Fate/of dark night   作:茨の男

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彼の者の前に立つ闇の名は

壱.幾ノ瀬 ⁇?

 

今日は本当に疲れた。今回来たお客三人の内二人、遠坂夫婦は強烈な人物達だった。あれが彼らのいつもの地だというのならば一体普段からどんな暮らしをしているのだろう? プライバシーのこともある為、あまり簡単に聞くのもどうかと思うが……気になる。

最初のアシェカさんも然り、この商売をやって(まだ半年も経っていないが。) いると時々TVに出る有名人顔負けの人々がやって来るなんて思いもしなかった。……あんまり続けて来られるのも困るのだが、しかし、このドキドキが何処かそれを求めているのだ。

 

さて、回想はここまでとして現在夜中11時半だ。明日学校の妹は就寝中。学生と言えど結構お早い時間だ。しかし、理由はそれだけではない。先ほど言った通りかなりの賭けだが、今回のような客がやって来ることは珍しくない。それにはつまり……イケメンもこんなところに来るということだ。

また暴走しそうで面倒だ。あの妖怪イケメン置いてけ。

(因みに俺はそのフラグーー妹が建てる寸前にーー幾度となく折ってきたが、それでも夢の為立ち上がるあいつの精神的耐久力は恐ろしいものだ。例えるなら、どんな状況下でも仮死状態となって何十年も生き続ける極小の不死身クマノミが適当だろうか。)

 

そう言えば、何時だったか“お前なら学校という場所で甘酸っぱい青春なるものを味わう事が出来るはずだろう?” と、聞くと

 

「そのための学び舎のイケメン達は既に他が購入済だったのよぉ」

 

……と泣きそうな顔で言っていたが、だからと言ってこちらでの夢追いに切り替えるのも如何なものか。

 

さてさて、何故か本来話そうとした事柄から脱線してしまったので戻るが、現在俺は未使用の部屋の掃除と整理に向かう途中だ。

前にも言っていたと思うが、この亡き祖父母の屋敷はそろそろ売られそうになっていた所を俺が父さんに自営業の為買うか借りるかを迷っていると相談した時に貸すことが可能だと渡された屋敷で、その時言われた所有権の持続条件の一つとして『屋敷内の清掃と物品の整理』を言われたのだ。

一見簡単のようだが、この小さな屋敷は意外と広い。数人ならまだ増しなものの、一人二人程度では辛いものが有り過ぎる。値は張るが業者を呼ぼうとも考えたが、それでは父さんが無償で貸してくれた意味がなくなると感じ、渋々その条件を飲んだのだ。

あれから暇があればそれを掃除のために捧げ続け、あまり広くない屋敷の無駄に広い回廊を含む全十部屋中の内六部屋を使用可能にし、更に三部屋を清掃完了。物品の整理を後回しにして残りの一部屋でいよいよ最後となった。ここさえ終えればこの広い屋敷の清掃は完了。後は使用可能なここには必要ない品々を父さんに送りつければいいというわけだ。

そんなわけで俺はその最後の部屋の中へと進む為、扉のドアノブに手を伸ばすのだった。

 

 

ーー愚かだった。屋敷に初めて足を入れた時にも思ったが、ここはもしかして妖や幽霊の類が住み着いているのではないかと考えてしまう程放置されていたが、この扉の奥にはそれらなどちっぽけな小物どころかただの幻想の存在としか思えなくなる程の恐ろしい異形の存在が閉じ込められていたのだ。

俺はこの時、やはり今日は疲れたから掃除は明日の朝にでも回そうだとか、駄目だ怖くて入れやしないよとだとか、とにかくどんな理由でも構わないから自分を説得してその扉の前から立ち去るべきだった。絶対にその扉の先に進むべきでは無かったのだ。

覚悟だとかそんな感情的で愚かしく蛮勇な決意なんてものを抱かなければあの馬鹿げた法則と古臭い非常識で構成された何処ぞの神話の如き世界へと転がり落ちることもなく、ただ平穏で停滞した世界で人生は素晴らしいのだと呑気に語る仕合わせ者のまま安らかに命を終えたのなら良かったというのに。

だというのに、俺は何も考える事無くその禁忌の扉の錠前を解いて開いてーーー。

 

 

 

 

 

弐.幾ノ瀬の民宿 二号室

 

ーー深夜。月が蒼く輝くかのような冷気を漂わす静けさが舞う頃、幾ノ瀬兄妹の営む民宿のとある一室に遠坂夫婦はいた。

部屋の中は窓にある閉めたカーテンの隙間から弱々しい外からの明かり以外光源は他に無く、薄暗い。……いや一つ、淡い光が見えた。

光源は……あの二人からのようだ。そしてその微々たる光が輝きをまた少し、また少しと増すごとに遅遅しいリズムの衣擦れの音が無機物に響いてきた。

 

「ーーーんふぅっ、はんぅっ……」

 

よく見ればこの二人は今現在その身体の色が肌色のみで構成されているようなーー……否、間違い無い。ほぼ裸だ。

衛宮は下は青いジーンズだけの上半身裸だ。筋肉質な胸板や逞しい腕、童顔であることを除けばまるで命の色を持ったギリシア彫刻のようだ。対する凛も下半身を除けば一糸も纏っていない。胸の蕾は彼女の長い黒髪を退けてしまえば露わになってしまうだろう。そしてその下半身に焦点を合わせると、足は細かい刺繍の施された黒一色のストッキングに、それに繋がった腰の、これまた黒のレースのガーターベルト。唯一秘部を隠しているのは艶めかしいが故に獣の欲望を渦巻かせるようなデザインの凝った薄い下着のみだ。

その姿は愛に生きようとした古の女神にも、男の精を干からびて死に至るまで吸い尽くす女夢魔(サキュバス)にも見えた。

ただ仰向けに横たわる衛宮に凛が己の全てを愛しい母親へと向かう幼子の如く委ねてしまうかのようにその上に腹這いに乗り、互いの手を重ね、そして強く握り合い、逃がさぬように脚を絡ませ、互いの唇を重ねるーーどころか

 

「んん……んふぅ……はんぅ…」

 

互いに舌を奥底まで絡ませるような濃厚な口付けを交わしていた。既にこれ以上の描写が許されない行為を勢いで行ってしまいそうだ。

 

……しかし、その心配は必要ない。彼らは完全に色の欲望のままに駆けている訳ではない。その証拠に、というのも遅いが先程から彼らの肩からゆっくりと光を放つ何かがある。……それは魔術を“根源に至る為の学問”として捉えている、あるいはそう知っている者であればほとんど常識である魔術刻印だと理解出来るだろう。

彼らは今現在、互いの回路(パス)を接続し、魔力を通して繋がりを強化しているのだ。

その方法は最低でも互いに肌同士を接触させていることだが、その中で最も良い方法は……粘膜による接触。

つまり、あの命を宿す行為のような接続か、もしくは先程のキスによる接続が回路(パス)を繋ぐ最も効率良い手段なのだ。因みに、ただ効率性で見るならば前者の方が一番優れているのだが……。

 

やがて凛がゆっくりと身体を起こしながら顔を四郎から離すとその白魚の肌をした腕で口元の濡れたように付いた唾液を拭った。

 

「……終了、と。じゃ、退くからまだ動かないでね」

 

凛が絡ませていた脚を解いて退け、布団の横に座ると四郎は続いて上半身を起こすと伸ばした足を組み、胡座した。

 

「うん、異常無し。回路の接続状態も良好ね。これなら高機能(ハイスペック)な規格外サーヴァントを……例え間違いで狂戦士を呼び出したとしても問題無いわ」

 

凛は念に念を入れた確認を済ませると、脱いだ際に畳んでおいた服を広げて着始めた。

 

「……今更だけどさ、これなら前みたいに肌を触れ合わす程度でも良かったんじゃないのか?」

 

次いで同じく羽織り始めた四郎はふと思い出したように言った。

 

「それはそうよ」

 

当たり前の話よ。と、凛は付け足して返した。

 

「でもね、それだと繋げるには十分だけどそれは強引に断ち切られることには耐えきれないの」

 

そう淡々と語り続ける凛は既に上半身に高級感ありつつも清楚な白いシャツを羽織り、ボタンを一つ一つ丁寧に留めている最中だが、その姿にすら雅を匂わせる。

 

「それに、あの頃の私と四郎はお互いに体を許した関係な訳ないでしょ? 第一、そんなこと恥ずかしいとか言う前に、欲に任せて私を襲うなら問答無用で死ぬのも億劫になる辱めをやらせてもらうしね」

 

「……マジか」

 

四郎は少し恐怖心を覚えた。まあ、過去その頃、彼自身そのようなやましい気は持ち合わせてはいなかったのだが、IF、変な気を起こして彼女を押し倒してしまっていたらーー想像もしたくない。あかいあくまの制裁が以下ほどのものか知らない者にはむしろ語らない方が救いとなるだろう。仕える者としての意見だ。

「……ところで、召喚する為の触媒は大丈夫なのか?」

 

四郎は自分から振った話だったがすぐに変更することにした。

 

「ええ、今回は槍兵狙いよ。神話が正しいなら最低でも騎兵としても呼び出せるはず」

 

そして自信溢れる笑みと共に力強く言った。

 

「私が呼び出すのはトロイア戦争の英雄中随一の駿足の男、アキレウスだもの。負けるはずがないわ」

 

 

 

Fate/of dark night 04

 




遅れました……と、とにかく次回、英霊召喚です! お楽しみに。

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