深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.02

「社交界デビューはなかなか面白い出だしじゃないか、リーア」

「社交界なんて出てると肩が凝って仕方ありませんでしたけどね。お兄様の苦労が少しわかった気がしますよ」

 

 私は兄様とお茶をしつつ、話に興じる。話題はこの前、私が出た社交界の事だ。もう兄様の耳にも届いてたんだ、あの話。

 結果だけ言えば良くも悪くもなく。表だってやっかみを口にする声は減ったものの、やはり私に魔力を感じないというのは察する者もいたので、せめて礼儀だけでも仕込んだ等と言われているらしい。別にどうでも良いんだけど。

 後は自分の行動で評価を覆していくだけ。機会は与えて貰ったんだから、ここからが私の戦いの始まりとも言える。正直、やってやろうという気持ちしかない。不安がない訳じゃないけど、今まで何も出来なかった過去に比べれば今の方がマシだと思う。

 

「いずれはリーアも“超越者”に名を連ねる事になるだろうからね。今の内に篩を掛けてもいいかもしれないね?」

「縁の繋がりは社会において力ですしね」

「そう考えれば、リーアは四大魔王という魔王全員の後押しを受けている訳だけどね?」

「肩書きは重たいですねぇ。下手な事が出来なくなりますから」

 

 よくよく考えれば凄い事だと思う。四大魔王の庇護を受けているなんて。その分、私の責任は重いと思う。世界でも最強クラスであるグレートレッドと繋がっている事も含めて、私は軽率に振る舞う事は許されない。

 

「確かに場を弁える事は大切だ。プライベートでは好きにやる事も大切だがね。でなければ疲れてしまうよ」

「否定はしませんけど、プライベートでも少しは大人しくして欲しいと魔王の皆様方には思っていますけどね? あ、ファルビウム様はともかくとして」

 

 ジト目でお兄様も見るも、お兄様は涼しげな表情でスルーするのみだ。まぁ、お兄様の言う事も最もではあるけど。オンオフの切り替えはしっかりしないと心に来てしまうから。

 それにしたって魔王の皆様はフリーダム過ぎる。ファルビウム様はハジケてはいないけど、あの人はあの人で働きたくないというオーラを丸出しだしなぁ……。

 

「そうだ、リーア。少し真面目な話をしようか」

「? 真面目な話、ですか?」

「あぁ、そうだ」

 

 そう言うとお兄様は姿勢を正した。私もまた居住まいを正す。先程まで緩かった雰囲気が引き締められる。

 すると、お兄様の背後に転移魔法陣が浮かび上がる。そして魔法陣の中から出てきたのは私も見知ったお兄様の眷属、『僧侶(ビショップ)』のマグレガーだった。私の力の正体が判明した頃に会ったけど、それ以来かな?

 

「マグレガー、久しぶりね」

「ご無沙汰しております、姫。息災なご様子で何よりです」

「マグレガー、お前もかけてくれ。長い話になりそうだからね」

「はい。それでは失礼させて頂きます」

 

 マグレガーが一礼の後、席につく。さて、とお兄様が身を乗り出すようにして両肘をテーブルの上につけて私に視線を向ける。

 

「重要な話というのは、リーアの力についてだ」

「私の力について?」

「あぁ。今一度、リーアには自分の持つ力がどういうものなのか自覚して貰うのと、今後どのように研鑽をしていくのか。それについてだ」

「僭越ながら、私も主より姫の力について解析を任されておりましたので、その報告も兼ねてですね」

「あ、マグレガー。その、私の力について最初に知ったのはマグレガーだったんだよね。その、気苦労をかけてごめんなさい」

 

 最初は私に魔法の適正があるのかどうか、という為に調べた事が随分と大事になってしまい、マグレガーには正直申し訳ない思いでいっぱいだった。

 あれから会う機会が少なかったのもお兄様が言うには私の力の解析を続けてくれたのだと言う。本当に申し訳なさで胸がいっぱいになりそう。

 

「いえ、私も身に入った研究が行えたので姫がお心を痛める必要はありませんよ」

「……そう。それなら良いけど」

「それでは早速、本題に入らせて頂きましょう」

「頼むよ、マグレガー」

「姫の発現した力、それはかの“真なる赤龍神帝(グレートレッド)”から流れ込む“無色の力”。それは既にお二方も知っての通りでございます。この力の利点と欠点から改めて認識を同じくさせて頂く為、私から持論を述べさせて頂きます」

 

 前置きを置いて、マグレガーは私の力について解説していく。

 今の所、私が宿すグレートレッドの力は“無色の力”と呼ばれている。この力のみでは何ら変哲もないあるだけの力、しかし“無色の力”は他の力と混ざり合う事で力を引き上げる事が出来る。

 その力を宿す私は“空の器”。悪魔ベースでありながらも、グレートレッドの因子を持つが故に悪魔ならざる悪魔となった。私が3年も昏睡していたのも、体に因子が定着するのに必要な時間だったとマグレガーは見ているという。

 

「“無色の力”は対象を選びません。これは利点であり、同時に欠点であります。もしも、姫の血肉の特性を知れば誰もが姫の血肉を自らのものにしようとするでしょう。姫の身柄を押さえる、それだけで力を引き上げる事が出来る事が約束される。これは脅威です。姫はこの点を常に心に置いておいてください。決して軽率に御身を扱わぬように」

「わかっているわ。私の力は自分自身にだけ作用される力じゃないから気をつけろと言いたいのでしょう?」

「えぇ」

 

 そう。私の力は対象を選ばない。それは無差別で、善意も悪意も何でも簡単に介入出来てしまう。それ故に危険であり、常にその危険性を頭に入れておけ、とマグレガーも言いたいのだろうと思う。

 例えば、悪意あるものが私を捉えてひたすらに血肉を奪われ続ければそれだけで地獄が生み出されてしまう可能性がある。ストッパーが無ければ私の力は危険すぎる。誰にでも扱える爆弾のようなものなのだから。

 

「その為には姫がやらなければならない事は大きく分けて2つです」

「2つ?」

「まず1つは姫自身が強くなる事、自衛の力を持つ事です。もう1つは姫を庇護する為の勢力作りです。後ろ盾という奴ですね」

「私が幾ら力を持っても、社会的に封殺されれば手も足も出ないものね」

「そういう事です。今でも姫は四大魔王の庇護も、ご実家であるグレモリー家の庇護もありますが、他にあって困るものではありません。社交界にもデビューしたとの事ですし、姫は良い縁をより大事にしてくださいね?」

「うん。心がけるよ」

 

 個の力が幾ら強くなっても、社会的に孤立させられてはどうしようもならない。なかなか難しい所だと思う。突出した力は良くも悪くも注目を集める。その分だけ善意や悪意も招き寄せる事になるだろうと思う。

 龍は力を呼び寄せ、また自身も力の渦に飛び込んでいく。そんな性質があるとグレートレッドは言っていた。ままならない一生になりそうだと思う。それでも生きていくと決めたのだから尻込みはしないけども。

 

「姫自身が自らの勢力を持つのであれば、眷属を得られるようになってからが本番でしょうな」

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、かぁ……」

「えぇ、姫に仕える眷属悪魔。その選定には厳選を重ねた方がよろしいでしょう。それが例え、姫の知る“未来”の眷属であっても選考対象です」

「あ、マグレガーもお兄様から?」

「えぇ。お伺いしております」

 

 そっか。お兄様はマグレガーに私の“原作知識”の事は話したんだ。

 

「俄には信じられぬ話でしたがね。ですが、既に道筋は違え始めている以上、気に取られすぎは良くないでしょう。事が事ですのでサーゼクス様の眷属の中でも、この事実を知るのは私とグレイフィア様のみです」

「うん。そんなに広めて良い話でもないしね」

 

 未来は変わる。変えていく。だから、私にとって原作というのは“あったかもしれない可能性”の物語だ。無視する訳にもいかないけど、かといって囚われすぎてはいけない。私はこれから私自身の一生を歩んでいくんだから。

 

「その眷属についてだが、“赤龍帝”である兵藤 一誠は実在は確認したよ」

「本当ですか?」

 

 ふと思い出したようにお兄様は私に告げる。私はその話に少し身を乗り出してしまった。

 

「あぁ。但し、まだ本当に“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を有しているかまでは確認が出来なかった。彼の周囲にはエクソシストの家庭があってね」

「あぁ……確か、紫藤、でしたっけ?」

「それだ。下手に近づく訳にもいくまい。だから暫くは監視に留めておくのが良いだろうね」

 

 原作でも鍵となる重要人物である“兵藤一誠”。やっぱり扱いは慎重にならざるを得ない、か。原作知識が無くったって“二天龍”の名前は悪魔にとっても恐るべき相手なのだから。

 

「それから朱乃……姫島 朱乃も確認した。苗字が有名だからね。探すのに苦労はなかった」

「朱乃が……じゃあ、まだ朱乃のお母様も?」

「ご健在だよ。バラキエルの姿も確認した。遠目ではあるがね」

 

 “原作”ではリアスの『女王』として活躍していた朱乃。彼女も実在しているという。そして今はまだ幸せな時期に浸っている頃。彼女が幸せで、母親を失う前の事。

 私はぎゅっ、と手を握る。そしてお兄様へと真っ直ぐ視線を向けると、お兄様は微笑を浮かべた。

 

「勿論、リーアには対価は貰うが、代わりに悪いようにはしないよ。姫島 朱乃及びその母親が危機に陥ったら手を尽くそう」

 

 頼む前に言われてしまった。やっぱり、簡単にわかっちゃうか。私の考えてる事なんて。

 

「……難しい事をお願いして申し訳ありません」

「それでリーアの心が晴れるのなら私は構わないよ。堕天使と姫島家が絡んでいる以上、私もどこまで介入出来るかは未知数だがね」

「はい。ありがとうございます、お兄様」

 

 もしも、あの悲劇が無くなるのであれば朱乃は母親を失う事なく生きていけるかもしれない。そうすると私との接点は失われ、原作でいた筈の『女王』としての姫島 朱乃はいなくなるかもしれない。

 それでも構わないと思う。母親を失った事で朱乃がどれだけ傷ついたか、原作でも特に語られていたと思う。だからこそ私には見過ごす事なんて出来ない。既に私の知る未来はあり得たもの。今を私は生きていく。その上で出来る事を果たさなければならないんだから。

 

「その他に確認が出来たと言えば……“聖剣計画”は確かに存在しているようだ。今でも研究は続けられているらしい」

「……詳細は?」

「流石に悪魔となると教会の計画を知るのは難しいし、危険度が高い。出来る事といっても主要な研究施設と思わしき場所で監視に留めるぐらいが関の山だろう」

 

 こちらは祐斗の方か。祐斗の悲劇は悪魔に止めるのは不可能かもしれない。教会の秘匿計画でもあり、内部の揉め事によって祐斗は死にかけ、悪魔へと転生を果たす事になる。

 そこに介入なんて悪魔には難しいか、と思う。ただでさえ教会は悪魔にとって敵地であり、聖剣なんて最悪の代物だ。とてもだが介入出来るとは思えない。せめて祐斗となる少年は救ってやりたいとは思うけど……。

 

「その他の眷属だった者達……“小猫”、“アーシア”、“ギャスパー”だったか。こちらは確認出来ていない」

「仕方ないと思います。小猫やアーシアは私も正確な時期も場所もわかりませんし、ギャスパーは未だ吸血鬼の領域でしょうから……」

「そうだね。これ以上の進展も、事が動かなければ望めないだろう。最低限になるのは許してくれよ、リーア」

「して頂けるだけありがたいです。本当に、私の我が侭を聞いてくれてありがとうございます。お兄様」

「可愛い妹の為だからね。出来る範囲で頑張るさ」

 

 ……本当に、この人の妹に生まれる事が出来て私は幸せだと思う。これでオフの時にハメを外しすぎる悪癖さえ無くなれば本当に完璧なんだろうけど。それはそれでお兄様の個性として受け止めてあげるべきかな。私が怒らない内は。

 

「さて、話を戻そうか。眷属や後ろ盾、勢力を得るのは今後の事にして……」

「私の力の研鑽、ですね?」

「うむ」

「……それについては私も悩んでます」

 

 そう、私の力は幅が広すぎる。力に反応するものなのだから、何を鍛えるにしても選択肢が多い。

 

「そして、リーア自身に秀でたるものがこれといってないのがね……」

「悪かったですね……」

「仕方ない事かと思います。姫は“無色の力”を収める“空の器”ですから。その点、姫の暴走から幾つかヒントを得られました」

「ヒント?」

「姫が最初に暴走した時の事を覚えていらっしゃいますか?」

「……朧気だけど」

 

 あの時はクレーリアさんの事があって、色々とショック状態で気が落ち込んでいた時だ。その時に催眠によって私が自分の事を暴露しかけて、それで暴走状態に陥った、らしい。私もあの時の事は正直朧気で、しっかりとは覚えていない。

 

「その時、姫の体は半分龍になっていました。ここから推察するに、姫の“無色の力”は意志にも感応するのではないかと」

「意志にも?」

「姫は当時、自己嫌悪と自己否定で己の殻に閉じこもっていたと聞いています。その時の防衛本能としてグレートレッドの因子が暴走したと考えられますが……何故、半龍化したのかを考えておりまして」

「因子がグレートレッドによるものだからではないのかね?」

「えぇ、それはそうなんですが。しかし思い出してください。姫自身、その時はなんら力を付与された訳でもないんですよ。つまり、無色の力は無色のままです。それが何故半龍化へと繋がったかと言えば、姫の意識が関わっているのではないかと私は考えました」

 

 ふぅ、とマグレガーが一息を吐いて。

 

「姫の意識が自己否定に走った為、グレートレッドの因子が姫の存在を塗りつぶすように感応してしまった可能性があると私は考えています」

「リーア、その辺りどうだ?」

「……確証はないですけど、そうかもしれないです」

 

 あの時の私は消えたくて、死にたくて、どうしようもない程に自分自身が嫌いで憎くてどうしようもなかった。そんな時に届いたお兄様やお義姉様の言葉で奮い立った。妹でいたいと思えた。すると戻っていた。

 だからマグレガーの言葉は合ってるのかもしれない。でも、そうなると“無色の力”は私の意志にも感応するものだと言う事なのかしら?

 

「そうだとするなら、姫が鍛えるべきは意志力です」

「意志力?」

「はい。姫、あの時の貴方は自分自身を消し去りたい程の強い自己否定の意志を持っていた為、あの暴走に繋がっていたと考えればどうでしょう?」

「……自分を塗り替えるだけの強い意志があれば、私は変わる事が出来る?」

「強い意志、もしくはイメージですね。それをはっきり持つ事が出来れば“無色の力”は呼応してくれるかもしれません」

「つまり、精神論?」

「グレートレッドの存在は元々、夢幻から生じたもの。強固な幻想が現実を侵蝕し、最強の存在として君臨しています。そこから考えるに、強固な認識が世界を塗りつぶす程に得られれば現実を食い破る事が出来る筈なのです。……理論的には」

「理論的には」

「理論的には、です」

「それって机上の空論……?」

 

 無理じゃん! 世界を塗りつぶす程の強い意志とか、イメージとか! 漠然としすぎてそんなの出来る気がしない。

 

「えぇ、何もない所から始めるなら、です」

「ん?」

「姫の意志、イメージが“無色の力”に感応するなら、何も姫自身が無から生み出すのではなく、姫様が共感するイメージを底上げすれば良いのです。姫の力は本来は、別にある力を強化するものです。なら、その強化を最大にまですれば、その力で出来る最大のイメージが出来れば……」

 

 なんとなく、マグレガーの言いたい事はわかってきた。

 

「つまり、私が自分が最強だとか疑いを持つことなく出来るイメージを見つけて、私自身が変革する程に思い込めと?」

「そうなりますね」

「……難しそう」

「何も最初から最強になれ、とは言えません。姫に必要なのは自信です。これだけは絶対に負けない、誰にも負けない。負ける事などあり得ない、と」

 

 ……それ、やっぱり難しいって。絶対に崩れない勝利のイメージを持ち続けろって事でしょ?

 

「誰かと比べるから良くないんじゃないかな、リーア」

「お兄様?」

「確かにリーア自身に魔力は無くて、“無色の力”そのものもグレートレッドのものだ。お前自身は才能が悲しい程にないのは自覚しての通り。周りと比べてしまえば劣ってばかりだ。だからこそ、自分が信じられるもの、他人と比べる必要のないものを磨けば良いんじゃないかな」

「……自分が信じるもの、かぁ」

「その為には色々な事を学び、姫が精神的に強くなっていくのが近道かと思います」

「精神的に鍛えるってのが、その、一番大変だと思うんだけど」

 

 心の持ちよう次第、かぁ。でもそれが私の力に必要だって言うなら、力を得る為に必要だって言うなら身につけなければならない。

 

「その意味では暴走した時の姫の姿が、最もシンプルに姫の力を強化させた状態だったのかもしれませんね」

「……半龍化?」

「えぇ、龍とは力の象徴で、姫はグレートレッドと繋がっている。今の貴方にとって身近で最強と言えばグレートレッドでしょうね。しかし完全な龍になれば貴方は貴方でいられなくなる。だからこそのその中間、半龍化だったんじゃないでしょうか?」

「……半龍化、かぁ」

 

 私が暴走した時の事はよく覚えていないけど、お兄様ともセラフォルー様とも互角に戦えてたらしい。そうなると目指すのはそこなのかな……? うぅん、意志力とかイメージとか言われても、漠然としてしかわからないよ……。

 

「グレートレッドに相談したらどうだ?」

「グレートレッドに、ですか?」

「夢の中では会えるんだろう? 参考程度に聞いてみたら良いんじゃないかな」

「……餅は餅屋、龍の力は龍に聞け、ですか」

 

 夢の中で明確に会いに行くイメージをしないと会えないんだけど、そうと言われれば試してみた方が良いかな。今日は寝る前にはグレートレッドに会いに行くイメージをしながら眠ろうと私は決めるのであった。

 

 

 * * *

 

 

 ……こうもあっさりと夢の中で意識を持てるのは、それはそれで気持ち悪いかも。上下左右、天地もない空間の中で漂いながら思う。相変わらずも大きい赤い、赤い影。グレートレッドと私は向き合う。

 しかし、どう話しかけたものかと思う。私からの接触が出来るようにはなったけど、いまいちグレートレッドとは話が噛み合わないから苦手なのだ。背に腹は代えられないんだけど、さてどうしよう……。

 

『何か用か?』

「あ、う、うん……」

『何を怖じ気づく。お前は我と繋がる夢、我はお前と繋がる夢、互いに繋がりを持つ相互関係だ』

「私が一方的に貰ってばかりの関係にも思えるけど……」

『そう思うか? なら、それで良い。我はお前に何かを求めている訳ではない。お前がお前である事が我にとって価値がある』

 

 やっぱり苦手だな、このドラゴン……。何考えてるのかさっぱりわからない。

 

「ね、ねぇ。グレートレッド……私の力って、どう使えば良いのかな? 何かアドバイスとか貰えれば嬉しいんだけど……」

『どう使う? 不思議な事を聞く』

 

 心底不思議そうな声が響く。何を聞いているのだ、と呆れすら感じた。

 

『使い方など簡単だ。力は力だ。それだけだ』

「いや、それだけだと全然わからない……」

『違う。お前はわかっている。わかっていながら目を背けている。お前は力と共に生まれ、力と共に育った。理解していない筈がない。もし、理解が出来ないのだとすればお前が弱いままだからだ』

「私が弱いのは認めてるけど、使い方もわからない力なんて振るえもしないよ!?」

『理解不能。お前がそこまで惑う理由が我には理解出来ぬ』

 

 本当に理解が出来ない、と。グレートレッドは言う。

 

『お前は何者でもない。しかし、故にお前は何者にでもなれる。なのにお前は自らを殻に包み、自らを否定する。悪夢になる事が貴様の理想か?』

「……違う」

 

 悪夢が理想? そんな筈がない。私は消えたい訳でも、自分を否定したい訳でもない。だからこそ力が欲しい。自分を肯定出来るような、自信を持てるような力が。

 

『言った筈だぞ。思い出せ、と。答えは既にお前の中にある。お前が目を逸らし続ける限り、お前は悪夢にしかなれない』

「わかんないよ、答えなんて……」

『答えはある。答えはお前の中に。それを認められぬお前は何者にもなれない』

「私は、誰かになりたかった訳じゃない……! なれたら最初からなってる!」

『何者でもない事を選んだのはお前だ。全てはお前の選択だ。お前の夢は、お前だけのもの。お前が誰かを夢見るならなれた筈だ。しかし、お前は何者でもない。お前は夢であり、影であり、形持たずにある事を選んだ無形の夢』

「なにそれ……わかんないよ、全然わからないよ! グレートレッドの力ってなに!? 何なの!?」

『我とは夢。泡沫の如く現れ、在るが故に在る者。在る者であるが故に、我は我である。我である限り、我は在り続ける』

 

 ……結局、マグレガーの言うとおりって事ね。強い意志、強い我、何にも揺らがない己の在り方。それを私が、私自身が信じられないと私は無力のままだ。

 

『我が夢。お前は何者でもない。同時に何者にでもなれる。思い出せ、お前の夢の源泉はどこにある?』

「私の夢の源泉……?」

『何者でもないお前は、何者になりたかったのだ?』

 

 その問いに、私は答える言葉を持たない。

 何者でもない私、リアスになった、リアスになる事が出来なかった誰か。

 私は夢。泡沫の夢、泡の如く浮かんで生まれた儚い夢。けれど終わらない夢。

 私の夢の源泉。私の起源、私の在り方、私の始まり。私の……生まれた意味。

 私は何になりたかったんだろう。何者でもない私は、何になれば私でいられるんだろう。

 わからない、わからないよ、グレートレッド。答えは本当に私の中にあるの……?

 

 

 

『今は、わからなくても良い。我が夢よ、力と共にあれ。龍は力を招く。いずれ理解する。答えはある。焦る事はない。力は常にお前と共にあるのだから』

 

 

 

 慰めのような言葉を投げかけられた所で、私の意識は浮上していった。

 


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