――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は回避極振りステ。


オウガイさまといっしょ

 数刻ほど毛利様の話し相手になっていたが、用意していた酒を飲み干し、話をすることにも満足したようなので特に問題なく躑躅ヶ崎館に戻ることが出来た。

 まぁ、毛利様は酒を飲むにしても飲みすぎるような方ではないし、あの様子からまだまだ余裕があるということもわかる。ヨシテル様たちも毛利様のように自分の限界を理解した飲み方をしてもらいたいものだ。

 そう思いながら武田様と上杉様の様子を見に行くと見事に酔い潰れており、今まさに侍女によって介抱をされているところだった。杯は投げ出されており、中身のない酒器が散乱し、俺が用意したツマミは全てなくなっていたがそれを入れていた皿は割れていた。

 一体何をしたらこんなことになるのだろうか、と頭を抱えてしまった俺は悪くない。それに介抱をしていた侍女の一人が気の毒そうにしていたのは気のせいに違いない。というか気の毒そうにするのは本来は俺ではないだろうか。主がそんな姿を晒してしまっているのだから、頭を抱えるなら侍女であるはずだ。

 それなのに何故俺が、と思ってしまった。とりあえずその日は部屋を借りていたので其処で休んだが、翌日になって二人に挨拶をすると死にそうな顔をしていた。

 

「おはようございます、お二人とも」

 

「え、えぇ……おはよう、結城……」

 

「…………おう……」

 

「死にそうな顔ですね」

 

「ちょっと、飲みすぎたみたいでね……」

 

「あー……頭痛ぇ……ゆーきー……なんとかしろー……」

 

 上杉様は座っているのだが、武田様は畳の上でだれている。そして俺の膝をぺしぺしと叩きながら何とかしろと言ってきた。昨夜ちゃんと民のことを考えているのだな、と見直したがこれではそんなことはなかったことになってしまいそうだ。というかなかった。

 二日酔いにはどうしたら良かったか。水を飲ませて首筋を冷やせば良かったような。後はしじみかあさりの味噌汁に蜂蜜や柿も良かったような気がする。まぁ、この辺りのことは既に侍女が手を打って食事を用意しているような気がするのだが。

 

「とりあえず水でも飲んでください。まぁ、水差しがありますし飲んだ後ではあると思いますが」

 

「水ならもう飲んだわ……一向に良くならないけどね……」

 

「なー、ゆーきー……忍術でぱっと治してくれよ……」

 

「忍術は万能ではないので無理です。飲みすぎる武田様が悪いんですから我慢してください」

 

 本当はある程度治すことは出来るのだが、ここで武田様を甘やかす必要はないと思ったから無理だと伝えておく。それに躑躅ヶ崎館の侍女は気が利くようであるし、二日酔いの対処として食事を用意しているだろうという考えから俺が治すよりもそちらに頼った方が良いと思ったのだ。

 それと武田様は少し甘やかすと図に乗るというか、調子に乗って更に甘えてくるようなので厳しく接しておかないといけない。武田様は甘えるのなんて、上杉様だけで充分だ。それに俺が甘やかすのはヨシテル様や義昭様だけで充分なのだから。他の方の世話をする余裕はそれなりにあるが、そこまで世話を焼く気はない。

 昨日は細々とした世話も焼いたし、武田様の世話をするのはもう充分だ。

 

「それよりも本日のご予定は?

 川中島での模擬合戦まで数日ほど猶予がありますが、上杉様はどのように動くのでしょうか」

 

「今日は……いえ、一日此処に滞在するわ……

 頭が痛くて動けそうにないから仕方ないわね……」

 

「俺も大人しくしとく……こんな日は何にも出来ねぇ……」

 

「わかりました。それでは俺は今の内に甲斐の視察をさせて頂きます」

 

「おう……町民とかに迷惑かけねぇようにな……うぁー……頭痛ぇ……」

 

 二日酔いが酷いようで二人に覇気はなく生きる屍とでも表現すれば良いのか、とにかく酷い有様である。これでは話をすることもままならないと考えて甲斐の視察をすることにした。

 本来であればもう少し武田様の傍で仕事ぶりを見たかったが、今回は仕方ない。この様子だと今日は仕事をせずに二日酔いに苦しんでいそうだ。

 甲斐の視察と言えど町を視察した限りでは問題がなかったので領地そのもの、つまりは中心地から離れた農村などを視察するために軽く跳んでいる。いつもの速度であれば視察など出来たものではない。

 とはいえ普通に視認出来る速度ではない。今日一日で甲斐全土を回ろうと考えているのだからこれでもまだ足りないかもしれない。しかし速く跳べば当然見落とすものがあるのでこの速さが限度だ。

 そう思って跳んでいたのだが目の前に突如として黒い斬撃が飛来し、空を蹴り回避行動に移る。そしてそれを見越したように更に数と威力を増した斬撃が飛来するが俺にしてみれば非常に遅い。焦ることなく全てを避けてから誰の仕業か、なんてわかりきっているが斬撃を飛ばしてきた人物を見れば、斬馬刀を肩にかけ、不敵な笑みを浮かべた室生様が立っていた。

 

「久しいな、結城」

 

「…………お久しぶりですね、室生様」

 

「ほう……苦虫を噛み潰したよりも尚渋面をしているな」

 

「なりますとも。なんで俺を見つける度に斬って来るのか。

 何度言えば良いのか分かりませんか、室生様と一対一で戦う場合俺では絶対に勝てませんし、室生様では絶対に俺に勝てません。諦めてください」

 

 毎度毎度俺を見つければ斬撃を飛ばしてくるが、俺には当たらない。室生様の攻撃は速度よりも一撃の威力を重視しているために、速度重視回避優先の俺にはまず命中することはない。

 そして当然ではあるが俺では室生様に傷一つ付けることが出来ないので勝てるわけもない。つまりお互いに相手に攻撃をしても意味がなく、勝敗を決するにしても単純な戦いとなるとまず決着が着かない。それは室生様としては面白くないような、倒せない相手を倒すために戦うのが面白いような、俺からすると理解出来ないのだが矛盾した感覚を抱きながら俺を斬り伏せようとしてくるのだ。

 

「それは無理だな。我に斬れぬ者が在る。それは酷く気に入らん」

 

「気に入る気に入らないの話ではなく、無益だから諦めてくださいと」

 

「有益無益、そんなものは意味を成さぬ。我が望み、我が斬る。それで良い、それが良い」

 

「相変わらず自分の考えと言うか信念というか、そういうもので生きていますね。とても迷惑ですが」

 

 本当に迷惑極まりない。まぁ、別にこの方はそういう方だと理解しているので今更どうこう言って改善されるなんてことはこれっぽっちも思っていない。

 

「それで室生様は何故甲斐に?武田様にでも喧嘩を売りに来たのなら今日はやめた方が良いですよ。二日酔いで死んでいるような状態ですし」

 

「我が言うのも可笑しな話ではあるが、領主の状態を容易く教えて良いものか」

 

「室生様の場合はまともに戦える相手と戦って勝利し屈服させるのが目的でしょうから、戦えないと知っていれば何もしないでしょう?」

 

「ふん……我の獲物になりえぬのであれば斬るに値せん。

 それで、貴様は何をしている」

 

「甲斐の視察を。まぁ、問題は特に見当たりませんが……問題児ならいましたね」

 

 大きな問題児に捕まってしまったのは全く持って予想外の出来事だ。室生様と遭遇するなんてことはそう起こることではないし、なるべく俺も室生様の気配を感知した場合は見つからないようにしている。ただ今回は視察と速度の調整に気を使っていて、更に室生様が何故か気配を殺していたために気づくことが出来なかった。

 いや、待て。どうして室生様は気配を殺していた?

 

「……室生様は俺の姿を確認してから気配を殺したわけではありませんよね。では何故そのようにしていたのか、聞いてもよろしいですか」

 

「構わん。この近くの村で聞いた話だが、どうにもこの辺りには通常よりも大きな猪が出るらしい」

 

「まさか……それを仕留めて食べようとしてます?」

 

「うむ!久方ぶりに牡丹鍋を食らうも悪くはないからな!」

 

 不敵な笑みのはずなのにどことなく武田様と相通じる何かを感じてしまう。これはあれだ、ハラペコ属性という奴に違いない。まぁ、室生様の場合は豊臣様のような可愛らしいものではないのは確実である。

 

「貴様も付き合え。猪は我が斬る。処理は貴様がしろ」

 

「自分が面倒だから押し付けてるだけですよね、良いですけど料理はしませんよ」

 

「それで良い。代わりに土産に幾らか肉を持たせてやる」

 

 土産と言われても戻るのは躑躅ヶ崎館であり、武田様に渡すより他にない。これが単純に視察に来て京に戻るなら良かったのに、と思ってしまった。それと、血抜きや解体をしろということでそれはそれで面倒である。

 まぁ、室生様はある程度相手が戦う気構えをしていなければ斬りかかって来ないので別に大丈夫と言えば大丈夫だ。挨拶代わりに斬撃を飛ばしてくるのはどうかと思うが。

 

「ところでどれくらいの大きさなのか、話は聞いていますか」

 

「村人に話を聞いても要領を得んが……一応我が聞いた話であれば、その村人の家よりも大きいとのことだ」

 

「は?」

 

「畑仕事の最中に山から下りて森へと入るのを見た、ということもあって不明瞭なところもあるが……真であれば実に面白い」

 

「それって刃頭雨流と同じくらいってことですか」

 

「その程度はある、ということであろうな」

 

「……放置すべきではないのかもしれませんが……先にどんな存在か確認させてもらえませんか?

 山の主であったり、神霊の使いであったりした場合に仕留めるようなことがあるとよろしくありませんので」

 

 そんな大きさの猪がただの猪であるとは思えない。言ったようにこの辺りの山の主であったり、神霊の使いとして存在しているようであれば、仕留めるなどというのはもってのほかだ。そんなことをして祟られでもしたら目も当てられない。

 室生様が祟られるのは別にどうでも良いのだが、この土地を祟られでもしたら面倒すぎる。ただでさえ毛利輝元様の件があるのだ、余計なことに気を張りたくはない。

 

「む……そんなもの関係なく斬り捨ててしまえば良かろう。例え神霊の使いであったとして、神霊が現れようが祟られようがそれら全て斬ってくれようぞ」

 

「室生様が祟られるのは良いですけど、土地や国が祟られても困りますから。いえ、室生様を差し出して許されるなら問題ありませんが」

 

「貴様は我に対して本当に歯に絹着せんな」

 

「挨拶が斬撃の室生様には遠慮とか必要ありませんので」

 

 カシン様と同じように室生様へも遠慮なんてしない。まぁ、呼び方に関しては以前からこうなので変えていないが遠慮なんてものはとっくに捨てている。わざわざ遠慮して気を使う必要はない相手だ。

 というかそんなことをしていてもどうせ室生様は斬りかかって来るに決まっている。それなら本人に対して気を使うよりも警戒するのに気を使うべきなのだ。もしくは遭遇しないように気を使う。

 

「まぁ、良いわ。では行くぞ、結城」

 

「はい、仕方ありませんし不本意ですけどお供します」

 

「二言多いわ、馬鹿者」

 室生様に連れられて森に入り、件の猪を探しているのだが痕跡が見つからない。大きさが大きさなので木々を薙ぎ倒していることも考えられるし、足跡が残っているはずなのだ。

 それだというのに何処を探しても痕跡はなく、話を聞いたという村人が見た場所に向かっても何もない。まるで元々そんな猪は居なかったとでも言うように。

 ただ、それを探しているのはあくまでも室生様であって俺はまったく協力していないので、俺が痕跡を探せばもしかすると何か見つかるのかもしれない。

 

「足跡すらないとなると、あの村人の虚言であったか……?」

 

「どうでしょうね……とりあえずこうして足跡など見当たらないとなると山の主、ということはなさそうですね」

 

 俺が見たことのある山の主、森の主などは巨大な狼や猪、熊や少し特殊だが狒々が存在した。それらは木々を薙ぎ倒して移動したり、間を移動しながらもその巨大な足跡を残したりと、まるで人に対して此処は人が踏み入るべきではない土地である。と警告しているようでもあった。

 そうした主が存在する土地は秘境とされる土地が多いのだが、時折人里近くにも居る。今回はそれかと思ったが、どうにも違うようだ。

 となれば神霊の使いとして、実体のない存在なのかもしれないし、それとは違うが同じく実体がないのかもしれない。これは室生様では厳しいし食用には出来そうにない。

 

「とりあえず俺が見てみましょう。実体がないなら室生様には見つけられそうにありませんし」

 

「実体がないだと?では我の牡丹鍋はどうなる」

 

「諦めてください。もしくは適当な猪でも仕留めてください」

 

 無駄話はさっさと切り上げて目に気を巡らせて通常では見ることの出来ないものを見る。見えないものとは、霊体であったりカシン様が扱う呪いであったり様々である。見える人間にはそのようなことをせずとも見えるらしいのだが、俺はそういう人間ではないので目に気を巡らせなければならない。

 そうして森の中を見れば、あちらこちらの木に黒い靄が纏わり着いているのが見えた。どうに神霊の使いということもなさそうである。もしこれが神霊の使いが残した痕跡だとしたら、それは厄神となってしまうので始末しなければならないだろう。その時は室生様に譲れば良い。きっと嬉々として斬ってくれるに違いない。

 そうした結果室生様が祟られたり厄神に目をつけられたとしてもきっと大丈夫だ。室生様は祟りだろうが厄神だろうが斬ると決めれば斬るに決まっている。室生様はそういう方なのだから。

 とはいえ、これはそういう類のものではなく怨みの集合体のようなもののようだ。なんとも馴染み深い気配がする。

 

「室生様、どうにも山の主でも、神霊の使いでもなく、誰か、又は何かの怨みの集合体のようです。

 牡丹鍋はやはり諦めてください」

 

「……ならばその怨みの集合体とやらは我に斬らせよ。程度の知れたものであっても憂さ晴らし程度にはなろう」

 

「ええ、構いませんよ。もとより俺は手出しするつもりはありませんので」

 

「ならば良い。何処に居るのか貴様ならわかるのであろう。ならば案内せよ!」

 

「ええ、では此方に」

 

 黒い靄を追って進む俺の後ろに着いて来る室生様であるが、非常に機嫌が悪い。そこまで牡丹鍋が食べたかったのか。それなら本当に適当な猪でも狩れば良いのに。

 仕方が無いので森の中で猪を見つけたら仕留めておこう。機嫌が悪いままで俺に斬りかかって来られても困る。ご機嫌取りが猪数匹で済むならば安いものだ。

 そんなわけで室生様を案内しながら目に付いた猪を仕留めては風遁で持ち上げ素敵忍術で適当に収納しているがなんというか、全ての猪の気性が荒く此方を見つけ次第突進して来ようとしていた。まぁ、風遁で首を刎ねるか土遁で心臓を貫くかしているので問題はないのだが。

 どうにも怨みの篭ったあの靄に触れた猪のみがそうなっているようで、放っておいた場合は近隣の村に被害が出そうだ。本来は視察が目的であったが、危険な芽を早めに摘むことが出来ると考えれば室生様に襲われたのも結果としては悪くなかったのかもしれない。ただ余計な心労が掛かっているので良かったとも言えないのだが。

 

 そうしたことを思いながら歩いていると木々に纏わり着いている黒い靄が多く、大きくなってきた。そろそろ怨みの集合体である巨大な猪が見えてくるはずだ。

 少しだけ歩みを遅くすると室生様はそれがどういう意味なのか察してくれたようで斬馬刀を持つ手に力を込め、ガチャリと音を立てて肩に担いだようだった。獲物が見えればすぐにでも斬り捨てる、そういうことなのだろう。

 そして少し進めば開けた場所で巨大で皮膚の大半が腐り落ちたような、酷く醜い猪が地面を踏み荒らし、唸り声を上げていた。それはとても低く、怨嗟に塗れたものであった。ただ、それを見ても室生様は何の反応も示さない。

 

「室生様、件の猪を発見しました。ただこのままでは見えないと思いますので結界を張ります」

 

 声をかけてから印を組み、見えざるものを見るための、姿なきものに干渉出来るようにするための結界を張る。

 

「醜き姿に悍ましき声。されど我にはそのようなものは意味を成さんわ!」

 

 あれほど強い怨みの集合体である姿は見るものを恐怖させ、怨嗟の声は聞くものを呪うようなものだ。俺のように呪いに耐性がある、もしくは呪いに精通しているのであれば平気で居られるだろう。だが室生様は違う。とか思ったがこの方は色々とおかしい方だった。

 恐怖などなく、呪いを裂帛の気合で跳ね除け、俺であれば処理するのに多少なりと時間が掛かるであろうそれを一刀の下に斬り捨ててしまった。だが集合体であり、小さな怨みが集まった結果があれだ。斬るならばその大元を斬らなければならない。

 とはいえ、見る限り室生様は死ぬまで斬り続けるという方法、つまり怨みの全てを斬り捨ててしまえば良いとばかりに斬馬刀を振るい続けているのでそのうち大元を斬る事になるだろう。

 

 それにしても、干渉出来るようにと結界を張ったのは俺だがあれほど簡単に斬るとは思ってもいなかった。干渉自体は可能だとしても、あれは本来実体なき存在。であるならば鬼丸国綱や大典太光世とまではいかないが霊験の宿る刀などで斬るべきだ。

 だというのに霊験が宿っているわけではない斬馬刀で平然と斬り捨てている室生様はやはりおかしい。もしくは規格外と言えるのではないだろうか。

 この姿を見ているとヨシテル様や織田様、カシン様と同様に最強の一角として数えられているのにも納得が出来る。まぁ、そちらに納得はしても今のこの光景を見て納得できるのかは全くの別物であるが。

 

「脆弱!なんと脆弱なことか!図体ばかりでかいなど、巻藁と変わらぬわ!」

 

 思っていたよりも易々と斬り捨てていることからこれでは室生様の憂さ晴らしにならないのではないか、と危惧したのだがどうやらそうでもないらしい。

 斬っても斬っても消えることのないことから確かに憂さ晴らしには丁度良いのかもしれないが、反面単調な作業のようでつまらないようにも思える。まぁ、室生様が楽しそうに斬っているので本人としては満足なのだろうけれど。

 とりあえずそんなのを見続けるのは非生産的なので、仕留めておいた猪を取り出して血抜きと解体をすることにした。今のうちに済ませておけばさっさと室生様と別れて視察に戻ることが出来る。視察に戻ることよりも室生様と別れたいというのが本音であるのだが。

 

「ええい!このような相手であれば素手で充分だ!」

 

 何を言っているんだろうこの方は。普通あんなものを素手で殴ろうなんて思わないのに……あ、本当に殴った。しかも猪の牙を掴んで殴っているので遠くに飛んでいくことはないのだが、どれだけ力を込めて殴ればあの巨体が浮くのだろう。

 いや、本来は実体がないのだから重さはさほどないのかもしれないが。それでもこの光景は衝撃的すぎる。

 これはあれこれ考えても詮無いことなのだろう。気にしないようにしてさっさと猪の血抜きと解体をしておこう。なんと言うか、室生様なら仕方がないという風に思えてきた。

 

 とりあえず処理が終わる頃にはきっとあれも終わっているだろうし、二三言葉を交わしてから視察に戻らせてもらおう。室生様のように全国を回っている方であればもしかすると毛利輝元様について何か知っているかもしれない。

 それに室生様は独自の情報網のような物を持っているようで、時折ではあるが部下を走らせても集められなかった情報を持っていることがある。であるならば、今回もそれと同じように何か知っているのではないか、という期待をしている。

 ただ……どうにもノリノリで殴り続けているのを見ると暫く掛かりそうだとため息をひとつ。殴っても何とかなるにしても非効率的過ぎると思うのだが、そんなことは関係ないとばかりに握り拳を振るい続けている。呆れ半分、諦め半分でそれを視界の端に収めながら、心の中で大きな大きなため息をひとついて、それでも手を休めることなく淡々と猪の処理をしていくのだった。




オウガイ様はあれできっとハラペコ属性持ちのはず。
予告の「熊だ!食え!」には笑った。
それとオウガイリーチの乙女八人の攻撃を受けても無傷で「それで仕舞いか」って何あれ格好良い。

花、一ヶ月切ったな……!

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