――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主はオリ主で癖が強い人間。


イエヤスさまといっしょ そのに

 徳川様に案内されるままに辿り着いた部屋に入り、用意してもらった座布団の上に座る。なんというか、普段は畳の上に直接座る。いや、むしろ座らずに立っていることの方が多いので微妙にむず痒い。

 とは言え、用意されたのにそれに座らないのは失礼だと思うので大人しく座っているのだ。

 

「少し待っていてください。侍女にお茶を頼んでいるので、すぐに持って来てくれるはずですからね」

 

「わかりました。お気遣いありがとうございます」

 

 茶会のそれとは違う普通のお茶というのはありがたい。お茶と言うだけであれを思い出して少しだけ疲れてしまう。いや、確かに味は良かったのだけれども。

 それでも細かい作法に気をつけなければならないのは大変なのだ。

 

 お茶を頼んでいるということは、きっと侍女が来るまでは徳川様は何も教えてはくれないのだろう。そう思って徳川様を見れば目を閉じて微動だにしない。

 であれば俺が今話とは何なのか聞いたところで答えてはくれないだろう。だから大人しく待つのが正解だ。

 そう思って大人しくしていると、人の気配が近づいて来るのを感じた。気配を消しているわけでもなく、足音も普通で何か特別な訓練などを受けた様子もない。普通の侍女なのだろうか。

 

 織田様のように忍に侍女へと変装させておらず、忍は忍として隠れているということなのか。

 そう思って気配を探るが近くにはそういった気配はない。

 なんとなく察したのか徳川様は目を開けて俺を見た。

 

「……あぁ、忍の方々には下がってもらっていますよ。

 今回は結城にだけ聞かせるべきかと思いましたから」

 

 なるほど。そういうことなのか。道理でまったく気配を感じないわけだ。

 いや、もしかすると俺が気づかないだけで気配を消して隠れている可能性もあるのか。

 であれば少し本気を出して探らなければ。隠れているかどうかなんてものは関係ない。もはやこれは忍としての意地のようなものである。

 そうして探ってみるとこの部屋の周囲にはそれらしい気配はなかった。ただ、流石に屋敷全体で見ればあちらこちらには忍の気配を感じることが出来た。

 いつも通りの気配察知能力である。これで見つけられないのであればそれは相手の方が上手ということだ。それならば仕方ない。というか、これくらいやれば満足である。

 

「結城のそういうところはなんというか、子供っぽいようにも思えますね」

 

「いや……つい……」

 

 その様子を見ていた徳川様が何処か意外そうにそう言った。普段はこういうことはしないせいなのかもしれないが、俺だって男なのだ。無駄だと言われるとしても意地になることだってある。

 ……意地になるようなこと自体、あまりないのだけれども。

 

「あ、でも……普段の落ち着いた姿と違って、なんだか新鮮でした」

 

「そういう感想やめてもらえませんか。少し恥ずかしいです」

 

 普段と違う姿が新鮮でしたとのことだが、口元へと手を持っていきくすくすと笑うという行動と一緒に言われると流石に恥ずかしい。

 とはいえそれを表情には出さないようにしている。忍たる者感情を悟らせるべからず。とは師匠の言葉だ。師匠はだいぶ感情を表に出していたようにも思えるのだが。

 

 そんな他愛の無い話をしていると侍女が数名部屋に入ってきて茶と茶菓子の饅頭を大量に置いて去って行った。流石今川様に仕える人間だけあって礼儀作法をきっちりと叩き込まれているようで、所作が綺麗なのが印象的だった。そして饅頭の量が衝撃的だった。

 侍女が退出するのを見てから、それでは早速話を……と思ったのだがどうにも徳川様は違うらしい。

 茶菓子が饅頭だったのだが、それをとても美味しそうに頬張っていた。それも栗鼠のように頬を膨らませて、である。確かに茶菓子にしては随分と量があるな、とは思ったが対徳川様用だったのか。

 とりあえず、頬張っている饅頭がなくならなければ話が出来ないので徳川様が食べ終わるのを待たなければならない。しかし、量が量である。すぐに食べ終わることはないだろう。

 具体的に量を言うのであれば饅頭の山が三つである。それも以前豊臣様と大食い対決をした時に食べていたような大きさの饅頭だ。

 饅頭を頬張り、時折茶を飲んで、また饅頭を頬張る。その繰り返しである。

 

「……徳川様、そうして饅頭を美味しそうに頬張っているのを止める、というのは聊か心苦しくはありますが……もう少し落ち着いて食べても良いと思います。というか落ち着いてください。

 なんですかそれ。見ているだけで微妙に胸焼けが起こるんですけど」

 

 事実胸焼けが起こっている。なんであんなに饅頭を沢山食べられるのだろうか。むしろ徳川様の体のどこにあれが消えているのだろうか。

 とりあえず俺の言葉を聞いて饅頭を頬張るのをやめて、それでも口の中にある饅頭を味わいながらもぐもぐと口を動かしていた。そしてそれを飲み込むと茶を飲んで一息つき、姿勢を正して俺に向き直った。

 

「ん、そうですね……お饅頭は後でも食べられるので、先に話をしましょうか。

 …………本当はもう少し食べたかったのですが……」

 

 真剣な表情に変わったかと思えば後半の呟きで台無しである。だがそれを指摘して妙な話の拗れ方をしても面倒なので黙っておく。……この辺りは、宗易様の連発する駄洒落をそのまま流すのと同じようなものだろうか。

 そんなことを頭の隅で考えながらも、それを表には出さずに徳川様が喋り始めるのを静かに待つ。

 

「まずはそうですね……結城の状態について、気づいていないようですので教えなければなりません」

 

 俺の状態、というのは何か。なんとなく察しているものであれば……

 

「カシン様の呪い、でしょうか」

 

「ええ……気づいていたのですか?

 その割にはなんというか……魔力が……」

 

「あ、いえ……なんとなく、察しました。カシン様の話と、徳川様の行動。そして幾らか楽になったことを考えると、カシン様の呪いが原因で魔力不足というか、呪力不足というか……

 とりあえず、そういった状態になっているのではないか、と」

 

 今になって思えば、そうした結論に至ることが出来る情報は幾らかあったのを思い出す。特にカシン様は顔を合わせる度にあれこれと言っていた。だというのに俺はその結論を出すことが出来なかった。

 どうやら泰平の世ということで気が抜けていたのかもしれない。乱世の折にはもう少し察しが良かったはずなのだから。

 

「そうですか……それがわかっているなら幾らか省略しても問題ありませんね。

 先ほど私が結城の手を握っていたのは魔力を譲渡していたからです。既に枯渇した状態でしたので、気休めではありますが……」

 

「なるほど……って、待ってください。枯渇した状態、ですか?

 それはおかしくありませんか?そんな状態になっているのならとっくに死んでいるはずですが……」

 

「本来であれば、そうなります。ただ、結城の中には少々特殊なものがありますから」

 

「……カシン様が言っていた俺の中にある、というのは呪いそのものかと思っていましたが……どうにも違うみたいですね……」

 

 それならば俺の中にある物とはなんだろうか。カシン様の呪いとその起源である憎悪をこの身に封印しているのでそれかと思っていたのだが。

 

「この身に卑弥呼を降ろすこととなった時に幾らかの記憶と情報が私の中に残っていました。

 そしてそれによって榛名の欠片と呼ばれるものの存在を知りました」

 

 榛名の欠片。その名前だけを聞けば既に榛名は砕けているとも考えられるのだが、それならばカシン様がわざわざ俺に榛名の話をする意味がない。となれば……

 

「それは形の無い何か。ということでしょうか」

 

「ええ、そうなります。

 榛名は卑弥呼が浄化し切れなかった負の気を封印したものです。それが何故か手にすれば天下の覇権を握れる、という風に言われるようになっていましたが……本来のあれは、世に解き放てば災厄を招くことになるでしょう。

 ……少し話がずれましたね。その榛名の名を冠した欠片ですが、榛名とは違ってその性質は陽でも闇でもない、どちらにも染まっていない状態の力です。

 ですが……もしこれが闇に染まるのであれば、結城は以前のカシンと同じ存在になってしまうかもしれません。

 そして結城の中にある榛名の欠片は既に闇に傾いているように思えます」

 

「それは困りますね。それをどうにかする手が無いなら、とりあえずこの首を落としてしまうのが一番でしょうか?」

 

 以前のカシン様と同じ、ということは世界を憎み、滅びを呼ぶ存在になるということか。それは困る。ヨシテル様の悲願が達成された今、それを乱すなんてことは許されない。

 それも俺自身が、となるのであれば一刻も早くこの首を落としてしまわなければならない。

 命ある限りヨシテル様を支えていきたかったが、致し方あるまい。

 

「結城のそうした誰か一人のために全てを投げ捨てることが出来るというのはある意味で美徳なのかもしれません。ですが結城が亡くなれば悲しむ方が多くいます。ですから軽々にそんなことを言わないでください。

 それに、手が無いわけではありませんよ」

 

「……すいません。軽率でした。それで、手があるのですね」

 

 自分の命を軽く見る。どうにも昔からそうだが、師匠にもあれこれと言われた記憶がある。人の命は決して軽くなどないのだと。里にあった本を読んで得た考えだったが、それが原因で随分と怒られたものだ。

 今となってはそんなことはないはずなのだが、必要であればこの命を切り捨てることに躊躇いは無い。

 

「ええ。陽の力に傾ければ良いのですよ」

 

「…………カシン様が闇の力に染まっている見本とするなら、陽の力に染まっている見本は徳川様や他の戦国乙女の方々、と言ったところでしょうか」

 

「はい、少し大雑把な考えではありますがそれで問題ありません」

 

 となれば、早々に陽の力に傾けなければならない。以前のカシン様のようになるなど、あってはならないのだから。しかし、何故だろうか。陽の力に傾ける、その考えを忌避する自分がいる。

 

「……どうにも、浮かない顔をしていますね……

 もしかして、陽の力に染まることが、あまり良く感じられませんか?」

 

「はい……どうしてか、忌避感があります。

 なんというべきか……無理に陽の力に染まらずとも、多少であれば闇に傾いても良いのではありませんか?」

 

「何故そう思うのですか?下手をすればカシンのような存在になってしまうかもしれないというのに。

 結城もそれが原因でヨシテル様と結城がこうして成し遂げた泰平の世が乱れることを良しとはしないでしょう?」

 

「…………あー……変なこと言いますけど、笑わないでもらえます?」

 

 忌避感を覚えて、何故かを少し考えると思いつくことは幾つかある。それでもきっと、一番大きな割合を占めているのはカシン様のことだろう。

 

「俺が闇に傾いているというのはきっとカシン様は認めないと思いますが仲間意識とか持ってそうだな、と。

 そんな俺が陽に傾き染まるとなれば……確実に拗ねて面倒なことになりそうだなぁ、とか思うわけですよ」

 

「あのカシンが、ですか……?」

 

「徳川様にとっては信じられないと思いますが、本当にそんなことで拗ねてしまうんですよ。

 まぁ、それに現状維持でも問題はないのならそれで良いと思っていますからね」

 

 闇の力に傾いていても、それは問題ではない。傾く程度ではなく、染まってしまうのが問題なら現状維持ということでも良いのではないだろうか。

 それにきっと昔からそうだったのだと思う。片方に傾いた状態でずっと生きてきた、それならこれからもそのままで生きていけば良い。

 

「今のカシンは私よりも結城の方が詳しいですから、そうなのかもしれませんね。

 ……ですが、出来れば結城には陽へと傾いて欲しいと私は思います。万が一、ということもありますから」

 

「あー……それは必要に応じて、ということで……

 ……ところで徳川様。カシン様の呪いを解呪する方法などに心当たりはありますか?」

 

 少し話を逸らそう。いや、実際に解呪の方法を徳川様が知っているのならそれに越したことは無いのだが。

 

「カシンの呪いを解く方法ですか?

 ……榛名の力を利用すれば、可能かとは思いますが……」

 

「榛名の力ですか……そうするのであれば素人が扱うよりは、徳川様かカシン様に協力してもらうべきですね」

 

「はい。私やカシンであれば扱えるでしょうね。ですが、カシンが呪いを解くことに協力してくれるのかどうか……」

 

 まぁ、そうだ。カシン様が何の見返りもなく手伝ってくれるとは思えない。

 というか、見返りがあっても手を貸してくれる保障など何処にもない。

 

「となれば、まずは榛名を手にしろ。ということですね」

 

「あまりお勧めは出来ませんが……確実ではあると思います」

 

「わかりました。では最終手段として考えておきます。

 榛名に手を出す前に、色々と試してみますよ」

 

「それが良いかもしれませんね……ですが、何度も言います。無理だけはしないようにしてくださいね」

 

「ええ、わかっています」

 

 話を逸らすことに成功したし、解呪の最終手段も確保した。

 それに俺の中にある榛名の欠片とやらの状態も知れたので駿河に来て良かったかもしれない。ただ、徳川様に言われた通りにすれば本当にカシン様が拗ねてしまうだろう。

 多分俺がこうした任務に就いたのはカシン様がヨシテル様に教えた結果だろう。そして徳川様と同じように欠片を陽に染めろ。とか言ったかもしれない。

 ただ、それで本当に俺が榛名の欠片を陽に染めてしまえばカシン様は気を悪くする。

 あの方は本当に子供のようで、素直ではない。なんだかんだで気に入られている俺が闇に傾いているのをカシン様は内心では気を良くしているだろう。というか、陽に染まっているだろうヨシテル様の傍に居る、そんな人間が闇に傾いているというのが面白いのかもしれない。

 

「…………榛名、調べてみましょうか……」

 

 饅頭をまた頬張り始めた徳川様を見ながら呟いた言葉に答える者はない。ただ、一瞬だけ徳川様の目に今までと少し違う色が浮かんだ気がした。




この作品の設定とか、そのあたりをちょろっと。

資料集読んでゲームやって、修正とかこういう風な話にしようとか色々思いますね。
というかオリ主いるからゲームで言うと京都編の終わりくらいから原作剥離してるんですよねこれ。
というかもうオリ主がいて色々やらかしてるからこんな話になってるんですけどね、うん。

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