異世界で悪魔退治するのは間違っているだろうか 作:しゅーぞー
自分はなかなかな飽き性だと自覚しているんですけども、ここまで続いたことは正直びっくりしてます笑
正直みなさんの応援がなかったらここまで頑張れませんでした!
これからも頑張っていきたいと思いますので、応援お願いします!
「
テーブルに猛烈な勢いで強烈な音を立てながら叩きつけた
その衝撃でテーブルは砕け、哀れ、ベートの頭はその木造の床に衝突することとなった
「ガッ!?」
短い苦悶の声
もちろん現在床に沈められているベートのものだ
さすがに床材は突き破ることはできず、ただただぶつけるだけになってしまったが、かなりのダメージを与えたはずだ
筈だったのだが
ベートの指先がピクリと動いた
(こいつ、まだ意識が...)
驚きよりも先にまず怒りがやってきた
なぜキリエを侮辱したこいつがまだ息をしてやがるんだ?
一度地面に押し付けたままだった青年の顔を無理やり引き上げる
幾らベートが上級冒険者であろうと一級のダンジョン経験者であろうと、ネロとは格が違った
彼は人類を脅かす"悪"そのものと対峙してきたのだ
端正だったその顔は今は床材にぶつかった衝撃から出た鼻血で真っ赤に染め上げられていた
呻き声を上げながら、しかしその瞳だけは未だにネロへの敵意をむき出しにしていた
おそらくは脳震盪を起こしてしまっているのだろう
焦点の合わないその瞳で、今なおネロのことを睨めつけ続けていた
腹が立つ
「おいおい、無様なのはどっちなんだよ?ザコはどっちだ?ゴミはどっちなんだよ?なあ、教えてくれよ、言ってみろよッ!!!」
身を突き刺すような激情にその身を任せ、渾身の怒りを込めてもう一度床に叩きつける
その衝撃はともすれば店全体を揺らしたかもしれない
今や天井にぶら下げていた灯りは明滅を始め、叩きつけた瞬間は周りの椅子やテーブルが一瞬浮き上がったほどだった
そしてネロの脳裏を常に焼き続けるのは、
そんな彼女が、ネロが命を賭してでも守ろうと決めた彼女が、今どこの誰とも知らぬ男に愚弄され侮辱され踏みにじられたのだ
もう一度無理やり顔を引き上げながらその憎い面に鋭い犬歯をむき出しにしながらネロは叫ぶ
「テメエは!キリエを侮辱した!殺す、殺してやるからなァ!!!」
今まであっけに取られてことの行く末を見守っていて【ロキ・ファミリア】もネロの殺害予告とも取れる、いや、
「オメェなにしてくれてんだコラァ!」
大勢のうちの殺気立った一人がそう言いながらネロに食ってかかってくる
ベートを押さえつけているその背中に一撃くれてやろうと殴りかかった
しかし
「邪魔すんじゃねェ!!」
ネロはすぐさまベートの拘束を解き迎え討つ
ネロの拘束から解放されたベートは力なく地面に倒れ伏した
「オラァ!」
そしてこちらを殴り付けようとして突き出された拳を最小限の動きで避け、相手の横っ面に右ストレートを叩き込む
クロスカウンター気味に決まったその一撃でかわいそうな犠牲者は窓を突き破って外に飛び出していく
『なんだあいつ...』『おい、ベートの奴の話じゃあいつぁよえぇんじゃねえのかよ?何だよあの強さっ!?』『鬼みてえなやつだ......!』
ネロのあまりの強さと鬼気迫る戦いにさすがの歴戦の猛者ぞろいの【ロキ・ファミリア】の面々にも緊張が走る
「あの子っ...!」
未だ臨戦態勢のネロを見て、アマゾネスの姉妹の片割れ、妹のティオナがネロを止めようと飛び出そうとした
「待って、ティオナ」
「団長!?なんで止めるの!?」
しかしそんな彼女を呼び止める声が一つ
フィン・ディムナ
彼女ら【ロキ・ファミリア】の構成員達を束ねる
ファミリア最古参で、オラリオでも最高峰の実力者であるLv.6の第一級冒険者
非常に理知的で頭も切れる彼が止めたのだ
何かしら理由があるのだろうと考えその理由を問う
「今の彼は興奮状態で非常に危険だ。今僕たちが出て行ったとしても非常に厳しい戦いを強いられるだろう。ベートは彼をザコ、と評価したが僕はそうは思わない。今の戦いぶりを見ていて君もわかっただろう?彼は強い。冗談抜きでね。不本意極まりないけど、今は彼が落ち着くのを待つしかないだろう。わかってくれるね、ティオナ?」
「でも...!」
「わかってくれるね?」
「むぅ...」
団長であるフィンにそう強く諭されてはどうしようもない
ティオナは渋々見守ることにした
ベートは自業自得だとしても彼はやりすぎだ
このまま止めないままではきっと、彼に殺されてしまう
そんな焦りとの板挟みの中で、【ロキ・ファミリア】の上位構成員は見守ることしかできない自分の歯がゆさを強く感じていた
そんな中、厨房でも同じような事件が起きていた
「ミアお母さん!ネロさんが!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ、ありゃ止めようがないねぇ。そこらの冒険者が暴れてるだけってんならまだしも、あれはねぇ...」
「アイツ、マジギレしてるにゃん...」
「あの
「そうだけどやりすぎじゃないかニャ!?殺しそうな勢いニャン!」
そう言う騒がしく会話している彼女達の視線の先には激情に身を任せる獣が立っていた
【ロキ・ファミリア】と同様に今まで数多の冒険者同士の諍いを止めてきた"豊穣の女主人"も、ネロの凶行に対して沈黙を選んだ
それほどまでに彼の能力は圧倒的な威圧感を以ってその場の全員を飲み込んでいたのだ
そして舞台は戻り、ホールへ
【ロキ・ファミリア】はネロの暴に完全に飲まれ、今や完全に膠着状態に陥っている
しかしネロは何かが自分の背後で動き出そうとしている気配を感じた
と、同時に感じる強い殺意
その殺意はネロの身体に本能的に回避行動をとらせるのに十分なほど濃密なものだった
「っ!?」
身を翻して横に半歩分回避する
瞬間、つい先ほどまでネロが立っていた場所のベートの踵下ろしが突き刺さっていた
おそらくは金属製なのだろう、いかにも特別仕様といった外見のそのブーツがベートの武器なのだろう
その顔を見ると先ほどネロが叩き込んだ傷跡はなかなかの回復具合を見せており、彼本人の治癒能力の高さをうかがわせた
「ザコが粋がりやがってっ........!今からボコボコにしてやるから覚悟しろよクズがぁ...」
自分を散々一方的にねじ伏せたネロに並々ならぬ怒りを抱いているようでその目には殺意以外の何物も映っていなかった
「剣を抜けよクソガキがぁ...!武器ごと叩き潰してやるからよォ!」
「ハァ?お前ごときに
「...後悔してもおせぇぞ」
血を蹴り弾丸のように飛び出しベート
そのベクトルは一直線にネロの方向に向かっていた
「フッ、ハッ!」
連続で繰り出される高速の蹴り技をネロは次々と難なくかわしていく
「おせぇよ、蚊が止まったみてぇだ」
「ほざくな!」
ネロがそう一言言い放つと同時にベートが蹴りかかってくる
右フェイントからの左回し蹴り
普通ならばここで顔面に食らって即気絶GAMEOVER
しかし何度も言うようだが彼は
ドン!
と短く破裂音のような音がなる
ベートの左足がネロの右手でしっかりと掴まれていた
ここからベートの悪夢が始まる
「
足首を強く持って力一杯壁に投げつける
またもや地を揺るがす轟音
悪魔の膂力を持って投げつけられたものがどうなるかは想像に難くない
「ガハッ!?」
背中を強く打ったからか、苦しそうな声で喘ぐベート
痛みに苦しみつつ体制を立て直そうと立ち上がろうとしたベートの目の前には
「
悪魔が立っていた
ネロは休む暇も与えずベートの土手っ腹に蹴りを入れ浮き上がらせたところを大上段からの踵落としでもう一度地面に叩き落とす
「グゥッ!?」
そして地面に衝突して浮き上がったところを首根っこひっつかんですくい上げ、力任せに投げる
そして猛スピードで飛んでいくベートに異様なスピードで走りよって追いつきまたもその頭をふん掴み地面に叩き込む
そのまま無理に引き起こして壁に投げつけ
「
と叫びながらレッドクイーンを抜いてベートに投げつける
その瞬間、【ロキ・ファミリア】の面々はしっかり見ていた
ネロの瞳が紅く妖しく光り、その残像が綺麗に線を描いているのを
彼らは感じてしまった
ネロの本気の殺意を
人間の本能が、冒険者としての経験が彼らに警鐘を鳴らす
場の全員に緊張が走る
甲高い金属音を鳴らしてレッドクイーンが壁に突き刺さる
しかしそんな彼らの危惧に反してネロが投げたレッドクイーンはベートの頭部の真横に突き刺さっただけだった
「
肩をすくめて冗談めかす
すっかり冷静さを取り戻したようで、冗談を言う余裕すら生まれており、相手を食ったような態度を崩さない何時ものネロに戻っていた
「うぅ...ぐぅ...」
こちらもこちらで中々に根性があるようで、ネロの猛攻にも未だ意識を刈り取られていないようだった
未だに身を起こして立ち上がろうとしているその執念とプライドにネロは少し驚嘆を覚えていた
第一級冒険者という称号はここまで人を強くするのかと
しかし、情けはかけない
まだ一番聞きたい言葉がコイツから聞けていない
「オイ、お前。ベートとか言ったか」
息も絶え絶えでこちらを見るベート
「キリエに謝れ。お前が侮辱したキリエに、謝れ」
こいつが侮辱したキリエにだけは、なんとしてでも謝らせなければいけない
ここまでボコボコにしてやればさすがに素直に謝るだろう、とネロは考えていた
「ウル、セェ」
「は?」
その口から出た言葉は本来ネロが欲した言葉とは全く異なるものだった
「確かに、お前は強い、かもしれねえ」
口の中が切れているのか上手く言葉を紡げていないベート
そんな中でも彼は喋ることをやめない
伝えることをやめない
何が彼をそこまで突き動かすのかネロにはわからなかった
「だけどなぁ、いまここで謝っちまったら、自分の非を認めちまったら、俺のいままで貫いてきた信念はどうなっちまうんだよォ!俺のプライドは!築きあげてきた評価は!どうなるんだよ!」
そう言いながらこちらへ突っ走ってくるベート
おそらくは最後の力を振り絞っているのだろう
哀れだった
未だに自分の評判やらプライドやらを捨てないで必死に守ろうとしている彼はただひたすらに哀れだっだ
もはや蹴りを入れる力もないのか拳を振り上げ殴りかかってくる
もはや避ける必要もないほど力がこもっていないものだった
しかし
ネロはその腕をバッ、と掴むとその勢いのまま体を反転させ一本背負いを決め、凄烈な勢いで綺麗な弧を描きながらベートを地面に叩き伏せた
あたりに響き渡る爆音は耳を塞ぎたくなるものだった
「ギャンッ!?」
その苦悶の悲鳴を最後にして、ベートは動かなくなった
完全に意識を刈り取ったことを確認してから周りを見渡すとそこには怯えて目をしたものか呆気に取られて呆然としているものしかいなかった
ロキが大口を叩いてからどんなものかと思っていたが、全く話にならないではないか
拍子抜けだ
全くもって、拍子抜けだ
壁に刺さったままのレッドクイーンを抜こうと壁の方向に歩いて行くと、冒険者たちがザァッ、さながらモーゼの海渡りのように二手に別れた
そしてそのままレッドクイーンを壁から引き抜くと
「ハッ」
と一言あざ笑ってレッドクイーンを背中に背負って店から出て行き、夜の闇へと消えていった
紅い残像とともに鮮烈な記憶をその場にいた全員に植え付けて
酒場の中はどんよりとした重い空気に覆われていた
それはもちろんネロのせいであり、ネロに手も足も出なかった彼ら自身のせいでもあった
「やー、あの白髪頭、強いなぁー!ベート全然敵われへんかったやん!」
なぜか元気なロキがそう声をかける
しかし
「動け、なかった..........」
フィンが歯噛みしながら珍しく感情を表に出して自らの膝を強く叩いた
それはその場にいた全員が感じていたことのようで、誰もフィンを責めるものなどいなかった
そんなフィンに副団長のリヴェリアが慰めの言葉をかける
「あれは仕方がなかった。彼は強い。強すぎる。あの一瞬の攻防だけでもそれが痛いほどわかった。なぜいままで彼が知られていなかったのか皆目見当もつかない」
「そうだね......彼の目が一瞬紅く光った瞬間心の臓を掴まれたような感覚を覚えた。そこからさ、身体が言うことを聞かなくなったのは」
「あ、私も!私も!だって彼、すごい怖いんだもん、動けなくなっちゃったよ」
「それにしても、ベート、大丈夫なの?」
ティオナが未だ地面に倒れ伏しているベートを指差す
誰がどう見ても大丈夫ではないのだが、ベートの尋常ではない頑強さは誰もが知っていたので、大丈夫だろうと心配はしていたがどこか楽観視していた
しかし、そんな彼の頑強さを知っているからこそ、ネロの強さの異常性がさらに際立つ
「まぁ、ベートの悪酔いの自己責任って面もあるしなぁ....ウチは止められへんかったわ」
「まぁ、それは確かに...」
「キリエ、とか言ってたね、彼。大事な人なのかな?」
「うーん、まぁ、そうだとしたらベートが言ったことが彼の逆鱗に触れちゃったんだろうねー」
「でも彼、カッコよかったわね」
「あー!お姉ちゃん、彼のこと気になってたり?」
「さぁね?」
「もー!もったいぶらずに教えてよー!」
ティオナ、ティオネが姦しく騒いでいるなか、アイズは先ほどまでの彼の戦闘を思い返していた
ベートさんの攻撃をいとも簡単に解ける敏捷性、筋力、テクニック
それを取っても一級品だった
Lv.6と言われても疑わないくらいだ
やはり、気になる
そんな時、隣のロキがふとこぼした言葉がアイズの耳に届いた
「やっぱ、欲しいわぁ、
ロキの方に目を向けると、そこには【ロキ・ファミリア】の主神としてのロキではなく未知のものに純粋な興味を示す本来の神としてもロキがいた
そして神は、そんな未知のものを
手元に置きたがる
ヘスティア、ロキ、フレイヤ
彼女たち三女神の興味は今、ネロの身に一心に注がれていた
ちなみに、豊穣の女主人の従業員たちはミアの指示でネロの大暴れで大変荒れた店内を片付けている最中、彼への怨嗟の声が止まらなかったらしい
そして、豊穣の女主人での騒動が起きて一晩明けた次の日
ネロとベートは仲良くロキとヘスティアの前で正座していた
いかがでしたでしょうか?
せんとうはやっぱりむつかしいですねぇ.........
うまくベートくんをボコれたか心配です