やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。 作:さくたろう
とりあえず平日は毎日投稿目標でっ。
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まるで仕事疲れのサラリーマンのように歩く先輩。
気づかれないように後ろにポジションを取って、
「お仕事お疲れさまです」
と、耳元で囁き、終わり際に「ふっ」と息を吹きかける。
「ヴぉあ!?」
先輩の身体が大きく跳ねて、その場から素早く離れる。
というかなんですかその「ヴぉあ!?」って。
わたしまで驚いちゃったじゃないですか!
「きゅ、急に何すんだよ!?」
「先輩がお疲れのようでしたので、元気づけてあげようかなと思って」
可愛らしさを全面に押し出しながらえへっと笑い、先輩の腕を取る。
久しぶりに可愛い後輩からこんな笑顔を向けられたら先輩だってきっと――。
「そういうのいらないからな? つかお前は狙いすぎ。それにあざとすぎ」
だめでしたっ!!
先輩はそう言い放つと、わたしから顔をぷいっと背けてしまう。
いや、でもわかってましたし? 久しぶりでちょっと先輩にじゃれたかっただけですし!
それにしたって、さっきの子に腕を掴まれてたときはもっと照れてたくせに……。ぐぬぬ……。
「……んで、なんでお前ここにいるわけ?」
「えっと、友達の紹介でここに通うことになったんですよ」
「ああ、白楽か……」
「ですです。今日はお試しで授業を受けれるって言われたので、きちゃいました♪」
「その『彼氏の家に勝手に来ちゃった♪』てきな言い方でいうのやめてくんない? ゾクッとするわ」
それはわたしも言いたいんですけど。わたしの真似しながらその台詞はちょっと、というかかなり引きます。ドン引きです。
虫を見るように先輩を睨んでいると、ばつが悪そうに話を変える。
「あ、あれだ。一色ももう受験生だもんな。志望校はどこなんだ?」
先輩の質問に一瞬どきっとする。
ここで、先輩にわたしの志望校を教えたらどうなるんだろう。
応援してくれるかな?
それとも、いつものようにめんどくさそうな態度をとるんだろうか。
……今先輩に教えるのはやめておこう。
「△△大学です」
わたしは嘘をついた――。
「へえ、結構いいところ狙ってるんだな」
「ま、まぁわたしくらいになれば当然ですよ」
「それならいいけど、授業中は静かに頼むぞ?」
「うっ……」
「他の奴らに迷惑かかるからな」
「――っ!?」
先生らしく注意しながら、先輩は自分の手をわたしの頭にぽんと乗せる。
思いもよらない不意打ち――。
ううん、先輩のお兄ちゃんスキルが勝手に発動したんだ。
それでも、大好きな人がわたしに触れてくれてると考えると、顔がかぁっと熱くなって。
今の顔を先輩に見られたくなくて俯く。
「あ、わりぃ……。その、なんだ。小町に対するお兄ちゃんスキルがだな」
「……知ってます」
先輩は今どんな顔をしてるのかな? と気になって伏せていた顔を上げると――
先輩と目が合ってしまった。それも頬を赤く染めた先輩と。
なんだ……先輩だって照れてるんだ。
わたしだけじゃなかったと一安心してると、
「お前、熱でもあるのか……?」
予想してなかった言葉が。
どうやらわたしの顔は想像以上に赤くなってるみたいだ……。
わたしのばかばかばか! 興味本位で先輩の顔なんて覗くんじゃなかったよぉ……。
「えっと、マジで大丈夫かお前?」
「だ、大丈夫です! 全然ホントに!」
「そうか……? ならいいんだけど」
「は、はい」
「……んじゃ、俺はそろそろ帰るからまた今度な」
先輩が向き直り、歩きだそうとする。
もっと、もっと先輩と話したい。せっかく会えたのに。
――気がついたらワイシャツの裾を掴んでいた。
「……一色?」
えーっと、えーっと。掴んだのはいいんだけど、次にわたしの取るべき行動ってなに? というかなんでわたしはワイシャツ掴んでるの……? ああ、もうっ!
「あ、っと……、その、やっぱりちょっと具合悪いみたいなので、よかったら送ってもらえませんか……?」
もう一度、嘘をついた。先輩と少しでも一緒にいたいと思ったから。
神様だってこれくらい許してくれるよね……?
それから少しの間があって。
「……少し待ってろ。帰る用意してくるから」
「はい……」
歩き出す先輩の後ろ姿を見ながら、わたしは火照った顔をなんとか冷まそうと努力した。
今日のわたしは少しおかしい。というのも、三ヶ月ぶりに先輩に会えたことが原因だと思う。というかそれしか考えられないし。それまでは毎日のように会ってたわけだし。
それが卒業ときっかけにぴたりと終わってしまえば当然そうなる。……なるよね?
飼い主に「待て」って言われて、「よし」って言われた子犬みたいな感じ的な……。
と、とにかくそんな感じで久しぶりに先輩に会えたのが嬉しかったのでこうなっちゃったの仕方ない。
せっかく先輩と一緒に帰れるわけだし。もうちょっと普通に接しないと……!
「なにしてんだ……?」
「あ、えっとー……」
拳を硬く握りしめているところを帰り仕度を済ませた先輩に思い切り見られる。
うん、わたしなにやってるんだろ?
「あー、っと……握力、鍛えてます?」
「なんで疑問形なんだよ……」
「そ、そんなことより早く帰りましょ!」
「お、おう。つうか、お前わりと元気じゃない?」
あ、すっかり忘れてた。今のわたし病人だった。
「せ、先輩が待たせるからその間に大分よくなったんです!」
「いや、数分なんだけど? まぁそっか。よくなったんなら一人で帰れるな」
そう言って帰ろうとする先輩の後ろ襟を掴んで止める。
「ぐぇっ!? あにすんだよ……」
「先輩、もう暗いです」
「……だな」
「女の子が一人で夜道を歩くのは危ないですよね」
「……だな?」
なんでそこが疑問形なんですか……。
「というわけで、男の人がかよわい女の子を家まで送るのは義務だと思うんですよ?」
「おう、じゃあ誰かに頼んでもらえ」
「はい、なので先輩、宜しくお願いします」
今更逃げようとするのを逃すわけもなく、わたしは先輩に向かってぺこりとお辞儀をする。
「はぁ……。わかったよ。んじゃいくぞ」
「はーい」
先輩と一緒にロビーを出て、駐輪場に向かって歩いていく。
「先輩、今も自転車なんですねー?」
「何その自転車馬鹿にした感じ。自転車って素晴らしいだろコスパ最強」
「まぁいいですけどー」
先輩と二人乗りできるなら――まぁ先輩がそんなことさせてくれるわけないけど。
「ほら、早く乗れよ」
ええっ!? いいんですか? 高校生のころはどれだけお願いしても乗せてくれなかったのに?
「何してんだ? 乗らないならこのまま帰るけど」
「あ、待ってください! 乗ります乗りますから!」
慌てて後ろの荷台に乗り、えいっと先輩の腰のあたりに手を伸ばしてしっかりと掴まる。
「いや、お前のそれは掴まりすぎじゃね?」
「落ちたら危ないですし? 安全対策ですよ安全対策」
言うと、先輩は照れくさそうに頭をポリポリと掻いて前を向き、ペダルを回し始めた。
今回はようやく八幡といろはの絡みでした!
まぁ3話目なので抑え気味な感じでっ。