やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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 キッチンに戻ると、小町ちゃんが既に料理を始めていて、

 

「あ、いろはさん、先始めちゃってました」

「ごめんね、わたしもすぐ手伝うから!」

 

 小町ちゃんの隣に立って、二人での共同作業。

 下準備をわたしが済ませ二人で調理する。

 それから小町ちゃんが今日教えてくれたことを復習しつつ味付けを整えていって。

 完成した唐揚げを盛り付け、練習中に教えてもらって作ったお味噌汁を温めてよそう。

 

「できたー」

「いろはさん、すごいですよ! もうバッチリじゃないですか!」

「一応は料理得意を自負してるからねっ」

「これならお兄ちゃんのハートを射抜くのもあとわずかですね!」

「そ、そうかなぁ……?」

「そうですそうです。あ、じゃあテーブルに運んじゃいましょう!」

 

 小町ちゃんの言葉に頷き、唐揚げ、お味噌汁。そして小町ちゃんが作ってくれたサラダをテーブルに運ぶ。

 炊飯器から炊きたてのご飯をよそい、これで本日の夕食の完成っ。

 うん、見た目も色鮮やかな感じで申し分なしかな。ここに先輩がいないのが残念なくらい。

 

「さ、食べよっか」

「そーですね。あ、ちょっと小町部屋に用があるので行ってきます!」

「う、うん?」

 

 ぱたぱたと駆け足でリビングを出て行く小町ちゃん。

 急に用ってどうしたんだろう……?

 

 とりあえずと、席について待つことに。

 携帯を弄りながら待つこと数分、階段を降りる音が聞こえて、小町ちゃんが戻ってくる。

 少し大きめのバッグを持って、まるでこれからどこかにお泊りにいくような……。

 

「いろはさん、申し訳ないんですけど小町、急に友達にお呼ばれしちゃいまして! いやぁ本当に申し訳ないです!」

「え、え? ご飯はどうするの?」

 

 テーブルの上には二人分の料理が並んでいて。

 さすがに料理を食べてから行くんだよね?

 せっかく作ったのにもったいないし……。

 

「ご飯をいろはさんと一緒に食べたいのは山々なのですが、早く来いとうるさくて……。なので、ご飯食べてる暇がないんですよ」

「えぇ……。それならこの料理どうするの? それに、小町ちゃんが出かけるならわたしも帰らないと」

 

 家の人が誰もいないのにわたしだけいるわけにもいかないし……。

 この場合、料理はもう仕方ないし、今日は帰ろうかな。

 

 と、その時、玄関のドアが開く音がして――

 

「ただいまー」

 

 声に反応して身体がビクッとなる。

 せ、先輩が帰ってきたんだ……。

 どうしようどうしよう…………あれ? 別にわたしがあせることはない……よね?

 

「小町、急いで帰ってこいってなんかあったの……か?」

 

 リビングでわたわたしているわたしと、先輩の目が合って……。

 

「お、お邪魔してまーす……」

「……何してんだお前」

 

 なんですか後輩に合って第一声がそれですか! 少しぐらいこう『お、一色じゃん。なんだ、俺に会いに来たのか?』とかそういうのないんですかね。

 ……いやこれ、先輩が言ったら気持ち悪いかな。というかこんなこという人ウザイだけだ。戸部先輩みたいだし。あ、でも戸部先輩にしてはキザすぎるかな……。

 と、とにかく今は、えっとえっと――

 

「会って一言目がそれってひどくないですか?」

 

 うん、これでいい。いつも通りいつも通り。

 変なこと言って意識してるのバレちゃったらダメだもんね!

 

「や、俺は単純に疑問を投げかけただけなんがだ……」

「小町がいろはさんを誘ったんだよ」

「小町が?」

「そ、そうです! それで今日は小町ちゃんと遊んでたんですよ!」

「……お前、遊んでる暇あるわけ? 受験生でしょうに」

 

 くっ……。痛いところついてきますね先輩……。

 

「きょ、今日は息抜きです。受験生にだって息抜きは必要じゃないですか」

「まぁそれはそうだが……」

「二人で盛り上がってるところ悪いんだけど、小町そろそろ行くから! あとは若いもの同士でよろしくしてくださいっ!」

「「えっ!?」」

 

 小町ちゃん今なんて?

 わたしと先輩が二人で……?

 頭がごちゃごちゃになってるうちに、小町ちゃんは玄関を飛び出して行ってしまった。……これはえっと、どうしたらいいんですかね……?

 

「えっと……、先輩、とりあえずおかえりなさいです……」

「まったく状況が掴めないんだけど……とりあえずただいま……なのか?」

「ご飯にします? それともお風呂? それとも……わ、わたしですか……?」

「何言ってんだお前……」

 

 うう……。ホントに何言ってるのわたし。テンパりすぎでしょ……。

 

「冗談です冗談! って先輩顔赤いじゃないですか! なんですかもしかして照れちゃったんですかすみませんこういうのはさすがに同棲とかしてからじゃないと無理です!」

「だからなんで何も言ってないのに振られちゃうわけ……?」

「せ、先輩のせいです!」

「意味がまったくわかんないんだけど……。まぁいいわ……、とりあえずそれはとりあえず置いておくとして、お前これからどうするんだ?」

「と、言いますと?」

 

 これからとは? わたしの今後のことについて? それともわたしたちの将来について?

 

「や、小町はどっかにいっちまったし……。帰るなら送っていくけど」

 

 そうですよね、そう言う意味じゃないですよね。わかってましたよ? ちょっとふざけてみただけですから!

 

「あー、あの、ご飯作ったのでそれを食べてからでもいいですか?」

「飯? 誰が作ったんだ?」

「わたしです。まぁ小町ちゃんと一緒にですけど……。二人で食べるつもりだったんですけど、小町ちゃんが急に出かけるって言い出して、一人分余っちゃってるんですよ」

 

 説明しながらテーブルの方を見る。

 準備してからまだ時間はたっていないので料理からは湯気が立っている。

 

「どうです、先輩?」

「そうだな……。俺も腹減ったし、食べるか」

「はーい」

 

 二人とも席について、いただきますをする。

 箸を手に取り唐揚げを一つ口に運ぶ。

 その様子を眺めながら、

 

「ど、どうですか……?」

「うん、美味い。この味、結構好きだぞ」

「ほ、ホントですか!?」

 

 やったぁぁ! 小町ちゃんにいろいろと教わった甲斐があったよぁぁぁ!

 小町ちゃんホントありがとう……!

 うう……、それにしても、好きな人に自分の手料理を褒めてもらうのってこんなにも嬉しいことなんだ……。

 

「おかわりありますからね! どんどん食べてくださいね、先輩!」

 

 それから先輩と一緒にご飯を食べて、帰りは送ってもらった。

 さすがに遅くなりすぎたから、最寄りの駅までだったけど。

 それでも今日は、ここ最近の休日では一番充実してたと思う。

 今日みたいな日をこれからも過ごすために……ちゃんと努力しなくちゃね。




現在書いている八色シリーズですが、個人的に毎日投稿を目安に投稿しています。
しかし、そのために一話の文字数が大体2500文字程度になってしまっていて、これだとあまり濃く書けないんじゃないかと思い、この場で読んでくださっている皆様に相談してみようと思いました。

毎日この文字数で投稿するのと、少し感覚を開け、5000文字で一話、どちらがいいと思いますか?

よろしければ活動報告の方にコメントしてもらえると嬉しいです。

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