異世界で悪魔退治するのは間違っているだろうか   作:しゅーぞー

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最近執筆意欲が高まりつつあります。
ポンポンとアイディアが浮かんで来てなかなか良い感じです笑
できるだけこの調子で続けていけたらな、と思っています!
では、本編をどうぞ。


Mission14 企み

 光源が心もとない、暗く湿った場所だった

 天井から吊るされた魔石灯が辺りを白く薄ぼんやりと照らしていた。

 一見倉庫のように見える薄暗い空間の中には、無数の『檻』が置いてあった。

 その中には異形のモンスターが鎖に繋がれて閉じ込められており、そこら中から不気味な鳴き声が聞こえ、室内に反響していた。

 この大部屋はオラリオにある闘技場の裏、言うなればモンスターの控え室だ。

 実はオラリオでは近々、怪物祭(モンスターフィリア)と呼ばれる催し物が開催されることになっているのだ。

 概要を説明すると、広い闘技場に一匹の凶暴で危険なモンスターを解き放ち、一人の調教師(テイマー)ーーーいわゆるモンスター達を手なづけることを生業とするものに調教(テイム)させ、その速さや華麗さを競うものである。

 命の危険を伴う非常に危ない祭りなのだが、だからこそ人々は熱狂する。

 熱狂し、絶叫し、盛大にこの祭を楽しむのだ。

 ある意味この祭があるからこそ日頃から溜まっている人々のストレスが発散せさせられているという面もあるだろう。

 世間には"パンと見世物"と揶揄されているが、なくてはならない大切な催しなのである。

 従ってその準備は入念に行われ、開催の何日も前にはモンスターが捕獲され、開催日当日までこの薄暗い部屋の中に閉じ込められる。

 

「逐一チェックしなくてもこんなぶっとい鎖で繋がれてんだから逃げようがないと思うんだがなぁ...」

 

 ブツクサと文句を言いながら檻と檻の間を歩きつつ、檻の中を照らして中のモンスターが逃げていないかチェックすると同時に鎖が悪くなっていないかどうかもチェックする。

 モンスターが街中に解放されるようなことがあれば大混乱に陥るだろう。

 地味だが大事な仕事だ。

 教えられた通りに檻のチェックをしていると唐突にキイィ...と耳障りな音が男の耳に届いた。

 彼にとってはよく聞きなれた音だ。

 その音は檻が収納してある大部屋の入り口の木製のドアが開かれた音だ。

 この時間に見回りを担当しているのは自分だけのはずだ。

 誰だろう、と振り向こうとしたその瞬間

 

「動かないで?」

 

 そっと、後ろから両目が塞がれた。

 それと同時に感じる。

 手の温もり、柔らかさ、そこから発せられる甘美な香り。

 その全てが人間をダメにする要素を十二分に含んでいた。

 底知れない『(なにか)』を感じた。

 体から力が抜けていく、立っていることができない、言葉すら発せられない。

 ありえない。抗えない。逆らえない。

 一瞬にして彼は全身から自由を奪われた。

 

「鍵はどこ?」

「ーーーえ?」

「檻の鍵は、どこ?」

 

 息を吹きかけるように耳元で小さく囁かれる。

 首筋がぞくりとわなないた。

 その問いかけに答えないという選択肢はもはやその男の中には存在し得なかった。

 がくがくと震える左腕を動かし、腰に取り付けてある鍵束を取る。

 カチャカチャと音を鳴らしながら、モンスター達の檻の鍵を肩の高さまで持ち上げた。

 

「ありがとう」

 

 差し出していた鍵が取られ、塞がれていた目からも手が外れる。

 しかし、彼の瞳が機能することはなかった。

 自失した彼に見えているものなど何もない。

 ただ『(なにか)』の余韻に浸るのみであった。

 

「ごめんなさいね」

 

 彼女は美の神フレイヤ。

 美に愛されし神。

 そんな彼女はオラリオに降りてくるに当たって神としての能力は剥奪されている。

 しかし彼女の卓越した美をもってすれば、人を忘我の極致に追いやることなど容易いことなのだ。

 そして彼女の側について歩いている従者が一人。

 筋骨隆々の偉丈夫、オラリオ唯一のLv.7。

 猪人(ボアズ)のオッタルである。

 いつものように大きな剣を二本携えていた。

 

 彼女らは大部屋の中心まで歩いていく。

 未だ室内に反響するモンスター達の唸り声が途絶えることはなかったが、彼女が見にまとっていたフードを取り去るとそのうなり声は一度にして掻き消えた。

 彼女の美の影響の及ぶ所はモンスターでさえもその範囲外ではないのだ。

 しばらく彼女は周りを囲むモンスター達を見て

 

「あなたに決めたわ」

 

 と、一つの檻を指差した。

 そのモンスターは真っ白な体毛に覆われていた。

 ゴツい体つきの中で両肩と両腕の筋肉が特に隆起しており、フレイヤと同じ銀色の頭髪が背を流れて尻尾のように伸びている。

 野猿のようなモンスター『シルバーバック』は、その瞳をギラギラと見開いていた。

 

「出て来なさい」

 

 鍵束のうちから一つの鍵を選び、鍵穴に差し込んで檻の扉を開けはなつ。

 モンスターを解き放つ、ともすれば危険な行為。

 しかし魅了の影響下に置かれた『シルバーバック』は暴れるそぶりすら見せなかった。

 

「ねぇ、オッタル」

「はい」

「彼」

 

 先程魅了によって骨抜きにしておいた男性を見やる。

 

「バレたら私が来たことがバレてしまうから、うまく隠すなりして頂戴?」

「承知しました」

「それから」

 

 アレコレとやっているが、彼女が今日ここに来た理由は一つ。

 ネロだ。

 フレイヤは想う。

 青年、ネロのことを。

 

(あぁ、ダメね。しばらくはあの子を見守るつもりだったのに)

 

 フレイヤは知っていた。

 彼の常識破りの力を。

 

(......ちょっかい(、、、、、)を、出したくなってしまった)

 

 まるで好きな子に意地悪をして気を引こうとする子供のようだ、フレイヤは少し笑う。

 けれど、もう止まらない。

 見初めた相手に対する衝動が、体を火照らせる胸の奥の疼きが、愛が、フレイヤを突き動かす。

 彼の『勇姿』が見たい。

 しかし、この子(シルバーバック)では、少し荷が重いかも知れない。

 だから。

 一拍おいてから

 

「この子に、剣を教えてあげてくれない?今日中に」

「.......はい」

 

 オッタルの力を少し授けることによって少しでもあの子(ネロ)を苦しめてあげようではないか。

 それは歪んだ愛なのかも知れない。

 しかし恋する女神(フレイヤ)には、そんな瑣末なことなどどうでも良いことだった。

 オッタルが身につけていた剣をシルバーバックの方へ投げる。

 躊躇いつつそれを受け取るシルバーバック。

 その光景を横目にフレイヤは綺麗な唇を笑みの形に歪めながらシルバーバックに近づいていき、両の手でその頰を包みこむ。

 

(だから......)

 

 次の瞬間、フレイヤはモンスターの額に唇を落とす。

咆哮が、轟く。

 

(待っていてね?)

 

 オッタルが修練後にシルバーバックをまた元の檻に入れて閉じ込めることができるように鍵を近くの机の上に置き、大部屋から出ていくフレイヤの耳に、剣戟の音が聞こえた。

 来た時と同様に、耳障りな音を立てながら扉は閉まった。




いかがでしたでしょうか?
この後に起こるゴタゴタ(見回り魅了したり)は次回でまとめて描写していきたいと思いますので、ご安心ください

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