――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は忍であることに誇りがある。
そして、それに少しばかり捉われている。


ヒデアキさまといっしょ

 伊達様と小早川様が泊まっている宿に到着してすぐに伊達様は昼食を作ると言って厨房へと向かった。どうやら先に厨房を使わせて欲しいということを言っていたようで、宿の人間は誰もそのことを咎めなかった。

 俺も運んでいた魚を素敵忍術で取り出してから厨房まで運んだのだが、伊達様は非常にやる気に溢れており先ほどまでの天然過ぎる姿は嘘のようにも思える。

 

「何か手伝うことはありますか?」

 

「いや、大丈夫だ。結城殿はヒデアキ殿と一緒に待っていてくれ」

 

「わかりました。何かあれば手伝いますので声をかけてください」

 

「あぁ、わかった」

 

 手伝いを申し出たがその必要はなかったようなので部屋で待機するようにと言われた。何かあれば、と伝えてから大人しく部屋に行くと小早川様がお茶を淹れながら待っていた。

 ただお茶を淹れるだけのはずなのに、小早川様は慎重に、それはもう慎重過ぎる程にゆっくりとお茶を煎れていた。

 

「小早川様、お茶を煎れるだけならそこまで慎重にならなくても良いと思いますが」

 

「ひゃいっ!?」

 

 声をかけたら驚いたようにビクッと全身が跳ね上がり、手に持っていた急須が手から離れてこのままだと畳の上にお茶を零すことになってしまう。流石にそれは宿の人間に申し訳ないので阻止しなければならない。

 なので極短距離ではあるが跳んでから急須を受け取る。位置的には小早川様のすぐ背後に跳んだことになるのだが、小早川様は小さいのでそれでも充分に急須を受け止めることが出来た。

 

「あ、あの!ち、ちちち近、近いです近いですぅっ!!」

 

「あ、ちょっと暴れないでください。離れますから」

 

 真後ろから急須を取るために手を伸ばしたが、小早川様と触れるか触れないかという距離にまで近づいていたために驚かせてしまったようだ。

 それでも急須を落とすわけにはいかなかったのだからこれは仕方のないことだ。と思いながら一歩下がると小早川様は顔を赤くしながら俺へと振り返った。

 

「ゆ、結城様ぁ……その、落とさないようにってしてくれるのは有り難いですけど、近すぎますよぉ……」

 

「失礼しました。ですが仕方のないことです。お茶を畳に零すわけにはいきませんので。

 それとお茶を淹れるにしてもあんなに慎重にならなくても良いと思いますよ」

 

「だ、だって……結城様にお出しするお茶ですから、零したりしたら怒られると思って……」

 

「怒りませんよ?笑いますけど」

 

「それはそれで嫌ですぅっ!」

 

 実際俺は怒らないだろう。というかお茶を煎れようとして零してしまった。という程度であれば怒る人の方が少ないような気もする。それに俺の場合は良い歳をしているのにお茶を零すなんて……と呆れるのが先だ。

 それと相手によっては失笑とか、あえて分かるように笑ったりするだろう。小早川様の場合は……可哀想な子を見る目で見るかもしれない。

 

「それにしたってもう少し普通に煎れてください。見ていて危なっかし過ぎます」

 

「は、はい……わ、わかりましたぁ……」

 

「とりあえずはもう煎れ終わっていますから次の機会ではちゃんとしてくださいね」

 

「うぅ……気をつけますぅ……」

 

 手に持っていた急須を机に置いてから腰を下ろす。すると小早川様が向かい側に腰を下ろしてからお茶の入った湯飲みを俺へと差し出してきた。それをありがたく受け取ってから口を付けるのだが、苦い。ひたすらに苦い。

 どういう反応をするべきなのか、と考えていると同じように自分用にお茶を淹れてから小早川様がそれに口を付けたが、一口で咽てしまった。それでもお茶を零さないようにと気を遣っているようだったので畳などに被害はない。

 

「に、苦いですぅっ」

 

「これを煎れたの小早川様ですよ。これは流石に茶葉の入れすぎですね」

 

「はぅ……ごめんなさい……」

 

「あぁ、別に怒ってるわけではなくて、次は気をつけましょうね。ということです。

 小早川様はどうにもお茶を煎れることに慣れていないようですから仕方ありませんよ」

 

 事実として慣れていないのに完璧なお茶を出せ。なんてのは無茶が過ぎる。

 これから経験を積んで美味しいお茶を出せるようになれば良いのだ。ただ、小早川様の普段の様子を考えるに、そうして美味しいお茶を出せるようになるのはいつになるのか全く分からないのだが。

 

「小早川様。煎れなおしてもらえますか?」

 

「え……ま、またすっごく苦くなるかもしれませんよ……?」

 

「構いません。練習しないと上手にはなりませんから」

 

「わ、わかりました……!」

 

 練習あるのみ。と伝えたところ小早川様は気合を入れて再度お茶を煎れrるために動き始めた。

 一度急須を綺麗にしなければならないのだが、それは宿の人間に言って新しい物を貰ってきたので問題はない。問題があるとすれば此処からだ。最低限茶葉の量や入れる湯の温度に気をつけなければならない。

 まぁ、湯の温度に関しては宿の人間が用意したものなので気にしなくても良いのかもしれないが。となれば小早川様がどれだけ茶葉を入れるのか見なければ。

 

「茶葉の量が少ないですね。それでは薄すぎるかと」

 

「は、はいっ」

 

「……それでは多すぎます。また苦くなりますよ」

 

「ごめんなさいぃ……」

 

「…………人の顔色を窺いながら茶葉の量を調整するのはやめましょうね?」

 

「だ、だって……正しい量がわからないから……」

 

「こういうのは正しいとか、正しくないとかそういうことではないんですよ。

 まずは薄すぎず、苦すぎず、という加減を覚えましょう。それが最低限かと思いますので」

 

「な、なるほど……が、頑張りますねっ!」

 

 頑張るのは良い。ただ本当に少しずつ茶葉の量を調整する姿はなんと表現すれば良いのか。積み木で遊ぶ子供が、その積み木を倒さないように上に乗せていくような、そんな危うさが見て取れる。

 それと人の顔色を窺いながら調整するのはやめましょう。と言ったはずなのにまだ俺の顔をちらりと見て調整を続けている。しかもその顔がどこか不安そうなこともあって、非常に虐めたくなってくる。いや、しないのだが。

 

「はぁ……小早川様、茶葉の量は一人分であればだいたいこれくらいが定番ですよ」

 

 言ってから懐紙を取り出して、その上に茶葉を乗せる。それを小早川様に差し出してだいたいの量を示す。

 それを受け取ると小早川様は感心したように何故か角度を変えたりしながら量を確認すると、二人分の茶葉を急須へと移してから湯を入れた。そうしてから緊張した面持ちで新しい湯飲みへとお茶を煎れて俺へと差し出してきた。

 何も言わずにそれを受け取ってから口を付ける。温度は用意されたものなので丁度良く、薄くもなく苦くもない。普段俺が煎れているものよりは薄いのは薄いが……これならば他の人が飲んだとしても大丈夫だろう。

 

「……ええ、美味しくいただけますね」

 

「ほ、本当ですかぁ!?」

 

「嘘をついてどうするんですか。後は茶葉の量を覚えて人数に合わせて調整出来るようになってください。

 まぁ、新茶であったり少し高級な茶葉になるとまた変わってきますが……今は良いでしょう」

 

「やっぱり、茶葉によっては変わるんですね……それもちゃんと覚えないと……っ」

 

「その意気は大変素晴らしいですが、今は煎茶の量をしっかりと覚えてください」

 

「はいっ!」

 

 小早川様は元気良く返事をしてから自分用のお茶を煎れて、それを口にしてから嬉しそうに頷いていた。先ほどの苦すぎるお茶と比べると普通に美味しいのでその行動も納得が出来る。

 それに自分が煎れたお茶がちゃんと美味しい物となるとそれだけでも嬉しいものなのだろう。

 

「ふふ……ちゃんと美味しいお茶ですぅ……」

 

 両手で湯飲みを持って嬉しいということを全面に押し出した笑顔を浮かべる小早川様は非常に可愛らしい。普段からこうであるのなら俺も小早川様で遊んだりしないのだろうが、そうはいかないのが小早川様か。

 

「それは良かったですね。昼食の支度が終わったら伊達様も戻ってきますし、小早川様がお茶を煎れて差し上げれば良いかもしれませんよ」

 

「マサムネ様……美味しいって言ってくれるでしょうか……」

 

「これと同じようにすれば問題ありませんから、大丈夫ですよ。ちゃんと出来ているんですから、小早川様はもう少し自信を持つべきかと思いますね」

 

「……私なんか、自信を持てるわけがありません……。

 稽古だってちゃんと出来なくて、モトナリ様とマサムネ様のお手伝いも出来なくて、お茶も煎れられなかったんですから……」

 

「今はちゃんとお茶を煎れましたよ。少しずつで良いので色々なことが出来るようになれば良いのです。

 人は誰でも最初は出来ないことばかりですから今回のように一つ一つ学んで行きましょうね」

 

「結城様……はいっ!わかりましたっ!」

 

 自虐を始めた際に表情が暗くなって来ていたがそういう顔はあまり見たくないのでフォローを入れておく。それに事実として小早川様は一つずつゆっくりとで良いので学び身に付けていけば良い。

 俺だって体術も忍術も最初は酷い有様だったが修行を重ねるうちに出来るようになったのだ。ならば小早川様も学び、練習し、稽古を重ねていけば出来るようになるだろう。

 

「ええ、良い返事ですね。頑張ってください、小早川様」

 

 こうして何かを教えたり、諭したりしていると義昭様にあれこれと教えていることを思い出す。また京に戻ったら色々と教えなければ……まぁ、俺が教えるまでもなく最近は色々と知識を蓄えているのだが。

 それでも義昭様には俺が教えられる限りの知識と教えても問題ない忍術と、時間が合えば剣術を教えなければならない。それはきっと将来、義昭様の力になるのだから。

 しかし……もはや知識や忍術や剣術、場合によっては体術も込みで教えるというのは俺ではなく足利軍の武将や文官が行うべきことだと思うのだが……いや、俺が好きでやっていることなのだからとやかく言うのはやめておこう。

 

「私、頑張りますっ!」

 

 うん、良い笑顔だ。女性はやはり笑顔の方が良い。幸せそうな方が良い。いや、性別なんて関係なく幸せそうな姿の方が見ていて気持ちが良い。

 そんな風に思うからこそ俺はヨシテル様の忍として以上に、勝手に動いていたところもある。それがきっとヨシテル様の為になると信じて。

 結果として言えば俺の予想以上に厄介な状況ではあったが先手を打つことが出来ていたのでどうにかなっていた。もし行動に移していなければどうなっていたことか、考えたくもない。

 それらのことを含めてただの雇われ忍が随分と入れ込んでしまったと思ったことがあるが……うん、悪くない選択だったと胸を張って言える。ヨシテル様が幸せそうに笑っている姿を見ることが出来るのだから。

 

 そうして過去に想いを馳せていると小早川様から何やら視線を感じた。どうしたのだろうか、と思って小早川様を見ると何やら口を開けてぼんやりと俺を見ていた。

 

「……何か?」

 

「あ、いえ!その……なんだか優しい表情をしていたのでどうしたのかなぁ……って……」

 

「そうですか……何でもありませんよ。お気になさらずに」

 

「はぁ……でも、なんて言えば良いんでしょう……結城様がそういう顔をするのは、大抵ヨシテル様のことだったり……」

 

「何でもないと言いましたが?」

 

「あ!わかりましたぁ!そうやって何でもないって言って誤魔化そうとするのは図星だから照れ隠しとか……って痛いです痛いですぅ!!」

 

 余計なことを言っている小早川様の頭の上に氷遁で作った氷を落とす。本人が痛いと言っているが知ったことではない。口は災いの元という言葉を知らないのだろうか。

 

「小早川様はどうにも口が軽いようですね。相手の言いたいことや思っていることを察して沈黙することも大切なことですよ」

 

「わかりましたぁ!わかりましたからこの氷が降って来るのを止めてくださいよぉ!」

 

 仕方が無いので氷遁を止めて、落ちている氷を全て火遁で蒸発させる。慣れたもので畳に火が着くだとか、焦げ跡が付くだとかいうことはない。

 

「うぅ……痛いですぅ……」

 

「痛くしましたからね。次から気をつけてください」

 

「はぁい……でも、本当に結城様はヨシテル様のことが好きなんですね」

 

「はい?」

 

「だって、図星で照れ隠ししてて……こうして離れていてもヨシテル様のことを想ってるなんて、なんだか素敵ですぅ!」

 

「あの、小早川様?」

 

「結城様はヨシテル様のためにあのカシン居士とも戦ったって聞きました。やっぱりそういうのって良く聞く愛の力って奴です!?」

 

「いえ、そういうのではなくてですね……」

 

「あ、そういえば結城様とヨシテル様は、その、こ、恋仲だったりするんですかぁ!?」

 

「ちょっと小早川様、話を聞いてください」

 

 どうしてか小早川様が暴走している。此処は一つ、軽く炙ってみるか。

 そんなことを思いながら火遁でも発動させようかと思ったのだが……印を組もうとした手を小早川様に取られてしまった。というか反応が一瞬遅れるほどに速かったのだが、いつもの鈍臭さは何処に行ったのか。

 

「本で読んだことがありますけど、身分の違いっていうのは大変だと思いますっ!でも私は結城様とヨシテル様の仲を応援しているので、めげずに頑張ってくださいね!」

 

「え、速い……じゃなくて、そういう関係ではないのでやめてもらえますか。俺はヨシテル様と支えていくと決めましたが、恋仲だとかそういうのでは……」

 

「わぁ……!それって傍でずっと、ってことですよね?

 凄いですぅ!素敵ですぅ!」

 

 どうして小早川様はこんなに興奮状態で暴走してしまっているのだろうか。完全に小早川様の思い込みでしかないが恋話というものになっているせいなのだろうか。

 そんなことは有り得ないだろうに。俺は忍であり、主君に対して恋愛感情なんてものを向けるわけには行かない。身分の差というのもあるが、忍は主の為に死ぬ。そういうものなのだから、そうした感情は余計なものでしかない。主とその家族のことを大切にするのは必要でも、恋愛感情なんて必要はない。

 でも、どうしてだろうか。そう思えば思うだけ、胸の奥に痛みが走るのは。こんなのは初めての経験で、理解が及ばない。

 

「……結城様?」

 

「え、いえ……何でもありませんよ、何でも。それにしても俺がヨシテル様と恋仲ですか。

 身分の差だとなんとか、俺とヨシテル様はそんなものを抜きにしても恋仲などではありませんよ。まぁ、ヨシテル様にはそういう浮いた話がありませんので、近くに居る俺がそういう対象なのかと勘繰ったのかもしれませんが……」

 

「…………結城様、少し辛そうですけど大丈夫ですか?」

 

「……任務の疲れでも出たのかもしれませんね……」

 

 きっとそうだ。ただ視察をするだけの任務ではなく非常に個性の強い戦国乙女の方たちと話をしてきた為に疲れているに違いない。現に先程まで何処かずれている伊達様に多少なりとも困惑もした。

 そう考えると少し辛そうという言葉にも納得である。疲れてしまう要素は確かにそこに存在しているのだから。

 

「……結城様はヨシテル様のことはお好きですか?」

 

「唐突に、どうしたんです」

 

「いえ、ちょっと確認したいことがありまして……」

 

「はぁ……ヨシテル様のことは好きですよ。その在り方や信念などは主とするには非常に好ましい方ですから」

 

 質問の意図は理解できないが、とりあえずは答えておく。あの方のことは主として好きだ。今までに仮初めの主は居たが、これほど好意的に見ることの出来たのはヨシテル様が初めてだった。

 まぁ、小早川様はこの言葉を聞いていらない勘違いをしそうではあるが、俺がヨシテル様に向けている好意は恋愛感情ではなく、一人の忍が主へと向ける程度のものだ。

 

「そうですか……結城様は少し難儀な方ですねぇー……」

 

「小早川様にそんな評価をされるなんて心外ですね。焼きますよ」

 

「そこは疑問形にしてくださいよぉ……で、でもそれはおいておくとして、結城様はもう少し自分の気持ちを素直に受け止めるべきだと思いますよ?」

 

「俺ほど自分の気持ちに素直な人はそういないと思いますが……いや、戦国乙女の方は基本的に俺以上に自分の気持ちや思い付きに素直でしたね、すいません」

 

「私は違いますけど、モトナリ様とかマサムネ様を見てると……否定は出来ないですぅ……」

 

「確かに小早川様は基本後ろ向きですしね……それで、小早川様は一体何が言いたいんですか」

 

「もう少し自分の本当の気持ちと向き合うべきです。今すぐは無理かもしれませんけど、落ち着いてヨシテル様との思い出を振り返って、自分の気持ちを確かめて見てください。きっと結城様の為になりますから」

 

 そう言って微笑む小早川様は普段の様子とは打って変わって、幼さが消えた一人の女性の姿に見えた。もしかすると数年後の小早川様は今のように落ち着きのある女性になっているのかもしれない。と思うと同時に、一つの疑問が脳内を過ぎる。

 なので印を組んでいつでも小早川様を燃やせるようにする。

 

「え、あれ!?なんでそんな構えてるんですかぁ!?」

 

「いえ、もしや偽者では、と。小早川様はそんなこと言いそうにありませんから」

 

「本物ですよぉ!自分でもなんだか良いこと言ったと思ったのに台無しですぅ!」

 

「あぁ、その反応は本物ですね良かった良かった。本物なら本物であんなこと言われて少し思うところがあるので焼きますけど」

 

 言ってからわかりやすく笑顔を浮かべると小早川様は普段の様子からは考えられないような速さで部屋の隅へと逃げて行った。焼くというのは冗談だったのだが、まさか本気にされるとは思っていなかった。いや、小早川様ならば本気にするか。

 ただこうして小早川様で遊んでいるが……まぁ、なんだ。小早川様の言葉通りに、一度落ち着いて色々考えてみるのも良いのかもしれない。この胸の痛みが何なのか、それを理解することが出来るかもしれないと、漠然としているが何処か確信染みたものを感じているのだから。

 

「冗談ですよ、焼きませんから戻ってきてください」

 

「うぅ……本当ですかぁ……?」

 

「本当です。まぁ……とりあえず小早川様の言葉通りに、折を見てそのようにさせていただきますよ」

 

「そうですか……なら良いですよ、今回はその殊勝な態度に免じて許してあげます」

 

 笑顔を浮かべながら小早川様はそう言って元の場所へと戻ってきた。どうして上から目線なのか、とか思うところもあるのだが、それでもあの言葉は俺の為を思っての言葉である。それならば此処は大人しく受け止めることとしよう。

 しかし小早川様はあの言葉に対する俺の答えを聞いて一気に上機嫌になっているようだった。こうしてほんの少し前のことを忘れて嬉しそうにしてしまうのが小早川様の少し残念なところのような気がする。それと同時に、良い点というか、魅力でもあるのかもしれないのだが。

 

「ええ、ではその寛大な心にでも感謝しておきましょう」

 

「はい!いーっぱい感謝してくださいね!」

 

 こうして見ると普段の小早川様と変わりないが、あの姿を見た後では少しばかり思うこともある。とりあえず、小早川様の評価を改める必要がある。この方は気弱で、泣き虫で、軟弱で、とにかく本当に戦国乙女なのかと疑いたくなることが多々あるが、間違いなく他の方と同じ立派な戦国乙女のようだった。

 意識無意識に関わらず、他の誰かの為に道を示すことの出来るような、そんな戦国乙女だ。

 

 にこにこと笑顔を浮かべる小早川様が思い出したように湯飲みを手に取ってお茶を飲んでいるのを視界に収めながら少しだけ考える。

 初めて会ったときは一般人と変わらない様子で、とてもではないが戦国乙女だは思えなかったのに今となっては多少の疑問はあるがちゃんとした戦国乙女だ。人は変わるし、成長していく。それが良くわかる例として小早川様は最適なのかもしれない。また、最初の姿を知っている為に感慨深いものがあったりもする。

 そんな小早川様の成長を見たからこそ、俺ももう少し変わるか、成長しなければならない。そんな風に思えた。勿論、忍術の精度に関することもそうだが、それ以上に人としての成長をしなければ。それはきっと俺にとって重要な意味を持つことになるような、そんな予感がするのだ。




ヒデアキ様が頑張って何かをしようとするのを応援したい。
それでやり遂げたりして嬉しそうにしているのを見てから褒めたい。

オリ主の内面的に進展回。
これからあれやこれやと進展させていかないと、いつまでもぐだぐだやってしまいそうです。

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