「よく来てくれたわね、グレイフィア」
「いえ。ミスラ様も息災のようで何よりです」
「ここでの生活もようやく慣れた所よ」
くすくすと穏やかに笑って見せる美しい女性を私はぼぅ、と見ていた。この人がミスラ・バアル。サイラオーグのお母さんだと言う人だ。
第一印象で言えば、凛々しいだろうか。美しさの分類をするのであれば気高さだろうか。優しい、という印象よりはやっぱり気高さや厳しさを感じる見た目だ。けど口を開けば見た目より穏やかな雰囲気に驚かされる。
そうしてミスラ様をぼんやりと見ていると、ミスラ様の視線が私へと向いて、頬を撫でてくれる。
「初めまして、リアスちゃん。私がミスラ・バアル。貴方のおばさんよ」
「は、初めまして。リアス・グレモリーです」
「ふふ、髪の色はグレモリー卿譲りですが、顔は義姉様の面影がありますね」
むにむに、と頬を挟み込まれるように両手で包まれて撫でられる。ちょっとくすぐったい。
「サイラオーグも世話になったと言うし、本当に何から何まで悪いわね。グレイフィア。この子が生まれても、お祝いの1つも渡せなかったし」
「お気になさらないでください。そのお気持ちだけで十分でございます」
「そう。何もない所だけどくつろいで行って頂戴」
「えぇ、夕食は私が作りますのでミスラ様はリアス様とご歓談ください」
「あら……。それなら甘えましょうかしら」
クスクス、と笑う様は優しげで、厳しい印象なんてない。厳しい人、という印象はあったけど実際見るとやっぱりわからないものだなって思ったり。
お義姉様が夕食を作りに行って残されるのは私とサイラオーグ、そしてミスラ様の3人だ。うっ、どことなく気まずい……。
「今日はお忍びまでして会いに来てくれてありがとうね、リアスちゃん」
「えと、そんな、私も会えて嬉しいです」
「そんなに緊張しなくても良いのよ?」
「……じゃあ、くつろぎますね」
はふぅ、とわざとらしく溜息を吐いてだれてみる。帽子も外して眼鏡を取る。人目は気にしなくて良いんだから。少し大袈裟なぐらいに力を抜く。
「ここまで来るのは大変じゃなかったかしら?」
「大変でしたけど、私にとって知らない場所は好奇心を覚えますから。本当なら色んな場所に観光だったり、見学に行きたい所ですよ」
「あら、好奇心旺盛で元気な子ね。リアスちゃんは」
「リーアで良いですよ。その、親しい人はそう呼ぶので」
「そう? じゃあ、リーアちゃんって呼ぶわね」
「サイラオーグもリーアで良いよ」
「俺もか?」
「だって
お兄ちゃんみたいなもの、と言うとサイラオーグは目をきょとん、とさせた。あらあら、とミスラ様が笑ってるけど気にしない。遠慮しすぎるのも時には良くないと学んだし、子供なんだから子供らしく少しぐらい遠慮なしに行っても良いでしょ。
「お兄ちゃん、か……」
鼻の頭を掻くようにしながらサイラオーグが戸惑ったような顔をしてる。顔は少し厳つい印象を受けるけど、表情が変わるから愛嬌があるなぁ、等と思いながら見つめる。
そんな私達の様子を微笑みながら見守っていたミスラ様だけど、不意に席を立ち上がった。
「グレイフィアに食器の場所など教えてくるから、少し二人で待ってて頂戴」
「はい、母上」
ぱたぱたと奧にミスラ様が去っていくのを見送って、私はサイラオーグへと視線を向ける。
「ミスラ様、とても綺麗な方だね」
「あぁ、ありがとう。俺にとって自慢の母親さ」
「サイラオーグは幸せものだね」
「あぁ、そうだな……」
幸せものだ、と言うとサイラオーグは少し遠くを見るような視線をしている。その気配になんとなく自分に近いものを感じたような気がした。
何かに思いを馳せるような、届かないものを思うような。そんな感じの気配。
「……やっぱり、気にする?」
「何がだ?」
「自分に魔力がない事。それで……ミスラ様に苦労をかけちゃってる、みたいな」
「……リーア、お前は相手の心が読めたりするのか?」
「うぅん。ただ、なんとなく同じって感じたから」
「同じ、か。じゃあ、お前も気にしてるって事だな」
「……うん」
……そうだ。私はずっと気にしてる。私は“リアス・グレモリー”じゃないと割り切っても、ないものはないと割り切っても。望まない訳じゃなかったんだ。
魔力があれば、もっと色んな道が見えていたのかも知れないのに。今は何の手がかりもなくて、何を積み上げれば良いかもわからなくて、ただ足踏みをしているような状況に焦りを感じている。
そして魔力があれば、多少は変だと言われても気にせずに頑張ろう、なんて思えたかもしれないのに。無い物ねだりだってわかってるけど止められそうにない。
「俺の母親がよく言っていた事だが、魔力が無くても構わない。腕力でも、知力でも速力でも何か1つでも勝てるものを見つけなさい。お前には丈夫な体があるのだから、と言い聞かせてくれた。俺は、それを信じてる。魔力がなくても別のもので補えば良い」
「うん。私もそう思う。そう思うんだよ……」
「それでもお前は焦ってるのか、リーア」
「だって私には何もないんだもの」
腕力も、知力も、速力も。何もない。秀でたる所がないのだから何で勝負すれば良いのかもわからない。何を伸ばせば良いかもわからない。気持ちだけが空回りして、焦りだけが募っていく。
「何もない、か。それは違うと思うがな、リーア」
「え?」
「俺がお前の頃の年の時、俺はずっと泣いていたばかりだった。虐められて、泣いて帰ってきて、その度に母上に叱咤されたものさ。でも、お前は泣いてない。自分が何を出来るか考えて、何かを成そうと前に進んでる。その心の強さはお前の長所なんじゃないか?」
「私が? 心が強い……?」
そんな事ないと思うけど。だって、本当は怖くて、逃げたくて、これから起きる事に目を背けたいなんて思ってる弱虫だ。
「私は、ただ逃げられないだけだよ。だから立ち向かわないと、そっちの方が辛くて苦しいだけだから」
「だから立ち向かうのか」
「だって、立ち向かわないと、ダメなんだもん」
「やっぱりお前は強いと思うぞ、リーア。俺はお前が羨ましい。俺もお前ぐらいの頃にそう思えたら、俺はもっと強くなれてたんじゃないかな、と思うよ」
ぽん、と頭を撫でられた。年の割には大きなごつごつした手だった。この手はたくさんの努力を重ねてきた手なんだろうな、というのが感触でわかった。それが純粋に凄いと思えた。
だから、サイラオーグに私が凄いって言われてもピンと来るものはなかった。されるがままに頭を撫でられながら私は首を傾げるしか出来なかった。
* * *
「グレイフィアは、あの子を私達に会わせたくて来たのね」
ぽつりと、台所にやってきて調理場の器具の配置を説明し終えたミスラが呟く。
それに夕食の準備を進めながらグレイフィアはミスラへと視線を向け、小さく頷く。
「歪な子ね。子供なのに、大人のような、そんな二面性を感じるとても不安定な子」
「ミスラ様の観察眼には恐れ入ります」
「これでも元バアル家の一員だし、色んな方々を見てきたわ。ついサイラオーグと比べてしまうけど、あの子の似てる所と、そうじゃない所も見えてきたから」
「ミスラ様から見て、リーア……リアス様はどのように育てれば良いと思われますか?」
グレイフィアの問いかけにミスラは顎に指を当てるようにして悩む仕草をしてみせる。僅かな間を空けてからグレイフィアへと視線を戻して。
「どう育てたら良いか、と言われると私も答えられないわ。でも、私ならどうするか、と言えば話し合うと良いと思うわよ」
「話し合う、ですか?」
「リーアちゃんは子供のようで、もう子供ではない。早熟過ぎると言えばそうね、早熟よ。でもとても歪。だからこそ、はっきり本人に道を決めさせて歩ませてあげる方が幸せかもね。誰にとっても。だってあの子はもう自分の意見を持ってるんだもの」
「自分の意見、ですか」
「確かにあの子は魔力がない。それで思い悩んでいる節はあるでしょうね。でもね、あの子はだからといって現状に嘆いてばかりじゃない。前に進もうとして、でもどう進めば良いかわからずに足踏みしてるのよ。それが落ち着かなくて、焦りに繋がってるのよね」
サイラオーグとは違うのよね、とミスラは小さく呟く。サイラオーグも語っていたリアスとサイラオーグの相違点はそこだ。かつてのサイラオーグは泣いて、蹲るだけだった。今は努力する方向性を見つけ、ひたすらに打ち込んでいる。
でもリアスは違う。リアスは泣いて辛そうにしながらも、前に進もうと足掻こうとしている。あの年で既に嘆くだけではない、自分で歩もうとする意志を持っている。そして何も為せていないからこそ焦っている。
ミスラにはそれがとても歪なものに見える。けれど持ち得てしまった以上、それは個性の1つだろう、とも思う。
「ヴェネラナ義姉様は悩んでいるのでしょう? リーアとどう向き合えば良いのか」
「……はい」
「ここに来たのはグレモリー卿……ジオティクスの発案かしらね。思い切りの良さは彼の美徳だしね。時に欠点だけど」
クスクス、と思い出し笑いをするようにミスラは微笑む。
「難しいわよね、子育てって。いつまでも子供は子供のままじゃない。気付いたら親の手を離れていってしまうもの」
「……私は子育ての経験がありませんから」
「どんな子でも我が子は可愛いものよ。だから、擦れ違わないようにしてあげて。その子なりの付き合い方というのは絶対にあるものだから。私にとってのサイラオーグのように、貴方達にとってのリーアちゃんのように、ね」
「……はい」
「さて、折角だし一緒に用意しましょう。出来れば少し時間を置くものを作ってサイラオーグに稽古でもつけてあげてくれないかしら? きっとあの子も、最強の“女王”の稽古を受けられると思えば喜んでくれるだろうし」
「ミスラ様の頼みとあらば」
一礼するグレイフィアに、よろしい、と楽しげに笑ってミスラも自らのエプロンを手に取るのだった。
* * *
夕食前の運動という事でお義姉様がサイラオーグに稽古をつけてくれる、との事でサイラオーグが歓喜のままに飛び出していった。それを追いかけたお義姉様がいなくなり、残ったのは私とミスラ様。
私も稽古を見に行こうかな、と思ったらミスラ様に声をかけられて、何故かミスラ様の膝の上に座って髪を梳かれている。
「リーアちゃんの髪は綺麗ね。伸ばしたらとても綺麗になるわ」
「私も伸ばしたいとは思ってます。折角授かった美しい髪ですので」
「ふふふ、本当に利口な子ね。リーアちゃんは」
良い子、と頭を撫でられる。思わず目を細めてしまう。しかし、次にミスラ様の言葉に身を竦ませてしまう。
「……でも、利口すぎてグレイフィアも、お義姉様も心配してるみたいね」
「……そう、ですね」
「気付いてるのね」
「えぇ、まぁ、その。……私はちょっと普通じゃないんで」
「“眠り姫”だった事? でも、確かに異常かもしれないわね。貴方のこの聡さは」
ミスラ様の指が私の髪を撫でる。一定のリズムで髪を梳かれてその感触の心地よさを感じながらも、心はどこか沈んでいく。やはり他人から異常に思われるのは、自分は気にしなくても周りを巻き込むのは心苦しい。
そうして表情を暗くしていると背後からミスラ様に抱きしめられる。突然の事に少し身を竦ませてしまう。
「難しいわよね、貴方はこんなにもしっかりして、周りの人の事を見て、考える事が出来て、なのに甘えて良いなんて言われるのは」
「ミスラ様……」
「でも、心を押し殺してまで耐える事はないわ。貴方なりの甘え方を見つけなさい、リーアちゃん。親は親でいさせなさい。親は子供を大きくなっても子供として扱うのよ。一人前として認めても、ね? 甘え続けるんじゃなくて、お互いにより良い関係を築きなさい」
それは優しくも、どこか叱咤するような言葉だった。自分なりの甘え方を見つけろ、との言葉に思わず振り返ってミスラ様の顔を見る。
今、強く思う。この人は気高き人だ。為さなければならない事を示してくれる人だ。
私は子供だ。何か出来る訳じゃない。無力で、少し賢しいだけの子供だ。でもそれだけではいられない、いたくない。少しでもかけた迷惑を返していきたい。私の事で心労を重ねて欲しくない。
けど、子供だから。私はあの人達の子供でいなきゃいけない。いや、いたいんだ。私はリアス・グレモリーだから。誇って貰えるような子になりたいんだ。“リアス・グレモリー”のように、彼女に負けないぐらいに。
その為にはただ迷惑をかけるんじゃなくて、甘え方を考えなさい、と。これは目から鱗が落ちたような気がした。甘えるのがダメなんじゃなくて、甘え方を考える、というのは私になかった発想だった。
「帰ったら家族の皆にちゃんと話してみなさいな。自分の気持ちを、自分の願いを。貴方はもう、貴方の中になりたい自分がいるのでしょ?」
胸を指で突かれる。その気持ちがそこにあるのだろう、と言うように。
私はこくりと頷いた。そうだ、私には目的がある。為さなければならない事がある。誰かに強制された訳じゃないけれど、どうしても果たさなきゃいけない事があるんだ。
“リアス・グレモリー”のようになりたい。そして彼女すら超えていきたい。それが私の本当の気持ち。いつか来たる未来も乗り越えられるだけの自信と力が欲しい。
「……あります。私は、グレモリーの誇れる子になりたい」
「道のりは遠いわよ。貴方の道の先には貴方の父や母、そしてサーゼクスやグレイフィアがいるわ。乗り越えなければいけない壁はとても、とても大きく、道は険しいもの」
「だからって歩まない理由にはなりません。だって、私はそうなりたい。心の底からそう思うから」
「良い夢ね。とても大きな、素敵な夢」
―――夢。
そうだ、これは私の夢だ。グレモリーの恥じない子でいたい。どんなに険しくて辛くても乗り越えないといけない壁だ。そこに至らなければ叶うものなどないから。
夢。自分でも口にしてみる。何故だろう。その言葉が凄く、胸に嵌る。私は夢を見たい。夢を見ていた。そしてそれを叶えたい。叶えないといけない。叶えなければならないんだ。
「ミスラ様。私の夢は、こんな私でもグレモリーの名に恥じない子になる事です。その為に強くなりたい。誰にも馬鹿にされないぐらい、強くなって。貴方達の生んだ子はこんなに凄いんだ、って父上や母上に思って欲しいんです」
「そう、素敵な、とても素敵な夢ね」
「はい!」
帰ったら話してみよう。これが私の夢なんだって。叶えたい夢があるんだって。いっぱい話をしよう。私はあの人達に心の底から、恩返しがしたいんだって。
* * *
「……夢、か」
息を潜めながらサイラオーグは呟いた。稽古を終えて戻ってくるとリアスとミスラの会話が聞こえていたのでついついグレイフィアと盗み聞きをしてしまったのだ。
ふと顔を上げればグレイフィアが複雑な顔をしているのにサイラオーグは気付く。気持ちは想像出来ない訳じゃない。だからこそサイラオーグも思う事がある。
夢。サイラオーグにも夢がある。いつか母上に恩返しをし、バアルの次期当主の座を手に入れる事だ。そして母を自由にして、誇りと名誉を取り戻したいのだ。滅びの特性が無くてもバアルにその名がありと轟かせる為に。
「ふふ、これではリアスがライバルだな」
幼くも、既に大人な一面を見せている従妹。彼女は自分に力がないと嘆いているが、正しき道を歩み、夢に向かって進み始めればあっという間に駆け上がっていくだろうという想像がサイラオーグの脳裏に浮かぶ。
それはきっと現実になるだろう。だからこそ、自分も負けられない。奇しくも胸に抱いたのは似たような思いだからこそ。負けたくない、負けられない。自分とてバアルの子であり、誇り高き獅子を司るウァプラの血を引く男児なのだから。
「グレイフィア殿、リーアは強い子ですな」
「……えぇ、とても」
「俺は、リーアに負けたくない。あいつは強くなる。絶対に。そして抱いた願いが近しいならば尚更に」
決意を込めて拳を握る。まだ全てを砕く事は出来ない拳だが、いつか、いずれ。
そんなサイラオーグの姿を見て、グレイフィアはそっと瞳を閉じるのだった。
* * *
別れの時はあっという間だった。元々、お忍びで来ている訳で長居する訳にはいかない。夕食を終えて、多少の歓談をすれば帰還しなければならない時間になっていた。
本当はもうちょっと話したかった。サイラオーグとも、ミスラ様とも。今度はいつ会えるかわからない、との事だったから。
「それじゃあね、リーアちゃん。元気でね」
「はい。ミスラ様もお元気で」
抱き上げられ、強く抱きしめられる。私もまた強く抱きしめ返して感触を覚えようとする。長い抱擁から介抱され、地に降りるとサイラオーグが歩み寄ってきた。
視線を向けると、無言で視線を交わし合う間が出来る。不意にサイラオーグが拳を握り突き出す。
「リーア。俺はいずれバアルの次期当主の座を奪い取って見せる」
「……うん」
「そして上級悪魔になり、バアルにサイラオーグがあり、と認められるような男になろう。そして―――いつか、魔王にすらなってやる」
真剣な眼差しで気迫すら込めて宣言する。……なんで私に宣言するのかわからないけど、私だって同じような夢がある。
こつん、とサイラオーグの拳に自分の小さな拳を当てる。こんな小さな手だけど、いつか必ず、この人にも負けないような力を手に入れてみせる!
「私も、グレモリーにサーゼクスお兄様だけでなく、リアス・グレモリーがいるんだと認めさせたい。例え、魔力が無くても」
「あぁ、強くなろう」
「強くなりましょう」
「誓うぞ!」
「誓うわ!」
子供の約束のような、けど私達にとって絶対の誓い。そんな風に思える。
なろう。絶対になろう。サイラオーグのように、“リアス・グレモリー”のように、憧れる多くの人達の背に追い付いて、いつか追い抜くぐらいに!
そんな私達の光景を微笑ましそうに見つめるミスラ様と、何か決意を秘めたお義姉様の表情に気付く事は無かった。
* * *
サイラオーグとミスラ様に別れを告げて帰宅したグレモリー邸。入り口では帰りを待っていたのかお父様とお母様が立っていた。
私は二人の姿を見つけたら全力で駆け出した。ただ走って、走って飛びつくように抱きついた。
甘えよう。いっぱい甘えよう。そしてお願いを聞いて貰うんだ。私を冥界一の、歴代で一番のグレモリーになれるように教えてくださいって。そして二人にいっぱい、いっぱい胸を張って、自慢の両親ですって誇らせて欲しいんだって。
大事な人達の為に頑張りたいの。その方法を教えて欲しいって。恩返しの方法を教えてくださいって! それが、それが―――私の夢だから!!
* * *
―――夢見る。
夢は幻。形とならぬ朧。
しかし心はそこにある。
夢を見た心は胎動する。
鼓動が響く。夢を原動力に。
生きる。この生命を、力強く。誇らしく。
夢が胎動する。ゆっくりと、ゆっくりと。