――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は遊ぶときには容赦はしない。


マサムネ/ヒデアキさまといっしょ

 伊達様に案内されるままに歩き、お菓子を売っている店先へと到着した。ぱっと見て思ったことは、子供が多い。ということである。まぁ、お菓子を売っているような店なのだから当然と言えば当然か。

 その中に特徴的な装束を纏った小早川様が子供たちに囲まれて右往左往していた。あの姿だと子供たちの興味を引くようで質問攻めに会っている。

 

「おねーちゃんへんなかっこう!」

 

「どこのこ?このまちでみないけどどこのこなの?」

 

「おれ知ってる!マサムネさまといっしょに来てた子だ!」

 

「マサムネさまと?」

 

「っていうことはつよいの!?」

 

「つよいこだー!」

 

「マサムネさまみたいにつよいんだ!」

 

「ちがうぞ!マサムネさまの方がずっとずっと強いんだぜ!」

 

「なら、こじゅーろーさまくらい?」

 

「こじゅーろーさますんごくつよくておいしいおやさいつくるよ!」

 

「でもこじゅーろーさまはマサムネさまよりつよいんじゃないの?」

 

「そういえば前にマサムネさまがこじゅーろーさまにおこられて小さくなってたぞ!」

 

 うん、それなら片倉様の方が強いな。

 ただそんな子供たちの言葉を聞いて伊達様が恥ずかしそうに赤くなった顔を両手で覆いしゃがみ込んでしまったからそれ以上は止めて欲しい。いや、むしろこれはしゃがみ込んだというよりも沈んでしまったと言った方が良いだろう。こんな伊達様を見るのは初めてだし、どうしたら良いのかわからなくて非常に困る。

 それと小早川様が目をぐるぐる回しているので取り囲んで好き勝手に喋るのもやめてあげてはもらえないだろうか。それにしてもこの子供たちは本当に楽しそうだな。

 

「え、あ、その、あの……あぁ!マサムネ様ぁ!」

 

 そんなことを思っていると小早川様が伊達様を見つけて大声を上げた。地獄で仏にでも会ったような、そんな雰囲気さえする。あの小早川様の性格を考えるとそれもあながち冗談ではないのかもしれない。

 

「良かったですぅ……!子供たちに囲まれて、どうしようかと…………ゆ、結城様!?」

 

 子供たちも声に反応して伊達様を見た隙に、包囲網を抜け出して駆け寄ってきたが伊達様の隣に立っている俺を見て小早川様は驚きの声を上げた。

 そして立ち止まって姿勢を正し、そして綺麗なお辞儀をしながら大きな声で言った。

 

「こ、小早川ヒデアキです!怪しい者ではありませんからぁ!!」

 

「ご丁寧にどうも。でもいい加減に顔を合わせる度にそんな反応するのやめてもらえませんか?

 小早川様の自己紹介を聞くのってもう十回を越えてますよ」

 

「だ、だって……ちゃんと名乗っておかないとまた火炙りにぃ……」

 

 両手で頭を押さえてからプルプルと震えながらしゃがみ込んでしまった。まぁ、なんと言うか、やはり一番最初に出会ったときに軽く炙ったのが悪かったらしい。でもあれは状況が状況だったので俺は悪くないと思いたい。

 それにあの頃はまだ今のようなある程度の柔軟な対応も出来なかったのだから仕方なかったのだ。

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと小早川様のことはわかっていますので軽く炙ることもありませんから」

 

 普通は知り合いを軽くとはいえ炙るようなことはしない。なので安心して欲しい。

 

「ほ、本当ですか!?うぅ~……良かったですぅ……」

 

「ええ、だから安心してください。戦国乙女だとわかっていますから、次にやるなら遠慮なくしっかり焼きますので」

 

「それって全然安心出来ないですよぉ!」

 

 いやぁ、小早川様で遊ぶのは楽しいなぁ。

 いつの間にか子供たちはしゃがみ込んでいる伊達様を取り囲んで色々言っているし、小早川様で遊んでいても伊達様に咎められることもない。ならばやりすぎない程度に遊んでも問題ないということだ。

 

「焼くのはダメですか?」

 

「ダメに決まってるじゃないですかぁ!あの時は仕方なかった、のかもしれませんけど……今はもう私のことちゃんとわかってくれてますよね!?」

 

「そうですね、では次は芯まで凍らせるくらいで……」

 

「会話してくださいよぉ!」

 

「冗談ですよ、冗談。ほら、小早川様。飴玉を差し上げますので落ち着きましょうね?」

 

「そんなので誤魔化せると思わないでください!……あ、美味しい……」

 

「あ、別の味もありますよ。南蛮からの物もありますし、諸国を巡ると意外と色んな味の飴玉があるものです」

 

「ほぇー……そうなんですかぁ……」

 

 見事に誤魔化されてしまう小早川様についつい生暖かい目を向けてしまいそうになるが、それを見られてしまうと折角誤魔化したのが台無しになってしまうので悟られないようにする。まぁ、また誤魔化せそうな気もするが。

 それにしても普通の飴玉だったとはいえ小早川様には少々大きかったようで、飴玉を口の中で転がしているようだが時折頬が大きく膨れているのが見える。こう、突きたくなってくるな。

 でもそれを実際にやると最悪小早川様の口から飴玉が弾丸のように射出されるので自重する。流石に人が口に入れた飴玉を受ける気もないし、食べ物を無駄にするなんてもってのほかだ。

 あと、完全に先ほどの遣り取りを忘れて幸せそうに飴玉を頬張っている小早川様を見ているとこれを邪魔するのは人としてどうなのか、と思ってしまった。

 そんなことを思いながら小早川様を暫し眺めてから、ふと気づいたことがある。丁度小早川様も飴玉を食べ終わりそうなので聞いてみよう。

 

「ところで小早川様。飴玉を頬張っている状態で良いので聞いてください」

 

「なんですか?」

 

「伊達様って放っておいても大丈夫なのでしょうか」

 

「え?」

 

 子供たちに囲まれてあれこれ言われて手を引かれたり服の裾や袖を引かれたりして大変そうだった。伊達様はどう対処したら良いのかわからないようで、困惑しているように見える。

 武人然とした伊達様は子供の扱いには慣れていないためにああして袖などを引かれるとどうしたら良いかわからない。というのは分かるのだが、子供たちはそんなことお構いなしだ。

 

「マサムネさまこっちこっち!」

 

「マサムネさまはやくはやく!」

 

「マサムネさま歩いて歩いて!」

 

「マサムネさまおんぶおんぶ!」

 

 お構いなしと言うか、なんだろうこの子供たちは。ある意味で統率された動きで伊達様を引っ張ったり後ろから押して何処かに連れ去ろうとしている。

 これから宿に戻って昼食を食べてから幾らか話をしようとしているのに、このまま連れ去られては俺が困る。

 まぁ、そんな光景を目の当たりにした小早川様は驚いたせいか小さくなっているはずの飴玉を飲み込んでしまった。ただ小早川様はそんなことは気にしていられないくらいに慌てている。

 

「あぁ!ダメですダメですぅ!!マサムネ様を連れて行っちゃダメですよぉ!!」

 

「そうですね、連れ去られると此方が困ります。なので頑張ってください小早川様」

 

「私ですか!?こういうのは結城様の方が得意そうですよね!?」

 

「いやぁ、最近は小さな子供の声をかけるだけで不審者扱いされる時代ですからねー」

 

「結城様ならそういうの適当に誤魔化せるじゃないですかぁ!私にはあの子達の相手は無理ですぅ!」

 

「誤魔化せますけど子供を騙すなんて心が痛い……!」

 

「顔が笑ってますから嘘だってわかりますよぉ!」

 

 いけないいけない。ついうっかり小早川様で遊んでしまった。

 実際、伊達様がいないと困るのでちゃんと救出しなければ。

 まぁ、根が良い子であればこれくらいで大丈夫だろう。

 

「伊達マサムネ様。領主として民と戯れることは必要なこととは存じ上げますが、此度は征夷大将軍、天下人たる足利ヨシテル様の命により足利忍軍頭領結城、罷り越しました。

 どうか、暫しお時間を頂戴したく……」

 

「え、あ、あぁ……そうか。すまないな、私は今からこの者と話をしなければならない。

 遊ぶというのは、その……また今度だ」

 

「えー!」

 

「マサムネさまあそぼうよー!」

 

「ダメだよ!おしごとはだいじだっておとーさんいってたよ!」

 

「しかたないな、マサムネさま、また今度あそぼうな!」

 

「うん、またねマサムネさま!」

 

「はーい!やくそくだからね、マサムネさま!」

 

「つぎあったらおんぶ!」

 

「じゃーな、マサムネさま!ほら、あっちであそぼうぜ!」

 

「はーい!」

 

 目の前で大人が大事な話がある。ということを悟って子供たちは一番大きな男の子を先頭にして走り去った。

 これが話のわからない子供だと伊達様から離れることなく今も遊ぼうとしたり連れ去ろうとしていただろう。見ていて一番大きな男の子を中心にして統率が取れていたので大丈夫だとは思っていた。

 ただ今回は大人しく引いてくれたが代償として次にあの子供たちに出会った場合、伊達様は終始圧倒されながらあの子供たちと遊ばなければならなくなってしまった。

 伊達様はそのことに気づいていないらしく、安堵に胸を撫で下ろしている。とりあえず、ご愁傷様です、伊達様。強く生きてください。

 

「……ありがとう、結城殿。正直に言うと子供たちの相手というのは少々苦手でな……今回は本当に助かった」

 

「いえ、構いませんよ。子供と言うのは俺たちとは違う元気さの塊ですからね。慣れていないと大変なのはわかります」

 

「わかってくれるか!あ、いや……私も慣れなければならないというのはわかっているのだ……だが私は一介の武人であり、あのような子供とは触れ合うこともなかったせいか、どうしてもな……」

 

「俺も以前はそうでしたが、京では子供の相手をすることもありますので慣れましたよ。

 折角ですし伊達様もこれを機に子供と触れ合ってみては如何ですか?ほら、丁度そこに一人いますし」

 

「それもそうだな。どれ、頭でも撫でてみるか」

 

「そこで自然に私を子供扱いしながら撫でないでください!あ、やっぱりもうちょっと撫でて欲しいかもしれませんけど……」

 

 まさか伊達様が乗ってくるとは思わずに小早川様を子供扱いしてみたが、まぁ、こんなことになるとは。

 伊達様に頭を撫でられている小早川様は最初は抗議していたがすぐに気持ち良さそうに撫でられている。小動物が撫でられているようにも見えてくるのはどうしてだろう。

 いや、小早川様自体がもはや小動物と同じようなものか。脆弱さとか、構ったり軽くいじりたくなるところとか。

 

「伊達様、小早川様。そろそろ移動しましょう。随分と注目されていますよ」

 

「む……そうか、往来では邪魔になってしまうからな……結城殿、ヒデアキ殿、宿へと向かおう」

 

「あ、はい!わかりましたぁ!」

 

「注目されてるのはそれが理由じゃないと思いますけどね……いえ、何でもありませんのでお気になさらず」

 

 疑問符を浮かべる二人に気にしないように言ってから伊達様を促せば首を傾げながらも宿へと案内をするべく歩き始めた。そのすぐ後ろを歩くのは小早川様だが、何かに躓いたようにこけてしまった。

 一体何に躓いたのかと確認してみると小さな石が転がっており、これに躓いたことがわかる。ただそれがわかって言いたいことは、どうしてこんな石に躓いてこけてしまうのだろうか。

 いくら小早川様とはいえ戦国乙女の一員だというのに。

 

「大丈夫ですか、小早川様」

 

 一応声をかけるが小早川様は涙目になりながら、こけた際に強く手をついてしまったようで掌に付いた土を払っていた。本人にとっては相当痛かったのかもしれないが……そこまで子供だったか。

 確かに擦りむいているし、血も滲んでいるがこれくらい毛利様や伊達様に稽古をつけてもらっていれば日常茶飯事だと思うのだが、小早川様にとっては何か違うのかもしれない。

 

「うぅ~……擦りむいちゃいましたぁ……」

 

「大丈夫か、ヒデアキ殿。どうしたものか……とりあえず傷口を水で洗わなければ……」

 

「はい……どこかでお水を貰わないと……」

 

「うむ……店に入って水を貰うか……」

 

「……水遁でも使いましょうか?」

 

 言ってから自分の掌の上に水遁で水球を作り出す。相手を攻撃するためではなく、純粋に水で作っただけの球体なのでこれで傷口を洗い流すことが出来る。

 

「おぉ!それは有り難いな!早速だがヒデアキ殿の傷口を洗い流してくれ」

 

「……あの、結城様……痛くないですよね……?」

 

「お望みなら痛いようにしますよ」

 

「い、いいえ!望んでませんよ!?だから痛いのは嫌ですぅ!」

 

「なら余計なこと言わないでください」

 

 人の善意を踏みにじるとは、許せないな。とかではなく、小早川様の扱いが悪いのが原因なので大人しく引き下がっておく。

 傷口に水球を軽く投げてぶつけると、弾けることはなくぶつかった場所で停滞し、内部の水のみが回転して傷口を洗う。本当ならこの水球には毒と水の刃を仕込むのだが……これは言わないでおこう。それと、本来であれば人を一人飲み込むほどの大きさになることも。

 とりあえずもう充分だと判断したので水球を手元に戻して、ただの水としてぶちまけても良いのだがなんとなく火遁で蒸発させる。見た目としては水球が炎上したように見えたかもしれない。

 

「ひぅっ!ゆ、結城様が火を使うと嫌な思い出が蘇りますぅ……

 あ、で、でも!ありがとうございます!その、これで綺麗になりました!」

 

「あぁ、見事なものだったぞ。それにしても今のはどういう原理だったのだろうな……水が留まったことも、内部だけ回転していたことも、最後に炎となって消えたことも、全てが不思議だ……」

 

「忍術です。全ては忍術故に致し方ないのです」

 

「そうか……忍術とは、私の想像よりもとんでもないものなのだな……!」

 

 やはり伊達様はずれている。説明が面倒だったので適当なことを言ったのに、どうしてそんな反応になるのだろうか。それと小早川様まで感心したような顔をしている。なんだこの二人。

 もしかして毛利様がこの二人から離れて行動しているのは毛利輝元様のこともあるが、ずれた二人から離れたかったとか、そんなことも含まれているのではないだろうか。なんて邪推してしまうのも仕方が無いことだろう。

 仕方が無いと思えるほどに、この二人に真面目に対応していると疲れてしまう。

 

「消毒くらいしておこうかと思いましたけど、治しておきましょうか」

 

「治す?」

 

「治せるんですか?」

 

「医療忍術も必要だと再確認したので不本意ながら部下により深く習いなおしました。非常に不本意ですが」

 

「……二度言うほどなのか?」

 

「毛利様が小早川様に何かを教わるくらいには不本意だと思います」

 

「それは……うむ、相当に不本意だったのだな……」

 

「どうしてそこで私を例えに使うんですかぁ!それに前にモトナリ様に私の知ってることを教えたときはそんなに不本意そうにはしてませんでしたよぉ!」

 

 それはきっと小早川様が気づいていないだけだと思うのだが。まぁ、小早川様の自尊心とかに関わりそうなので言わないでおこう。

 それにそんなことよりも医療忍術を使って治しておこう。基本を忠実に、ということで印を組み忍術をしっかりと発動させる。前は俺自身の状態が悪かったので随分と粗末な術になっていたがこれならば問題はないだろう。

 睡蓮にきっちりと習い直したことで以前よりも精度が上がっており、発動した医療忍術によって俺の手に淡い光が集まっている。初歩的な医療忍術ではあるが、擦り剥いた程度であればこれで充分だ。

 ということで丁度患部が手ということもあるので小早川様の手を取る。初歩的な医療忍術であるために、わざわざ患部に手を翳す必要があるのが難点である。上位の医療忍術になれば離れた相手を治療することも出来るのだが、使い手の才能と努力によるところも多いらしく今の俺には出来ない。だが睡蓮が言うには俺に医療忍術の適正はあるらしいので修行すれば出来るようになるはずだ。

 

「初歩的な医療忍術ですのでこうする必要があります。擦り傷程度であればすぐに治りますので少々我慢してください」

 

「え、はい……わかりました……。

 …………なんだかぽかぽか温かいですぅ……」

 

「む、そうなのか?結城殿、触れてみても大丈夫か?」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとう。では…………うむ、確かに温かいな……」

 

 邪魔にならないのでこれくらいは構わないのだが、冷静に考えてみると今の俺たちは相当異様な姿になっているような気がする。

 今だ涙目の小早川様に、その手を取っている俺。そして二人の手に自分の手を重ねる伊達様。これを何も知らない人間が見た場合、どういう光景に見えてしまうのだろうか。

 まぁ、すぐに治療が終わったので小早川様の手を放す。我ながら綺麗に傷が治ったと思う。これが下手だと治るのに時間が掛かったり、傷によっては痕が残ってしまうので気をつけなければならない。擦り傷程度で痕が残るも何もないのだが。

 

「これで終わりですね。どうですか小早川様」

 

「はい!もう痛くありません!」

 

「そうですか。ところで擦り傷程度であんな醜態を晒すってどうなんでしょうね、小早川様」

 

「うっ……だ、だって痛かったんですよぉ……」

 

「こら、結城殿。あまりヒデアキ殿を虐めるものではないぞ?」

 

「マサムネ様……」

 

「涙目になったくらいだろう?以前にこけてしまった時にヒデアキ殿は泣いていたのだが、それが今日はこれだ。成長しているとは思わないか?」

 

「マサムネ様ぁ!?」

 

 庇うのかと思えば過去にあったことを持ち出してきた伊達様は気づいていないようだが、小早川様としてはそのことを知られたくなかったようだった。

 確かに涙目になっているだけで俺に言われているのに、前にも同じようなことがあって、更にその時は泣いていた。なんて知られたくはなかっただろう。それと本人もこけて擦り剥いたから泣いてしまった。というのは恥ずかしい話のようでもあった。

 

「なんでそこでその話をしちゃうんですかぁ!」

 

「ん?いや、ヒデアキ殿も成長しているのだぞ。ということを伝えたのだが……何か悪かったのか?」

 

「悪いですよぉ!どうして前にもこけたことと、泣いちゃったことを言うんですか!

 ほら!結城様が笑えば良いのか、気を使って聞かなかったことにしたら良いのか曖昧な表情になっちゃってるじゃないですかぁ!!」

 

「すいません……こんな時どんな顔をすれば良いのかわからないので……」

 

「笑えば良いと思うぞ」

 

「笑わないでくださいよぉ!!」

 

 なんだこれ。何故俺はこんなコントみたいなことをしているのだろう。

 いや、完全に伊達様に巻き込まれただけなのだが。これは俺も小早川様も伊達様の被害者と言えるのではないだろうか。まぁ、俺が曖昧な表情をしていると言った小早川様も悪いので被害者は俺だけか。とりあえず小早川様には何か報復をしなければならないのかもしれない。

 

「ほらぁ!結城様がまた私にとって良くないこと考えてますよぉ!」

 

「む、結城殿。ヒデアキ殿を虐めるものではないぞ!」

 

「それさっきも言ってましたよね!?」

 

 伊達様が天然過ぎて小早川様は非常に苦労しているようだ。毛利様が居ると一番苦労しているのが毛利様で、この二人だと小早川様が苦労しているのか。なんと言えば良いのか、伊達様たち三人の中で一番強いのは天然の伊達様なのかもしれない。

 ……この状況では、もう少し小早川様に優しくしても良いのかもしれないな。

 

「もう良いですから宿に戻りますよ!このままじゃ埒が明きませんし……それに結城様がなんだか憐れみの篭った目で私を見てるのがすっごく気になりますけど!」

 

 ばれていたか。とりあえず此処は小早川様の提案に乗っておこう。そろそろ人の目が痛い。というか注目を集めすぎている。主に大きな声を出している小早川様のせいなのだが。というか小早川様はこんな性格だっただろうか。

 いや、もっと気弱なはずなのだが……うん、きっとこれも成長した結果なのだろう。そう思うことにしておこう。

 ただ、言葉の端々から私怒ってます。という雰囲気を感じるのだが精々、仔猫が威嚇している程度の可愛らしい物にしか感じないので、その辺りは相変わらずのようで安心出来る。こんな風に思うのは変な話だが、小早川様には虐めてオーラが出ている小動物系戦国乙女であって欲しい。

 

「ふむ、そうだな。いつまでも立ち往生するわけにも行かないか。

 それに昼食は私が作る予定だからな……よし、戻ろうか」

 

「わかりました。小早川様、次は石に躓かないでくださいよ」

 

「だ、大丈夫です!今度は躓いたりしませんよぉ……」

 

 大丈夫と言う割にはその言葉は尻すぼみになっていて、自信はあまりないようだった。

 そんなところが小早川様らしいので俺は何も言わずに伊達様を促す。意図を理解してくれたようで案内をしてくれる伊達様の後を追う小早川様は先ほどのこともあって足元に注意しながら歩いている。

 その二人の後ろを歩く俺は、小早川様は色々と苦労してそうだと思ったので次に石にでも躓きそうになったら手を貸そうと思った。まぁ、小早川様が苦労している原因には、今回は俺も含まれているのだが。

 何にしろ、昼食は伊達様の魚料理ということで期待しておこう。あと、その間に小早川様と少し話をして毎度毎度顔を合わせる度に自己紹介をすることがないように話をしておかなければならない。




ヒデアキ様が涙目になりながら泣かないように我慢しているのを眺めてから、手助けして泣き止ませたい。
それで打って変わって笑顔になったら最高。

戦国乙女で一番口調が難しいのはもしかしたらヒデアキ様なのかもしれない……

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