やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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 小町ちゃんと約束した週末の土曜日。

 小町ちゃんからのお誘いで、わたしは先輩の家を訪れることになった。

 

「今日も暑いなぁ……」

 

 七月も終わりに近づき、それに伴って気温がどんどん高くなってる気がして。

 胸元をぱたぱたとさせながら服の中に風を送る。

 ……今度先輩の前でこれやってみよっかな。

 なんてくだらないことを考えつつ、今日の予定にわくわくしながら歩いていく。

 

 小町ちゃんに教えてもらった住所のとおり歩いていくと、目的地である先輩の家にたどり着くことができた。

 今日は気温が高いということもあり、いつもよりも肌を露出させた服装をしていて。

 わたしの服装を見る先輩の反応を想像しながら玄関のインターホンを鳴らす。

 

「はいはーい! あ、いろはさん、いらっしゃいです!」

 

 扉が開かれ小町ちゃんが顔を出すと、わたしを見て、いつも通りの元気な笑顔で出迎えてくれる。

 後輩の笑顔に癒されながら、挨拶を返す。

 

「こんにちは、小町ちゃん。今日はその、先輩は……?」

「ああ、お兄ちゃんなら今日も塾のバイトですよ。お兄ちゃんに会いたかったですか?」

「なっ、ぜ、全然? そんなことないよ? だってほら、先輩いたら料理教えてもらえないし! だから、いない方が助かるっていうか、なんていうか……」

「つまり会いたかったんですね!」

「……はい」

「いろはさん、乙女ですなぁー」

 

 うう……だって、せっかく先輩の家に来たわけだし、そう思っちゃうのは仕方ないというかなんと言いますか……。

 はぁ、とため息をついて肩を落とす。

 まぁ今日の目的は小町ちゃんに先輩の好みを教えてもらうことだし、先輩に会えないのは我慢しよう……。

 それから家の中に入り、小町ちゃんに案内されリビングに向かうと、女性がソファーで新聞を読んでいた。

 この人が先輩と小町ちゃんのお母さん……。

 小町ちゃん綺麗系にして大人にさせた感じの女性は、わたしを見ると、

 

「あら、いらっしゃい」

「あ、お邪魔します! えっと、小町ちゃんと同じ学校の一色いろはです。小町ちゃんにはいつもお世話になってます」

「あなたが一色さんね。話は小町から聞いてるから。今日はゆっくりしていきなさい」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 ぺこっとお辞儀して顔をあげると、お義母さんはこちらをじーっと見てて、

 

「ねえねえ、いろはちゃん。バカ息子のどこがいいの?」

 

 ……えっ?

 んんん、あれ? いまこの人はなんて言ったの? ごめんなさい全然何言ってるのか聞こえなかったんで答えられません!

 というか、バカ息子って……先輩家でもそんな扱いなんですか。ちょっとだけ同情します。

 

「えっと……?」

「あれ? いろはちゃん、うちのバカ息子のことが好きなのよね?」

 

 うん、今度はしっかり聞こえた。さっきもバッチリ聞こえてたけど。

 ってそんなことは実際問題なくて。……なんでお義母さんがそのことを知ってるんですか? 

 まったく状況が読み込めなくて――助けを求めるように小町ちゃんと見ると――。

 

 ぺろっと舌出しながらごめんなさいというような仕草をしていて。

 小町ちゃぁぁぁん! 

 辛い。好きな人のお義母さんにバレちゃうのってホント辛い……。

 

「えっと、はい……。そうです……」

「それで、どんなところが好きなの? 良かったら教えてくれないかな?」

「えーっと……」

 

 良かったらっていっても、こんな状況じゃそれは半ば強制的なものじゃないですかお義母さん!

 ……でもどこがいいか、か。どこがいいんだろうなぁ……。

 

「……どんなところといいますか。……ただ、先輩と一緒にいたい、先輩の隣で一緒に時間を共有したいというか……」

「つまり結婚したいってことね」

「いやいやいやいや、そ、そういうんじゃないんですけど、まだ!」

「まだっていうことはいつかは結婚したいってことね!」

「それは…………うう……」

 

 お義母さんにグイグイと迫られて、わたしのライフはもうゼロです。

 小町ちゃん助けて……。

 この場をなんとか切り抜けたいと思って、小町ちゃんを縋るように見つめる。

 すると、小町ちゃんが、

 

「お母さんお母さん、いろはさん困ってるから。そのへんにしなよ」

 

 ぽんぽんと後ろから肩を叩きつつ、お義母さんをなだめる。

 お義母さんも、「少しやりすぎちゃったかしら?」と言って、これ以上追求するのをやめてくれた。

 ふう、助かったよ、小町ちゃん……。

 ホント、小町ちゃんには感謝しなきゃだ。……あれ? でもお義母さんがそのことを知ってるのは小町ちゃんのせいなわけで、つまり原因が小町ちゃんなんだから感謝っていうよりは……。

 うん、後で小町ちゃんにはお仕置きしなきゃ。

 わたしは固く決心した――。

 

 

   *   *   *

 

 

 それから小町ちゃんに先輩の好みの料理をいろいろと教わった。

 窓から外を見ると、夕日が沈んできていて、

 

「あ、もういい時間だね。小町ちゃん今日はありがとう」

「あれ? もう帰っちゃうんですか?」

「うん、もう暗くなっちゃうしね」

「夕飯一緒に食べたらいいのに」

 

 わたしが帰ろうとすると、ソファーでくつろいでいたお義母さんが声をかける。

 

「ご迷惑じゃないですか?」

「そんなことないわよ? ね、小町」

「小町も全然オーケーなのです!」

「えっと、それじゃお言葉に甘えまして……?」

「じゃ、決まりね。私はこれからお父さんと実家の方に用事あるから帰りは明日になるけど、小町、あとはよろしくね」

「はーい」

 

 え? お義母さんは出かけるんだ。……あ、そっか。それで小町ちゃん一人になっちゃうから……。

 

「それじゃいろはさん、夕飯の準備しましょうか!」

「うん」

 

 小町ちゃんとキッチンに並び夕食の準備に取り掛かる。

 材料を取り出して準備をしていると、

 

「じゃあ私はいくから」

 

 出かける仕度を済ませたお義母さんがキッチンに顔を出す。

 そしてわたしたちにそう言うと、玄関の方に向かっていた。

 お義母さんが向かったあと、わたしも追いかけるように玄関に向かって、

 

「あの、今日はありがとうございました」

「いーのいーの、また遊びに来て頂戴ね。小町も喜ぶから」

「はい!」

「それじゃ、今日は頑張ってね」

「はい! ……頑張って?」

 

 何を頑張るんだろう? なんて疑問に思っていると、お義母さんはすでに家を出ていて。

 結局その意味がわからないままわたしは小町ちゃんの待つキッチンに向かった。


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