Fate/of dark night   作:茨の男

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The Nxet Guest

零.????

 

ーー悪魔とは諸悪の擬人である。

敵対者として彼等を築き上げた拝火教の二元論に始まる。それは秩序と安息を維持するに最も適した方法でありながら最も容易に戦火と厄災を呼び起こす諸刃の剣である。

疑心暗鬼の黒い霧の中、真実は迷信を呼び、迷信が迷信を呼び、迷信が事実にすり替わる。張りぼての鍍金だと暴かれるまで、後世の遺産として語り継がれ、不都合のみを覆い隠され。

芽吹いた神の娘は翻弄し、される。我らの信仰こそ正義と高らかに謳い、尊び、蔑み、欲望のままに喰らい、犯し、遊び、飽きて棄てる。我らが至高なのだと笑って。廃れて再度拾うのは物好きより金の亡者の死体漁りであることも知らず。

 

愚かなるは過去の産物か、未来への思想か。

それを定めるのは次なる人類なのかもしれない。

 

 

 

壱.????

 

ーー意識が朦朧とする。

ーー音も、風も聞こえはしない。感じることもない。

ーー何処だ、此処は。

 

ーーいつの間にか見渡す限り果ての無い洞穴の黒が広がる場所に私はいた。今現在自分の身体がどうなっているのかも、此処が何処なのかも、何もかもが全く分からないが、はっきりと確認したと言えば、目の前に揺らめく二つの丸い発光体が奥に在ることだった。

片方は青白く、今にも消え入りそうな弱々しい眩さを失い欠けた灯火で、何故か昔の情けない自分を見せつけられているような不快にさせられるもので、もう片方は赤黒く、夕闇、よりは溶岩に成りつつあるマグマに似た灯火で、短針以上の鈍足な心臓の鼓動と共に膨張していった。

 

 

やめてくれ やめてくれ 頼む それだけはやめてくれ……

 

 

‥‥理由は分からないが、すぐに此れらが夢だと確信した。誇るべきものですらないが、幾ら私が魔術師の人間だとしても此れ程の非常を見て脳が現実だと容認するはずがない。そう切り捨てるのが妥当、至極当然と判断した。‥‥否、しなければなるまい。

しかし、あの息絶えそうな声を聞いている限りどうやら青白の灯火は赤黒の灯火に “何か” をされることを拒み、清く何処へと去るよう懇願しているらしい。

だが、その嘆願を夕闇は嘲笑い、その膨張を止めることなく次のように続けた。

それは、それはとても人間とは思えぬ異形の美声で、

神からの警鐘や福音、啓示のような

甘い蜜の罠を携えた魅惑の女の誘惑のような

純真無垢の少年少女の哀願のような

‥‥殺意を撒き散らした暴君の裁定のような

あらゆる趣で本能を強烈に刺激する御声でだった。

 

 

何を言う、お前が望んだ結末 (コト) だろうに。

馬鹿を言う、お前が叫んだ結果 (コト) だろうに。

認めたくないのだろう? 眠りたいのだろう?

裁かれたいのだろう? 欲しているのだろう?

 

ーーならば「「我」「私」「僕」「俺」」に

 

委ねよ、その零を「 」に委ねよ。

捧げよ、その魂を「 」に捧げよ。

与えよ、その躯を「 」に与えよ。

預けよ、その欲を「 」に預けよ。

「 」がその衝動の意味を教授してやろう。

「 」がその罪悪を断罪してあげよう。

「 」がその欲望を肩代わりしてあげよう。

「 」がその肉体を代行してやろう。

 

さあ眠れ、哀れな青年よ。眠れ、眠れ、母の胸に。しばし夢の大地にてその精神を安寧の深淵に沈ませておくがいい‥‥。

 

 

青白い灯火は星雲の規模にまで達した赤黒い灯火に沈むように飲み込まれる瞬間、自分の視界はアナログTVで時折現れる灰色の嵐と耳障りな雑音に意識を縛られていった。

 

ーーまどろみを誘う揺り籠の如く、閉鎖的空間の中でゆっくりと増す水面へ沈むが如く。

 

 

 

弐.郊外の森 更に上の山林

 

聖杯戦争。魔術師の間、なかでも欧州の魔術師にとっては古い歴史程度に認知されているという‥‥自分のようなアジアに住む魔術師達には眉唾ものの噂だ。

だが何かしらの拍子で蓋を開けることとなったが、結果真実だと回答され、その上開催されるのが辺境の島、日本国でだというのは意外だと言わざるを得なかった。まさか西洋の大規模魔術を聖地の類ではなく一介の魔術師の庭で行うというのだから驚かざるを得ない。

そして何よりも驚いたのはその方法は想像していた以上に簡易だった。単に規模が壮大なだけであって形式や方法は至極容易なのだ。

祭壇を造り、契約を詠い、盟約したヒトの模倣を地獄の底、或いは天上の楽園に似た存在、集合的無意識ーーサンスクリット、仏教用語で言うアラヤ識にあるという英霊の座から降ろす。はたから聞けば荘厳な儀式とも言えるが、それを行う際の様は言い表すならば呆気ないの一言に尽きる。最初は多少戸惑いはするが、幾ら美しく飾ろうとしても良くて花火、だがそれも白一色の閃光弾でしかない。感想として述べるにはかなり無味で素直な感情だ。‥‥しかし、何とニヒリズムが痛々しいことだろうか。

 

ーーと、アジア系褐色肌のスーツに身を包んだ若き青年魔術師は彼なりの口調でそう考えていた。

 

「あの雄姿こそ我が国の開祖、か」

 

彼もまた聖杯を狙い、この島国の一辺境へと赴いた一人である。狙う理由は後々にだが、彼は今宵の聖杯戦争では優勝候補と言えた。此方の理由は至極明瞭、言わずもがなである。

自身の剣として顕現した秩序と維持の主の第七の化身、親愛の王子ラーマ・チャンドラ。アルジュナ、クリシュナ、カルナに並び今でも民衆に愛されるインドの英雄の一人だ。

ハラダヌの弓を裂き折り、大地母神の化身を娶り、刹帝殺しの挑戦に応え、聖仙から数多く神々の武器を譲り受け、半神の弟と白猿の英雄を供に連れ、帝釈天の加護を以て不死身の魔王を十の裁きで射ったーー伝説の勇者。

 

その偉大な勇者は現在、

 

“獅子乃型・猛虎ーー!”

“巨象牙突ーー!”

 

‥‥自称反逆者、同郷らしきディーダバッタと名乗る長身の男と格闘戦を繰り広げていた。

鈍い音と風切り音を響かせて、常識と限界から逸脱した連激を何度も何度も繰り返し、相互接近戦から接触戦と言い換えるべき零距離圏内であらゆる鈍器と化した鋼の肉体による鍔迫り合いを行っていた。拳には拳、脚には脚、膝には膝、肘には肘、腕には腕、頭には頭‥‥の永久だ。

その激戦に残りの者達、今ここからでは確認出来ない他マスター達も、唖然、呆然、苦笑、失笑としているに違いない。

 

始めに見た目緑系色の軽装武装の青年のサーヴァントと見た目まるで鉄の水着な古代鎧を着た銅の如く鮮やかな栗毛の女戦士のサーヴァントが現れたかと思えば槍戟が響き、元々乱入だけはしないよう進言したはずだったが‥‥そこに王子が彼らに腕試しといきなり宝具を一部乱発した後、意気揚々と自身の参戦を願い出ながら相手を称賛、暫く談笑したかと思えばいつの間にか再び得物を構えて沈黙が流れ、再戦するのかと息を飲んだ次の瞬間、同郷を語る狂疾が勇者に反逆を謳った。

 

(な、何だか初っ端からカオスだなぁ‥‥。)

 

彼にとって生涯でこれ程混沌とした場面にまみえる確率は間違いなく低いだろうが、これを幸運か不幸か隔てるには難題と言えた。

神話の再現を目の当たりにして出た感想だった。

 

ーーそんなことを考えていた次の瞬間だった。

 

 

“OoooooogGAaaaaaa‼”

 

 

「……⁉」

 

ぞっとする気配が、たった今真上を尋常ならざる何かが通り過ぎていったのだ。まるで意思を持った嵐や津波に等しい滅茶苦茶な魔力。湧き上がる感情に従って思わず空を見上げーー不穏な予想が確信の不安となって固まるのを彼は感じた。

 

「ーーまた、来訪者か」

 

彼は苦々しげにそう 呟いた。哺乳類特有の皮翼を広げた黒い巨影が異形の咆哮をあげて戦場へと飛ぶのを見切りに軽い足取りで離脱した。

 

 

 

参.????

 

感覚にしてひどく長く/ほんの少しだけ 時間が過ぎただろうか。

突然、さざめく灰色の視界が薄れゆく霧の如く晴れた、再度アンテナからの受信受け取りが可能になったかのように。‥‥やはり、洞穴の暗中であることに変わりは無かったが、先程の二つの発光体が姿は無かった。

その代り、また新たな珍客が居座っていた。実に漆黒めいた禍々しい鉄鎧を着込み冑だけを外した綺麗とは言い難い不潔な金髪の青年が此方に執事、いやあれは騎士かーーの礼の真似事を私に向けているらしかった。やがて彼が顔を上げて姿勢を正し、その目が開かれた時ーーソレがヒトならざる者であることを理解してしまった。

奇怪かつ雅に輝く金色の獣の瞳。どれほど富を積もうと、どれほど採掘しようと、どれほどの職人達が総力を上げて精製しようと届くことのない金の双眼が此方を見据えていた。実に嫌らしい作り笑みを浮かべて。

 

「創めまして、どうも御主人様 (master) 。今宵は私めを剣としてお選び頂きまして感謝の極み。」

「ーーーー」

 

驚愕に私は一瞬間、頭蓋の奥が空洞化した感覚を患った。言葉を、飲むしかなかった。

もしこれが喜劇なら今見ている場面は開幕挨拶なのだろう、しかし私はその真意に構わず夢で終わって欲しいと切に願い始めていた。なんせ奴は私を主人と呼んだ。つまりは奴は貴方の支配下に在る者ですと宣言したに他ならない。だが、私はーー。

 

「ああ、これは失礼を。私が貴方の使い魔 (servant) に御座います。以後お見知り置きを‥‥」

 

そうだ、確かにそうだ。だが、お前ではない。そう言い切れる。

 

何を言おう、私が召喚 (出) したのは狂戦士、獣の本性と秘めた劣情、簡易な殺意を放つ人外の成れの果て。 “怪物” なのだ。 “狂気の檻に囚われた亡霊” なのだーー‼

だがこれは理性がある。理性を確かに保持している。鼻のひん曲がる程の腐臭を放つ泥水に似た酷く屈曲した悪魔の面の様が如実に見てとれるが、それは関係無い。

断じて意思疎通可能な、それ以前に元々人間だったのかも判別も、分からない、筈の。

 

「お前は、一体」

 

私が言葉を言い切る前に瞬間、奴が再度礼を交わすとまた視界は灰色の砂嵐、音は耳障りな雑音が走った。

 

「ーーおっと、申し訳有りません。今回はこれまでのようです。御質問は後々御伺い致しましょう」

 

其れでは、と、奴の閉幕 (おわかれの) 挨拶を最後に聴きながら、意識はコンセントを抜かれたかのように落ちた。

 

ーーまるで重力に逆らえず奈落へと沈むようで、無機質なエレベーターの中上昇する感覚を飽食するが如く。

 

 

四.

 

一陣の風が語る。

誰もが直様異変を察知するに秒も要らなかった。

 

轟音。大型鳥類の羽ばたきが鉄の重みを持って響き、時折呪怨を込めたかのような咆哮と共に驚異的な速度でここへ近付いているのだ。司令塔 (pilot) を失って墜落する飛行機すら優しく思える意思を持った恐怖の超常現象がやってくるのだ。

 

(何が、来る)

 

秒の速度で耳触りの悪い轟音が大きくなり、風当たりが強くなる。

 

ーーそして

 

地雷の轟音が響いたと同時に爆風に等しい物量の砂嵐が巻き起こった。

魔術師だろうと普遍な人間だろうとこの暴圧は強固な建物、それこそシェルターに等しい城壁がなければ藻屑の如く吹き飛ばされてしまい、運悪ければ大木に叩きつけられてしまうだろう。

‥‥しかしこの時この場所にいたのは最強の幻想、サーヴァント達。砂塵の豪雨など目くらましに等しい。精々一時的に視界を、呼吸を封じるに至っただけだった。

やがて、砂塵が雪のように深々と舞い降りる程度に風圧が止むと、他の戦士達は自らの得物で砂煙を振り払い、視界を取り戻した。

辺りを見回し、爆心地と思わしき地帯に砂塵のカーテンの向こうに一際巨大なシルエットがあった。

 

「‥‥随分と派手なご登場だねぇ」

「巨人の類でしょうか、しかし羽を持つ巨人など聞いたことがない」

「ふむ、どうやらまだまだ長引きそうだ‥‥」

(ちっ、折角の機会を邪魔しおってーー!)

 

各々が小言を呟いていると再度、鉄の羽ばたきの響音と共にそこから風が起きて彼らを襲う。

ーーそして砂煙が薄れ、晴れた先に露わになったのは、

 

竜 (Dragon)。中世の妄執の象徴、竜だった。

爬虫類特有の四足歩行、コモドドラゴンを何十、いや何百倍も肥大させたかの如き巨体。その背には飛行する哺乳類、例に蝙蝠の皮膜に鰐の鱗が貼り付けられた巨大な翼が在り、そしてまるで太古に栄えた恐竜、肉食獣ティラノサウルスに実に似た面持ちの驪竜は牙を晒す口元から遠目からもはっきりと見える粘性の唾液を垂らして目に見えて毒々しい紫の瘴気を呼吸する都度に漏らしていた。

 

“……………”

 

獣は低い唸り声を響かせながら迎撃体勢を整えた。

 

「はあー、これまたでかい翅の生えたトカゲねぇ」

「‥‥あれが龍神(ナーガ) に匹敵するという西洋の竜か。実に禍々しい」

「‥‥噂には聞いていましたが、随分と欲深い獣のようだ」

 

獣の獲物の品定めする強欲に染まった視線に彼らはその怪物を三下の類だと見限った。

竜とは天馬 (pegasus) や一角獣 (unicorn) に並び世界的に知られた幻想種である。起源まで語ることはしないが、ドラゴンの名を聞けばその中で最も著名なのが聖ジョージの竜だろう。

‥‥独国名聖ゲオルギウスの所持する聖剣アスカロンの錆にされた毒竜である。

 

大方、それでも一部だが竜とは基本的に悪魔の次に英雄達の引き立てにされる悪役に過ぎず、実に悲惨な最期を迎えるのが定石である。

 

聖鳥の餌とされ、民衆に石打ちの刑を受け、馬に喉を噛み切られ、石を喰わされた為に腹を破裂させられ、円卓の騎士に普通の剣で倒され、輪切りにされ、老王に殴殺され、変化前に大臣に食され、皇帝に乗り物にされーー等、激しく、落涙を禁じ得ない。

 

それ故なのかどうかはすぐには判断出来なかったが、彼らは目の前の怪物をさほど危険視してはいなかった。それどころか場に水を差した邪魔者と見ている。

それを理解したのかどうかはわからなかったが、その過小評価に怒りを覚えたのか黒竜は俯いて、刹那顔を上げると 口を此方に向けてーー、

ロケットエンジンの派手な噴出音が一瞬したかと思えば小太陽の如き巨大な火球が獣の口腔から射出されたのだ。そして着弾し、大爆発が巻き起こった。

 

彼らは理解していた、こいつも今宵の参加者だと。

彼らは理解させられた、奴が今宵の “狂戦士” なのだと‥‥!

 

瞬時に自らの力量で爆風を相殺した彼らは評価を改めて怪物を対等に見据えた。

 

 

 

零.更新情報

 

 

 

【クラス】狂戦士

【真名】???

<ステータス>

・筋力:EX(?)・耐久:A+(?)・敏捷:E

・魔力:C(?)・幸運:E−・宝具:B(?)

<クラス別能力>

・狂化:ー(EX)

……理性を代償に幸運、敏捷以外のステータススキルを底上げする。……しかし言語能力を損なっているものの、人ならざる怪物としては狂化の片鱗すら見当たらず、猟犬の如く主に従う様は驚愕である。

 

<保有スキル>

・竜の息吹(偽):ー(EX)

……最強の幻想種である竜が放つ魔力の奔流。魔女の強力な呪いの魔法によってほぼ完全なドラゴンと化している。

 

・自己改造:EX

……自身の肉体に、全く別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上昇する程、正純の英雄から遠ざかる。このサーヴァントは狂化の具合に関係無く、通常は人間形態だが、ある条件を満たすと……

 

<武装>

・???

 

 

 




鬱りました。短くて済みません。書けないのは大変辛いです。しかしようやく書きたい箇所がやってきました‥‥! 山場を超えた爽快な気分です。本当に亀更新で申し訳ないですが、楽しんで頂けたら嬉しい限りです。

新作を始めた為、また遅くなります。失踪しないことを強く宣誓します!

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