――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は遠慮したり、壁を作るけどなるべく悟らせない。
ただし頭の切れる人や勘の鋭い人には気づかれている模様。


ノブナガさまといっしょ

 織田様に執務室の隣に食事等の際に使っている部屋があるのでそこで待つように、と言われて豊臣様に案内されるままに付いて歩き、大人しく待機することになった。

 少しだけ空いた襖から見えた執務室は綺麗に片付いており、ぱっと見では仕事が片付いているようだった。なんというか、領主である戦国乙女の方々はどうしてか仕事が早い。大友様は立花様に急かされることも多いとかなので全員が全員そうとも限らないのだろうけれど。

 そして通された部屋で待つのだが、同じく待っている豊臣様がとてもそわそわしている。見る限りでは楽しみで楽しみで仕方が無い。というように見える。それだけ織田様の料理が美味しいということだろうか。

 というか豊臣様はもう少し落ち着くべきだと思うのだが。いや、こうした子供のようなところが豊臣様らしいと言えばらしいのかもしれない。

 

「豊臣様、もう少し落ち着いてはいかがですか」

 

「う、うん……でもやっぱりご飯楽しみだし……」

 

 そう言って相変わらずそわそわしている豊臣様は今か今かと食事を楽しみにしている。

 こうしてみると、子供というか、仔犬とか仔猫とかその辺りのようにも見えてくる。飼い主から貰える食事を待つ動物。うん、実にしっくり来る。

 こんなことを考えているというのがばれると怒られるかもしれないが、まぁ、豊臣様であれば問題ない。多少は怒るとしても、そこまで激昂するということもないはずだ。

 

「サル、結城!飯じゃ!」

 

 そう言って侍女を従えて入ってきた織田様はいつもの和装で、大胆と言うか豪快に肌蹴させていた。普通であれば女性がそういった格好をしている、というのはあまり良くないと思うのだが、織田様であればむしろ安心する。あぁ、いつもの織田様だ。という感じで。

 

「結城!ご飯だよご飯!」

 

 キャッキャと嬉しそうにはしゃいでいる豊臣様を見ながら満足げにしている織田様に付き従っていた侍女は早々に膳を三つ置くと一礼をして退室して姿を消した。どうにもただの侍女ではなく、忍が侍女のふりをしていた。ということだろうか。

 足音はなく、気配もない。流石織田様の忍、錬度の高さは足利軍の忍と同等かそれ以上だ。これは戻ったら本当に部下全員の錬度を上げなければならない。

 しかし厨房に居た侍女はそういったことはなかったので、侍女の中に忍を紛れさせており、有事の際の保険ということなのだろう。

 そんな決心をしながらも目の間に置かれた膳を見るとどの料理も見た目はとても美味しそうに見える。

 上座に織田様、そして向かい合うように座る俺と豊臣様。そうして前に座る豊臣様を見るとちらちらと織田様を見ていた。これは食べても良い、と言われるのを待っているのだろうか。

 

「さて、いつもであればサルにさっさと食わせてやるが……折角じゃし結城に感想でも聞こうかのう」

 

「はい、わかりましたお館様……」

 

 わかった、とは言うもののしぶしぶ返事をしたように見える。早く食べたいけれど、織田様がそう決めた以上は待つしかない。というのが原因だろうか。

 そんな豊臣様と、感想を楽しみにしている織田様を待たせるわけにはいかないと思い、手を合わせてからいただきます。と言って手をつける。

 味は悪くない。というかむしろ美味しい。なるほど、確かに織田様が得意気になるのも納得できる。

 

「美味しいですね……まさか織田様がこうも美味しく作れるなんて驚きです」

 

「そうじゃろうそうじゃろう!なんと言ってもワシが作ったんじゃからな!

 サルももう食って良いぞ!」

 

「はい、お館様!それじゃ、いただきまーすっ!」

 

 満足そうに笑って織田様が許可を出すと、豊臣様は嬉しそうに言って食事に手を付け始めた。そして織田様も食事に手を付けて自分の料理の味に納得したようにうむ、と頷いていた。

 それに習って静かに食事を続けるが、思うことはまだ足利軍の侍女達の方が腕は上だな、ということである。

 ヨシテル様と義昭様により美味しい物を!と考えて日々腕を磨いている侍女は流石と言わざるをえない。

 

 そんな風に思いつつも織田様の料理に舌鼓を打ちながら食事を終え、食後に出されたお茶を飲む。

 正面の豊臣様は未だにおかわりをして、食事を続けている。本当に良く食べる。俺の周りでこんなに食べる人はいない、と思いながらもふと徳川様を思い出す。

 あの方はとてもよく食べる。豊臣様と饅頭の大食いで対決したり、お祭りでひたすらにたこ焼きを食べていたりする方だ。どれだけ食べてもどんどん入っていく、という感じで食べているのを覚えている。

 まぁ、それを言うならば豊臣様もお好み焼きを何個も重ねて持っていたのでどっちもどっち、と言えるのか。

 

「結城。何も用がないのに来た。ということはないじゃろう。

 それで、今回はヨシテルの奴から何を言われて来たんじゃ」

 

「ヨシテル様からは諸国を巡り各地の戦国乙女の方々の様子を見てきて欲しい、と。

 ただカシン様がヨシテル様と話をした後にそうした命を受けたので、カシン様が元凶だとは思われます」

 

「ほう……カシンか……」

 

 目を細めた織田様は思考を巡らせているようで、正に真剣そのもの、といった風だった。

 だが、ふと気づいたことがあるように眉を顰めて俺を見た。

 

「結城、あのカシンが元凶と言っておる割には随分と落ち着いておるようじゃが、何故じゃ」

 

「元凶とは言いましたが、落ち着いて考えてみれば今のカシン様は自分が楽しいことを優先する困った方ですからね。今回も引っ掻き回して遊んでいるんじゃないかなと。

 まぁ、ヨシテル様から今回の任務を言い渡された際にはカシン様に対して剣呑な雰囲気にもなりかけましたが」

 

「なるほどな……それならば問題なさそうじゃな。

 ヨシテルと義昭に対して過保護なお主がそうも落ち着いて、問題ないと判断しておるのじゃ。ワシがとやかく言うことでもなかろう」

 

「……普通は俺が大丈夫だろう。と思っているとしても、疑問を抱くのでは?

 なんと言ってもあのカシン様ですから」

 

 他の方であればまず疑問を抱くはずだ。事実ミツヒデ様は俺がヨシテル様とカシン様を二人きりで話をさせても問題ないと判断した際に疑問を抱き、俺に対してどうしてか聞いてきた。

 それだというのに今回、織田様は一切そのようなことをしなかった。

 

「たわけ。ワシを誰だと思っておるか。

 それに結城はあの二人に関わることであれば判断を誤ることはない。ワシはそう確信しておるのでな」

 

 ヨシテル様と義昭様が関わること限定で、というのは信用されているのかされていないのかイマイチわからない。というかなんだその限定的な確信は。

 

「あぁ、それだけではないぞ。ワシとてカシンのことは調べておる。

 どうにも以前よりは付き合いやすそうに変わっておるようじゃな。他にも他人で遊ぶような困った奴になっておると報告を聞いておるが、何もかも恨んでおったときよりはマシじゃろうて」

 

「なんというか、意外ですね……カシン様は性格がアレですから仲良くというか、多少なりと付き合いやすそうと思えるとは驚きです」

 

「アレとか言うことにワシは驚きじゃがな。お主はカシンのことを存外信用しておるようじゃしそれなりには仲も良いのじゃろう?そっちの方が意外じゃな」

 

「事実アレですし」

 

 事実は事実なので仕方が無い。大体カシン様の性格についてなんて、アレですし。とか言っておけばなんとなく察してもらえるのだからそれで良いと思う。

 むしろカシン様の扱いなんてそのくらいで充分だろう。他の方たちの心情的に。

 

「……時折お主がわからん……実はカシンのこと嫌っておったりするのか?」

 

「あ、いえ。カシン様はどちらかと言えば好きですよ?ただ、殺し合った仲ですし遠慮なんて必要ないかなと」

 

「殺し合えば遠慮がなくなるのかお主は」

 

「かもしれませんね。殺し合い中は遠慮も何もありませんし、その延長で遠慮もなくなりますからね」

 

 事実カシン様とはそうした経緯でお互いに遠慮は無い。俺の性格上普段は敬語で話して遠慮などしているように見えるかもしれないが、言いたいことは言うし、必要ならば忍術を使って強制送還だってする。これが織田様や豊臣様であればまずそんなことはしない。

 ただ、ヨシテル様の場合はぞんざいに扱うことが多いということもあるが、現状はお互いに遠慮がなくなってきている。もしかしたらその内ヨシテル様に対しても完全に遠慮なくアレとか言うようになり、敬語で話すこともなくなるのだろうか。

 

「ならばワシと殺し合えば遠慮がなくなると言うことじゃな」

 

「やめてください、死んでしまいます。俺が」

 

「じゃろうな。冗談じゃから安心せい。

 とはいえ、そう遠慮されても面白みがないとは思わんか?」

 

「そうですね……きっとあれですよ。残念、好感度が足りない。って奴です」

 

 好感度が足りない。とか言っているが、好感度の高いヨシテル様や義昭様にさえ敬語使って遠慮のある態度を取っている。ということはどれだけの好感度が必要なのだろうか。自分で言っておいてなんだが想像が出来ない。

 それにそんなシステムを引っ張り出すのであれば、ぶっちぎりでマイナスになっていたカシン様とかどういうことなのだろう。システムに深刻な異常が発生してマイナスから一周してプラスになったとかなのだろうか。嫌すぎる。

 

「……自分で言っておいてカシンのことを考えたじゃろ」

 

「はい。この話はなかったことに」

 

「はぁ……仕方がないのう」

 

 そのやれやれ、みたいな目をやめてください。

 というか豊臣様はどうした。さっきから何も喋らないというか食べ続けているが。

 もはや一心不乱と言うのが正しいレベルで食事をしている。織田様の料理が美味しいと言っていたし、待っている間ずっとそわそわしていたことから本当に楽しみだったことはわかるのだが、これほどまでに集中して食べるのだろうか。

 気になって見ていると漸く食事を終えたように一息ついてお茶を飲み出した。入れたてのお茶ではないので熱くないためか湯飲みの中身を一気に飲み干していた。

 

「ふぅ……ご馳走様でした!

 お館様、今日も美味しかったです!」

 

 これはあれだ。俺と織田様の会話を完全に聞いてなかったに違いない。

 

「うむ、当然じゃな。して、サル。話は聞いておったか」

 

「話、ですか……?」

 

 やはり聞いていなかったらしい。何か話なんてしてましたか?と言わんばかりの様子で頭の上に?マークを飛ばしている。それを見て呆れたような、仕方ない奴め、とでも言いたげな視線を向ける織田様。わかって聞いたに違いない。

 それがわかっていない豊臣様は首を傾げながら織田様を見ていた。

 

「結城がワシらに対して遠慮しておる。それをどうにかせよ。

 そういう話をしておったのじゃ。サルとて結城にいらん遠慮などされたくはなかろう?」

 

「なるほど……確かに結城って遠慮してるって言うか、たまに壁があるって言うか……

 そうだ、こういう時はあだ名を付けて友好的に、ですよ!」

 

「ほう。なんと付けるつもりじゃ」

 

「結城だからユッキーで!」

 

「いつか現れるかもしれない真田様に悪いのでやめてください」

 

「えー、良いじゃんユッキー。今度からユッキーって呼ぶね!」

 

 なんだろう。本当にいつか姿が見えるかもしれない真田様に申し訳ないような気がする。というかミツヒデ様と微妙に被っているのだが豊臣様はその辺りはどう思っているのだろうか。

 

「ユッキーにミッチー……ってことはヨシテルさま?はヨッシー?」

 

「それやめましょう。どこぞの緑色の恐竜のような名前はダメです」

 

 ヨッシーだけは阻止しなければ。というかそれなら今川様もヨッシーに……いや、あの人はヨシモーか。

 それにしてもなんでこう微妙なあだ名を付けようとするのだろう。伊達っち、ミッチー、ユッキー。なんとも言えないあだ名の数々である。

 

「良かったのう。サルにあだ名なんぞ付けられる奴は限られておるぞ。なぁ、ユッキー?」

 

「織田様、やめてください。違和感が凄いですよ」

 

 あの織田様の口からユッキーとか違和感が凄まじい。織田様には普通に結城と呼んでもらいたい。主に心の平穏的な意味で。

 というかニヤニヤしながら言わないで欲しい。俺の反応見て楽しむのなんてカシン様だけで充分だ。

 

「良いではないか。まぁ、ワシとて自分で言って似合わんとは思うがな。

 とりあえずはサルにそう呼ばれるくらいは耐えよ。サルも嬉しそうじゃからな」

 

 確かにあだ名を付けてからの豊臣様は非常に楽しそうである。あだ名を付けることがより親密になれた、とか思っているのだろうか。里の子供たちと同じ考えだがそれで良いのか、豊臣様。

 しかし、どうにも俺やヨシテル様だけでは飽きたらず他の方のあだ名も考えているらしい。とりあえずの今川様がヨシモーとか呟かれてて、そこはちゃんとヨシモーなのか、と安堵してしまった。ここでヨッシー第二号なんてことになったら目も当てられない。ただアホの子状態の今川様であれば気に入ってしまうのかもしれないが。

 

「あー……豊臣様。それよりも少ししたら茶屋に行きましょう。昼食前に団子を、まぁ二つ食べてしまいましたが多少なりと我慢したので、それくらい許してもらえると思いますし。構いませんか、織田様」

 

「そうじゃな……サルが楽しみにしておった結城も来たことじゃし、今日くらいは許してやってもよいか」

 

「本当ですかお館様!」

 

「今日くらいは、な。結城、サルのことは任せたぞ。くれぐれも間食のし過ぎ、などと言うことのないようにな」

 

「わかりました。では豊臣様、食休みを挟んでから城下に行きましょう。

 ……とはいえ、食べすぎは認めませんからね?」

 

「うんうん!大丈夫だって!それはちゃーんとわかってるからねっ!」

 

 念のためにと釘を刺しておくが浮かれていて聞いていないようにも思える。まぁ、豊臣様であるから仕方ないのかもしれない。こういう幼いところが豊臣様の良さというか、そういうのにも繋がっているのだろうから。

 それにそんな豊臣様を見て楽しそうにしている織田様もいることだし、これはこれで良しということなのか。

 とりあえず俺のすることはなんだか豊臣様の母親染みている織田様に言われたように食べすぎないように注意することだ。足利軍ではまずやらないことではあるが、存外面白いかもしれない。そんな風に思うと少しだけ楽しみになってしまう。

 まぁ、楽しみだの思ったところで豊臣様が食べ過ぎた場合は織田様に怒られるのは俺と豊臣様の二人になるのだろうけれど。




なんというかこう、荒くれ者とかの面ではなく、臣下に対して優しかったりする面とか見てみたい。
たぶんヒデヨシ様相手には常時そんなのかもしれないけれど。

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