深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.12

 ――奇妙な程に静かだった。

 しかし、その闘争は確かにここにあり、今も光の尾を引くようにして空中を跳ね回っている。

 リアスとオーフィス、グレートレッドの加護を受け、その力を振るえる悪魔と無限の龍神の戦いは激しく空中でぶつかり合う。奇妙なのは、力と力がぶつかっている筈なのに、その衝撃が周囲に影響していないという点だ。

 リアスによって消し飛ばされた腕を、己の力を“蛇”として、更に腕へと変化させて修復させたオーフィスは再生した腕でリアスを殴り飛ばす。防御の姿勢を取ったリアスはそのまま殴り飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。

 先程の獣のように襲いかかってくるのとはまったく違う。機を伺い、反撃を主体にして戦うリアスにオーフィスは違和感が募るばかりだ。

 

「……あれは」

 

 リアスが纏うもの。深紅のオーラにオーフィスは見覚えがあった。それはいつの時に見かけたものだったか。

 それは確か、悪魔だった筈。悪魔のようなものと言うのが正しいかもしれない。触れる何もかもを消滅させる、消滅の権化がいた。そのオーラとよく似ている。

 どうやらその力を使って、周囲に広がる余波を掻き消しているらしい。それがオーフィスが全力で力を振るっても、周囲に何も影響が無くなっている理由のようだ。そして、自分が知る存在が“そんな事を気にする”ような存在だったろうか? と疑問がよぎる。

 

「……グレートレッド、じゃない?」

 

 そこで、己の疑問を口にするように。オーフィスは眼前の“紅”へと視線を向け直した。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 “消滅の魔力”は、触れるもの全てを滅ぼす力。

 本来、私が私である為に失われた力。グレートレッドと繋がり、グレートレッドの無色の力を受け入れる器として削ぎ落とされた権能の筈だった。

 そう、その現実は変わらない。だから私が“消滅の魔力”を扱えるのには当然の如く、絡繰りがある。これは似て異なるもの、決してそのものにあらず、私が望むが故に具現化した夢そのもの。

 私が奪ってしまったリアス・グレモリーをもう否定しない。その全てを飲み込むと決めたからこそ発現出来た力。それは確かに“消滅の魔力”ではあるけれど、用途はまったく違うものと言っていいかもしれない。

 

(――“余波の消滅”)

 

 このままオーフィスとただ殴り合っていたらどうなるかわからない。だからオーフィスと私の力がぶつかり合う瞬間に広がる余波に意識を向けて、その消滅を願う。

 世界は改変される。私が願うままに。こう思えば万能に見えるのだけれど、実際に万能である。願った事を叶える為に、邪魔な事象を“消滅の魔力”で消し去って現実とする。

 いつしかグレートレッドが言っていた事を思い出す。リアス・グレモリーという存在は、運命の糸を絡め取る糸車。即ち因果の特異点。それがグレートレッドに選ばれた要因の一つかもしれないと。

 でも、今なら思う。夢を現実とするならば、その変換には現実が邪魔となる。私の“消滅の魔力”は狙った対象を消失させる事が出来る。結局の所、なるべくしてなったのかもしれない。私がグレートレッドの力を受け取り、現実へと出力させる為には。

 

(けど、キッツ……!!)

 

 私の意識が削られていく。端から削り落とされていくかのような、そんな痛みにも似ている。けれど決して痛みではない。ただ、私という存在が消費されていくんだ。

 代償は私そのもの。“無色の力”は限りはない。夢は願うままに。私が願った事が現実となる。だから、私が“消滅の魔力”を扱うには痛みを伴わなければならない。

 私は“リアス・グレモリー”の席を奪った事実を、私が何よりも許されたくないから。代償がなければ使えない。そんな思いが根底に根付いている。だから“消滅の魔力”の顕現は著しく私の存在を削り取っていく。

 でも、それで良い。無くなるなら、その分だけ継ぎ足せば良い。私が欠けていくなら、その度に埋め直せば良い。夢に限りはない。願う事に限界はない。叶えたいと思うならば、この痛みと共に果ての果てまで。そうすると決めたのだから。

 代償はあるようでない。あるとすれば、それは代償ではなくてリスクだ。それは私の心折れた時には全てが泡と散る泡沫の夢という点だけ。願うなら願うだけ、夢を見るなら夢を見た分だけ、この瞳が閉ざされた時、私の全ては終わり果てる。

 

「死なせない、奪わせない。何も、何一つ、私から奪わせてやらない」

 

 奮起するように声に出し、迫り来るオーフィスの光弾に“消滅の魔力”を纏わせた手で引き裂くようにして掻き消す。

 そうだ、奪わせない。私が得たものを何一つとして。それを無遠慮に奪い取ろうとするなら、私だって容赦はしない。消してやる、邪魔なものは全部。

 問題は、存在そのものを“消滅”させる事も出来なくはないのだけど、オーフィス相手にどれだけ出力が要求されるか未知数だと言う事。それで私の心が折れたが最後。私は抵抗の術を失ってしまう。

 

(積み重ねるように……!!)

 

 限界は私の心が折れるまで。それなら我慢比べに付き合って貰う。全てを無為に、私達の闘争には何の意味も余波もない。もしかしたらお兄様達と連絡が取れて助けが来るかもしれない。それは希望だ。だから、私はまだ踏ん張れる。

 例えオーフィスと戦い続ける事が終わりのない戦いなのだとしても、私は決して1人じゃない。皆がいる。私が繋いできた縁がある。それをアテにする時点で私は弱いけど、弱いから繋いで来れたものだ。だから最後まで信じる。

 

「……聞きたい」

 

 ふと、それは不意に。

 オーフィスが動きを止めて、私をジッと見つめてくる。その目には疑問の色が浮かんでいる。

 

「……グレートレッドじゃない? なら、何? 静寂?」

「……は?」

 

 静寂? 一体何のこと? オーフィスから問われた事に私は思わず呆気取られてしまう。確か、記憶を辿ればオーフィスの目的は次元の狭間に存在するグレートレッドを倒して、そこに帰る事が目的だった筈。

 静寂、静寂ってじゃあつまりどういう意味? それを私に宛てて問いかけてくる意図が見えない。必死に考え込もうとした所で、更に問いかけが重ねられる。

 

「消えていく。戦いの音も、力の余波も、あるべきがない、ないはずものがある。矛盾。我、興味を抱いた。貴方は何?」

 

 ……もしかしたら、これは戦いを回避出来る? オーフィスが私をグレートレッドと誤認して襲いかかって来ないなら、戦い理由は無くなる。私の感情の行き場はちょっと無くなるけど、私は別にオーフィスを殺したい訳じゃない。

 一誠とイリナを悪魔に転生させてしまった切っ掛けだけど。それでも結局の所、私は誰かを殺したいや、消したいと思う事は出来ない。どんなものであれ、消してしまうのは怖いし、無くなってしまうのは悲しいと感じてしまうから。

 “消滅の魔力”を限定的に扱えるようになったから。わかってしまうんだ。消えてしまう事の儚さが、それを選択して消せる事が出来る事そのものが。だから自分で自分の心に戒めをかけなきゃいけない。でなければ、消してしまう事に躊躇いがなくなってしまいそうだから。

 

「……私はリアス・グレモリー。確かに本来は生まれちゃいけなかったのかもしれない。でも、夢を叶える為に生まれてきた。グレートレッドと繋がって、悪魔として生まれた女の子よ」

「リアス・グレモリー。……夢? やっぱりグレートレッドと同じ? でも、違う。貴方はここにいる。ここにいてはいけないのに。矛盾。故に静寂?」

 

 ぶつぶつ、とオーフィスは何かを呟いて自分の疑問を解消しているようで。それを警戒しながらも見守る。

 

「グレートレッド、……違う、リアス。リアス・グレモリー。それが貴方。我、決めた」

「……は? 何を?」

「――お前を我のものにする」

 

 

 

 

 …………はい?

 

 

 

 

「も、ものにするって」

「我、静寂を得たい。リアス、静寂を生み出す。我が望むもの。だから我、リアスを手に入れる」

「はぁ!?」

 

 突然何を言ってるの、この龍神様は!? 私が今度は問いを投げかけようとした瞬間、オーフィスの掌から“蛇”が生まれていく。それを放るようにして私に向けてくる。

 咄嗟の事に回避しようと翼を羽ばたかせるも、その内の一匹に食らい付かれる。瞬間、その蛇は私の全身を縛り上げるように巨大化して、私を締め上げる。

 

「ぐ、ぇ!? こ、のぉッ!!」

 

 “消滅”の意識を向けて“蛇”を消し去る。自由になった体で、空中に漂い、再度向かってきた蛇たちを全て叩き落とす。

 

 

「――アハ、アハハハ、アハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 瞬間、思いもしなかった声を聞いた。オーフィスが笑っていた。今まで感情を伺わせなかった無表情ばかりだったのが、狂ったように笑みを浮かべていた。その変化の落差に私は背筋に悪寒が走った。

 オーフィスの瞳に見据えられる。ぎょろり、と蛇のような瞳孔に変化した瞳は私を捉えて放さない。その瞳には焦がれるような執着があった。私にどうしようもなく向けられた感情は、私の自由を奪おうとしているかのようにも感じた。

 

「静寂! グレートレッドでもない! 違う! 我が求めたもの! ようやく出会えた! リアス! リアス! 我、お前が欲しい!!」

「なんでいきなりテンション上がってるのよ……!?」

「リアス、もっと静寂を! 我に静寂を! 我、リアスを求める! 我と一緒に来る!!」

 

 わからない、何がオーフィスの琴線に触れたのかわからないけど、先程とは打って変わってオーフィスが苛烈に向かってくる。

 打ち払おうとした手を掴まれて、その手を強く握られる。そのまま潰されてしまうんじゃないかと思うような力に対抗して力を込める。息がかかりそうな程に距離を詰めたオーフィスが喜悦に歪んだ顔で私を見つめているのが怖い!

 

「ッ……! 私が欲しいって言うなら、もうちょっと交渉というか! 私の話を聞きなさいよぉっ!?」

「貴方も果てのないもの、グレートレッドと似て異なり、また我と似て異なるもの。我の番、見つけた」

「は、はぁ?! 番!?」

 

 番!? オーフィスからさっきから飛び出してくる言葉の数々に脳が混乱する。

 

「静寂の世界、有限と無とし、無限を有とする。夢の現子! 挟間はもう要らない! 貴方がいれば何も要らない!!」

「ちょ、ちょっと……!!」

 

 何がそこまでオーフィスを駆り立てるって言うのよ……!? 力は強まるばかりで、抗う為に“消滅の魔力”を押し込んでも、それを上回る“無限の力”で力押しされる。

 オーフィスの言葉足らずでは、オーフィスの意図を掴みきれない。詳しく聞きたくも、何故かはわからないけどオーフィスは有頂天になっていくかのように爛々と狂喜に表情を歪ませていく。話が出来るような状態じゃない。混乱も相まって、力押しされるのに押し負けそうになった時だった。

 

 

 

「――私の妹を口説くには、あまりにも作法がなってないな。オーフィス」

 

 

 

 耳に届いた声に、私は一瞬意識を止めそうになってしまった。私が扱う“消滅の魔力”に似た光球は、的確にオーフィスの腕だけを吹き飛ばして私を解放する。

 即座に距離を取った私を背後から抱き留める誰かがいる。視線を上げれば、私とよく似た色の紅の髪が風に揺れていた。その顔に柔らかく微笑を浮かべていて、私を抱き締めてくれる。涙が出て、声が震えた。

 

「お兄様!」

「よく頑張ったな、リーア」

 

 私を強く抱き締めてくれるお兄様の感触に、私はただ歓喜に震える事しかできなかった。

 

 

 * * *

 

 

「……サーゼクス。そう、なるほど。リアスは貴方の妹。理解した」

「面を合わせるのは久しいな。以前は老人の姿だった筈だが……いや、そんな事はどうでも良い。オーフィス、何故私の妹を欲する?」

 

 サーゼクスが介入した事によってオーフィスは警戒するように動きを止める。サーゼクスも険しい表情を浮かべたまま、オーフィスを見据える。

 駒王町の異変に気づき、更に黒歌達の連絡を受けてサーゼクスは責務も何も放棄して飛び出した。後でお咎めは受けるであろうが、放ってはおけないという思いのまま、ここに馳せ参じたのだ。全ては妹、リアスの為に。

 

「我は静寂の世界を得たい。その為に次元の挟間に帰るつもりだった。それには、グレートレッドが邪魔」

「……だからリアスを狙った訳か。だが、それがリアスを求める事に繋がる?」

「我の番とする」

 

 びき、とサーゼクスのこめかみに青筋が浮かぶ。しかし、そこはすぐに息を整える。口の端を引きつらせながらも、サーゼクスは言葉を続ける。

 

「ほぅ、番。確かにオーフィス、君に性別などあってないようなものだが。それで私の妹に手を上げたのか?」

「我のものにする。我と一つになる。我と共に永劫の静寂となる」

「……そこにリアスの意志はあるのか?」

「我は静寂を得たい。その為なら、我は何でもする」

「……一つになればどうなる。永劫の静寂とは何だ? 静寂を得て何を為す?」

「――何も」

 

 オーフィスの解答にサーゼクスは溜息を吐く。話にならない、と。

 次元の挟間への帰還、グレートレッドの打倒、それから転じて、リアスを手に入れる事で得られる永劫の静寂。それが意味するものを考え、脳裏に過った想像を口にする。

 

「リアスを番として、永劫の円環を繋ぎ、二頭による永遠の静寂(ウロボロス)へと至りたいという事か? 閉じた円環、何者も干渉されない世界、互いの尾を食み、互いのみが存在する世界。それが望みか? オーフィス」

「言葉にするなら、そう」

「それって……オーフィスと私だけの世界って事……?」

 

 サーゼクスの腕の中にいたリアスが、唇を震わせながら問いかける。オーフィスは花が咲くかのように笑みを浮かべて、肯定を示す。

 それを恋を覚えた少女のように、と言うのは簡単だろう。だが、その性質はそんな可憐なものではない。自分の望みの為に、他の全てを切り捨て、排除する世界を望むという事に他ならない。

 

「我は、静寂を得たい。リアスとならば、次元の挟間に至らずとも成し遂げられる。そこには、ただ静寂があるがままになる。故に、我はリアスを求める」

「私だけの世界って……本当にそんなものが欲しいの? 永劫の静寂って事は、何もないって事でしょ? それが望みって、そんなの死んでるのと何も変わらないよ! ずっと静かなだけなんて、そんなの私は嫌だ!!」

 

 オーフィスの願いを理解したリアスが、拒絶の意志を叫ぶ。それを受けたオーフィスは笑みを浮かべるのを止め、その無表情のままに一息を吐く。

 

「――なら、壊そう」

 

 それは、何でも無い事を決めるように。ごく当たり前の事を口にするように。

 

「貴方がこの世界にいたいなら、この世界にいたい理由を全部壊そう」

「…………なに、言ってるの……?」

「静寂を得る為なら、我は――リアスを壊してでも、手に入れる」

 

 ただ、全ては静寂の為に。静寂の為ならば、何を壊しても構わないと。

 リアスは理解が追いつかない、という表情を浮かべる。そして、ただオーフィスを見つめる事しかできない。口がぱくぱくと、息を求めるように動き、思考は何故? に埋め尽くされる。

 そんなリアスを強く抱き締めて、サーゼクスは憤怒の表情を浮かべてオーフィスを睨む。

 

「そんな自分勝手な願いの為に私の妹をくれてやれるものか。永劫の静寂が欲しいなら、私が与えて見せようかオーフィス」

「滅びの化身、そう。貴方になら可能かもしれない。でも、貴方には無理」

「本当に無理かどうか、確かめてみるか?」

「――滅びだけでは、何も生み出せない。それは貴方がよくわかっている事」

「……だとして。滅びと、永劫の静寂。そこに何の違いがある?」

「それも貴方が一番わかってる筈。滅びと静寂は異なる。静寂とは滅びではない、永劫の共存」

「それは死んでいると何も変わらないと言っているんだ、オーフィス!!」

「我にとって死は無ではない。理解して貰おうとも思わない」

「徹底抗戦の構えという事か?」

 

 サーゼクスがリアスを背後に回すように手を離し、オーフィスと対峙しようとする。

 サーゼクスが臨戦態勢に入るのと同時に、逆にオーフィスは構えを解いてしまった。

 

「今日は帰る」

「……何?」

「騒がしくなってきた。我には有象無象、けど邪魔は邪魔。なら、我も仲間を作る。必要なら我は“蛇”をばらまく」

「……正気か? 本気でそれを言っているのか!? “蛇”をばらまくだと!? そんな事をすれば世界が混乱に陥るぞ!!」

「どうでも良い」

 

 心の底からそう思っていると言わんばかりに、オーフィスは世界への無関心を示した。オーフィスの今の目的は、リアスを手に入れて、リアスを利用して閉じた世界を作り出す事のみ。

 その為ならば手段を選ぶ事はしない。ドラゴンとは、いつもそういうものだ。それが龍神クラスのものとなれば、それは世界にとってどんな災禍になるかわかったものではない。

 

「オーフィスッ!!」

 

 咄嗟に魔力を込めた光球をオーフィスに放つも、オーフィスの姿が掻き消える。

 空間の揺らぎを感じる事からか、恐らくは別空間へと逃げられたのだろうと察してサーゼクスは歯噛みする。あの世界に興味を示す事のなかったオーフィスが、世界に対して本格的に影響を及ぼす為に動き始めようとしている。

 それは、リアスに聞いていた未来よりももっと酷いのではないかと、そう思って咄嗟にリアスを抱き締めるべくサーゼクスは振り返る。リアスは呆然とオーフィスが消えた場所を見つめていた。

 

「……リーア」

「お兄様……」

 

 なんと声をかければいいのか、わからなかった。わからないままサーゼクスはリアスの頬へと手を伸ばし、リアスもサーゼクスの手に自分の手を重ねる。

 

「ごめんなさい、お兄様」

「何を謝るんだ、リーア」

「私、オーフィスと一緒に静寂なんて作りたくない。まだ、この世界で生きてたい。私がこの世界を無茶苦茶にしてしまうかもしれなくても、私はこの世界で生きてたいよ」

 

 その言葉は、サーゼクスに驚愕を与えた。まさか、そんな言葉を聞けるとは思えなかったからだ。いつだってリアスは過剰に自分を責めて、消えてしまいそうだったのだから。だから、リアスの口からしっかりとオーフィスへの否定を、生きたいという願望を口にするのは予想していなかった。

 頬を撫でるサーゼクスの手に自分の頬をすり寄せるようにして、リアスは涙を零しながら瞳を閉じる。その体は震えているけれど、それでも困ったように微笑を浮かべて。

 

「……生きたいよ。まだまだ変わりたいんだ。皆と、一緒に」

「……あぁ。連れてなんていかせるものか。永劫の静寂などと言うものの為に、お前を渡すものか」

 

 自分の腕の中に閉じこめるようにサーゼクスはリアスを掻き抱いた。抵抗される事無く、リアスはサーゼクスの腕の中に収まり、その身を預けるようにして力を抜いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 邂逅は為り、泡沫の夢は淡く弾けた。是よりは夢現。

 運命は加速し始めた。誰にも止められないまま、時代の流れを大きく変えていくように。

 “夢幻”、“無限”、そして“夢現”。円環は混ざりて、そのシンボルを象る。

 さぁ、果てのない夢を見続けよう。

 


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