やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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「くしゅんっ――」

 

 どうやら本格的に風邪を引いてしまったみたいだ。

 碧と一緒に登校したあと具合が悪くなったわたしは、強制的に保健室に連れてこられて養生しているわけで。

 

「どう、一色さん? あんまり悪いようだったら早退する?」

 

 カーテンを捲って養護教員の先生が様子を声をかけてくる。

 

「いえ、もう少しだけ休めば大丈夫だと思うんで……」

「そう、それならゆっくり休んでね。私はちょっと用事があるから少し席を外すわね」

「わかりました」

「それじゃあね」

 

 カーテンが再び閉じられて、カラカラと扉を開閉する音が聞こえる。

 

「はぁ……」

 

 一人になった保健室で自然とため息が溢れる。

 携帯を取り出して時間確認すると、時刻は十二時を過ぎていて、もうお昼休みの時間だ。

 午前中の授業をまるまる休んだことになるなぁ。

 ホント何やってんだろわたし。

 受験生だっていうのに体調管理もダメダメで。

 先輩に再会したからって浮かれすぎちゃったなぁ……。

 

 自分の情けなさが嫌になってへこんでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえて、

 

「失礼しまーす」

 

 聞き覚えのある声が室内に響く。

 とたとたと歩く音、段々とこちらに近づいて、カーテンの隙間からひょっこり顔を出したのは先輩の愛妹、小町ちゃんだった。

 

「あ、いろはさん! お身体大丈夫ですか?」

「うん、大分良くなったかな。小町ちゃんはどうしてここに?」

「平塚先生から、いろはさんが体調崩して休んでるって聞いたんですよ」

「あーそっかぁ……」

 

 そういえば今日の三時間目は現文だったっけ……。

 平塚先生のことだから小町ちゃんに様子を見てくるようにでも言ったんだろうなぁ。

 

「いろはさん、お昼まだですよね?」

「うん。今日は来てすぐにここに来ちゃったからね」

「だと思って小町、調理室でおかゆを作ってきました! 名づけて小町特製スペシャルおかゆです!」

「え、ホントに!? 小町ちゃん、ありがとー」

「いえいえ、いろはさんには日頃お世話になってますからね、これくらい当然ですよ」

 

 ホント小町ちゃんは良い子だなぁ……。

 先輩と結婚したりしたらこの子が義妹になるのかぁ。

 想像すると、なんとなくさっきまで沈んでた気分が明るくなってきて――

 

「いろはさん、もしかしてお兄ちゃんのことでも考えてます?」

「へ? な、なななななにいってるの小町ちゃん? せ、先輩のことなんてなにも考えたりしてないよ? ホントに全然!」

「いやぁ、恋する乙女は可愛いですなぁ」

「ホントに違うってば……!」

「ちなみにどんなこと想像してたんです? 新婚生活とか?」

「違うからねっ? ただ、先輩と結婚したら、小町ちゃんが義妹になるんだなぁ、なんて――」

 

 ……あ…………。

 ああああああああああああ!?

 

「ほうほう……いろはさん、そんなことを考えてたんですね」

 

 何言っちゃってるのわたしは……。もうやだ、穴があったら入りたい。一生穴に籠ってたい。殺して、誰かわたしを殺して!

 

「冗談はさておき、小町もいろはさんが義姉ちゃんになるのは大歓迎なのです」

「……え? ホントに?」

「ホントですとも。でも、いろはさんだけじゃないですけどね? 雪乃さんと結衣さんが義姉ちゃんになるのも小町は大歓迎です!」

 

 ああ……なんだそういうことか……。

 まぁでもそうだよね。小町ちゃんはわたしより雪乃先輩や結衣先輩の方が付き合い長いわけだし。そんな中、わたしのことも大歓迎って言ってくれるだけ感謝しなきゃ。

 

「ありがと、小町ちゃん」

「いえいえ。ささ、おかゆ、冷めないうちに食べちゃいましょ!」

「だね、いただきまーす」

 

 再び、小町ちゃんの作ってくれたおかゆを口にする。

 うん、やっぱり美味しい。

 ただ、あれだなぁ。小町ちゃんがこれだけ料理が上手だと、先輩をわたしの手料理でどうこうするのは厳しいかなぁ。あ、でも、小町ちゃんに先輩の好みの料理を聞いて、それを先輩に食べてもらえば……?

 

「いろはさん、どうしました? お口に合いませんでした?」

「ううん、そんなことないよ! すっごく美味しい」

「あ、もしかして、またお兄ちゃんのこと考えてました?」

「ち、違うよ!?」

「本当ですかー? お兄ちゃんの好きな料理とか知りたいと思ったりしてませんか?」

 

 うぐっ……。

 小町ちゃん鋭すぎでしょ……。

 

「……そうです。先輩の好みの料理とか教えてもらいたいと思ってました」

 

 観念して答える。この子には見破られてるような気がしたし……。

 

「そうですかそうですか、それなら小町がお兄ちゃんの好きな料理をいろはさんに教えてあげますよ!」

「え、ほんとに!? いいの?」

「もちろんですよ、それくらいなら全然オーケーです! ですので、早くお身体良くなってくださいね?」

「うん、わかった。じゃあ良くなったら宜しくね!」

「はいです! それでは小町はそろそろ教室に戻るので、おかゆ食べ終わったら置いておいてください。後で小町が取りに来るので」

 

 そう言って、小町ちゃんは保健室をあとにした。

 

 

   *   *   *

 

 

「ふー。お腹一杯になったなぁ」

 

 おかゆを食べ終え、一息つく。

 心なしか大分気分が良くなったきがする。

 おかゆ効果ってすごい……!

 

 置かれていた体温計を手にとって熱を測ってみる。

 

「三十六度……か」

 

 うん、熱もないみたいだ。

 これなら途中からだけど授業に参加できるかな。

 

 わたしはベッドから出て上履きを履き、教室に向かった――。

 


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