――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主はカシン様に遠慮がない。
遠慮がないので普通はしないようなこともしたりする。


カシンさまといっしょ そのさん

 真面目な話を終えてからカシン様にチョコレートを渡したが、カシン様は実に幸せそうである。

 先日京で食べていたがその時は感情が読みにくいユウサイ様の体であったのでそこまで気に入っているとは思わなかった。

 それでも甘い物を好むようになっているのだから気に入るのは当然と言えば当然のことなのだろう。

 そんなことを思っているとチョコレートを口にしてからわかりづらい幸せオーラを振り撒いていたカシン様が俺の視線に気付いたのか口を開いた。

 

「ふん、貴様がどうしてもと言うから受け取ってやったが……この程度の物で我が満足すると思うなよ」

 

「どうしても欲しかったので強請ったが、この量ではとても満足しない、追加を寄越せ。ですか」

 

「貴様が!どうしてもと言うから!受け取ってやったのだ!!」

 

「はいはい」

 

「はいはいではないわこの戯けが!」

 

 いや、だってカシン様の顔を見ればわかるのだから仕方がない。さっきだってどうしてもと言うなら。とか言いながら顔にはチョコレートが欲しいと書いてあったし、今だってチョコレートを口にしてから凄く幸せそうに食べていた。

 まぁ、他の人が見たとしてもその辺りのことはわからないらしいのだが。どうしてだろうか、こんなにわかり易いというのに。

 

「それに我は追加を寄越せなど一言も言っておらぬではないか!」

 

「ならいらないんですね、わかりました」

 

「そうも言ってはおらぬわ!」

 

 どうしよう。この打てば響くような会話と言うのは存外楽しいかもしれない。というか楽しい。やはり遠慮なくあれこれ言える相手との会話は良いものだ。

 これでも好き勝手言っているように見えてあれこれと考えて遠慮したりしているので、その辺りを気にしないで言い合えるというか、好き放題言えるというか、そういうことが出来るのは今のところカシン様くらいのものだ。

 まぁ、好き放題言えるのは竜胆たちに対してもそうなのだが、カシン様のようには返してくれない。部下だから、というだけでなく時折困った弟だ、みたいな目をするので此方は控えている。

 

「ええい!良いからさっさと寄越さぬか!」

 

 建前とかはもはやどうでも良いのか。一応取り出しておいたチョコレートを強奪したカシン様はそれを俺に取り戻されないように抱え込んでしまった。元々渡す予定だったので構わないが、もう少し落ち着いて欲しい。

 まだ予備はあるので取り返そうとは考えていないし、子供のような行動をされても正直反応に困ってしまう。下手に弄ると機嫌を損ねてしまうので弄るわけにもいかない。

 

「まったく、貴様と言う男は……何も言わずとも素直に差し出せば良いものを……!」

 

「あ、そういえば以前豊後に赴いた際にカステラも買っていました。余りですけどカシン様は要りますか?」

 

「うむ、さっさと寄越せ。無駄口は叩くなよ」

 

「わかりました。でもカシン様、こうした菓子類だけではなくちゃんと食事をしてくださいよ?」

 

「……しつこい男よな。別にこうして別の物を食ろうておるのだ、問題はなかろう」

 

「紫苑や鬼灯がカシン様の為に用意したものですよ?折角ですからちゃんと食べた方が良いですって」

 

 カシン様は本当に普通の食事は必要ないと思っているようだが、それを用意した人間がいるのだから食べた方が良い。まぁ、その辺りのことをカシン様にすぐに理解しろと言うのは無理があるのかもしれないが。

 それでも良い方向へと変化しているカシン様ならば或いは、と思ってこうして話をしている。

 

「…………はぁ、わかった。本来であればこのようなことはせぬが、貴様がそこまで言うのだ。特別に食ろうてやるわ。ただし、毎度毎度は気が進まぬ。時折よな」

 

「本当ですか?嘘ではありませんよね?」

 

「何故このようなことで嘘をつかねばならぬのか……ただの気まぐれよ。気が乗れば食う。気が乗らねば食わぬ。それで充分であろう」

 

「ええ、そうですね、それで充分です。きっと紫苑と鬼灯は喜びますよ」

 

「あの二人が喜ぼうがどうしようが我にはどうでも良いがな……」

 

 あ、ダメだこれは。本当にどうでも良いと思っている顔だ。

 もう少しあの二人のことを気に掛けるようになれば良いと思う反面、これの方がカシン様らしいとも思ってしまう。それに遊ぶため、という理由であればあの二人のことは随分と気に掛けているようではある。それならば無理にこれ以上気に掛けるようにする必要はないのだろうか。

 それに紫苑と鬼灯は現状でもだいぶ満足しているようだし、変に口出ししなくても良いのかもしれない。まぁ、そうだとしても心の中ではどうしても色々と考えてしまうが。

 

「まぁそんなことはどうでも良い。それよりも我が貴様と京に向かう前に、埋め合わせをせよ。そう言ったのを覚えていような」

 

「ええ、だからこうしてチョコレートを渡しましたよ」

 

「それはそれとして、埋め合わせをせよ。そう言ったことを覚えているのは良い。で、どのようにしてくれようか」

 

「だからチョコレートを……」

 

「そうさな、もし貴様の中にある我が呪いの起源、それを斬ることが出来たなら一度話をする機会を設けよ。そしてもし貴様が逆に殺されるようであればその魂を我が物としよう。異論はあるまいな?」

 

「俺が言えたことではありませんが、もう少し会話しませんか?」

 

「貴様に合わせて話をしようものならいつまでも話が進まぬことがある故に我の言いたいことだけ言っているだけのことよ。で、異論はあるまいな?」

 

「はぁ……わかりました。その時が来ればさっさと斬って話をしましょう」

 

「貴様が殺されやもしれぬ。それは考慮せぬのか」

 

「はい、ヨシテル様の忍としてその程度で死ぬわけにはいきませんので。それにわざわざカシン様が手を貸してくれるわけですからそんな無様な姿を晒すわけにはいかない、ということもありますから」

 

 まだヨシテル様の為に何か出来ることがあるはずだ。それならばそう簡単に死んでしまうことは出来ない。それに死ぬならヨシテル様の手で、とか冗談半分とはいえ言ってしまったのでまだ死ねない。

 あと、カシン様が自分の娯楽のためだとか言いながらも手を貸してくれるのだ。それなのに残念ながら負けて死にました。とか有り得ない。必ず呪いの起源を斬り捨てなければ。

 

「ほぅ……うむ、良い。ヨシテルの忍として、というのは気に入らぬが我が手を貸すのだ。我が呪いの起源と言え斬り捨てられぬようではその甲斐もないというもの。精々無様な姿を晒してくれるなよ、結城」

 

「ええ、勿論です。必ずやカシン様の呪いの起源を斬り捨てて御覧にいれましょう。

 で、それは良いとして……先ほどの話で確認したいことがあるんですけど、良いですか?」

 

「なんだ?」

 

「毛利輝元様に渡したという呪具ですけど、幾つ渡しました?」

 

「そうさな……十だったか、その程度渡したはずだ。些事故に細やかには覚えておらぬが」

 

「甲斐で一つとして、残り九ですか。奥州から始まり、豊後まで戦国乙女の方々の居る土地に割り振っていると考えるべきでしょうか?」

 

「ふむ……そうやもしれぬな。榛名欲しさに動いているようだが……我の呪具を高々足止めに使うか」

 

 段々と声から感情が消えているが、どうやらカシン様は足止め程度に使われることが気に入らないらしい。

 まぁ、カシン様ほどの実力者が作った呪具を侵攻や襲撃の為に使うのではなく足止めに使うとなれば当然なのかもしれない。だが怨みの集合体を作るとしても、あのままでは人に危害を加えられないし、人から危害を加えられることもない。

 

「そういえば、甲斐で見たものだと実体はありませんでしたし、足止めにも使えませんね。

 いえ、周りものに影響を与えてそれらによって足止めをする。というのであれば問題ないのかもしれませんが」

 

「であれば核となる呪具から外れたのであろう。核さえ内に秘めていれば実体を得ようものを……いや、もしくはあの男が扱いを間違えた結果やもしれぬな。

 それにそのようなものであやつらを足止め出来ると思うか?否、無理な話だ。その程度であれば我によってこの世は滅んでいよう」

 

「まぁ、確かにそれくらいでは足止めとしての効果は少ないでしょうね。

 それと呪具は大抵が扱いを間違えると壊れますから……毛利輝元様もそうだったのかもしれません。となれば実際に残っているのは本当に九個と考えても?」

 

「それで良かろう。いずれにせよ、全国にばら撒いたのであれば貴様が気にすることではあるまい。ただの足止め、であれば本命である榛名を守るのが貴様の役目よ」

 

「……まぁ、実体を得た場合は戦国乙女の方々であればそう苦労することもないでしょうからね。部下を伝令として走らせておけば問題はないと思いますが……」

 

 物理で殴れば良い。という状況であれば、幾らカシン様が作った呪具によって完成した怨みの集合体と言えど戦国乙女という存在には勝てないだろう。

 前鬼や後鬼のような鬼丸国綱、もしくはそれに準ずる霊験を秘めた武器を使わなければ倒せない。ということはないのだから。だからこそ本当に精々が足止めになるかどうか、という程度でしかない。

 まぁ、本来はそうもいかないと思うのだが室生様という前例があるのだ。何とかなるだろう。一応、部下にはそれらに対応する為の呪具か何か渡しておけばより磐石だ。

 

「であればそれで良かろう。知らせてやるだけ有り難く思わねばな。

 しかし……いや、つまらん男が仕掛けたことではあるが、存外面白いかもしれぬなぁ?

 あやつらが事に気づいた時には既に最終局面ということよ。いやはや、普段から粋がっておる割には必要な時には動けぬ、役立たず共よ」

 

 カシン様が非常に悪い顔をしている。なんだかんだで辛酸を舐めさせられた相手である織田様たちが足止めを受けている間に黒幕である毛利輝元様と対峙するのは俺であり、危機的な局面であっても戦いに参加出来ないことを役立たずと揶揄しながらその姿を想像しているのだろう。

 何度も思うことだが、良い方向に変わろうとカシン様はやはりカシン様のようで、ある意味安心した。

 

「まぁ、良いんじゃないですか?榛名を使う、ということですから他の戦国乙女の方々が居ない方が簡単に事が進むでしょうし。いえ、邪魔されることはないと思いますが、事情の説明とか面倒ですよね。

 特にカシン様が榛名の制御をしてくれるとのことですから、絶対に変に勘繰られますよ」

 

「我はそれでも構わぬがな。勘繰られようがどうしようが我は気にせぬ故に。

 あぁ、だが邪魔をされたせいで貴様が死ぬようなことがあればあやつらがどのような顔をするのか、それは見物やもしれぬ」

 

「カシン様、ひっどい顔になってますよ。それ、悪人の顔です。ほーら、せめてもう少しマシな顔にしましょうねー」

 

「む、何をしようとしておる。やめ、やめぬか!ええい!我の顔に触れるでないわ!」

 

 流石にこれ以上悪い顔をされると此方としても同じ部屋の中に居づらいのでなんとか戻してもらおうとカシン様の頬を引っ張ってやろうと思い、手を伸ばしたが叩かれてしまった。いや、これは悪い顔をしているカシン様が悪いのであって、こうした行動に出た俺は悪くないのだ。

 それに甲斐での出来事はカシン様が原因の一端であるわけだからそれに対して仕返しをしても問題はないはずだ。カシン様が余計なことをしなければきっと甲斐で室生様に遭遇することもなかったのだから。

 そんな思いを込めて、且つ悪い顔をやめさせる方法を考えて、すぐに思い至った。それは以前から少し考えていたことも含まれている。

 

「……結城、その手に持っている物は何だ」

 

「手拭いです。大丈夫ですよ、水遁でちゃんと濡らしてますから」

 

「何が大丈夫なのか、我には到底理解など出来ぬが何をしようとしている?」

 

「いえ、カシン様の顔のその紋様を消すにはどうしたら良いのか、と思いまして……とりあえず濡らした手拭いで拭けば落ちないかな、と」

 

「貴様は馬鹿か!?」

 

 馬鹿呼ばわりとは心外な。単純に気になったのだから仕方ないだろう。というわけで行動あるのみだ。

 

「ば、貴様正気か!?そのような物で我の紋様が消えるわけが……って話を聞け!だからそのような物で消えぬと言って……!!」

 

 なかなか抵抗をしてくれる。というか呪術師という存在でありながら思っていたよりも腕力が強いようで先ほどから微妙に俺が押されている。まさかカシン様に単純な腕力で負けるなんて……とショックを受けつつも仕方ないので忍術で肉体強化を行う。

 さて、これならカシン様に負けることはないだろう。早速あの顔の紋様を消さなければ。主に憂さ晴らしの為に。

 

「なっ……!?貴様いきなり力が強く……くっ!忍術か!?また貴様の良くわからん奇妙な忍術を使いおったな!?」

 

「はいはい、良いですからちょっとその顔面の紋様消させてください。あと、俺の鬱憤もそれで消えると思いますから」

 

「何故我が貴様の鬱憤晴らしに協力せねば、って本当に力が強いな貴様!やめねば呪うぞ!?」

 

「既に呪われてるんですよねー。ほらほら、紋様消しますよー、額のも消しますよー」

 

「やめっ……ええい!!放せこの阿呆が!これは物理的に消えるものではないわ!」

 

「知ってます」

 

「ならさっさと手を放せ!!」

 

 仕方がないのでぱっと手を放すとカシン様は肩で息をしながら俺をキッと睨みつけてきた。

 いやぁ、普段のカシン様からは想像も出来ない姿になっているのが個人的にはとても楽しい。これならば俺の鬱憤も晴れようものだ。

 

「良いか!この紋様は手拭い程度で拭ったところで消えるようなものではないわ!それを貴様は……!」

 

「なら次は他の物を使いましょうか」

 

「他の物であっても消えぬわ!!何故貴様は我の紋様を消そうなどと考えた!?」

 

「なんとなく?」

 

「本当に貴様は意味が分からぬわ!我が本来の力を持っていれば貴様など……おい、聞いておるのか?」

 

「大丈夫です。次は水だけではなく洗剤も使いますから」

 

「よし、呪う!貴様は今此処で呪う!!」

 

「まぁまぁ、落ち着きましょうよ。あ、徳川様のお気に入りの饅頭でも食べます?」

 

「イエヤスのお気に入り、という時点で気に食わぬわ、この阿呆が!!…………む、美味いな……」

 

 ポンコツ化の症状はどうやらカシン様にも出ているらしい。

 気に食わぬ、とか言いながら美味しかったようで黙々と食べている。その姿はカシン様が知れば嫌な顔をするのはわかりきっているが、非常に徳川様に似ている。

 本人は全力で否定するだろうが、そして他の人にはわからないだろうが、とても幸せそうに饅頭を頬張る姿など少し前に見た徳川様の姿そのものである。カシン様は徳川様のことを嫌っているが、それでもこうしたところが似ているのはやはり卑弥呼に関係が深い二人だからだろう。

 

「ん、おかわり」

 

「ええ、勿論ありますよ」

 

「うむ、貴様のそういった準備の良い所は好きだぞ。

 それに初めて貴様を見た時は見事なまでに感情のない顔であったが、人とは変わるものよ……いや、今の我にとっては今の貴様が好ましいがな」

 

 確かに雇われたばかりの頃はあくまでも雇われただけの忍と割り切って動いていたのであまり感情を出さないようにしていたが、カシン様が言うほど感情のない顔なんてしていただろうか。

 

「顔合わせした時の俺ってそんなに酷かったですか?」

 

「我の知る限りではな。あぁ、今は貴様に良く懐いている義昭も随分と怯えていたのを思い出したわ」

 

「あぁ……ということは確かに酷かったんでしょうね……」

 

 いや、でも今は怯えられることもないので問題はない。というかそうか、当時の俺はそこまで酷かったのか。

 

「あぁ、酷いものだったな。だが変わったのであれば気にする必要もあるまい。

 貴様は貴様らしく生きれば良いのだ。これよりも先、変わり続けるならばそれで良い。これ以上変わらぬのであればそれも良い。我はな、貴様の行く末がどうなるか、楽しみにしているのだ」

 

「カシン様もそう言われるとどうにも不吉な物を感じてしまいますね……」

 

 とは言うが、その言葉に悪意などはなく、言い方は悪いが綺麗なカシン様とでも言っておこう。そんな印象を受ける。まぁ、見た目で言えば綺麗だとか可愛いだとか言われる容姿をしているので、今回はあり方を示しているのだが。

 しかし、あり方の綺麗なカシン様というのも酷い違和感を感じてしまう。いっそ邪悪な方がカシン様らしいと思う辺り、以前までの印象が強すぎる。

 

「貴様がそう思うのであればそれでも構わん。だが……我がことながら珍しく、悪意も企みもない言葉だぞ?」

 

「ええ、どうにもそのようですね。でもカシン様にはそういうの似合わないんですよね……」

 

「自覚はある。が、本当に珍しいこともあるものだ。我のこの言葉、素直に受け取っておくが良い」

 

「……わかりました。では、行く末が気になるというのであれば見守っていてください。と言うくらいは良いでしょう?」

 

「ふん、気が向けば見守るくらいはしてやろう。精々、貴様らしく最後まで生きてみよ」

 

 どうにもそう言うカシン様の目は優しい、ような気がする。何だろうか、最近こうして優しい目というか、そんな目で見られることが多い気がする。

 納得出来ないまでも仕方がないと思える相手もいるが、納得出来ないし仕方がないと思えない相手まで俺をそうした目で見てくるのはどうしてだ。あと関係ないがミツヒデ様はどういう思考の結果、俺を弟として見てくるようになったのだろうか。

 それと小早川様は別れ際にとても優しい目で「ちゃんと自分と向き合ってくださいね」とか言っていた。そうした、別れ際に一言添えるというのは戦国乙女の方であればそう珍しいことではない。だからそれだけなら素直に受け止められたのに、あの目のせいで些か納得が出来なかった。

 

「……我の言葉を聞いて、またくだらぬことを考えているな?本当に貴様は……」

 

「くだらないとは失礼ですよ。その通りですけど」

 

「ならば文句など口にするでないわ」

 

 呆れたようにそう口にしたカシン様にいつものようや辛辣さはない。まさか偽者なのでは?とか一瞬思ったがカシン様の偽者とか誰が出来るんだ。それに此処はカシン様の屋敷だ。入れ替わるとか出来るはずがない。

 ならば今此処にいるカシン様は本物なのだろう。とか、そんな風に考えているとまたカシン様にくだらないことを考えていると言われてしむので、これ以上は自重しておく。現にカシン様は怪訝そうに俺を見ている。

 まぁ、残念ながらそうして自重するのが遅れてまた何か言われるのか、と思ったがどうにも違った。

 

「……どうにも貴様に違和感を感じると思っていたが、何か可笑しな物を持っているようだな。我にとっては好ましくないが……ヨシテルの仕業であろうな」

 

「え?あ、もしかして大典太光世のことでしょうか?」

 

「待て。貴様はあの刀を持っているのか?あの悪趣味な刀を?」

 

「悪趣味って……そんなに酷いですか、これ」

 

 言いながら大典太光世を取り出す。それを見てカシン様は嫌な物を見るように顔を顰めた。

 

「あぁ、酷いとも。我にとってみれば、鬼丸国綱以上に忌々しく思う一振りよ。

 だが……貴様にはそれが似合いか。精々手放さぬようにするが良い」

 

「悪趣味なのが似合ってるって、酷い言われような気が……」

 

「持ち主を選ぶような物、道具としては悪趣味よな。だが自らを道具として考える貴様には似合いと言うことよ。

 いずれはその考えも変わる時が来るであろうが……いや、待て。なんだその柄と鞘は。以前我が見たものと違うではないか」

 

「綻んでいたとかでヨシテル様が直させたそうですよ。鬼丸国綱を持っていたのでそれと同じ拵えにさせたとか言ってましたけど」

 

「…………あの女はあの女で……まぁ、良いわ」

 

 完全に呆れて物も言えない。というようにため息を一つ。

 何かに気づいているのか、こういう場合は以前までなら嘲笑の一つも浮かべていたのに、そういうことはない。

 それどころか、まったく仕方が無い。とでも言うような、そんな雰囲気さえする。

 

「さて、結城。まだ菓子の類を持っていよう?さっさと差し出せ。

 貴様の話に付き合ってやった礼として、その程度のことをして見せたらどうだ?」

 

「付き合ってやったって、半分くらいカシン様が好き勝手言ってましたよね?」

 

「そんな言葉は聞く気はない。差し出す物を差し出せ。

 それに貴様に助言してやったであろう?感謝して自ら礼として、というのが筋だと思うのだがな」

 

「はぁ……良いですけど、徳川様のお気に入りの団子とか、徳川様のお気に入りの飴玉とか、徳川様のお気に入りの饅頭その二とか、そんなので良いですか良いですね」

 

「……イエヤスのことは気に入らぬが、味覚は確か故にそれで我慢してやろう」

 

 先ほどのこともあるので、徳川様のお気に入りの菓子というのが美味しいと理解しているようだ。まぁ、それでも嫌そうな顔をしていることからやはり徳川様のお気に入りというのが気に入らないことが理解出来る。

 そういう反応をするであろうことを理解しておきながら渡す俺に対する苦言も含まれているような気もするのだが。

 まぁ、それでもなんだかんだで大人しく饅頭などを頬張るカシン様は普段と違って幼い少女のように毒気も何もない姿に見える。そんな姿を見ながら俺は、手だけでおかわりを催促するカシン様にまた饅頭などを差し出すのであった。




甘い物好きで、イエヤス様の好きな物とか食えるか!とか言っちゃうけど美味しいからついつい食べるカシン様とかも良いと思う。
というか本当にカシン様が子供っぽかったり甘い物を頬を膨らませながら食べてたら良いと思う。あ、でも不機嫌そうにお菓子をばりばり食べててもそれはそれでありだと思う。

カシン様の顔の紋様を消そうとする。
イエヤス様のお気に入りの饅頭を渡して反応を見る。
とかそんなことがしたかった回。

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