異世界で悪魔退治するのは間違っているだろうか 作:しゅーぞー
最近重厚な描写をしたいと常々思っているのですが、なかなかうまく行きません。
やはり、何回も書いていくうちにうまくなるものなんですかね...?
それでは、本編をどうぞ。
「見回りが気を失ってた?」
近くの同僚に話を聞いてみるとどうやら昨夜モンスターを閉じ込めている部屋の見回りを担当している警備が何者かに襲われしばらくの間昏倒させられていたらしい。
もちろん当人にその間の記憶はなく、起きたら朝だったという。
「それ、サボって酒飲んで酔いつぶれてただけじゃないのかぁ?」
職員の一人がおどけた調子でそう言うと
「確かに。あの警備は少し不真面目であると言う報告を受けています。その可能性は十分にあると思われます。」
「そうだよなぁ、そもそも、モンスターの檻には何も変化なかったみたいだし尚更見回りだけを気絶させる意味なんかないだろ?」
しかし、エイナは一抹の疑問を拭い去ることができなかった。
いくら不真面目でも勤務中に酒を飲むことはないだろう、ましてやこの大事なときに。
でも確かに檻に異変がないのなら見回りを狙う意味が...
「ねぇ、エイナはどう思う?」
エイナがしばらく考えを巡らせていると同僚で友人のミィシャがそう聞いてきた。
「そう、ねぇ...。今までそう言う報告が来てたんならまだしも、昨日初めて飲んでそのまま酔いつぶれる...って言うのは考えにくいわよね...。絶対にあり得ないとまではいかないけど」
そうエイナが答えると場が"確かに..."と、納得したような微妙な空気になってしまい、結局事実はわからずじまいだった。
どうやら件の警備員は今日は勤務を休んでいるそうだし、詳しく聞こうにもそれは無理な話だろう。
結局上司の"無駄話はそこまで、仕事に取り掛かりなさい"という鶴の一声で皆は方々に散って今日のギルドの通常業務が開始し、そのことについて話すこともなくなった。
そしてエイナも受付の椅子に座り、いつものように冒険者登録や事務仕事などをこなしていると
「
ドカ、と受付カウンターの椅子に深く腰掛ける青年。
エイナの担当する冒険者である、銀髪の剣士ことネロがギルドにやって来た。
その怪物のような活躍を知っている他の冒険者たちは畏敬の眼差しを送っていた。
彼は結構な有名人で、今もギルド内ではそこここでヒソヒソと話す声が聞こえる。
「お、おはようございますネロ君。今日はどうしたんですか?」
「あぁ、この前ちょっと気になることがあってな。一つ聞きたいことがあるんだが、サポーターってのは割と軽視されてるもんなのか?」
それは以前ダンジョンで出会ったリリについてのことである。
ネロ自身自分がそこまで首を突っ込む義理も理由もないことはわかっているのだが、なぜか気になってしまっているのだ。
「いいえ、サポーターもダンジョン内で冒険者のサポートをして安全にダンジョン攻略をできるようにする立派なーーー」
「建前はいい。本当のところを教えてくれ。」
言い切る前に遮られ、改めて問われる。
真剣なその眼差しに、これ以上のお為ごかしは不可能だと判断して
「...正直に言わせてもらうと、冒険者のサポーターに対しての扱いは度々問題になっているわ。実際全てを取り締まろうとするのは不可能だから黙認されているんですけどね。注意喚起はしていますが、大した効果がないのが現実です」
「...そうか」
ありありと現実のサポーターの扱いについてネロに伝えた。
その時、エイナは今まであまり感情を見せなかったネロの顔に初めて"寂しげ"な表情が浮かぶのを見た気がした。
と、言ってもそれは一瞬ですぐにいつも通りの仏頂面に戻ったのだが。
「誰か、そんな人をみたんですか?」
「あぁ、この前ブタみたいなモンスターに囲まれてるパーティーを見たんだ」
「豚...あぁ、オークのことですね。って、もう10階層まで潜ってるんですか!?」
「そうだけど、なんか悪いか?」
「悪くはないですけど...」
彼の実力を知っている手前中々止めづらい。
エイナは自分が担当している冒険者を死なせてしまうのが大変嫌いだ。
いや、ギルドの人間なのであれば多かれ少なかれそのような感情を抱くのだろうが、彼女の場合は突出してそれが強かった。
けれど、あのオッタルとも張り合った彼だ、10階層ごときでは大した脅威も危険も感じなかっただろう。
「一応あそこ、ベテランとルーキーの境目くらいなんだけどなぁ...」
小声で小さくそう呟く。
「なんか言ったか?」
「い、いや、何も言ってないですよ」
「そうか、んじゃ話の続きなんだが...」
リリのことについて記憶にある限りの事を詳細に伝えた。
「そんなことが...」
口を手で覆い、驚きを隠しきれない様子のエイナ。
普段ダンジョンに潜らない分、冒険者よりもそう言った類のことに関しては知識が浅いのだろう。
と言ってもネロも冒険者の中では駆け出しもいいところで、サポーターの件を知ったのも偶然の産物なのだが。
「分かりました。このことは私が責任を持って上に報告させてもらいます。こんな行為、許されるものではありませんから」
「そうしてもらえると助かる。俺もどうしていいかわからなかったからな」
「はい、任せてください。それで、その子の所属ファミリアは分かりますか?」
「いいや、わからねえ。けど外見はわかるぜ、
「そうですか、それじゃあ容姿の特徴も含めて報告しておきます」
「あぁ、そんじゃあ行くわ」
「はい、気をつけて行ってらっしゃい」
椅子から立ち上がって出ていこうとするネロ。
「...色々とありがとな」
小さくそうお礼を言っていたのをエイナは聞き逃さなかった。
「...はいっ」
そしてそのまま今度こそ振り返らずにネロはギルドから出て行く。
「彼、かなりかっこいいわよね。正直タイプかも」
ミィシャがそう言ってくる。
「ああいう子がタイプなんだ?」
「うん、でもエイナはああいう感じ苦手だもんね」
「うーん...」
実の所、エイナは彼のことがあまり得意ではなかった。
身長はかなり高いし、顔は整っているけど仏頂面で怖いし、強いし。
しかし今日の一件でエイナは彼に対する評価を改めざるを得なかった。
「意外と、いい子かも」
「それってもしかして!」
「いや、そういう意味じゃなくてね...」
「またまたー!」
今日もギルドは、元気に営業中です。
ギルドを出て冒険者通りをまっすぐ進んでギルドに向かっていると
「おーいっ、待つニャそこのクソ白髪ー!」
呼ばれた方向に振り返ると、『豊穣の女主人』の店先で、猫耳と細い尻尾を生やしたキャットピープルの少女がぶんぶんとこちらに手を振っていた。
『クソ白髪』とは随分な言い様だが、ネロにもそう呼ばれても仕方ない理由があるので何も言えない。
「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて悪かったニャ」
「いや、それはいいんだけどよ。なんか用か?」
「ちょっと面倒なこと頼みたいニャ。はい、コレ」
「?」
「クソ白髪はシルの友達ニャ。だからコレをあのおっちょこちょいに届けてきてほしいニャ」
そう言いながら手渡されたものは、よくありがちな普通の財布だった。
布袋状で、口金のついた【ガマ口財布】。
紫色のその金入は、小ぢんまりしていて可愛らしい。
「アーニャ、それでは説明不足です。ネロさんも困っています」
と、今度は耳の長い別の店員が現れた。
準備を行なっていたカフェテラスの方から歩み出て、こちらへ歩み寄ってくる。
「リューはアホニャー。店番サボって祭見に行ったシルに忘れ物渡しに行ってほしいだなんて、言わないでもわかるもんニャー」
「だ、そうです。すみませんがお願いします」
「あぁ、分かった。けど、祭って?」
「初耳ですか?この都市に身をおくものなら誰でも知っているもののはずですが」
「生憎と、この前来たばっかりなんだ。この都市のことなんてほとんどわからねぇ」
「ーーーニャら、ミャーが教えてやるのニャ!
「なるほどな...」
「なので、今日、闘技場の方へつながるメインストリートは大混雑だと思うので、まずはそこに向かってください。人波についていけば大丈夫だと思います」
「シルはさっき出かけたばっかだから、すぐに出れば追いつけるはずニャ」
「んじゃあ行ってくるわ」
少し
メインストリートに面する喫茶店の、その二階。
女神フレイヤはそこにいた。
フードを深々と被りその相貌を覆い隠しているものの、溢れ出る美は周囲のものを拐かしてやまず、彼女の動作一つで周囲の男たちの時間は止まっていた。
大したこともせず彼女は周囲の異性の注目をその一身に浴びていた。
階下には、人がごった返していた。
様々な人種が入り乱れているそこには、一般人に紛れて冒険者もちらほらと散見された。
そんな彼らの顔を一人一人ジッと観察していると、木張りの床が軋む音と同時に、こちらに近づいてくる気配があった。
「よぉー、待たしたか?」
「いえ、さっき来たばかりよ」
手を挙げて気さくに挨拶して来た神物に、フレイヤはフードの中で浅く笑った。
ボーイッシュな格好をしているせいで少し男神のようにも見える彼女は、ロキ。
漏れかける欠伸を噛み殺しつつ涙目のまま、にへっと笑みを作った。
「なあ、まだうち朝食食べてないんや。ここで注文してもええか?」
「お好きなように」
そんなことをズケズケというロキに、大して気にしたそぶりも見せないフレイヤ。
二人の間柄が浅からぬものであるということはその会話だけからでも分かった。
「ところで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」
「紹介がいるんか?まあええわ。うちのアイズや。これで十分やろ?ほれ、アイズ、こんなんでも一応神やから挨拶だけでもしとき」
「...初めまして」
「可愛いわね。それに......ロキが惚れ込む理由、よく分かった」
金色の瞳がフレイヤの視線と絡み合う。
ぺこりと頭を下げる少女の様子は通り名とは似ても似つかないもので、フレイヤは思わず微笑を浮かべる。
「それで、今日はどうして私を呼んだのかしら?」
「んぅ、ちょいと駄弁ろうおもてなぁ」
「嘘ばっかり」
クスクス、と笑うフレイヤにニッ、と不敵に笑うロキ。
それまで両者の間にあった空気が一変した。
運悪く注文を取りに来てしまったウェイターは彼女らが発するど迫力に気圧され、金縛りにあったかのようにその場にただ立ち尽くしていた。
「率直に聞く。何やらかすつもりや」
「何を言っているのかしら、ロキ?」
「とぼけんな、アホゥ」
未だ側で立ち尽くしているウェイターにフレイヤが優しげに微笑むと、ハッ、とした様子で目を見開き、間をおかずに赤面してその場を離れて行った。
「最近動きすぎやろ、自分。興味がないとか行ってた宴にも顔出すわ、さっきの話ぶりだと情報収集にも余念がないわ......今度は何企んどる」
「企んでるなんて、人聞きの悪い」
「じゃかあしい。...男か」
女神は答えない。
ただフードの中で薄く笑うのみだった。
それを是、と見てロキは大きなため息をつく。
「はぁ......つまり、どこぞのファミリアの子供を気に入った、ちゅうわけやんな。ったく、この色ボケ女神が、誰彼構わず見境なしか」
「あら心外ね。分別くらいあるわ」
「抜かせ、
「彼等と繋がっておくと色々と便利なのよ、何かと融通がきくわ」
「で?」
「....」
「どんなヤツや?今度自分の目に止まってるっちゅーのわ」
それくらい言え、と要求する彼女は神特有の野次馬根性を盛大に発揮していた。
言わねば帰さない、とその目は切に語っていた。
「......」
「そっちのせいでこっちは余計な気を使わされたんや、聞く権利くらいあるやろ」
強引な理由を振りかざすロキに、フレイヤは顔を左手、窓側へと向けた。
先ほどと変わらず眼下には人の群れ。
昔を思い返すかのようにそこを見ながら、フレイヤは語り出した。
「彼は...綺麗だったわ。荒々しく、猛々しく、そして力強く輝いていた。今まで見たこともない色をしていた。」
だから、目を奪われてしまった、見惚れてしまった、と。
誰も気づけないほどのほんの微かな熱をそのソプラノに乗せながら。
「見つけたのは、本当に偶然。たまたま視界に入っただけ」
当時の情景に想いを馳せながらフレイヤは言葉を連ねる。
「その時も、こんな風に...」
日の光が霞むメインストリート。
通りの向こうから、あの青年はこちらへやって来て。
そう、たった今、視界の中を通り抜けて行ったように。
フレイヤの動きが、止まる。
その銀の視線が、大通りをゆったりと歩く『銀髪の青年』に釘付けになる。
徐々に遠のいていくその背中を見送ったフレイヤの唇に、蠱惑的な笑みが浮かぶ。
「ごめんなさい、急用ができたわ」
「はぁっ?」
「また今度会いましょう」
そう行ってすぐに席から立ち上がり、去っていくフレイヤ。
その場には、ロキとアイズだけが残された。
「なんや、あいついきなり」
そこでロキは「ん?」と小首をかしげた。
アイズが、何やら窓の外をじっと見つめているのだ。
「どしたん、アイズ。なんかあったん?」
「...いえ」
そう答える彼女の金の瞳には、銀の残像が焼き付いていた。
再び、フレイヤは大部屋へと来ていた。
彼女の周りには、ぐったりと倒れ伏している男女が幾人か。
そして、彼女の傍らにはあの日と同様に、オッタルが控えていた。
やはり二本の大剣を携えて。
「ねぇ、オッタル」
「はっ」
「準備は、できているかしら?」
「...いつでも」
憮然とそう答えるオッタル。
その重く響き渡る声に、フレイヤは満足げに頷く。
本当は、もう少し先延ばしにするつもりだったのだが、今ここにいるとわかったからには仕方がない。
ガチャ、と金属音が辺りに響いて、檻の扉が開いた。
中から悠々と出て来た『シルバーバック』は、その体にいくつかの傷が作られていた。
おそらくはオッタルとの修練の結果のものだろう。
これならばあの子にも対抗できるかもしれない。
フレイヤはまるで女児のような純粋な笑みをその顔に浮かべる。
フー、フーッ、と、鼻息荒く呼吸している『シルバーバック』の頭を優しく撫でながら、フレイヤは遠くの愛しい青年に語りかける。
願わくば、その勇姿を存分に見せて欲しいという願いを込めて
「それじゃあ、頑張ってね?」
シルを探して闘技場の周辺をひとしきり見て回ったネロは、また東のメインストリートまで戻って来ていた。
祭りのショーが始まったのを皮切りに、もうほとんどの人が闘技場へ入場したのか、大通りの人影は行きと違ってまばらだ。
闘技場の中から、熱狂した人々の声が聞こえてくる。
その声に呼応するかのように周りの気温も上がっていく気がする。
祭とはこんなものなのか、とネロは自分も少し周りの空気に飲まれていることに気がついた。
そんな中で、ふと耳朶を打つものがあった。
それは非常に小さな音だったのだが、しっかりとネロは聞き届けていた。
小さく切り裂くような声だった。
フォルトゥナでも聞いたことのあるモノ。
それをネロはよく知っていた。
「......悲鳴?」
その呟きが口からこぼれた瞬間。
次には、大音声が響き渡った。
「モ、モンスターだぁああああああああああっ!?」
凍りついたかのように、つい先ほどまで熱狂の空気をまとっていた大通りは言葉をなくす。
そして、ネロは見た。
闘技場から伸びる通りの奥。
石畳を蹴る音を従えながら、純白の毛並みを持つモンスターがその手に大剣を携えてこちらに荒々しく突っ込んでくるのを。
いかがでしたでしょうか?
次回は濃厚なバトルシーンを書いていこうかなと思っているので、お楽しみに笑
それにしても、作中でネロくんやることが多すぎて何からやって行けばいいのか迷いますね...