やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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「ま、負けないから!」

「わたしもあなたには負けませんよ」

 

 あなたには。

 じゃああの二人には……?

 ううん、今はそんなこと関係ない。

 だって――

 

「なんだ、お前ら? 試験か何かで勝負でもするのか?」

「せ、先輩!?」

「せ、先生!?」

 

 噂をすればなんとやら――ここが駐輪場だったっていうことを忘れていた。

 ちょっと考えれば、ここでこんな話をするのは危険だってことくらいわかるのに。

 わたしも三崎さん相手で少し冷静さを欠いていたんだ。

 もしかして、今の話聞かれちゃってた……?

 で、でも、もし聞いてたなら、先輩はわたしたちに話かけることなんてしないはずだし。

 横目で三崎さんを見ると、明らかに動揺していて。

 ここは、わたしが上手く誤魔化すしか……!

 

「そ、そうなんですよー。三崎さんと次の模試で勝負しよっかって話しててー。ね、三崎さん?」

 

 くっ……今のわたしにはこれが限界……。

 あとは三崎さん、なんとか話を合わせてくださいお願いしますっ。

 

「そ、そうです。模試で勝負して、えっと……勝った方が負けた方の言うことを一つ聞くみたいな?」

 

 え、待って三崎さん? それわたし聞いてないんだけどなー?

 なんでそんなルール追加しちゃったのかな?

 

「なんで、疑問系なんだ? ……まぁいい。もうすぐ授業始めるから、教室行っといた方がいいぞ」

「それ先輩が言っちゃいます? 今来るとか遅くないですか?」

「……大学生は忙しいんだよ」

「へぇーそうなんですかぁ」

 

 なんとか誤魔化せたと一安心。

 

「あ、あの!」

 

 普段通りの対応をしていると、突然、三崎さんが大きな声をあげて、

 

「ひ、比企谷先生。今週の日曜日って空いてませんか……?」

「へ……?」

 

 三崎さんの誘いに先輩は素っ頓狂な反応を見せる。

 たぶん、わたしも同じような反応をしてると思う。

 まさか三崎さんがここで勝負に来るなんて思ってもなかったから。

 出遅れたわたしは、その場を見守るしかできなくて。

 三崎さんは、子羊のように震えながら、だけど目はとても真剣で、

 

「も、もしよかったらなんですけど……、勉強を教わりたいなと思って……」

「あー……、そういうことか……。でもなぁ、三崎と一色は勝負してるわけだろ? それってフェアじゃないんじゃないか?」

「そ、それは……」

 

 先輩の言葉に言い淀む三崎さん。

 確かに、勝負するって話をしたあとでこれは先輩も承諾しにくいよね。

 あれ? でもそれってわたしにも言えることになっちゃうのか……それはまずいですよ!

 

「え、えっと先輩」

「ん?」

「一日くらい先輩が三崎さんの勉強に付き合ってあげても、わたしは構いませんよ?」

「そうなのか?」

「はい。その代わり、わたしも来週辺りお願いしますけど」

「えー……」

 

 ちょっと、そこまで嫌そうな顔することないじゃないですか!

 

「後輩に対して冷たすぎじゃないですかねー……」

「や、高校時代のことを考えれば当然の反応だろ」

「そこまでわたしひどかったですか?」

「自分の胸に聞いてみろ」

 

 んー…………。うん。結構な頻度で先輩に苦労かけてたかな。反省します。

 

「でも、あれだ……。まぁ勉強したいってことは悪いことじゃないしな。二人ともそれでいいなら見てやるよ」

「「ホントですか!?」」

「お、おう」

 

 三崎さんとわたしがぐいっと詰め寄り、若干引き気味になる先輩。

 女子高生二人に詰め寄られてこんな反応するのは先輩くらいじゃないかな? なんて思いながら、わたしは更に追い討ちをかけるように、

 

「先輩のそういうところ、わたし好きですよ」

 

 冗談ぽさを含みながら満面の笑みでわたしの本心を伝えた。

 これは三崎さんへの威嚇も兼ねてだけど……。

 まぁどうせ、この状況であれこれ言ったところで先輩は真にうけないだろうし、これくらいはね?

 

「わ、私もその……先生のそういうところす、好きです……」

 

 ここはわたしの勝ちかな、という予想とは裏腹に、三崎さんも対抗してくる。

 顔を真っ赤にして照れている三崎さんは、女の子のわたしから見てもかなりの破壊力。

 むー。もう少しわたしも攻めればよかったかな。

 

「お前ら急にどうしたの? 煽てても何も出ないぞ。俺今月金欠だからな」

 

 こんな可愛い生徒二人に好意を向けられていても、やっぱり先輩は先輩で。

 ていうかバイトしてて金欠ってどういうことですか? もしかして誰かに貢いでる? いやいや、先輩に限ってそれはないや。

 

「まぁとにかく勉強はみてやる。だからとりあえずお前ら、教室にいっとけ。俺まで遅れちゃうから」

「わかりました」

「はーい」

 

 先輩に言われたとおり、三崎さんとわたしは教室に戻ろうとして、

 

「あ、そうだ。一色」

 

 先輩に呼び止められる。

 三崎さんが先に教室に戻って、外には先輩とわたしだけ。

 これはもしかして……?

 思わぬかたちで、先輩と休日に会う約束をできて少しだけ舞い上がってたわたし。

 そして、先輩に呼び止められたら期待していなくても期待しちゃうわけで。

 

「お前、よく三崎と模試の勝負しようと思ったな」

「え?」

 

 感心したようにわたしを眺めながら放たれた言葉に、急に不安になる。

 この次の言葉に何が来るか、容易に想像がついてしまう自分がいて。

 まさか、ね? そんなね?

 

「あいつのこの前の模試、県でもトップクラスだぞ」

「…………まじですか」

「まじ。まぁ頑張れ」

 

 唐突に突きつけられた現実に、わたしは絶望しながら天を仰いだ。

 

「勉強、しなきゃ……」

 




昨日お休みとったばかりなんですが明日、明後日はお休みしようかと思います。
その代わりピクシブの方に短編をあげる予定ですので、よかったら読んでやってください!

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