――もし切っ掛けがあるとしたら。それが陽だまりのように暖かかったから。
惜しみもなく与えられる暖かさが、このままずっと傍にいてくれたらと願うようになったから。
そんな些細な事で誰かを想える事が、自分は幸福なのだと感じさせてくれたから。
* * *
「しかし、一誠も大きくなったわね」
「突然なんだよ、リーア」
ある日の午後、駒王のグレモリー家に集まったリアス達が一緒にお茶会を開いている時、ふと何気なしにリアスが呟いた事が発端だった。
「駒王町から離れてたのも長かったから、こうして一誠と一緒にいると大きくなったわねぇ、と思うのよ」
「もう俺だって中学生で、伸び盛りだからな」
「早いわね。幼稚園で会ったのが懐かしいわ」
お茶を口にしながらリアスは微笑む。一誠は幼稚園、リアスと初めて会った時の記憶を思い出す。思い返せば、あれが初恋だったのかもしれないな、と思い直し、頬を染める。誤魔化すように自分も紅茶に口を含む。
「で? 彼女とかいないの?」
「ぶっほっ」
リアスの問いかけに一誠はお茶を噴き出して噎せ返る。黒歌がすぐに布巾を持ってきて、一誠の汚したお茶を拭き取っていく。
「どうしたの?」
「だって、突然聞いてくるし!」
「気になるじゃない。幼馴染みなんだし。で、いないの?」
「いないよ! か、彼女とか……」
そんな事、考えてる暇なんてなかったし、と。強くなるのに必死で、自分には縁遠い話だと思っていたのだ。いきなり問われても困る、と一誠は困った表情を浮かべる。
そうしていると、静かにお茶を口にしていた白音が声を上げる。
「一誠はモテますよ。学校で」
「え? そうなの?」
「本人は気付いてませんが、この性格ですからね。誠実で、馬鹿みたいに一直線でお人好しですから。ただ、一誠が強くなるのに必死で気付いてないだけで」
「そうかぁ?」
自分がモテている、と言われても一誠には自覚はない。振り返ってみれば、悪魔になった事で人間関係から一歩引いて、当たり障りなくクラスメイト達に接してきたと思う。こちらの世界に友人達を巻き込みたくない。そんな思いが一誠の胸にあったからだ。
だから自然と学校で一緒にいると言えば白音とだ。だからあまり意識した事はなかったけれども、自分が女子にモテてるなどと言う事に思い至らなかった。
「一誠が気付かないのも無理ありませんよ。人気はあっても、一誠に声をかけようという女子が少ないだけですから」
「ん? どういう事、それ?」
白音の説明にイリナが疑問を覚えて首を傾げる。人気はあるが、一誠に声をかける女子が少ないというのはどういう事なのだろうか、と。年頃であれば恥ずかしがって声をかけにくい、というのはイリナでもなんとなく想像はつくが、妙に言い回しが引っかかる。
イリナの疑問に答えたのは話題を始めた白音ではなく黒歌だった。少し楽しげな、人をからかうような笑みを浮かべて自分の分のお茶を煎れて席に着く。
「そりゃそうにゃ。一誠と白音、付き合ってるんじゃないかって言われてるからにゃぁ」
「はぁ?!」
「えぇ、だからですよ」
黒歌の告げた言葉に一誠が驚いたように声を上げ、白音はしれっと肯定をする。その反応にリアスとイリナは驚いたように目を見開く。
「えっ、付き合ってるの!?」
「付き合ってないぞ!? えっ!? どういう事!?」
「学校で常に一緒にいますし、悪魔の仕事で一緒に行動する事が多いから噂が一人歩きしてるんですよ。私も否定してませんしね。だから自然と私と一誠が付き合ってるって事で広まってるんですよ」
「なにぃ!?」
そんなの知らないぞ、と一誠は席を立って白音を見る。白音は、まるで黒歌を思わせるような悪戯が成功した表情を浮かべていた。
「結構前から言われてる事ですよ? 本当に気付いてないとか、一誠は鈍すぎです」
「鈍い、というか、なんで教えてくれなかったんだよ!? っていうか否定してないのかよ!?」
「その方が都合が良かったですから。あ、お姉様、お代わりをお願いします」
「あいよ」
お茶を飲み干しながら平然と白音は告げる。白音にお茶を煎れながらも、黒歌はぷるぷる震えて笑いを堪えているようだった。
一誠は暫くぱくぱくと口を開閉していたが、すぐに気を取り戻したように白音へと詰め寄る。
「いや、都合が良かったって」
「悪魔の仕事で急に抜けないといけない時もありますし、放課後も一誠を理由にすれば抜けやすかったですからね」
「でも、だからって付き合ってないのに、付き合ってるって言うのをそのままにするのは……」
「……迷惑でしたか?」
しょげたように猫耳を下げる白音に一誠は思わず言葉が詰まる。しかし、すぐに首を左右に振って、言葉を続ける。
「いや、だって。俺と付き合ってる事にされてるんだぞ? 白音が」
幾ら悪魔の仕事の言い訳に出来るからといっても、それはどうなのだろうか、と。好きでもない男と付き合ってるように思われるのは嫌なんじゃないだろうか、と。
そう考えた一誠の言葉は、しかし返す白音の言葉によって思わぬ方向へと転がり出す。
「あぁ、別に構いませんよ」
「へ?」
「私は一誠の彼女でも良いと思ってますから」
一誠の彼女で良いと思ってますから。
白音に告げられた言葉に一誠は完璧に固まり、黒歌は遂に腹を抱えて笑い始めた。イリナはぽかーんとしたまま固まり、リアスでさえ目を白黒させている。凍り付く場を収めるべく、疑問を口にしたのはリアスだった。
「えと、それは遠回しの告白? 白音」
「そうですね。私は一誠の彼女でも構わないと言うのは、そういう意味で取って貰っても」
「いやいやいやいやいやいや、まてまてまてまてまてまてっ!?」
突然の事に一誠は首を勢いよく振って、白音の肩を掴んで自分の方を向かせる。
白音はいつもの澄ました表情を浮かべているが、その頬に僅かに朱色が帯びている事に気付いて、一誠は思わず動揺してしまう。
「えっ、どういう事?」
「いや、白音がイッセーの事が好きだって事じゃないの?」
「はぁあああッ!?」
理解が追いつかない状況が続いて、遂に一誠が困惑した声を上げてしまう。それにイリナがツッコミを入れて、キャパシティがオーバーした一誠が叫び声を上げる。
とりあえず落ち着きなさい、とリアスに促されて一誠は席に着く。お腹が痛そうに笑う黒歌に何度かお茶を煎れて貰って、それを勢いよく飲み乾して一誠は白音と向き合う。
「お、俺の事、す、すすす、好き、なのか? 白音」
「はい」
「そ、そそそそ、それは、ほ、本当に、か、彼氏、彼女の、れ、れれ、恋愛的な意味でデスか?!」
「はい」
白音の返答に、一誠が二度目のフリーズを果たす。黒歌に至っては笑い死にしそうな程に床に転がって苦悶している。
「黒歌、貴方が笑ってるのは、これが冗談なのか……もしくは、本当に一誠が何も気付かないで学校生活を送っていたのか、どっちなの?」
「ふふふっ! そりゃ当然後者だにゃん。いやー、いつ気付くかと思って黙ってたら、もう全然気付かないんだからお姉ちゃん、お腹が痛かったにゃ」
リアスの問いかけに目に浮いた涙を浮かんだ涙を拭いながら答える黒歌。
ようやくフリーズから復帰した一誠が、明らかに動揺したように白音を見る。
「一誠が嫌だったら、噂は否定するので気にしないでいいですよ」
「いやいや!? ……いやいや!? いや、本当にちょっと待って欲しい!?」
「はい、待ちます。待つのは慣れてますから」
「…………俺、今、自分の鈍感さに首をくくりたいんだけど」
白音の言葉の意味を悟って、一誠は思わず羞恥心に天を仰いだ。確かに思い返せば鍛錬や悪魔の仕事、そして学校の勉強と日々を忙しなく過ごしていたと思う。それならば気付かないのは無理はないのか? と自問自答する。
いや、それにしたって鈍いだろう、と自分でも自分にドン引きする。そんな自己嫌悪に陥りそうな一誠に声をかけたのは黒歌だった。
「仕方にゃいよ、一誠。無理もないにゃ。白音だって何も言わなかったんだし。そもそも、この子が隠してたからね」
「…………だって」
黒歌の言葉に、白音が眉を寄せて、まるで拗ねるかのように唇を尖らせた。
「……一誠、お姉様のおっぱいばっかり見るし」
「ぐぅっ!?」
白音の指摘に一誠は思わず呻く。誤魔化すように汗を拭う動作をして、爽やかな笑みを浮かべる。
「ナ、ナンノコトカナ……」
「思春期だもんねぇ。あと、私だけじゃなくて朱乃やレイナーレのおっぱいに目を奪われたでしょ?」
「存じ上げません」
思わずその場で姿勢を正して、背筋を真っ直ぐと立てながら一誠は断固としての構えで否定をした。
しかし、その顔には汗が浮かび始めていて、それが図星だと言うのを的確に示していた。それを見たリアスとイリナは納得したように溜息を吐いた。
「昔からおっぱい大好きだったもんね、イッセー」
「好きな子が他の女の人、それもおっぱいに目を奪われてたら拗ねたりもするわね……」
「う、うぅぅつ!」
味方がいない! と一誠は膝の上で拳を握りしめた。目が泳ぎ、虚ろに彷徨い出す。
「…………どうせちっちゃいもん」
拗ねたように言う白音に、一誠は思わず白音の胸に視線を向けてしまう。そこにはまだ膨らみかけと言うべき胸部が目に入り、しかしすぐに視線を逸らすように首を振る。
そこまで拗ねたような表情を浮かべていた白音だったが、すぐに穏やかな微笑を浮かべて一誠へと向き直る。
「それに、一誠に振り向いて欲しい訳ではありませんでしたし」
「え?」
「一誠が強くなりたいのは知ってましたから。私は、私が勝手に一誠に好きになっただけで、一誠の邪魔にはなりたくないですから」
それは白音の心からの言葉で、一誠は思わず白音の微笑に目を奪われる。
「……将来、私がおっぱい大きくならなかったら一誠に申し訳ないですし」
「えっ!? そこなの!? いや、それは問題じゃないと言いますかですね!?」
「私的には子種だけ頂ければそれでも」
「子種ぇっ!?」
突然飛び出した言葉に一誠は飛び上がって床に転がった。そのまま後退るようにして壁に背をつけて、それ以上に下がれずに手足をバタバタさせる。
それを見た黒歌の笑いが再び巻き起こり、腹を押さえながら言葉をなんとか紡ぐ。
「し、白音。一誠をあまりからかうんじゃないよ……」
「ムッツリスケベでおっぱいばっかり目に向く人にはこれぐらいストレートに言った方が良いんですよ。どうせ振り向いて欲しいなんて思ってませんし」
「もー、この子はこの子で拗ねた上に拗らせて面倒くさいねぇ」
「白音、本当にそれで良いの?」
思わずイリナが不思議そうに聞く。普通、好きになったら好きになった相手と一緒になったり、愛して欲しいと思うのが自然なんじゃないかと。
それには白音は少し自嘲するような笑みを浮かべる。黒歌も気まずそうにぽりぽりと頬を掻いている。
「……私は、母親を知りませんから」
「まぁ、母親代わりって言うならリアスの母親、ヴェネラナ様がいるけどねぇ」
「でも、本当の母親を私は知らないですから。だから夫婦がどういうもので、どうなるのかわかりません。それに私はリーア様の眷属で従者ですから」
「それを理由にするなら、恋愛に関しては私は自由と言うわよ?」
「えぇ。だから……求めない事にしたんです。誰かを好きになったら、自然と愛した人との子供を求めてしまう。子を作れば、どうしても子を育てないといけません。多分、四苦八苦するでしょうし、きっと私の性格だと父親になる相手に迷惑をかけると思います。お姉様が言うように面倒くさいのは自覚してますから」
「そうやってすぐ拗ねるから言うのよ。……まぁ、捻くれた理由もわかるから、責められないんだけど」
「それに、私、発情期が来てませんし」
再び、場の空気が凍る。発情期、その言葉に一誠が手足をバタバタさせていたのを止めて、席に戻ってくる。そして厳かな面持ちで白音に問いかける。
「発情期とは?」
「……文字通りですが」
「は、発情してしまうと?」
「そうですね」
「え、えっちな事を、し、しし、したくなっちゃうんですか!?」
「……はい。そうみたいですね」
ぺたん、と猫耳を下げて照れたように顔を俯かせる白音に一誠に衝撃が走る。思わず胸元を押さえて、そのまま蹲る。健全な青少年には、そしてそれを秘すべきとしてきた彼には衝撃が強すぎたのだ。
こほん、と白音は咳払いをして、一誠へと視線を向け直しながら言う。
「……未成熟なままでは子供を作るのは危険ですから、先のお話ですけど。でも、それなら一誠がいいな、とは思います」
「………………は、はい」
思わず敬語になって一誠は畏まって返事をしてしまう。
はっきり言って白音は美少女だ。普段はきめ細やかな白い髪を揺らせた穏やかで慎ましい少女。優等生の一面もある事から高嶺の花と言っても過言ではない。
身近すぎて気付かなかったけれども、白音は美少女なのだ。そして姉はあの黒歌だ。遺伝子的な事を考えれば、もしかしたら白音のおっぱいも豊かに育つ可能性が……?
「……えっちな事考えてるにゃん」
「はっ!? く、くっ、静まれ、俺の煩悩……!!」
『そうだ!! その調子だ!! 相棒、煩悩に負けるな!! お前は誇り高き赤龍帝!! おっぱいなどに惑わされてはいけない!! 気を強く持つんだ!!』
「急に出てきてどうしたドライグ!? めっちゃ必死だな!?」
一誠の動揺か、或いはドライグの必死さ故か、突如現れた『
それにリアスが居たたまれない表情を浮かべ、イリナは笑いを堪えるように視線を逸らした。白音はもじもじし、黒歌は呼吸困難に陥った。完全にカオスがこの場に降臨していた。そこに一石を投じたのは、笑い転げていた黒歌だった。
「はー、苦しい。まー、白音が言った事だし。私からも話があるにゃん。一誠」
「はい?」
「私とも子作りするかにゃん?」
「はいぃいいい!?」
今度は別方向から投げつけられた爆弾に一誠は目をひん剥く。イリナも同じように目を見開いて黒歌へと視線を向ける。黒歌は悪戯っぽい笑みを浮かべるだけだ。
「え? は? 何言ってるんですか!? 黒歌さん!?」
「いや、私も一誠との子供は興味あるかにゃー、って」
「Why!?」
「私のはどっちかというと本能かにゃぁ。赤龍帝で、悪魔に転生して、オマケにリアスの加護つきにゃ。自覚が無いかもしれないけど、将来性を考えれば優良物件にゃん?」
「そ、そんな物件みたいな感じで、こ、子作りとか考えたら駄目だと俺は思います!」
「どうせ気持ちよくなるなら気に入った相手としたいにゃん? その点、一誠は不足はないんだけどにゃ?」
ニヤニヤ、と笑いながら黒歌は言う。冗談なのか、それとも本気なのか一誠には黒歌の真意が見えずに困惑するしかない。
「持てまあす位なら私で発散しちゃえばいいんだにゃ。ちなみに私はもう発情期はコントロール出来るようになってるから、いつでもOKにゃん?」
「マジですか!?」
「そうよ? このおっぱい……好きにしてみたくないかにゃ?」
『こら! そこの黒猫! 俺の宿主を惑わすんじゃない! 相棒! おっぱいに目を奪われるな!!』
「でも……でも、ドライグ……! おっぱい、だぜ?」
『相棒ォォオオオオオッ!?』
ドライグの悲痛な叫びが響き渡り、悲しくなる程に赤龍帝の籠手の宝玉が点滅する。そんな光景を見ていたリアスは脳裏に響いた「ずむずむいやーん」という聞き慣れた声に思いっきり首を振って散らそうとする。
場が混沌する中、目を白黒とさせていたイリナは机に手をついて白音と黒歌に視線を交互に向けながら叫ぶ。
「ちょ、ちょっと!? 白音も、黒歌さんもそれでいいの!?」
「私は別にお姉様となら……」
「私も白音となら共有してもいいにゃん?」
「イリナ、俺は今、何が起きてるのかわからない」
「わ、私だっていきなりこんな話に巻き込まれて驚いてるわよ!?」
顔を真っ赤にしたイリナが叫ぶ。まだ思春期半ばのお子様達にはこの手の話題は劇物だと言えよう。
そして何を隠そう。一誠は幼少の頃から何故か、そう何故かおっぱいに心惹かれる事が多かった。それが恥ずかしい事、表に出すべき事ではない事を周囲の大人に諭され、日々の忙しさに意識を意図的に向けないようにしていたのだが、こうして意識させられると目が逸らせない。
触ってみたい、その思いから始まり、どんな感触なのか未知を感触を想像して脳の奧でスパークが走ったかのように身動きが取れなくなる。これがおっぱいの衝撃だと言うのか……! と一誠は戦慄する。
混沌しつづける場を収めたのは、両手を叩いて注目を集めたリアスだ。
「はいはい、姉妹で一誠をからかうんじゃないの。本心でもあるんでしょうけど、少し巫山戯すぎよ?」
「おっと、ご主人様からのお咎めにゃん」
ぺろ、と舌を出して黒歌がリアスからの注意に身を退く。白音は素直に頭を下げる。
「申し訳ありません、リーア様」
「いいのよ。でも、その思いは嘘じゃないのね?」
「えぇ、この場で言った言葉は本心です。後は一誠がどうしたいかに委ねます」
「私もからかう為に巫山戯て言ったけど、まぁ、一誠に興味があるのは本当よ?」
「……だ、そうよ? 一誠」
リアスに話を振られた事で、思わず一誠は姿勢を正してしまう。そんな一誠にリアスは苦笑を浮かべる。
「そんなに身構えなくていいじゃない」
「だって、俺、一応リーアの眷属だし……」
「さっきも言ったけど、恋愛に関しては自由よ。それに悪魔の出生率が低い事は知ってるでしょ? 増えるなら、それに越した事はないと思うわ。それがちゃんと合意だったら、主として支援もするつもりよ?」
「あ、主公認ですか!?」
「まぁ、黒歌も白音も私の飼い猫みたいなものだから、主と言われたらそうね。それにこの子達の事、知ってるでしょ? この子達は親にちゃんと育てられなかった。辛い時期が間違いなくあって、そんな2人が子を作りたい、家庭を持っても良いって言う相手に貴方を選んでも良いと言ってる。それを私は嬉しい事だと思うわ」
「……そこまで大袈裟に言わなくてもにゃぁ。私は本能と興味本位だし」
気まずそうに黒歌が頬を掻いて茶化すように言う。しかし、次にリアスが告げた言葉に黒歌は身を固めた。
「でも処女でしょ、貴方。持て余してるのは一誠だけじゃなくて、貴方もなんじゃないの?」
リアスの指摘に黒歌は罰悪そうな表情を浮かべて、あー、などの言葉にならない声を上げてから、観念したように両手を挙げる。
「……それにはノーコメントで。というか、私が遊んで回ってるとか思わないにゃ?」
「そんな性根があったら、お義姉様が叩き直してるでしょう? それに、白音と同じぐらい貴方だって家族や家庭に憧れがあるんじゃないの?」
「ノーコメント」
ぷいっ、と黒歌は顔を背けて答えようとしない。白音へと視線を移してみれば、苦笑を浮かべている。
「姉妹ですから、面倒くさい所は似てるみたいです」
「だって。……まぁ、だからといって貴方の気持ちは強制されるようなものでもないわ、一誠。悪魔の生は長いし、ゆっくり考えてみると良いんじゃないかしらね?」
「…………お、おぅ」
「だから無理して隠す必要はないにゃん?」
「……触るだけだったら、いつでもいいですから」
「ドライグ! ドライグ! 俺どうしたらいいかわからない! 女の子って何考えてるかわからない!!」
『落ち着け、深呼吸だ、相棒! 心頭滅却し、おっぱいの事を頭から追い出すのだ!!』
「心頭滅却、心頭滅却…………くっ! お、おっぱいが俺の頭から離れねぇ……! 魅惑の果実が俺を惑わす……!!」
『が、頑張れ! 頑張れ相棒ぉぉおおおおッ! おっぱいになど負けてはいけない!!』
一誠が床に転がって、頭を抱えて悶え始めてしまう。そんな一誠にドライグが悲痛な声で叫び続ける。その様を白音と黒歌が微笑ましそうに見守っているのを見て、リアスは苦笑を浮かべた。
ふと、袖を引かれてリアスは視線を向ける。袖を引いたのはイリナで、イリナは顔を赤らめながらもリアスを不思議そうに見ている。
「……リ、リーアは落ち着いてるね」
「まぁ、不思議な話でもないから。悪い話だとも思わないしね」
「そういうものなの……?」
「まぁ、私には縁遠い話でもある、というのもあるのだけどね。私、貴族だから基本的に恋愛して結婚、ってするのは難しいのよ」
「……あっ」
それにイリナはリアスの立場を思い出したかのように声を漏らす。
「……ごめん」
「謝る必要はないわよ。昔からその事で頭を悩ませた事もあるけど、なるようにしかならないし。良い相手に巡り会える事を祈るのは自由に恋愛をする事と変わらないわよ」
「……そういうものかなぁ」
自分を落ち着かせる為にイリナはお茶へと口をつける。恋、幼馴染み達がいつのまにか恋に落ちていて、今こうして話題となった。
自分はどうなのだろうか、とイリナは考える。確かにいつかは誰かと漠然と結婚するのだろう、とは思っていたけれども。今は自分の状況も大きく変わってしまった。
そういう事を考えている余裕がなかった、とう意味では自分も一誠と同じなのだと気付かされた。ちらり、と一誠へと視線を向けていると唸るように頭を抱えてのたうち回る一誠がいる。
「……暫くは相談相手になってあげようかな」
優しくて誠実なのは知っている。それ故、これから大いに悩むだろう幼馴染みを思ってイリナは小さく呟いた。
「……そういえば、婚約で思い出したけれど。ライザーとの婚約はどうなるのかしら……?」
「? なんか言った? リーア」
「いえ、何でも無いわ」
こうして、騒がしく混沌としながらもリアスと眷属達のお茶会は続いていくのであった。
* * *
これは、その後の余談。
「という訳で、白音と黒歌さんから実質、告白を受けたようなものなんだが、俺はどうしたらいいイザイヤ!?」
『モテた自慢なら電話切るけど。というか、今すぐ君の顔面を右ストレートでぶっ飛ばしたいんだけど』
「イザイヤ!?」
『なんで君だけ、そんなうらやま、ごほん、けしからん事になってるのさ!?』
「俺だって知りたいわ!!」
そのままお互いの愚痴が始まり、最後にはおっぱい談義で盛り上がる思春期の少年達であった。