レイナーレがさんざん騒いで落ち着いた所で、アジュカ様が従者にお茶を用意するように指示を出す。そうして全員でテーブルを囲んでお茶を楽しんでいた。その中でレイナーレが未だに鏡を見て呆然としているままなのが妙に哀愁を誘う。
今のレイナーレは中学生ぐらいの姿になっている。一誠達と並べれば同い年か、それよりも下ぐらいに見られるだろうか。元々は10代後半、或いは20代頃と言えば通じる容姿だったのが幼くなっているのはどうにも奇妙な感じだ。
「悪魔は魔力で自由に姿を変える事も出来るが、今回は逆だろうな。精神に合わせた影響で今の姿になったんだろうな」
「つまり、精神相応になったって事にゃん?」
「うがーっ! ガキ扱いしないで!!」
隣に座った黒歌に頭をわしゃわしゃと撫でられて、レイナーレが憤慨する。しかし縮んだ所為でリーチが黒歌よりも劣り、その腕は宙を空振っている。その様子は年下の子をからかう年長の構図そのままだ。
「まぁ、何故そうなったかは専門外だからな。結果だけは言う事は出来るが、原因やメカニズムまでは俺もわからない」
「元には戻れるんですよね……?」
「魔力の扱いに慣れれば、自然と成長も出来るだろうよ」
アジュカ様の保証にはレイナーレがホッと胸を撫で下ろす。確かに原因不明でいきなり縮んだとなれば不安にもなるわよね。一応の保証がされた事でレイナーレもようやく安心出来たようだった。
しかし、精神相応と言われれば私には心当たりがある。『夢の世界』ではレイナーレは学生だった。一誠達と同年代として学校に通う、そんな光景を望んでいた。恐らく一誠達と並んでも不自然じゃないように。
けど自覚がないようなので口にはしないでおく。無意識のものを自覚させる事は出来るかもしれないけれど、今のレイナーレに言って図星だと思ってしまえば羞恥心で暴れかねない。なので今は心の中に仕舞っておく事にする。
「悪魔に転生した後で、魔力の扱いを慣れて自分が望んだ姿を取る事を出来るようにはなるが、逆に精神の影響を真に受けて縮むなんて例は初めてだからな。相変わらず何を起こすかわからないという意味は面白いよ、リアス」
「私が悪いみたいじゃないですか」
「実際お前のバグ技の影響だろう? これは?」
「まぁ、それは否定出来ませんけど」
ぽりぽりと頬を掻いていると、レイナーレが唸り声を上げて睨んできた。そんなに睨まれても貴方の精神に合わせて肉体が変化したのだから、私を責められても正直困る。
それからアジュカ様の今後の予定が話される事になる。暫くレイナーレは経過観察する為、アジュカ様の拠点で生活をする。その間にレイナーレの悪魔用の戸籍を用意したりするそうだ。
私もレイナーレの事は実家に連絡をしてはあるものの、近い内に顔を合わせもさせなきゃいけない。打ち合わせも必要になるし。
ただレイナーレの経過観察、『
一誠、白音、黒歌は私とイリナが抜ける間の駒王町の統治。これは元々、3人が主導で回していた事もあって問題は無く引き継ぎがされた。トントン拍子で予定が決まっていき、アジュカ様から解散が言い渡される。
私は元々、ここで生活していた事もあって慣れたものだけど、レイナーレは体が変化した事もあって落ち着かない様子だった。そんなレイナーレを眺めていると、ふと黒歌が近寄ってくるのを目にした。
「どうかしたの? 黒歌」
「いんや。……レイナーレの『夢の世界』がどうだったのか気になってね」
そう言う黒歌は目を細めた。巫山戯た様子はない。そんな黒歌の様子に私は肩を竦める。
「プライバシーもあるから秘密」
「そう、深くは聞かないけどにゃ。……ただ、まぁ。レイナーレは元々、私達の輪に入りたそうに見てたのは知ってたからね。今の姿の方が都合は良いんだろうにゃん」
都合が良い、と。黒歌の台詞についついレイナーレへと視線を送ってしまう。物珍しげにイリナと白音にからかわれているレイナーレは、まるで懐かない猫のような反応で二人の手を払いのけている。
元から感情の起伏は激しい方だったけれど、そう考えると理屈としては納得してしまう。無意識の願望によって象られたのがあの姿がだと思うと、ついレイナーレが可愛らしく思えてしまう。
ふいに視線を逸らして黒歌へと視線を向ける。レイナーレを見つめる黒歌の視線は慈しむ色が見えた。それを見ていると黒歌も私に視線に気付いたのか、苦笑を浮かべる。
「……まぁ、身近で見てきたからにゃ。素直になれないあの子の事を。素直になれ、なんて言える立場でもなかったし、遠回しに気を遣ってやるしか出来なかったから。だから本人は嫌かもしれないけれど、今回の事は良かったんじゃないかにゃ」
「……そうね」
今までレイナーレは望んだ状況に身を置く事が出来なかった。追われるように仕事が舞い込む日々、それから解放されて彼女が自由にのびのびと振る舞えるようになったと考えるとやっぱり良い事なのだと思う。
とはいっても、これから大変なのは変わりは無い。レイナーレの事は少し気にかけてあげないといけないかな。気難しそうなのは相変わらずなので、少し苦労しそうだけど。
「まぁ、すぐ慣れるでしょ。元々、一緒にいたようなものだにゃん。肩から力を抜けたらころってデレるにゃん」
「そんなレイナーレがチョロいみたいな……」
「……いや、実際一度心を許したらチョロいと思うにゃん?」
「…………」
思わず昔のアザゼルを信奉していた頃のレイナーレを思い出してしまう。確かにチョロいと言えばチョロいのかもしれない。別の意味でレイナーレが心配になってきた。
しかし、懸念が一つ解消されたのは結果的には良かった。レイナーレの事は皆、心配していたし。朱乃にも良い報告が出来そうで一安心だ。思わず私は安堵の息を零してしまうのだった。
* * *
「ふーむ。……凡庸だな」
後日、アジュカ様の拠点での生活が始まって数日が経過した後。アジュカ様が仕事の合間を縫って作り出した時間でレイナーレの現状把握の検証が行われていた。
アジュカ様が時間が取れるまで、私もレイナーレに付き添っていたのだけれども……正直、アジュカ様の下した評価と同じ気持ちだった。
「今の所、妙な動作はしていないようだな。一般的な『
「……はぁ」
レイナーレがふて腐れたような声を漏らす。幼くなっている所為か、拗ねているようにも見えてなんとも微笑ましい。思わず口元を緩ませそうになって慌てて引き締める。レイナーレに見られたら噛みつかれかねない。
私も付き添ったからわかるのだけれども、レイナーレはこれといって特別な特性を確認出来なかった。プロモーションは通常通りの効果を見せて、その力の上昇率も一般的な『
敢えて酷評をするなら、それぞれの駒にプロモーションした際に特性のコントロールが出来てない。特に『
色々と検証を重ねたけれども、総評として凡庸という評価に落ち着いてしまう。これには私も少し肩透かしだ。そして怖くもある。確実に駒はバグを発生させているけれども、それがどんな形で特性として現れるのかが見えないからだ。
てっきりプロモーションをした際に強化されるのかとも踏んだのだけど、色々と意識調査をしてもレイナーレもピンと来ないみたいで、特殊な変化は現れなかった。
「……逆に困ったな。何かイリナや一誠のようにわかりやすい特性が目に見えてくれれば良いのだが」
「そうですね、このままだとちょっと怖くて連れ出せませんね」
「そ、そこまで言う程なの……?」
「説明したでしょう? 貴方の『
「キミとて何が起きるかわからない爆弾を抱えたまま過ごしたくはないだろう?」
「うぅ……」
私達の言葉を受けてレイナーレは肩を落としてしまう。レイナーレには私がグレートレッドと魂が繋がり、その力の受け皿になった事は説明してある。その時の彼女の反応は大音響による聴覚への攻撃だったのだけど。
何が起きるかわからない爆弾とアジュカ様が称したけれども、実際にその通りなのだ。自分で施しておいてアレだけども、これは少し困った事になった。暫く実家に預ける事も視野にいれないとダメかな……。
「む。リアス、イリナが帰ってきたみたいだな」
「もうそんな時間? 一度、休憩を挟みましょうか」
実家に預ける事も検討した時、タイミング良くイリナが帰って来る時間になっていた。私の代理で今回の事をお父様達に報告して貰っていた訳だけれども、検証をしている内に時間が過ぎていたみたいだ。
一度検証を切り上げて、帰ってきたイリナを出迎える。そしてイリナも交えてテーブルを囲み、レイナーレの検証結果に目を通す。やはり、どこかが異常が窺える所は見られない。
「じゃあ、レイナーレさんの変化はよくわからないんだ」
「レイナーレでいいわよ、さん付けなくて良い。なんか、今の姿でさん付けされると落ち着かないわ」
「まぁ、眷属にもなったしね。しかし、どうしたものかしらね。何か切っ掛けでもあればそこから探る事も出来るんだけど……」
「機能としては『
私達の酷評にレイナーレが頬を膨らませながらお茶に口をつけている。流石に凡庸って言い過ぎかな。でも、それ以外に言葉が見つからないのよね……。
「イリナの力を見せてみるか。それで何か感覚的に掴めるかもしれん」
「やってみますか?」
「頼めるか」
「じゃあ、簡単に」
アジュカ様の提案にイリナはその手に一本の剣を生み出す。属性も剣しかない、ただの幻想から象られただけの剣がイリナの手に握られる。それを見たレイナーレが眉を寄せる。
「本当、なんでもありよね……創造系の神器みたいだけど、別に武器じゃなくて現象とかでも良いんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。持ってみる? リーアだったら自分に融合させたり出来るみたいだけど」
「本当、貴方達を見てると腹が立って来るわね。一体どういう原理でやってるのよ、理不尽よ……」
ぶちぶち文句を言いながら、レイナーレがイリナから剣を受け取る。
その瞬間、ガラスが砕けるような音と共にレイナーレが受け取った剣が四散した。そして、その存在が掻き消えてしまう。
……沈黙が場を包み込んだ。レイナーレは吃驚して、椅子から転がり落ちている。剣を手渡したイリナは唖然として口を開いたままだった。私も驚きを隠せない。今、レイナーレは何をしたの?
「……今のは」
「アジュカ様?」
「イリナ、幾つか試して貰いたい事がある。レイナーレ、検証を始めるぞ」
「いたたた……え? な、何? 何が起きたの?」
「それは俺が聞きたい。レイナーレ、“何を”した?」
「な、何もしてませんよ! ただ受け取っただけですよ!?」
「では、無意識か。……イリナ、属性を二つ足した武器を用意してくれ」
「わ、わかりました」
アジュカ様の指示を受けてイリナが『錬成』を始める。今度は軽く錬成したものではない、しっかりとイメージを固定した剣が生み出される。それを確認して、アジュカ様はレイナーレに視線を向ける。
「レイナーレ、これに触ってみろ」
「は、はぁ……」
恐る恐ると言うようにレイナーレがイリナの錬成した剣を握る。……今度は何も起きない。砕け散るといった事はなく、レイナーレは普通にイリナの剣をその手に持っている。
暫くぺたぺたとレイナーレが触っても、やはり変化が起きる様子は前兆はない。
「……砕けないな」
「砕けませんね」
「レイナーレ、さっきと何が違う?」
「な、何が違うも……私はただ受け取ろうとしただけで」
「先程、何を思い浮かべた?」
「何をって……別に何も」
「……その剣について、素直にどう思う?」
「はぁ? ど、どう思うも、理屈とかどうなってるのかわからない巫山戯たものだと思いますけど――」
瞬間、罅が入ったようにイリナの剣が再び砕け散った。レイナーレは腰を抜かしたようにその場に尻餅をついてしまう。慌てて駆け寄るも、怪我した様子も見られない。
イリナは唖然としたままだ。私も正直、何が起きてるのかわからない。先程は軽く『錬成』したものだったけど、今回のはちゃんと実戦でも問題なく使えるようにしっかりとしたものだった。なのに先程と同じように幻のように砕けて消えてしまった。
「……成る程な。イリナ、剣はもう良い。現象を固定して宙に浮かせる事は出来るか? 純粋に『錬成』したものと、自分の『魔力』を込めたものを二種類用意してくれ」
「わかりました」
アジュカ様の指示を受けて、イリナが二種類の光の球を宙に浮かべる。
「レイナーレ、この光の球を見てどう思う? おかしいと思わないか?」
「……わかりません」
「では、どう違うかわかるか?」
「わ、わかりません」
「念じてみろ、壊れろ、とか、あり得ないとか」
アジュカ様に言われるままに、レイナーレが目を細め、唸るように睨んだりしてみている。しかし、イリナが用意した光の球には何の変化も訪れない。
顎をさするようにアジュカ様がそれを観察し、次の指示を出す。
「触ってみろ、レイナーレ。触る、というのがポイントなのかもしれん」
「触れば良いんですよね……?」
宙に浮く光の球にレイナーレが手を伸ばす。それを撫でるように触れる。最初はレイナーレも撫でるように触る事が出来たけれども、また甲高い破砕音と共に光の球が消えてしまう。
「ま、また!?」
「イリナ、今のは『錬成』だけのと、『魔力』を込めたのとどっちだ?」
「『錬成』だけのものです。もう一つが『魔力』を込めたものです」
「よし、レイナーレ。もう片方も触ってくれ。出来れば、それがどういう理屈で生み出されているかを考えながらだ」
「は、はぁ……」
レイナーレがアジュカ様の指示に怪訝そうな顔で、不安そうに手を伸ばす。レイナーレが光球に触れた瞬間、やはり破砕音と共に光球が掻き消える。しかし、先程とは少し違う。まるで破裂したように空気が震えたのだ。
「いたっ!?」
今度はレイナーレが手を抑えて後退ってしまう。レイナーレの手は、まるで強く手を打ち合わせたかのように赤く染まっていた。
それを見届けたアジュカ様は、暫し黙り込む。私は目を細めながらアジュカ様に問いかける。
「……アジュカ様、これは」
「……まずは席に着け。確証に至るにはもう少し検証が必要だが、推論ならもう立てた」
涙目で手をさすっていたレイナーレを立たせて、改めて席に着き直す。
私達全員が席に着き直したのを見て、険しい表情のままアジュカ様は口を開く。
「前提として、イリナの生み出した武器、現象は『無色の力』を作用して生み出されたもの、或いは強化されたものだ。つまり無色、無形のものに形や色をつける事で顕現している。レイナーレがその存在に疑問を持ちながら触れた瞬間、その力が無形に戻されたと俺は感じた」
「……つまり『無色の力』の状態に戻された、と?」
「そうだ。しかもただ戻すだけなら『キャンセル』しているのかとも思ったんだが、どうにもレイナーレの特性はもっと厄介だな」
「や、厄介ですか……?」
「敢えて名前をつけるなら『反無色』だな。無色の力によって存在した事象を無に返し、強化されたものに対して『逆の結果』を重ねる事で、その強化された事象を否定してしまう。無色の力だけで構成されたものなら結合が解かれるだけだが、無色の力によって強化されたものであれば、それによって自壊するように『無色の力』で与えられた結果に矛盾を発生させて破壊出来る。つまり『無色の力』に対してのアンチ・カウンターとも言える」
思わず言葉を失ってしまった。イリナは私以上に呆然としている。それはつまり、レイナーレが持つ特性が事実だとしたらイリナの天敵でしかない。イリナの力は『無色の力』を基盤としている。その基盤そのものをひっくり返されているのだから。
レイナーレも自分の手を見つめて呆然としている。その表情には明らかな困惑の色が浮かんでいる。そんなレイナーレの様子を眺めつつ、私も脳裏に過った想像に眉を顰める。
「……アジュカ様。その推論なら、レイナーレは『無色の力』を受けたアイテムに逆の結果を重ねる事で無に帰そうとするんですよね? 『駒』に対しても有効なんですか?」
「可能かもしれん」
「……例えば、駒によって転生した悪魔が、駒を破壊されたらどうなりますか?」
「駒の特性を失うだろうな。それが一時的なものか、永久的なものなのか。試すわけにもいかんが、そんな事をすれば最悪、駒によって蘇生された結果すらも否定される可能性がある」
アジュカ様の推測にイリナがさぁ、っと顔を青くした。そのまま声を震わせながら問いを投げかける。
「それって……私の中の駒がレイナーレに破壊されたら」
「悪魔に転生した結果を否定されて死ぬ可能性があるな」
……場が沈黙した。私とイリナ、レイナーレは顔を引きつらせている。アジュカ様は険しい顔をしてレイナーレを見ていた。
「ただ条件として対象を目視し、意識して触れなければならない欠点があるのが救いとも言えるか。これが視線や念じただけで破壊出来るんだったら、うっかりイリナや一誠を殺しかねない所だった。どうやら、先程の検証では念じただけでは効果は発揮しないみたいだからな。あと、本人がそれを『不合理』だと判断しない限りは効果を発揮しないようだ」
「こ、殺すって……」
「落ち着け。だから危険がないように検証をしたんだろう。お前が理解をしていれば防げる事だ。だからこそ、まだ推論の段階だが説明しているんだろう」
レイナーレが狼狽えたように怯える。そんなレイナーレを落ち着かせるようにアジュカ様が冷静な声を告げる。確かに触れなければ効果を発揮しないのであれば、うっかりレイナーレが一誠やイリナの『無色の力』を受けた駒を破壊する事はない。
というより、下手をすれば自分もそうなのだから危なっかしい。思わず冷や汗が出てしまった。それにしても『反無色』って。どうしてそんな厄介な特性を手にしてしまったのか。
「脅すようには言ったが、レイナーレが駒を直接破壊する可能性は低いだろう。そもそも目に見えていないものだからな。これでイリナに触れただけで発揮したら、それはそれで大問題だ。だからこそ、今説明したように『それを失えば死ぬかもしれない』という認識をさせておけば、セーフティにもなるだろう。レイナーレの認識一つだからな」
「あくまで『無色の力』限定に発動すると考えて良いですか?」
「あぁ。リアスの変異にも作用するのか試したい所だが……下手するとリアスが死にかねないな。検証するにしたって危険性が高くて、どうしたものかと思っている所だよ」
「でも、私はイリナとは違って無色の力そのものとも言えますし、あくまで変異がキャンセルされるだけの可能性もありますよね?」
「それはそうだが……。少なくとも現時点で俺が言えるのは、例えを挙げるならリアスやイリナ、お前達が起こす事象は『無色の力』を『正の数』として既存の事象に足しているのなら、レイナーレの『反無色』は『負の数』を掛け合わせていると言えるな。真逆の結果を導き出し、ぶつける事で相殺、或いは破壊する。魔力で出来た光球が弾けたのは『無色の力』で強化され、支えられていた存在が支柱を失った為、消失する反動が生まれたんだろう」
聞けば聞く程、難儀な力だ。イリナにとっては頭の痛い力だろう。イリナの力の大半が意味を無くしてしまうという事なのだから。
ある意味、『無色の力』を扱う者……とは言っても、私と私の眷属しかいないけど、私達に対しての猛毒とも言える力だ。これは流石にこのまま放置は出来ない。
「レイナーレは『無色の力』に対してのアンチ・カウンターのような特性を得たのは、やっぱりレイナーレがそう望んだからの可能性が高いですよね?」
「え……?」
「あぁ、そもそも『無色の力』は本人の資質、そして何より『想念』に反応する。イリナが『錬成』をこなせるように、レイナーレに宿った『無色の力』は『否定』や『拒絶』で力が形になってしまっているのだろうな」
やっぱりアジュカ様も同じ結論か。『無色の力』は『夢幻』だ。望んだものがそのまま形になる。
ある意味、レイナーレのネガティブな精神が『無色の力』にそのまま反映されてしまったのだろうと思う。まさかこんな事になるだなんて思わなかった。
「無闇に使わせたくないんだが、本人が無意識に作用させてしまっているのが厄介だな。下手をすれば自己否定で、そのまま自分自身を殺す可能性だってあるぞ」
「私の暴走と同じ理屈ですね」
「そうだ。早急に自覚をさせて、可能であればコントロールして欲しいのだがな……」
どうしたものか、とアジュカ様が苦々しく息を吐く。こればかりはアジュカ様もお手上げだ。そもそも解析ならともかく、指導するとなると私の力とアジュカ様の相性は良くない。
アジュカ様は起きた事象に対して解析をかけて、それを掌握する事が出来る。私は願望を反映させる事で未知を生み出す事は出来るけれど、それでも結果は導き出されている以上、アジュカ様が掌握する事は出来なくはないそうで。
しかし、未知に対して対処法は立てられても、コントロールを教えるとなると途端に相性が悪くなる。アジュカ様を理論で構築された力だと言うなら、こっちは想念で構築されている力だ。
言ってしまえば理屈はつけれても理論がない、本人の感覚に依存するものと言える。こればかりは自分で掴んで貰うしかないのだけど。今の状況は言ってしまえば制御が出来ていない、軽く暴走していると変わらない状態なのだから。
「早めに気付いて良かったとしましょう。これ、気付いてなかったら洒落になりません」
「まったくだ」
「あぁ、でも多分なんとか出来る方法はあるんで安心してください」
「何?」
アジュカ様が驚いたように目を丸くする。流石に意外だったのか、珍しい顔を見れたと私は微笑む。
「よくわからないものは専門家に聞けば良いんですよ」
「専門家……あぁ、成る程な」
アジュカ様が私の言葉に納得した、と言うように笑みを浮かべた。私を考えている事を察したのだろう。そう、私でもよくわからないならもっと詳しい専門家がいるのだから、力を借りれば良い。
アジュカ様は見当がついたのだろうけど、イリナとレイナーレは首を傾げている。まぁ、普通は“アレ”を心当たりに入れる方が間違ってるのだから仕方ないのだけど。
「専門家って?」
「グレートレッドよ。レイナーレをグレートレッドに会わせてくるわ。私以上に『無色の力』の専門家と言えばアレしかいないでしょう」
私の言葉にレイナーレが沈黙し、少し間を開けてから大きく息を吸う。
「えぇぇええええええええええええええええええええええええええっ!?」
わかっていた反応に私は耳を塞ぎながら、苦笑を浮かべるのであった。