千里を見渡せぬ濃霧の中、海面の上を進むボートの上に六人の人影があった。
カカシ隊 第七班の四人、依頼人のタズナ、およびそのボートの漕ぎ係の男だった。
カカシ隊の四人はボートの行く先を眺め、タズナは気まずそうに項垂れながらボートが目的地に着くのを待っていた。
「……そろそろ橋が見える。その橋沿いに行くと、波の国だ」
漕ぎ係の男がそう発言すると同時、霧の奥から建設中の橋らしき影が見え始める。
続いてその橋を建設するのに使われている大きなクレーンや、作業用の足場として仮設されている鉄骨が並び、未だ里を出た事がなかったナルトにとっての未知の世界がそこには広がっていた。
「うっひょー! でっけー!!」
「こ……こら!? 静かにしてくれ! この霧に隠れて船出してんだ。……エンジン切って手漕ぎでな。奴らに見つかったら、大変な事になる……」
「――――ッ!!?」
漕ぎ係の男から注意され、ナルトはしまったと思い口を押さえる。
今の自分が奈落に入った所で任務中に必要以上に騒いで組織の足を引っ張るのがオチだ、というイルカの言葉を思い出し、ナルトはイルカの言っていた事がほんの少しだが理解できた。
サクラもナルトのように騒ぎはしなかったものの、やはり今まで見たことがないものに対して多少の驚愕と興奮を覚えていたが、男の言葉でその表情を険しくさせた。
「……タズナさん。船が桟橋に着く前に聞いておかなければならない事があります」
「……」
タズナは未だに気まずそうに項垂れるだけだが、カカシはそれに構わず話を続ける。
「貴方を襲う者の正体、それを……。でなければ我々の任務はタズナさんが上陸した時点で終了という線もありです」
「……」
沈黙を続ける老人、タズナ。
だが、カカシの質問を耳に入れていた他第七班の三人も一斉にタズナに目線を移す。
――――嘘は許さない。
カカシの目は鋭さこそなかったものの、言いようのない冷淡さを秘めており、その目はそう語っているようにもタズナには思えた。
「……話すしかないようじゃな――――いや、是非聞いてもらいたい。あんたらの言う通り、おそらくこの仕事は任務外じゃろう。
実は儂は、超恐ろしい男に命を狙われておる」
「超恐ろしい男……誰です?」
「あんたらも名前くらいは聞いた事があるじゃろう。海運会社の大富豪、ガトーという男じゃ」
「――――ッ、ガトーって……あのガトーカンパニーの? 世界有数の大金持ちと言われるあの……!?」
タズナから出された予想外の名前にカカシは思わず驚愕の声を上げる。
……予想以上の大物の名前が出てきたものだ。
「う~ん、だれだれ? なになに?」
里に出た事がなくガトーの名を聞いた事がなかったナルトは緊張感のない言動で聞こうとするが、サスケとサクラは黙ってタズナの話を聞いていた。
「そう、表向きは海運会社として活動しとるが、裏ではギャングや忍を使い、麻薬や禁制品の密売……果ては企業や国の乗っ取りと言った悪どい商売を生業としている男じゃ」
――――それほどの大物が、このタズナという老人を狙う理由が何処にあるのか。
第七班全員がそんな疑問を抱くや否や、それはタズナの次の言葉によって説明された。
「一年程前じゃ、そんな奴がこの波の国に目を付けたのは……。財力と暴力を楯に入り込んできた奴は、あっという間に島の全ての海上交通・運搬を牛耳ってしまったのじゃ。……波の国のような島国で、海を牛耳るという事は、富と政治、首都、全てを支配するという事じゃ。
そんなガトーが唯一恐れているのが――――」
「兼ねてから建設中のあの橋の完成、という事ですか?」
ガトーの言わんとする事が理解できたカカシは、タズナが言い終わる前に確認を取る。そんなカカシを見ながら黙って頷いた。
「確かに、波の国と大陸を繋ぐ公共の橋が完成してしまえば、そこを通って大陸の人々がここを訪れるようになる。そうなれば、ガトーカンパニーが波の国を乗っ取っている事が発覚し、そこから今まで行ってきた国の乗っ取りや悪事が公に晒される危険性がある。
だとすれば、ガトーにとってあの橋の完成は何としても阻止しておきたい物でしょうね……」
「……うむ。だからこそ奴は、この橋造りを担当する儂を何としても消したいんじゃ。だからとて、儂もそう安々と死ぬ訳にはいかん。だから――――」
「だから、我々木の葉に依頼を出した。ですが今や波の国の金銭や主導権は全てガトーの手にある……だからこの国の大名、そしてあなたもそんな依頼金を支払う金など持っていない。……だから態々、任務のランクを下げ、嘘の依頼を出した」
「……全てお見通しという訳か。概ねはそれで間違いない……だが、それだけではないんじゃ」
『……?』
タズナの含みのあるような言い方に首を傾げる。
カカシが言い当てた事が全てではないのか、とナルト、サスケ、サクラの三人は疑問に思ったが、どうやらそれだけではないらしい。
「ここ最近……奴はギャングや忍といった人員をこの波の国に集中させておる。どうやら、儂の命以外にもまだ目的があるようじゃが……そのせいで危険性が余計に高まった」
若干声を震わせながら、タズナは波の国に現状を伝えた。
人員を集中させている――――その言葉に第七班全員は呆然としてしまった。
ただでさえ大富豪と恐れられる男が、今まで乗っ取った各小国に散らしていた人員を集中させているというのだ。
「やれやれ、敵方が忍を雇っているだけでもBランク以上だっていうのに……まさか、それらを集中させてるとはねえ。これはBランク以上って話じゃない、間違いなく――――Aランク相当の任務だ」
「――――ッ!?」
Bランク以上ではなく、間違いなくAランク相当と言い切るカカシ。
カカシの目はいつものような気怠い感じではなく、それは真剣そのものだった。
それだけでサクラの表情は幾ばくか恐怖に染まり、そして悟る。
――――この任務は、自分たちが思っていた以上に危険だと。
「……あんたが言った通り、大名にも……そして勿論わしらにも金はない。高額なBランク以上の依頼をするような金はない」
『……』
「まあ、お前らが儂の上陸と共に任務を取りやめれば、儂は確実に殺されるじゃろう。……家に辿り着くまでの間にな」
タズナのその発言と共にナルトとサクラの二人は顔に青筋を浮かべる。
「なぁに、気にするこたあない。わしが死んでも八歳になるかわいいかわいい孫が……泣いて泣いて泣きまくるだけじゃあ!! あっ、それにわしの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけじゃ! いや、なにお前らのせいじゃない!」
タズナは途端に笑顔を浮かべ、大声でナルト達の動揺を誘うような事を大声で叫ぶ。
ナルトとサクラの表情に浮かぶ青筋は更に濃くなり、タズナは見事に彼らが任務を断りにくくする状況を作り上げてきた。
(だから奴らに気づかれるから大声を出すなと……)
一方、カカシ達の会話を聞いていた漕ぎ係の男性は、大声で開き直るタズナに内心で突っ込む。先ほど騒いだナルトに注意をしたばかりだというのに、肝心の依頼主である本人がそれに気を配っていなければ元の子もない。
(勝った!)
自分の発言でうまく依頼を断りづらい空気を作り出す事に成功し、タズナがそう自分の勝利を確信したその時
「……タズナさん。アンタ――――少し木の葉をなめ過ぎだよ」
その空気をぶち壊す人物が一人。
「……カカシ先生?」
その人物――――はたけカカシの妙な豹変にサクラは訝し気にカカシの顔を覗く。
そして――――
『――――ッ!?』
全員が、カカシが放つその空気に呑まれてしまった。
第七班の三人はカカシの放つこの空気を知っている。
卒業演習の時、自分たちのチームワークのなさを指摘し、そして静かに怒ったその目は、今度は忍ですらないタズナに向けられていた。
「こっちは別に貴方の娘が私たちを恨もうが恨むまいが知った事ではないんですよ。恨むなら好きに恨めばいい、よしんば恨まないならそれでお終い。ただそれだけです」
元々、里に恨みを持ってもおかしくない境遇にあるカカシにとってみれば、今までそれ以上の恨みを買ってきている里が、今更何処とも知れない小娘に恨まれようが気に止めるに値しないもの。
ただ今まで積り積もってきた恨みがまた一つ積まれるだけだ。
例えるのであれば塵が積もって出来上がった山にまた一粒の塵が積もるだけの話である。
「我々からしてみればもう貴方の偽りの依頼に付き合ってやる義理も道理もない。嘘の依頼を出した貴方は間もなく木の葉からの信用を失い、二度と依頼主としてあそこに入れてもらえなくなるでしょう」
「……そ、それは……」
下手すれば木の葉だけではなく、他の里からもタズナの依頼に取り合ってもらえなくなる可能性すらある。そうなれば、救いの道は完全に断たれてしまう訳だ。
「そして、貴方はそれを覚悟で私たちに依頼した。ええ、その覚悟は私たちの知れる所ではないでしょう。命に危険があるにも関わらず、おそらく周りの民がやる気を失くしているであろう中で、あなたただ一人足を運んで我々の所まで来た。追手を差し向けられる可能性があるにも関わらず、たった一人で」
「……」
「なら、尚更あなたにはなりふり構っていられる暇などない筈だ。……それなのに、自分が殺されるなど、娘が恨むなど……笑顔で開き直って同情を誘う? ふざけるのも大概にしてもらいたいですねえ」
「……ッ」
「貴方は決死の覚悟で私たちをここまで連れてきた。なら――――貴方が私たちにかける言葉は
「――――!!」
カカシのその言葉に、タズナはハッと我に返る。
――――そうだ、何を自分はやけくそになっているんだ。
そんな言葉で彼らが動いてくれる筈がない。
そんな誠意のない言葉で、彼らの心が動いてくれる筈がない。
何より、そんな言葉では、今まで決死の覚悟で里に依頼し、ここまで彼らを連れてきた自分自身を貶めたのも同然ではないか。
「……さっきの言葉は訂正する、儂の態度が悪かった」
『……』
さっきの態度とはうってかわり、今度はきちんとナルト達に向けて己の非をタズナは認める。
「まずは謝罪させてくれ……お前たちを騙すような真似をして済まなかった……」
船底に両手を突き、タズナはナルト達に土下座をし、ナルト達に嘘の依頼を出した事について謝罪した。
今までぶっきらぼうだったタズナが誠意を込めて謝っている姿にちょっとしたギャップを感じたのか、カカシ以外の三人が目を丸くしながらタズナを見ていた。
「そ、そんな……私は別に……」
タズナを始めとする波の国の人々の事情を思えば、仕方ないと思っていたサクラはそんなタズナに対し言い淀んでしまうが、そんな事はお構いなしにタズナはナルト達に再び頭を下げ――――
「そして頼む!! どうか……儂の家族を……儂等の国を……救ってほしい!!」
そして、タズナは精一杯の誠意を込めて、ナルト達に頼み込んだ。
……心なしか彼の全身はカタカタと震えており、それだけ断られるのが恐いか、それとも罪悪感から来るものか。
いずれにせよ、タズナに言わせたい事を粗方言わせ終わったカカシは、表情を普段の気怠い感じに戻し、ナルト達に三人に問うた。
「――――だってさ。どうする、お前ら?」
タズナの誠意はもうこの三人は伝わっただろう。
後の判断は子供たちに委ねようとカカシは、ナルト達に判断を迫る。
「へへへへ、言うまでもないってばよ」
まず一番最初に口を開いたのはナルトだった。
「言っただろおっさん? 里の奴らが偽りの依頼だの何だの言って来ようと、この左手の痛みに誓って、おっさんを守るってな!!」
何の曇りも、迷いのない笑顔でそう言い切るナルト。
「これも奴に近づくための糧だ。聞かれるまでもない」
サスケもまた表情一つ変えず、まるで断る方がおかしいと言わんばかりに任務続行の意を表明する。
「……私は正直怖いけれど……だけど、もうタズナさんを見捨てる事はできないみたい。任務を続行するわ!」
サクラも自分の正直な思いを告白しながらも、それでもタズナの護衛を続ける意思を表明する。
(……決まりだな)
子供たちがやる気を見せた事で、カカシもまたタズナの護衛を続ける決心をする。
「それじゃ、子供達もこう言っている事ですし。ま、事前に依頼の真偽を確認しなかった木の葉にも責任はありますし? 私も乗りかかった船なので、最後まで付き合いますよ」
最後に、先ほどの恐怖を帳消しにするような笑顔でカカシもまた任務続行の意をタズナに表明した。
全員が自分の頼みを承諾してくれたタズナは嬉しさのあまり涙を浮かべ……
「ありがとう……恩に着るわい」
そのまま頭を下げて、ナルト達に礼の言葉を言った。
◇
無事、波の国へと上陸し、タズナの家を目指す五人。
隣に並び立つサスケに対し、密かに対抗意識を燃やすナルト。
その対抗意識が動かしたのかはわからないが、ナルトは一行の前を出てきょろきょろとあたりを見回す。
そして何かを嗅ぎ付けたのか、「そこだあ!」とナルトは右の草陰に向けて苦無を投げ込む。
――――手応え、なし。
「あんた何やってんのよ!」とサクラが突っ込むが、ナルトはそれに構う事無くまた別方向に苦無を投げる。……傍から見ればただの忍者ごっこも同然だった。
「やめろ!」とサクラがそんなナルトに拳骨をかます。
「ほ、ほんとに誰かがこっちをず~っと狙ってたんだってばよ~!」とナルトが言い訳。
そんな二人のやりとりを見守りながらも、カカシはナルトが苦無を投げた先を確認せんと草をよけてその方向へ行く。
……そこには、ナルトの苦無にビビッて気絶している白いウサギの姿があった。
(こいつ……どうやらそういう感覚は他の二人よりも鋭いようだな。現にナルトは敵の忍者と勘違いはしたものの、この兎の気配を見事に嗅ぎ分けやがった)
内心でナルトに対し高評価を推すも、サクラに叱られたナルトに謝られながら抱きしめられているウサギを見て別の事を考え始めた。
(だがあのウサギ……間違いなく雪ウサギだ。だが、あの毛色は本来日照時間の短い冬のものの筈……となると、アレは日の当たる室内で育てられた個体だ。つまり、変わり身用の……ようやくお出ましという訳か)
敵の気配を察知したカカシは、ナルト達に向かって大声で叫ぶ。
「全員伏せろ!」
『――――ッ!?』
カカシの掛け声が聞こえるや否や、五人の背後から
殺意のままに飛来してくるその刃物は、しかし体を伏せた五人の体を真っ二つにするには至らず、向こう側の木に刺さってそのまま停滞した。
――――その木に突き刺さった断刀の柄の上に一人の男が五人に背を見せながら現れた。
(あいつは確か……)
この間、自分たちに襲ってきた二人組とは遥かに違う……カカシもサスケも、そしてサクラもそれを感じ取ったのか、顔に冷や汗を流しながらその男を見つめる。
唯一、ナルトは今度こそは自分がサスケに勝つ番だと意気込み、武者震いを立てながらその男を見つめた。
――――やれやれ、ある意味ではガトー以上の大物が出てきたものだ。
「へーこりゃこりゃ……霧隠れの抜け忍【桃地 再不斬】君じゃないですか」
後ろからの駆け音を聞き取ったカカシは、我先に突っ込まんとするナルトを手で制する。
「邪魔だ。下がっていろ、お前は」
「な、何で!?」
「此奴は、この間の奴らとは桁が違う。お前は下がって、タズナさんを守っていろ。サスケとサクラもな」
「……」
納得のいかない様子のナルトであったが、いつになく真剣なカカシの声音を聞いて大人しく引き下がる。
「“写輪眼のカカシ”と見受ける。……悪いが、ジジイを渡してもらおうか?」
断刀の柄の上に立っている人物……それぞれの四肢に迷彩柄の毛布を巻き、裸の上半身に大刀を背負うためのベルトを巻き、包帯の覆面をした男・【桃地 再不斬】と呼ばれたその人物は、獣のような眼光で睨みながらそうカカシに言う。
写輪眼――――その言葉を聞いたサスケはカカシに対して訝し気な表情で見、カカシもまたそれに気づいていてはいたが、今は再不斬に向き合うことにした。
「断る、と言ったら?」
「知れた事。そのジジイの首ごとおまえの命を刈るまで……」
そう言うや否や、再不斬は近くにあった池の水の上へと飛び移る。
水の上に立った再不斬は、印を結び、そして術を発動させた。
――――水遁・霧隠れの術
瞬間、辺りは濃霧で包まれ、静寂に包まれた。
ボートで大陸から波の国まで渡るまでの道中で見た濃霧すら比べ物にならぬ重苦しい白霧が広がる。
それが自然発生したものではなく、一人の人間によって発生させられた物だという事実がナルト達を余計恐怖に陥れた。
「先生!」
「まずは、俺を消しに来るだろうな……」
「あいつ……何なの!?」
恐怖を抑えながらサクラはカカシに質問をする。
「桃地 再不斬……奴は霧隠れの元暗部で“
「サ、サイレン?」
聞きなれない西洋用語に混乱するナルト。
「要約すれば、凄腕の暗殺者って事さ。静寂の中、一瞬の内に遂行する殺人術……奴はその達人なのさ。無音暗殺……という点においては、おそらくあの奈落の忍たちを比較に出しても奴に敵う者は一人としていないだろう」
「――――ッ!!?」
奈落の者たちを比較に出しても敵う者はいない、その言葉を聞いたナルトは一気に青ざめ、周囲を警戒し始める。
無論、カカシは敢えて奈落を引き合いに出す事で、奈落に理想を見がちなナルトの警戒心を強めるのが目的で言ったのだが。
「どんどん霧が濃くなっていくってばよ!?」
「波の国は海に囲まれとるから、霧が超出やすいんじゃ……」
漂う濃霧がより一層濃くなっていく様子に慌てるナルトに対し、タズナもまた冷や汗と緊張感を覚えながらもナルトに説明する。
『八ヶ所……咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈・鎖骨下動脈・腎臓・心臓、さて…どの急所がいい?』
『――――ッ!!?』
ねっとりと、そして焦らすような口調で再不斬はタズナを守る下忍三人組の心を恐怖に陥れる。
相手の恐怖心を煽り、冷静さを失わせる事でより暗殺の効率を上げるのは定石の一つだ。
特に三人の中では一番強いサスケには、再不斬と自分の実力差が否が応でも感じさせられる。
それこそ己の体に苦無を突き立て、いっそ楽になりたいと思わせるくらいには効果があったらしい。
「安心しろ、サスケ」
そんなサスケにカカシが声をかける。
「俺の仲間は、絶対に死なせやしないよ」
――――カカシがそう言うや否や、カカシの足元から、巨大な刃が襲う。
「――――ッ!!」
一直線にカカシの首を斬り飛ばさんと振るわれる首切り包丁。
“
しかし、大戦時代を生きたカカシとてそのまま殺られる程甘くはない。
間一髪で跳躍し、躱す
――――そこだ!
跳躍したまま、空を斬った再不斬の首切り包丁の刀身の上に飛び乗り、仕返しにと再不斬の首を苦無で突き刺そうとする。
「ふんっ」
が、再不斬もまたそれを顔を反らして回避。
「そらよっ!」
首切り包丁を横に思い切り振り、カカシを振り落とすと同時、再不斬は先ほどと同じように首切り包丁をカカシに向けて投げつけ、自身もまた印を結びながらカカシへと肉薄した。
「くっ!」
高速で回転しながら迫りくる首切り包丁をしゃがんで躱すカカシ、首切り包丁はカカシの背後にある木に突き刺さり、そのまま静止する。
だが、それだけでは終わらわない。しゃがんだ態勢のカカシに再不斬が苦無を持ち、肉薄する。
カカシはそれを何とか躱し、苦無でカウンターを見舞い、再不斬の首に突き刺す。
が。
「甘えよ」
再不斬の身体にカカシが突き刺した箇所から、水が漏れる。
「水分身か!?」
「御名答」
投擲した首切り包丁の後にカカシに肉薄したのは再不斬ではなく、再不斬の水分身体だった。
そして、本体の再不斬はカカシの後ろに回り込み、背後の木に刺さった首切り包丁を抜き取り、カカシへ切りかかる。
首切り包丁はそのままカカシの体を上下に真っ二つにした。
……と思われた。
「――――ッ!?」
しかし、カカシの体もまた先ほどの再不斬の水分身と同じように、断面から水が漏れ始める。
そして、そのまま無に帰した。
「テメエ、何故俺の術を……って、そういう事かぁ……」
何故相手が自分の里の術を使えるかを疑問に思った再不斬だったが、背後から苦無を突き付けてきたカカシの“開いた左眼”を見て即座に納得した。
三つの黒い勾玉模様が入った赤眼だった。
「それが噂に聞く“写輪眼”……あの瞬間に俺の術をコピーしたという訳か」
あの時、再不斬は態々投擲した首切り包丁を隠れ蓑にして、水分身の印を結んでいたというのに、どうやらカカシの写輪眼はそれすら見逃さなかったらしい。
「その刀をうまく隠れ蓑にしたつもりだろうが……俺には通用しないよ」
「ククク、そうみたいだなあ。……だが、果たして俺一人を相手にしていられるかなあ?」
「……何を言って、――――ッ!? まさか……」
自分の首に苦無を突き付けられているにも関わらず、愉快そうに哂うを再不斬に対し、訝しむカカシであったが、即座に周囲にある
そして。
――――土遁・土流壁
瞬間、カカシとナルト達の間を隔てる巨大な土の壁が盛り上がり始める。
「カカシ先生っ!!」
「お前らっ!!」
互いに大声で呼び合うも、大量の土が尚も盛り上がり続け、やがて巨大な土の壁は道を完全に塞ぎ込むはおろか、左右の林地帯にも大きく食い込み、カカシとナルト達は完全に分断されてしまった。
「ガトーの奴め、俺一人じゃ不安なのか他にも大勢寄越してきやがったみてーだな。ガトーが雇った抜け忍共は皆俺にとっちゃ取るに足らない存在だが、一人だけ体術がからきし駄目な代わりに土遁に秀でた奴がいてなあ。まあ今のでチャクラを全部使い切っちまったみてーだが」
「……霧隠れの鬼人ともあろうものが、自分の獲物を他の奴に譲ると?」
道を塞ぐ巨大な土の壁を見ながらそう言う再不斬に対し、カカシは訝し気な顔をしながら聞いた。
「あんなジジイの首なんざくれてやるよ。本当なら俺がお前ら全員の首を頂きてえ所だが、首の取り合いで喧嘩する訳にゃいかねえだろ? 少なくとも此方側でお前に敵う忍なんざ俺一人くらいな物。それに……あのジジイの首よりも、お前の首の方が余程金になりそうだしなあ?」
無論邪魔してくるんだったら即首を切り落としてやるがな、と付け加える再不斬。
「安心しろ。あの餓鬼共とジジイを襲っている奴らは、“鬼兄弟”レベルには程遠い連中ばかりだ。もっとも、数はかなりいるがな」
「……」
「あの餓鬼共を助けに行きたければ、俺を早めに倒す事だなあ!」
「――――ッ!?」
瞬間、カカシの背後に印を結ぶ人影が一人。
(此奴も水分身か!)
そして、今まで自分が苦無を突き付けていた再不斬の体もまた水分身体でしかない事を見抜いたカカシ。
――――水遁・水牙弾
瞬間、再不斬の水分身が、複数の水の牙に変化し、圧縮回転しながらカカシの身体を貫かんと襲い掛かる。
そして術を発動した再不斬もまた首切り包丁でカカシに切りかかった。
―――水遁・水陣壁
咄嗟に印を結んだカカシは、周囲に自分を囲む水の壁を作り出し、迫りくる水牙と再不斬の首切り包丁を間一髪で防いだ。
今すぐにでも仲間を助けに行かなければならぬカカシ。
しかし、そうするにはこの霧隠れの鬼人を倒さねばければならなかった。
今回はちょっとカカシがだらしない……と思う方もいるかもしれませんが、
次回でちゃんと機転を働かせますので、多少大目に見てもらえると……
ちなみに奈落の出番はまだ先。
後、感想で水影の頼みが何なのか色々考察していらっしゃる読者が多数いるようですが、実はみなさんが思うような複雑なものではありません。
むしろちょっと拍子抜けするかもです。
天照院奈落のどんなところが好き?
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錫杖を使っているところ
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弓を使っているところ
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装束が好み
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単純に朧が好きなだけ
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全部