――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主はちゃんと空気が読める。
尚、読まないこともある。


ヒデアキ/マサムネさまといっしょ

 あれから暫くして、伊達様から昼食が完成したという言葉を聞いたので、配膳を手伝うこととなった。

 何かあれば手伝うと言っていたのと、小早川様と話をしていたことに一段落ついていたので俺だけではなく小早川様も手伝うことになったのだが。

 その後配膳を終えて、三人で昼食を取ったのだが流石伊達様。非常に美味しい。まぁ、そうした味に関する感想もあるが、それ以上に気になったのは小早川様の扱いというか、小早川様に対する伊達様の態度というか。

 配膳を手伝っている最中に何度も小早川様に大丈夫かと尋ねる姿は心配性の母親のように見えた。そして食事が始まる前には、茶碗に大盛りで白米を盛ったかと思えばそれを小早川様に渡したのである。どう考えも小早川様が食べられる量ではないというのに。

 そして困ったように受け取った小早川様に対して伊達様は言った。

 

「ヒデアキ殿は良く食べて良く成長しなければならないからな。さぁ、しっかり食べるんだぞ」

 

「あのぉ……これは私にはちょっと量が多いと思いますよぉ……」

 

「うむ、確かにそうかもしれないが……少しずつ食べる量を増やさねばこの先の稽古について来れなくなるかもしれないからな」

 

「うぅ……た、確かにそうかもしれませんけど、これは食べられないですぅ……」

 

 まぁ、無理だろう。これが豊臣様や前田様であれば余裕で平らげてしまいそうではあるが、なんと言っても小動物系戦国乙女の小早川様である。見た目に反してよく食べる。ということはない。はず。

 それに本人も食べられないと言っているのだから、せめてもう少し量を減らすくらいした方が良いのではないだろうか。

 

「伊達様、急に増やしても食べ切れませんよ。少しずつ増やしてみては如何でしょうか?」

 

「ふむ……それもそうだな……では、少し減らそうか」

 

「はぁ……良かったぁ……」

 

 量を減らしてもらえることに安堵している小早川様だが、それでもそれなりの量が盛られたままになっている。確かに伊達様は少し減らしたが、小早川様にとってはまだ多いだろう。

 まぁ、俺は進言して、実際に伊達様は減らしている以上俺が更に何か言うということはしないので後は小早川様本人にどうにかしてもらうしかない。

 なので俺はそれ以上何も言わずに食事を続けることにした。

 

「あのぉ……まだ多いですぅ……」

 

「む……だが、これくらい食べられるようにならなければ大きくなれないぞ?」

 

「うっ……一杯食べれば、モトナリ様やマサムネ様みたいになれますか?」

 

「なれるとも。だからしっかり食べるんだぞ!」

 

「は、はいぃ……頑張りますぅ……!」

 

 確かに身体の成長のためには栄養が必要になってくるが、食べたからと言って必ずしも成長出来るとは限らない。というか小早川様が伊達様や毛利様のようになれるのか、と少し考えてみたが無理な気がした。

 身体的な成長だったり力だったりは流石に難しいのではないだろうか。いや、それでもカシン様が言うには器として使えるとのことだったので、可能性がないわけではない。のかもしれない。

 まぁ、俺にはさして関係のないことなので何も言わない。静かに食事を続けていれば良いだけだ。

 

 そんなこんなで俺と伊達様は食事を終えたのだが、小早川様は今だ茶碗に残った白米と格闘を続けていた。

 それを視界の端に収めていると伊達様が話しかけてきた。

 

「結城殿はこの後どうするつもりなのだ?」

 

「この後、と言いますと?」

 

「すぐに視察へと出立するのか、というところだな」

 

「あぁ、それでしたらもう少しこの辺りに居ますよ。もう少しお二人と話をしてからでも問題はありませんから」

 

「なるほど……だが何を話そうか……」

 

 話題は決まっていなかったのか。俺としては室生様に関する話でもしようか、と一瞬思ったのだがそれはそれで面倒なことになるかもしれないので黙っておくことにした。

 もし話を聞いて今から甲斐に向かう。とか言い出しても室生様は確実に別の地に移動しているし、話をしたところで意味はないということもあるのだが。

 

「ふむ……そうだな、特にないのなら最近子供たちの間で流行っている昔話のような物でも聞いてみるか?」

 

「昔話のようなもの、ですか?」

 

「子供たちは誰に聞いたというわけでもないのだが、皆が知っている話、とのことだったな」

 

「……気味が悪いですね……」

 

 誰かに聞いた。だから皆知っている。というのであれば理解が出来る。それなのに、そういったことはないのに皆が知っている昔話のような物、というのは非常に気味が悪い。

 いや、これがあまりにも有名な昔話であれば問題はないのだが……伊達様の言い方を考えるにそういう話ではないだろう。

 

「確かに幾らか気味が悪いが……もしかするとこの話を広めたのは『神様』なのかもしれないな」

 

「……は?」

 

「あぁ、いや、本当に神様が広めた。と思っているわけではないぞ?この昔話の中に出てくるんだ、神様が。もしかしたらその神様が広めたんじゃないか、と子供たちが言っているのを聞いただけだ」

 

「はぁ……奇妙な話ですね……」

 

「私もそう思うのだが、まぁ……ちょっとした話題くらいにはなると思ってな」

 

 確かにちょっとした話題としては充分か。小早川様はまだ食事を続けているので伊達様の言う昔話のようなもの、とやらを聞いてみよう。

 

「わかりました、ではお聞かせ願えますか?」

 

「うむ、この話を聞いて結城殿がどのようなことを思うのか、少しばかり楽しみにさせてもらおうぞ。

 それと、私が子供たちにこの話を聞いたのは一度だけだからどうしても思い出せない箇所があるかもしれない。まぁ、気楽に聞いてくれれば幸いだ」

 

 そう言ってから伊達様は一拍置いてから話し始めた。

 昔々、あるところにとても貧しい村がありました。

 作物の育ち難い枯れた土地にあるその村はいつも飢餓に苦しんできました。

 それともうひとつ、村の近くの洞窟の中に眠る恐ろしい神様にも。

 神様はふと目を覚ますと黒い風を起こして村へと災いをもたらします。

 飢餓と、神様の起こす黒い風による災い。その二つに苦しんでいた村ではある風習がありました。

 数年に一度、子供を神様へと捧げて黒い風を起こさないようにとお願いするのです。

 数十年続いてきたその風習の効果はほぼありません。

 ですが村人たちは効果がなくともその風習を続けます。

 神様へと捧げる。そんな大義名分を使った口減らしのために。

 そして神様に捧げ物をしているのだから、いつか自分たちは救われると思い込んで。

 

 とある年、村の外れに赤ん坊が捨てられていました。

 村人たちの赤ん坊ではない、きっと他の村の赤ん坊です。

 本来であればその赤ん坊は誰にも拾われることなく死ぬはずでした。

 ですが近年村では赤ん坊が生まれていなかったのです。

 神様への捧げ物が生まれないことに危機感を覚えていた村人たちはその赤ん坊を神様へと捧げることを決めました。

 たった一人の赤ん坊を育てるのも、その村にとっては大変なことです。

 それでも村人は神様へと捧げるためだけにその赤ん坊を育てました。

 ただ、人としてではなく、神様へと捧げられる道具として。

 

 赤ん坊は成長し、男の子になりました。

 男の子に名前はありません。捧げ物に名前は必要ないからです。

 男の子は愛情を知りません。捧げ物に愛情は必要ないからです。

 男の子に感情はありません。捧げ物に感情は必要ないからです。

 男の子には何もありません。捧げ物には何も必要ないからです。

 

 男の子は捧げ物として洞窟に向かいます。

 大人たちは洞窟の前までは男の子を連れて行きますが、中まではついてきません。

 洞窟に眠る神様が恐ろしいからです。

 

 男の子は洞窟の中を進みます。

 男の子に恐れなんて感情はありません。

 男の子は洞窟の中を進みます。

 男の子は捧げ物という道具なのですから。

 男の子は洞窟の中を進みます。

 男の子は神様によって殺されるために生かされていたのですから。

 

 洞窟の奥には神様がいました。

 眠ってなどいません。

 目を開き、男の子を見ていました。

 男の子はただ歩き、神様の前で止まります。

 神様は問いました。「貴様は何者か」

 男の子は答えました。「捧げ物です」

 神様は言いました「ならば貴様は我の手によって死ぬか」

 男の子は答えました。「そのために生きてきました」

 

 神様はその言葉を聞いて、目を細めます。

 今までも何人も何人も子供が捧げ物としてやってきましたが、その全員が神様を恐れていました。

 だというのに、男の子は神様を恐れません。

 それが神様の興味を引きました。

 

 神様は愉快そうに言います。「ならば我が貴様を生かすと言えばどうする」

 男の子は答えます。「神様が飽きるまで生きて、殺されます」

 神様は愉悦を湛えて言います。「ならば我が貴様を殺さねばどうする」

 男の子は答えます。「神様に殺されないと、今まで生きてきた意味がありません」

 その言葉を聞いて神様は大いに笑いました。

 そして神様は言いました。「ならば貴様は生きるが良い。この洞窟の中であれば貴様を死なぬ体にしてやろう」

 言い終わると同時に黒い風が吹きます。

 その風に男の子は吹き飛ばされ、大きな岩に頭を打ち付けてしまいました。

 

 普通であれば死ぬような傷を頭に受けても、何故か男の子は死にません。

 神様の言葉通りに死なない体になっていたからです。

 傷はすぐに癒えました。

 死なない体になったからです。

 男の子は言います。「なら、神様が殺してくれるまで傍にいます」

 そんな体になっても男の子は絶望しません。

 絶望するような感情がないからです。

 その様子は神様の思っていたものとは違いましたが、それはそれで面白いと神様は笑いました。

 

 それから数百年が経ちます。

 その間、男の子は成長しません。

 死なない体は成長しない体でもあったのです。

 そんな体になっていた男の子はそれを疑問に思うことなく、他に何をするでもなく神様の傍に寄り添い続けました。

 神様はそんな男の子を楽しげに観察していました。

 感情はなく、恐ろしい神様に寄り添い続ける男の子は神様にとって非常に愉快な存在だったのです。

 そして、同時に魂の一部が神様と同じ物へと変化しているために、我が子のような存在でもありました。

 神様が男の子を観察し、我が子のように思うこととなった数百年は唐突に終わりを告げます。

 

 神様の目覚めの時が近づいていました。

 それはこの洞窟の神様のことだけではありません。

 他の土地にも存在する神様の本体とも言える存在の目覚めです。

 神様は悟ります。既にこの土地に用はないことを。

 神様は悟ります。自分はあくまでも数多ある一部に過ぎず、自分の抱える感情が消え去ることを。

 神様は悟ります。男の子との別れの時を。

 神様は悟ります。自分はもうこの男の子を殺せないことを。

 

 神様は洞窟を去る前に男の子の記憶を奪うことにしました。

 神様にとっては造作もないことでした。

 神様は男の子の記憶を奪い、意識がない間に洞窟を去りました。

 残されたのは記憶のない男の子一人だけです。

 記憶のない男の子は何故自分が洞窟に居るのか疑問に思う。ことはありませんでした。

 男の子には元々何もありません。

 もし何かあったとすれば、数百年の間に神様と交わした言葉だけです。

 しかしその記憶は神様によって奪われてしまいました。

 

 男の子は何をするでもなく、神様が居た場所を見ていました。

 当然、神様が居たからではなく、目を覚まして最初に目を向けた場所がそこだったからです。

 そして男の子は何もせず、ただただ時間が過ぎて行きます。

 そんな男の子の傍に、いつの間にか大人の男性が立っていました。

 男性は言いました。「君は此処で何をしているんだい」

 男の子は言いました。「わかりません」

 男性は言いました。「君の名前は何て言うんだい」

 男の子は言いました。「わかりません」

 男性は言いました。「君は此処がどういう場所か知っているかい」

 男の子は言いました。「……神様がいました」

 

 何故そう答えたのかわかりません。

 ただ、記憶を奪われたはずなのに、神様が居たことだけは覚えていました。

 何を話したのか、どんな姿だったのか、どれだけの時間を過ごしたのか。

 それらを忘れても、神様が居たことだけは覚えていました。

 何故覚えているのかわかりませんが、覚えていました。

 神様が失敗したわけではありませんが、覚えていました。

 

 男性は言いました。「それはどんな神様だったんだい」

 男の子は言いました。「わかりません」

 男性は言いました。「神様のことがわからないのかい」

 男の子は言いました。「わかりません、でも神様がいました」

 男性は言いました。「そうか。ところで君はこれからどうするんだい」

 男の子は言いました。「わかりません」

 男性は言いました。「ならオレと一緒に来るかい」

 

 男の子は暫し考えて頷きました。

 ただそこに居ても何もないと理解していたからです。

 そこはかつて神様が居た場所で、今は何もないのであれば、きっと自分がそこに居る必要はないと思ったからです。

 どうしてそう思ったのか、男の子にはわかりませんでした。

 

 そうして男性に連れられて男の子は神様が居た洞窟を出て行きました。

 その後暫くしてから洞窟が崩れ、神様が居た洞窟はなくなってしまいました。

 

 神様が居た洞窟が何処にあったのか、男性と男の子以外に知る人間はいません。

 神様に捧げ物をしていた村が何処にあるのか、知っている人間はいません。

 その村がどうなったのか、知っている人間はいません。

 その村が、男の子の記憶を奪って洞窟を出た神様によって滅ぼされたことを知る人間は、何処にもいません。

 何故神様がその村を滅ぼしたのか、それを知る人間は何処にもいません。

 

 神様が何故そんなことをしたのか、知っているのは神様だけです。

 神様が今、何を思うのか、知っているのは神様だけです。

 

 もしかすると、いつか男の子と神様が再会することがあるかもしれません。

 それがいつのことになるのか、それはわかりません。

 本当に再会することになるのか、それはわかりません。

 ですがいつかそんな時が来たとしても、記憶を奪われた男の子と一部でしかない神様の記憶がなくなっているはずの本当の神様では意味がないのかもしれません。

 それでもいつか再会するでしょう。

 一方的に、親と子のようだと思った程度であったとしても、奇妙な親子の縁があるのですから。

 もしかしたら、男の子も心の何処かで神様を親のように思っていたのかもしれないのですから。

 きっと、きっと。そんな奇妙で可笑しな親子の縁が、男の子と神様をまた結びつけることでしょう。

 なんて気味が悪い。伊達様は一度として言い淀むことなく朗々と歌い上げるようにその話をしてみせた。

 

「我ながら見事に話しきったな。いや、もっと言い淀むか思い出そうとして口を閉ざすくらいのことは想定していたのだが……」

 

「そうですね……非常に気味が悪い話です。いえ、その昔話ではなく伊達様がすらすらと全て話すことが出来た、ということが、です」

 

「確かにな。だがどうしてか話せば話すだけ続きが頭の中に浮かんで来るのだ。

 だからこそ、この話を広めたのは神様だ、などと子供たちが思うのだろうな」

 

 なるほど、何故知っているのか、となった際に話に出てくる神様が広めたのだ。となればすらすらと話が出てくる理由になるということか。

 まぁ、誰かが仕込んだのだとは思う。人々の記憶、潜在意識にこの話を植え付けるとでも言えば良いのか……だとしても目的がわからない。

 

「結城殿はこの話を聞いてどのように感じたのか、聞かせてもらえるだろうか。

 モトナリ殿は本当に神様の仕業かもしれない、と言って笑っていて、ヒデアキ殿も同じく神様がそうしたのだと言っている。きっと神様がその男の子に会いたくて探しているのだと、な」

 

「毛利様はそう言って自分の本当の考えは誤魔化してそうですね。小早川様は非常に小早川様らしい考えですが。それで、伊達様はどのようなお考えを?」

 

「そうだな……悪い考えがあるわけではないだろうさ。もしかすると本当に神様がその男の子を捜していてそんなことをしているのかもしれないし、そうではないかもしれない」

 

「漠然としすぎではありませんか?」

 

「これだけの情報ではそうもなるというものだ。それで、結城殿はどう考える?」

 

「どう考えると言われましても……」

 

 返答に困る。何故子供たちが知っているのか、という点では気味が悪い。と答えたし、伊達様がすらすらと話をしたことに対しても気味が悪いと思った。

 ただ、悪意はないのだろうとは思う。本当に悪意があってこんなことをするのであれば、もっと不気味な何かを感じるはずだ。だというのに、今回はそんなことはなかった。

 

「悪意はないでしょうね。ただ単純に広めただけとか、男の子に会いたい神様がそうしたとか、そう考えても良いかもしれません。まぁ……その男の子がそれに気づいているのか、その神様が何処に居るのか。とかその辺りが分からないとどうしようもないと思いますけどね」

 

「ふむ、確かにそうだな……」

 

 まぁ、答えるとしたらこんなものだろう。

 それにしても、俺としては男の子や神様よりも最後の男性の方が気になる。どうしてそこに来たのか、何を思って男の子を連れて行ったのか。いや、考えるだけ意味はないのだが。

 

「そういうのは深く考えちゃダメですよ?こういうのは頭であれこれ考えるよりも、心で感じるものですからね」

 

「小早川様……食べ終わりました?」

 

「はい!なんとか、なんとか食べ終わりました……!

 これで私もモトナリ様やマサムネ様みたいになれますぅ!」

 

 なれないと思います。

 

「それで、小早川様は何が言いたいのですか?」

 

「あ、はい。結城様はあれこれと理由を求めますけど、そういうのが野暮なことだってあると思いますぅ」

 

「……まぁ、確かにそうかもしれませんが……」

 

「だからもっと素直に受け止めれば良いんですよ。というか結城様はいろんなことを素直に受け止めましょうよ」

 

「はぁ……でもそのまま神様はきっと男の子会いたいんでしょうね。で終わらせるとこれを話題に出してきた伊達様に申し訳ないような……」

 

「あっ……」

 

 うん、真面目に考えてみたりしたのは伊達様がわざわざ話題を出してくれたのでそれに合わせたのだ。

 別に小早川様の言うように素直に受け止めても良いのだが、まぁ、話を広げるためには真面目に考えもするだろう。ただ小早川様もこう言っているので話は終わりとしよう。

 

「では小早川様もこのように言っていますし、素直に受け止めましょう。神様はきっと男の子に会うためにこの話を人々の心に広めているのだと」

 

「うむ、ではそういうことにしておこう。いや、すまないな。このような話をしてしまって」

 

「いえ、構いませんよ。実は多少なりと思うこともありましたし」

 

「そうか、それならば良かった」

 

「ご、ごめんなさいぃ!その、また結城様が色々考えてるから何かあるのかもとか思わずに素直に受け止めてもらおうと思って、それで……」

 

「いえいえ、構いませんよ。凝り固まった考えしか出来ないより素直に受け止められるのは素晴らしいことだと思いますからね。

 まぁ、空気は読めた方が良いと思いますが」

 

 今回、小早川様は見事に空気を読まずについつい口を挟んだようなのでそこはきっちり弄っておく。まさか小早川様からネタを提供して来るとは思ってもみなかった。

 

「あぁ、柔軟な思考が出来るというのは戦いにおいても必要なことだからな。

 ただ、結城殿が言ったように場の空気を読むことも時として必要になってくる。それを忘れないように」

 

「うぅ……私が軽率だったから何も言い返せません……」

 

 俺は小早川様を弄るために言っているのだが、伊達様は本心から言っているから性質が悪い。まぁ、俺のような意図がないと理解している小早川様はそれを甘んじて受け入れているので問題はないのだろう。

 ただ、伊達様の言葉を甘んじて受け入れているためか俺の言葉に対する反応がなく、思うように弄れていないのが残念だ。だからと言ってもう一度同じネタで弄るというのは面白くない。今回は諦めておこう。伊達様の手前、やりすぎるのもあまり良くない、というのもあるので。

 

「小早川様は伊達様相手には素直ですね」

 

「……マサムネ様は結城様みたいに意地悪しませんし、モトナリ様みたいに私で遊びませんから」

 

「あ、やっぱり毛利様もそうなんですね」

 

「でもモトナリ様の方はちょっとわかり難かったりしますぅ……」

 

「あー……まぁ、毛利様ですからねー……」

 

 普通に会話しようとしてもはぐらかしたり誤魔化したりする方なので小早川様で遊ぶ場合も微妙にわかり難いのも納得である。ただ、先日会って話をした際にはそういうことはなかった。

 そうしたところは多分毛利様の気分次第でわかり易かったり、わかり難かったりするのだろう。

 

「どうしてかモトナリ殿も結城殿もヒデアキ殿を相手にすると少々意地悪になるな。もっと素直に褒める時は褒める。叱る時は叱る。応援する時は応援する。それくらいで良いと思うぞ?」

 

「そうですね……では次回からもう少し気をつけましょう」

 

「うむ、そうして言われたことをちゃんと理解して実践しようとするのは良い姿勢だな」

 

「……結城様の場合は、気をつけるだけな気もしますぅ……」

 

 良くお分かりで。そんなことを頭に浮かべながら何も言わずに笑んでおく。

 伊達様は小早川様の言葉が聞こえていないようで、俺の笑みを良いように受け取ってくれたらしい。小早川様はやっぱりか、という顔をして俺を見ている。

 この二人が相手となると疲れもする。と思ったがそれ以上に楽しい、ような気がする。つまり、最初は微妙に気乗りしなかったが存外悪くない時間を過ごしている。

 以前であればこうは行かない。だが以前と比べて俺は変わっているためにこうした時間を過ごすことが出来ているのだから、もしかするともっと良い方向に変わることが出来れば今よりも楽しい時間という物を過ごせるようになるのかもしれない。本当に幼かった、あの頃と違って。




ヒデアキ様を弄り足りなかった。
文字数稼ぎの昔話を載せた。
マサムネ様は天然ポンコツ。
ヒデアキ様可愛い。

そんなお話でした。

予約投稿の時間指定を間違えるという痛恨のミス。
ごめんなさい!

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