異世界で悪魔退治するのは間違っているだろうか   作:しゅーぞー

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皆さん本当にお久しぶりです。
何ヶ月も更新を止めてしまい申し訳ございませんでした。
お知らせがあるのですが、それは後書きで。
ひとまず、本編をどうぞ


Mission16 気付き

「アイズたぁーん、ちょっとは付き合ってえやー」

「いらないです」

 

 隣で駄々をこねている主神(ロキ)に、アイズはほう、と一つ息をつく。

 つい先ほどまで|美の女神《フレイヤ)と会合を交わしていた喫茶店に、まだロキとアイズは留まっていた。

 もうすでにフレイヤはその場にいないにもかかわらず、その場にはどこか艶美な雰囲気が未だに漂っており、男性客たちは余韻を感じるように食事にも手をつけず、ぼんやりと宙を眺めていた。

 ロキが朝飯を食べる終わる間も無くフレイヤが立ち去ってしまったのでロキは今一人で運ばれてきた食事をモソモソと食べていた。

 

「それにしてもアイツホンマ傍迷惑なやつやなあ。サークルクラッシャーやん」

 

 よくわからないことを言いながらトーストを口に運ぶロキを横目にアイズは先ほどの光景を思い出していた。

 一瞬のことで確信はないのだが視界に一瞬だけ映った銀の残像。

 

(ネロ......)

 

 圧倒的な力を持つLv.1の冒険者。

 その素性のついてアイズが知ることはほとんど何もないがその実力だけは知っている。

 あのオッタルですら互角の戦いを強いられたのだ。

 

(それに...)

 

 思い出すのは酒場での出来事。

 ベートに突然詰め寄ったかと思えばその頭を机に叩きつけて一方的な蹂躙ショーを繰り広げた。

 レベルがいくつも上のしかも経験豊富な一線級の冒険者に。

 本来ならばレベル差というものは絶対的なものである。

 一レベル程度ならまだなんとかなる可能性もあるのだが数レベル差とまでなると勝つことは絶望的なまでに不可能である。

 それは今まで冒険者としてオラリオで活躍してきたアイズ自身が1番よくわかっていた。

 でも(ネロ)はその常識を打ち破った。

 アイズが気に留めてしまうのは仕方のないことだろう。

 先程からずっと黙って食事を口に運んでいたロキはそんな思案げなアイズを見て何かを察したのか

 

「ほな、帰ろか」

 

 そう主神に問いかけられたアイズは数瞬の逡巡ののち

 

「...はい」

 

 そう頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は数時間巻き戻って。

 場所はへファイストス・ファミリア。

 数多くの【鍛治スキル】持ちによって構成されたファミリア。

 オラリオの武器供給の中核を担っており、新米冒険者向けの比較的安価な装備から、ベテラン冒険者を対象にした高価な装備までの全てを生産しており、新米冒険者にとって高価で見栄えも良い上級装備を買うのは夢の一つである。

 武具の生産において大成功を収めたと言っても過言ではないそのファミリアの主神は、へファイストス。

 鍛治の女神である。

 大ファミリアなだけあってその本拠地(ホーム)の敷地は広大で、弱小ヘスティア・ファミリアのものと比べるとまさに月とスッポンといった具合であった。

 そんな【へファイストス・ファミリア】の主神、へファイストスの私室に、我らが【ヘスティア・ファミリア】の主神、ヘスティアはいた。

 

「呼んでおいてなんなんだけど、あんたいつまで入り浸るつもりなのよ...」

「せっかく久しぶりに会えたんだ、少しぐらい長居してもいいじゃないか!」

 

 うんざりとしたような顔でそう告げるへファイストスのヘスティアは反論する。

 ガネーシャ・ファミリア主催のパーティーののち数日。

 ヘスティアはへファイストスと一緒にいた。

【へファイストス・ファミリア】にお世話になっていた昔の堕落した生活を思い出して少し心苦しくなるヘスティアだったが、少しくらいならいいだろうと旧友との親交を温めていた。

 愚痴を聞いてもらったりネロのことに関して色々と相談に乗ってもらったりしていたヘスティアはどこかスッキリとした顔をしていたのだが、ここ何日かずっとそれに付き合わされていたへファイストスの顔にはその美貌をいくばくか色褪せさせるほどの疲労の色が色濃く滲んでいた。

 

「でも、いつまでもいるわけにはいかないよね。ネロくんも待ってることだし。そろそろ帰るとするよ」

「えぇ...ぜひそうしてもらえると助かるわ...」

 

 息も絶え絶えといった様子でそう返事をしてくる神友にヘスティアは

 

「色々と聞いてくれてありがとねっ。また遊ぼうね」

 

 そう笑顔で礼を言ったのだった。

 それを見てへファイストスは

 

「.........そうね、また来なさい」

 

 ドアを閉めて去って行った神友の背中にそう言葉を投げかけた。

 なんだかんだでヘスティアには甘い彼女であった。

 

 

 

「さーてっ....帰ろっかな!」

 

 一路帰路に着いたヘスティア。

 結局ネロが元の世界に変える方法は分からずじまいだった。

 あの面々に分からないのならもうわかる(ヤツ)なんていないのではないだろうか。

 それにしても、(ネロくん)が来てからは毎日、退屈知らずだ。

 足元の石を何とは無しに蹴りながらそう思う。

 あのオッタルを追い返したときには流石のヘスティアも仰天したが。

 今やオラリオでも一二を争う知名度ではなかろうか。

 まあその分他のファミリアからのちょっかいも絶えないけどねっ。

 ネロくんは絶対に渡さないよ!

 そう密かに決心したヘスティアであった。

 うーん、と一つ伸びをする。

 

「ネロくんも待ってるだろうし、急ぐかな!まったく、寂しがり屋なんだからネロくんは!」

 

 本人が聞けば怪訝そうな顔をすることは請け合いだが今のヘスティアはそんなこと御構い無しだ。

 久しぶりのホームだ!

 その足取りは軽やかなものだった。

 ネロの置かれた状況とは正反対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いた時には、もうシルバーバックとの距離は無くなっていた。

 

『ガァァァァァァァァ』

 

 強烈な咆哮(ハウル)とともに振り下ろされるネロの身の丈ほどもある大剣を半身の体勢をとることによって回避した。

 体のギリギリを通過していく大剣が地面に刺さり、大量の粉塵が宙に舞った。

 一旦立て直すために地面に刺さったままの大剣を足場に宙返りをしてシルバーバックとの距離を取る。

 

「なんだテメェ。なんでモンスターが街中にいんだ」

 

 その問いかけに答える代わりにシルバーバックは剣を大上段から振り下ろす。

 膂力に加えて重力も加えられた一撃がネロに襲いかかる。

 

「おい、こっちが喋ってんだろうが」

 

 いとも容易くその一撃を右腕で受け止めたネロ。

 顔の目の前で止まった剣。

 その斬撃を届かせようとシルバーバックは力を込めるが一ミリたりとも動かない。

 逆に徐々に押し返されていく。

 驚愕の色をその顔に窶したシルバーバックをネロは冷たい目で見据える。

 

「ったく、コレだから言葉の通じない猿は嫌いなんだ。臭えし汚ねえし」

 

 剣を掴んだままの右腕に力を込めて、押し返す。

 支えを失ったシルバーバックはバランスを崩してたたらを踏んだ。

 辺りがどよめく。

 

『お、おい。あいつ今簡単にモンスターを押し飛ばさなかったか?』

『何者なんだ...』

『お前ら知らないのかよ。アレが噂の"銀髪の剣士"だぞ。あのオッタルと互角に戦ったっていう』

 

 いつの間にかネロの周囲には人々が集ってきていた。

 ほとんど人は逃げたというのに。

 恐らくはネロの実力を知ってのことだろう。

 なんとも緊張感のないことだ。

 

「おい、お前ら」

 

 そうネロが一言声をかけると彼らは揃ってビクゥ!と肩を震わせ

 

『は、はい』

『や、やべえよ、俺たち怒らせちゃったのかも...』

『本気になったら俺らなんか消し炭にされちまうぞ...』

『まだ俺死にたくねえよぉ!』

 

 口々に好き勝手言ってくれていた。

 彼らの中でネロは一体どういう人物なのだろうか。

 こりゃ収拾付かねえな。

 しかし悪童ネロ、こう言う時の立ち回り方(黙らせ方)はよく知っていた。

 

Well...Get the fuck out.(あー、消えな)

 

 睨みつけながらそう言ってやるとヒィィ、と言いながら彼らはどこかへ逃げて行った。

 これであたりには誰もいなくなった。

 改めてモンスターの方に目をやるとその瞳から闘志の色は未だ失せておらず、ただ爛々と輝きながらネロを睨め付けていた。

 どうやらしっかりと力関係を分からせる必要があるらしい。

 

「来いよデカブツ。なんでここにいんのかは知らねえけど、遊んでやるよ」

 

 抜剣していたレッドクイーンの剣先をシルバーバックの方へ向け、クイクイ、と挑発する。

 またもや地を蹴り切迫してくるシルバーバック。

 力任せに横薙ぎに振るわれた一撃をステップバックによって躱す。

 その勢いのまま下から振り上げられた斬撃をバク転によって捌く。

 

Hey-hey(おいおい)、しっかり狙えよ?無闇矢鱈に振り回すだけじゃ、当たるもんも当たらないぜ、そのブサイクな顔にくっついてる眼は何のためにあんだ?」

 

 と、避けながらもなお挑発し続ける。

 と、ピタリと先ほどまで続いていた怪物の猛攻が止まる。

 何事かと思い視線を向けると、モンスターの様子が変わっていた。

 具体的には剣の構え方が変わっていた。

 ただ構え方が変わったのならネロも何も思うところはなかっただろう。

 しかし、モンスターの剣の持ち方は熟練の剣士(、、、、、)のそれになっていた。

 

「...どういうことだ?」

 

 その言葉に答えぬままモンスターは今一度肉薄を図る。

 袈裟懸けに振り下ろされた一撃を弾き飛ばし、数合交わしてハッとネロは気付いた。

 

「あの構え...」

 

 そうだ、あのオッタルとか言う大男と酷似している。

 道理でやりづらいわけだ。

 これは少し本気でやらなければいけないみたいだ。

 ブルーローズで威嚇射撃を行いながら距離を取る。

 そして剣を地面に突き刺し、首をコキコキ、と鳴らす。

 剣を肩にかけ、身を低くしてすぐにトップスピードに乗れるように体勢をとる。

 

「オイゴリラ、遊ぶのはもうやめだ。こっからは本気で行くぞ」

 

 そう行った直後に弾丸のように飛び出したネロは一直線に迫っていき、レッドクイーンのアクセルをふかしながら横一文字に薙いだ。

 爆炎とともに迫る剣を正直にも受け止めようとしたシルバーバック。

 お互いの剣が触れた瞬間。

 シルバーバックは手元が爆発したかのような衝撃を感じた。

 気付けば吹き飛ばされていた。

 

「ハッハァ!」

 

 再度肉薄。

 衝撃でひるんでいたシルバーバックは対処が遅れたようで、ギリギリで防御をする。

 一撃防がれたらすぐに次、それを防がれればまた次。

 これまでの闘いで培って来たテクニックの全てを剣技に集約させて敵に叩き込む。

 袈裟懸け、薙ぎ、突き、斬り上げ、フェイント、逆袈裟、足払い、斬り下ろし。

 そんな無限かのようにも思えるネロの手管を防ぎきれる道理もなく、一撃をまともにくらい吹き飛ぶシルバーバック。

 そんなシルバーバックをデビルブリンガーによってむんずと掴んで引き寄せ、剣で振り上げ打ち上げると共に、自らも舞い上がる。

 数瞬の出来事だった。

 

Showtime!!!(こっからだぜ)

 

 アクセルをふかしながら空中で敵に向かって直進し、横薙ぎの一撃(キャリバー)を喰らわせる。

 そしてその体をデビルブリンガーで強引に引き戻し、グルン、グルン、と空中で回転しながら遠心力を利用してシルバーバックを地面に叩きつける。

 

「テメェに足りねえモンを教えてやるよ!」

 

 そう叫ぶと同時に、空中にいる状態からアクセルの推進剤の勢いを利用して、剣を地面に叩きつける。

 隕石が落下して来たかのような衝撃とともにレッドクイーンは無防備なシルバーバックの胴体を食い破った。

 とてつもない落下速度と衝撃を伴ってネロは轟音と共に地上へと帰還した。

 もはや動かなくなった相手に向かって、ネロは吐き捨てる。

 

「てめぇに足りねぇもんはな、経験だ」

 

 フン、と鼻を鳴らす。

 それにしても、謎ばかりだ。

 こいつがなぜ襲いかかって来たのかも、なぜ剣を扱えるのかも。

 皆目見当がつかない。

 とりあえず今はこいつを何とかしなくてはいけない。

 ギルドにでも持っていけば良いのだろうか。

 右手でひっ掴み、引きずりながら歩いていく。

 

 あとでギルドで聞いたらモンスターが脱走したとこには火の粉を散らしたような騒ぎになったが、闘っているのがネロだと知って安心して任せたらしい。

 それで良いのか...?




いかがでしたでしょうか?
それでお知らせなのですが、作者これから本格的に受験シーズンが始まってしまうため、これからは今までよりもさらに更新速度が落ちるかと思います。
ですが作品を終わらせるつもりはないので、これからもお付き合いいただけたら幸いです。

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