GMCは動かない
「聖グロリアーナ女学院20km圏内に到達しました」
砲兵が敵との距離を測るのに使う、砲隊鏡とか言う奴を担いだローが私に告げる。双眼鏡で確認すると、確かに、濛濛と土煙を上げる黄土色とオリーブドラブ色の戦車5両がまっすぐこちらへ進んできている。偽装ネットを張って、毟ってきた草を付けただけの簡単な偽装だ。
「じゃあ、5kmで砲撃。全車に伝えて。
カナリス!居眠りしてないで起きなさい!!ミーナ!戦車の中でオナったらぶっ殺すわよ!!!」
ローに告げると、テメーも動けよという顔で私を睨んできたが、気にしない。私は、隊長。命令するだけの簡単なお仕事をするのが私の役目。下っ端1年のローデリアはヒーコラ言いながら働くのがお仕事。
そして、私は操縦席で鼻ちょうちんを作っているキング・オブ・バカで操縦手のカナリスとファッキン・オブ・ザ・ビッチで砲手のミーナに準備するよう怒鳴る。装填手である剣道部員も徹甲弾の準備をし始めた。よしよし。
「おい、なんでウチは動かないんだ!ここ、開始位置だろうが!!」
そして、これで5度目となる動けコラと言う文句を言いに来たのが、我が戦車部の助っ人、女子剣道部部長であり主将のミラコだ。
「敵が来たわ、ミラコ臨時副隊長。
私の合図で攻撃が出来る様に準備しなさい」
「おぉ!ついに攻勢に出るのか!!」
ミラコが興奮したように私を見るが、残念。攻勢には出ない。
「違うわよ。エンジンかけてスタンバッておけって言ってるだけよ」
我が私立ユークレイン高等学校の戦力は僅か3両。隊長車であり、私が車長のT28重戦車が1両、後は2両のヤークトティーガーがいるだけだ。まぁ、たったそれだけでも
ヤークトティーガーは言わずもがな、T28の最大装甲厚は300mm。側面も誘導輪や起動輪を保護するスカートだけでも100mmある。欠点はヤークトティーガー同様に無砲塔型の戦車なので、左右に動かれると、めんどくさい。
勿論、左右に動かれても、ティーガーで脇固めておけば良い。相手が燃料切れるまで待って、それから、ゆっくり仕留めれば済む話なのだから。今回は、フラッグ戦。相手の隊長車両をぶち壊せば、それで勝ち。我々の勝利だ。
「敵部隊10kmの位置に到達!」
伝令を終えたらしいローは再び、砲隊鏡を覗いていた。私は寝そべっていたデッキチェアーとビーチパラソルをT28の荷物ラックに置いて、T28の上部に観測所を作っているローの隣に移る。
「ふふふーん?
意外に足は速いのね」
「不整地といえども、見晴らしの良い野原ですからね。マチルダやチャーチルでも然程、足を取られる心配はないようです」
双眼鏡で確認して、両脇のティーガーを見る。ミラコと剣道部副部長は頷いて、潜る。ドルンドルンとエンジンが掛かり、コンコンコンと砲身が砲身が狙いを定める。
この距離から撃っても当たるが、如何せん、たった3門の大砲だ。外れたら厄介な事になる。一応、準備砲撃はして、着弾予測も出来ているし、ローが観測手をさせている。だが、念には念を、だ。この勝負で負けると、我がユークレイン戦車部は廃部になってしまう。廃部になると、私のお菓子食べ放題な学園生活が残り1年を残して終了してしまう。それだけは、避けねばならん。
だが、真面目に戦っても、相手は列強校。馬鹿を見るだけなのだ。それに、我が校は何をトチ狂っているのか、重戦車“しか”置いてない訳であって、これはもう、アホかとバカかと言う状態だ。更に言えば、我が戦車部は私を入れて4人しかいないので、戦車を動かそうにも砲手、車長、操縦手、装填手の1両だけ。更に言えば、重戦車は砲弾が重すぎて装填手1人では弾が装填できないのだ。
故に、ここは私を愛しているらしい変態ミラコが率いるユークレイン女子剣道部に応援を頼んだのだ。ミラコがレズビアンで本当に良かったと思ったのは後にも先にも、これだけだろうと確信している。
「距離8km!」
「全車、照準してる~?」
インカムで尋ねる。すると、両脇にいるティーガーは元より、T28の砲身が小刻みに動いていた。
『剣1号照準良し』
『剣2号照準完了』
『エクスカリバー完璧よ』
全車両から返信があった。
「OKみたいね。全車両5kmで撃つから。それまで狙い定めてなさい。
それと、ミーナ!何よ、エクスカリバーって!勝手に符牒変えないでよ」
『良いじゃないのよ。なんで、周りが剣で、私だけ隊長車なのよ!美しくないわ!!!』
何言ってんだコイツ?股同様に頭も緩くなってんのか?
「黙れビッチ。中二病見たいな名前は却下だ」
「距離6km!アホなこと言っていないで真面目にやって下さいよ!!」
脇に居たローがゴンゴンと装甲を殴った。愈々、だな。私も、双眼鏡を覗いて敵の車両を確認する。
「距離5km到達!」
「全車両、撃て。準備が出来次第、順次砲撃」
『撃てーッ!』
『撃てェ!!』
『ふっふ~ん』
一瞬、耳が聞こえなくなり、そして、凄まじい衝撃波が私の目と腹を襲う。見えない何かに眼球が押されて視界が歪み、腹の底に響くような唸り声。
「弾着まで3秒!!2、1!!!」
ドドーンと遠くで炸裂音。双眼鏡を覗くと、戦車が3両引っ繰り返っていた。その内、1両は深緑色だ。あれは、やったのか?
「撃破アナウンスが流れないわね。第二射早くしなさい」
下ではゴゴンと排莢されらしい、金属音がし、ガタンガコンと砲弾を装填している音。隣でも同じ様に装填しているようだ。
「あ、無事だったマチルダがチャーチルにワイヤー引っ掛けて、車体を起こそうとしてますよ!!」
脇に居たローが私の肩を叩く。双眼鏡を覗くと、確かに黄土色の戦車、マチルダが深緑色の戦車、チャーチルの側面にワイヤーを引っ掛けて、横転したチャーチルを元に戻そうとしている。
『剣2号次弾装填完了!!』
『剣1号もOK!!』
『タイチョーシャもよ』
「ならとっとと撃て。順次砲撃っつったでしょうが」
言うと、ドドンと第2斉射。双眼鏡を覗くと、ワイヤーを引っ掛けようとしていた生徒たちが大慌てで戦車に飛び込んだ。
「弾着3秒!2、1!!」
ゴゴーンとチャーチルに3発全てが着弾したらしく、バラバラに吹っ飛んだ。中に人が居たら、割と真面目にやばかったんじゃないかしら?でも、まぁ、本人達も、危ないのを承知でやっているんだし、私達が悪いわけじゃないわよ。そう、運がなかっただけ。かわいそうに。ナムナムで終わり。
『聖グロリアーナ女学院、フラッグ車撃破!
ユークレイン高等学校の勝利です!』
そして、ようやくアナウンスが流れた。かかった時間は5時間48分。使用した砲弾数12発。内105mm砲弾は4発、128m砲弾8発だ。そして、12発中6発は着弾観測用の準備に撃った物だ。
「ん、ん~・・・戦車戦、と言うよりも、自走砲を使った戦車の待ち伏せ、だな」
言うと、脇に居たローが私を見て言う。
「なら、戦車戦しましょうよ」
「戦車戦は狙撃戦ってね。帰るわよ。
全車回頭180度」
強豪校の一つは実に呆気無い勝利で終わった。
聖グロ戦での変更は登場したのがロンメル戦車1両からヤークトティーガー2両ですね
短く切って纏めた積もりです