレファントです。
マウスや駆逐戦車は4両のシュトゥルムティーガーとマウス、E-100で叩き潰し残る残存部隊をT28や生き残ったM26で叩きます」
ローが周囲で待機している化け物共を見遣って告げる。
「パーフェクトだ、ローデリア次期戦車部部長」
「有難うございます」
「我が校の戦車部は戦車製造に関して『実際に動いているのを見て勉強する』という程度で作られた部だ。実際、練習試合もチームワークや協調性など皆無で、『重戦車の不便な点と故障箇所』を直に体感するためにしていたようなものだ。
だからヤークトティーガーが一人、敵の戦列に突撃していき、糞にも劣る日本戦車にボコボコにやられたり、イタリア戦車に撃破されたりしていた。
私はね、
「そうですか。私は、
もし、許されるのであれば、今直ぐにでも黒森峰の人達に布陣と作戦を伝えに行きます」
「ほぉ?すれば良い、と言ったら?」
言うと、ローがニッコリ笑って顔を寄せる。
「私を見縊るなよ、
私にだってプライドはある。
「よろしい。流石、私の装填手だ。ロー」
「ありがとうございます」
ローがそう告げて、また砲隊鏡に視線を戻した。そろそろ、来るんじゃないかな?
そして、一人の無線係が走って私の下に。
「ほ、報告します!左舷に展開している観測用M26E4から敵の戦車が距離30km接近中との報告!そして、報告してきたパーシングと別の1両が破壊されました!!」
ふふん、来たな黒森峰。
「よし、全車両、マウスを前面に鶴翼之陣を敷け!前方に展開しているパーシング以外は全て戻らせて、右舷に集まれ。敵さん本体がお出でになるぞ!!」
デッキチェアーから、起き上がり叫ぶ。竹刀を振ったり、キャッチボールをしていた剣道部員や野球部が素早く戦車に戻り、エンジンを始動させる。
『う、右舷より土煙発見!距離5kmです!!』
無線から報告が流れてくる。双眼鏡で覗くと、エレファントとラングにパンターが10両程こちらに向かって来ている。
「E-100とマウス各1両と残ったM26で対処しろ。奴等は囮だ。本命は正面から来るぞ」
『しょ、正面のパーシングから報告!!黒森峰のパンツァーカイルが来てます!!
2両のマウスを先頭に時速10kmの速さでこちらへ!!距離は本隊から見て20km!!』
報告が次々と入ってくる。流石、黒森峰。教科書通りの戦術をしてくるな。
『こちら、右舷のパーシング隊!この数でなら勝てますが、突撃をしてもよろしいでしょうか?』
「ダメだ。お前達が持ち場を離れたら、相手の思う壺だぞ。そこから、間接砲撃しろ。E100を盾にしても良い」
『りょ、了解です』
M26とE-100にマウスが砲撃を開始したらしく、ドーンドンと砲声が聞こえてくる。正面に構えるマウス達はまだ射程圏外だ。15kmに入ったら砲撃開始になるから、大体30分後か。
「部長」
「何?」
「大洗は、どう言う戦術を取ってきますかね?」
「知らんよ。それと、次の大洗戦では貴女に新しい戦術を教えるわ」
ローが少し不可解な顔をする。
「新しい戦術ですか?」
「そうよ」
私はこの戦術を変えるつもりはない。だが、この戦術以外にも度肝を抜く戦術がまだ一つあるのだ。大洗はこれで仕留める気はない。何故なら、大洗には私を倒して貰わねば困るのだから。
「ミラコ」
『何?』
「この試合が終わったらデートしましょ」
『ほぉ、珍しいな・・・君からデートのお誘いとは』
隣のE-100に乗るミラコが意外そうな顔で私を見ている。
「ふふん?嫌なら、別に良いわよ?」
『いいや、有り難く受けさせて貰うわ。何処に行くかはそっちに任せても?』
「ええ、構わないわ。
全車両、気を引き締めて。勝てる相手でも、相手は名門よ!」
『『『了解!!』』』
ふふん。あと少しで15km圏内か・・・
『敵部隊、完全に15km圏内に入りました』
「よし」
周囲の戦車が砲塔を動かし、砲身を小刻みに調節していく。
『砲撃準備完了!』
「撃て」
『撃て!』
ドドドドンと凄まじい砲声がし、上空を十数発の砲弾が舞った。周囲が砲煙で真っ白になる。
『弾着5秒!4、3、弾着、今!!』
遠くで、ゴォォンと爆発音がする。着弾結果を聞くために耳を澄ませる。
『ラングが4両にパンターを2両撃破!ヤークトティーガーやヤークトパンター等の一部が足回りをやられて陣を離脱してます!』
「よし、次、15kmよ。装填急げ」
『『『了解!!』』』
ガコンと車内で装填される音がする。全車、砲身を下ろして装填をしている。弾種は徹甲だ。
『敵のマウスが17km圏内に突入!』
『右舷M26です!エレファントを撃破しました!!
残りの戦車も撤退始めてます!』
「追わんで良い。陣に加わって、敵を砲撃しなさい」
『了解!』
マウスとE-100に6両のパーシングが15kmでの砲撃に加わる。
『敵16km!』
「各車準備はOK?」
『『『OKです!』』』
全車両が配置に付き、砲塔の角度などを合わせている。1度撃ったから大体の位置はつかめているのだ。
『15km入りました』
『発射準備完了!』
「撃て」
『撃て!!』
2度目の斉射。腕時計に目をやると、開始から丁度三時間が経っていた。
『着弾5秒!4、3、弾着、今!!』
「撃破した車両は?」
『や、やりました!!
敵フラッグ車撃破!!!勝利しましたよ!!!』
無線を聞いたらしい各車の乗員から完成が上がる。損害はパーシングが2両だ。全員、浮かれている。
「全員、帰るわよ」
『『『ヤー!!ヤーヴォール!!』』』