我らこそは天が遣い八咫烏(笑)   作:ナスの森

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注:波の国篇は大改編します。

FGO第六章マジ疲れた……


それぞれの動向

「ワシは橋造りの超名人、タズナというモンじゃわい! ワシが国へ帰って、橋を完成させるまでの間、命を懸けて超護衛してもらう!」

 

 この時点では、まだああなるとは四人とも思わなかった。

 たかが橋を一つ作るぐらいで敵の刺客が来たとしても、それは自分たちのテリトリーを侵されるかもしれないという危機感を持った盗賊たちや、単純に海の向こうの民をこちらへ容易に招きたくないという差別主義者が雇ったならず者たちくらいなものだ。

 これくらいの任務ならば精々Cランクに相当する任務。

 子供といえど、アカデミーで忍術をきちっと鍛えてきた彼らなら十分にやり遂げられる任務かもしれない。

 

 だがその先に待っていたのは――――鮮血に染められるであろう地だった。

 

 

     ◇

 

 波の国に向かい合っている、大陸の海沿いを目指す第七班のメンバー達。

 その道中を彼らは依頼人のタズナを含めた五人で歩いていた。

 

「ねえ、カカシ先生。波の国にも忍っているの?」

 

「いや、波の国に忍者はいない。でなければ、タズナさんが態々こうして俺たち木の葉に依頼をするなんて事はしないだろう? だがまあ、大抵の他の国には文化や風習こそ違えど隠れ里が存在し、忍がいる」

 

 カカシは人差し指を立ててサクラ達に説明する。

 大陸にある様々な国にとって、忍の里の存在ってのは国の国力に当たる。それによって隣接する他国との関係を保っており、他国の牽制の役割も果たしているのだと。

 

「とはいっても、里は国の支配下にある訳ではなく、あくまで立場は対等なんだがな。だが、タズナさんのように他国の干渉を受けにくい小さな島国なんかでは、忍の里が必要でない場合もある」

 

(最も、大陸と繋ぐ橋が完成した暁には、波の国にも忍び里が必要な時が来るかもしれないがな……)

 

 内心でそう思いながらも、カカシは説明を続ける。

 

「それぞれの忍の里を持つ国の中でも、火、水、雷、風、土の五か国は、国土が大きく力も絶大なため忍五大国とも呼ばれている。火の国・木の葉隠れの里。水の国・霧隠れの里。雷の国・雲隠れの里。風の国・砂隠れの里。土の国・岩隠れの里。各隠れ里の長のみが、影の名を名乗る事を許されている。その、火影、水影、雷影、風影、土影の、所謂“五影”は、全世界各国何万の忍者の中でも頂点に君臨する忍たちだ」

 

「へぇ~、火影さまってすごいんだー!」

 

 カカシの長い説明にサクラは表向きは感心したような態度を取っているが、内なる彼女はなんだか嘘くさいなどとぼやいている。

 ナルトの方も、自分のお色気の術で鼻血を出してぶっ倒れたヒルゼンを思い出し、火影をあまり大した風に思っていない。

 

「……ま、その中でも火の国は特に異例中の異例と言える」

 

 ナルトとサクラの二人の考えを悟って、内心でため息を吐きつつも、カカシは更に説明を付け加える。

 

「他の隠れ里を抱える各国とは違い、火の国は木の葉隠れとは別に忍勢力をもう一つ保有している、それが大名直属の暗部と呼ばれる暗殺組織・天照院奈落だ」

 

「へぇ~。じゃあ先生、火の国って五大国が持つような強大な軍事力を二つも保有してるってことになるんですか」

 

「ま、そういう事になるわな。ついでに言うなら、天照院奈落における暗殺者達の中でも特にその技に秀でた三人の忍たちは“奈落三羽”と呼ばれている。

 天照院首領にして、奈落最強の凶手とも謳われる(おぼろ)(むくろ)、そして(こころ)。さっき奥方様が言っていた“おぼろ”と“むくろ”という名も彼らの事を指していたな」

 

 アカデミーの校長室でサクラに聞かれた質問に対しても答えようと思ったカカシは、ついでに奈落に関しても説明をした。

 サクラは表向きは感心していたものの、内なる彼女はまたしても「嘘くさい」と呟き、ナルトは目を輝かせながら上を向いていた。

 

「じゃあ火の国ってすごいんですね、カカシ先生! そんな忍勢力を二つも保有しているなんて、これじゃあ火の国に逆らおうとする他国なんて何処にもいないんじゃ――――」

 

「そういう自惚れは今すぐ捨てておけ、サクラ」

 

「――――え?」

 

 その奈落三羽という単語の信憑性も疑いつつも、奈落の存在感をカカシの説明によって実感したサクラは興奮した様子でカカシにそう言うが、カカシは目を少し鋭くし、そんなサクラを注意する。

 

「それはあくまで単純な武力を見た上での考えだ。そんな考えではこの世界は生きていけない。いいか、本当は態々戦力を二つ保有せずに、一つに纏めて一つの牙とする方が理想的なんだ。現に火の国以外の忍び里を持つ各国はみんなそういう形式だ。

 ……なのに、何故か火の国だけは違う。何故だか分かるか?」

 

「そ、それは……」

 

 カカシの突然の質問にサクラは顔を俯かせ目を泳がせている。

 自分は何か間違った事を言っただろうかという疑問をちらつかせながらも、カカシに聞かれた事を彼女なりに必死に考えてみる。

 ……が、答えは出なかった。

 

「今言える答えとしては、そうせざるを得ない事情(・・・・・・・・・・・)があったからだ。つまり奈落が設立されるまで、里単体の勢力だけでは、穴だらけ(・・・・)だったという事だ。他の国と違ってな」

 

「そうせざるを得ない事情……何ですかその事情って?」

 

「今言える答えとしてはって言っただろう? これ以上は俺も言えないよ」

 

 鋭い雰囲気から一転してカカシはパッと笑顔を作り、三人に向けて言った。

 

「そこで俺からお前らに宿題だ。奈落と木の葉、何故火の国は態々この二つの忍勢力を保有せざるを得なかったのか……それを考えてくる事。ちなみに期限は無期限ってことで」

 

「な、何だってばよそれ……」

 

「それって宿題とは言わないんじゃ……」

 

 態々宿題と言っておきながら期限は無期限という曖昧な言い方にナルトとサクラの二人がカカシに突っ込むが、カカシはそうだねと笑って誤魔化した。

 

(真面目な話、これを俺の口から言うわけにはいかないからなあ)

 

 国が態々里とは別に忍勢力をもう一つ作らざるを得なかった理由……というのも、里と国の関係は一時期危ういものになっていたからだ。

 その問題に気付いたのは四代目火影や三代目火影でもなく、一人の上忍の少年であった事はこれ以上にない皮肉といえた。

 国と対等の立場故、隠れ里として切り離されていたからこそ、里にいた者は誰一人としてその問題に気付けなかったのだ。

 国の中心に連れていかれた他ならないその少年こそがその問題に気付き、そして奈落を設立するに至った。

 

 今ここで答えを言うことは、つまり奈落に対する誤解を解くという事であり、それは故郷にすら嫌われる覚悟でそれを行った少年を侮辱する事だった。

 

 だから――――もし彼らがその答えを知る事があるのなら、それは彼ら自身が見つけて知ってもらわないとならないのだとカカシは思った。

 

「ま、何はともあれ安心しろ。Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ」

 

「じゃあ、外国の忍者と接触する心配はないんだ!」

 

「勿論だよ。ハハハハハ!」

 

 兼ねてからサクラが感じていた不安を察していたカカシはサクラの頭の上に手をポンと乗せ、サクラを元気づけた。

 

 ――――そして、タズナが気まずそうな表情をしたのを、カカシは見逃さなかった。

 

 

     ◇

 

 

「――――とまあ、忍者対決をしないとは言ったけど……タズナさん、ちょっとお話しがあります」

 

 木の下に縛られている二人の覆面をした男を見ながら、カカシはタズナへ問うた。

 

 先ほど、彼らはこの二人に襲われ、ピンチに陥ったのだが上忍たるカカシの手によって難なくこの二人は撃退され、木に縛られていた。

 ……ナルトが手傷を負ってしまったが。

 

「霧隠れの中忍ってとこか。こいつらは如何なる犠牲を以てしても任務を遂行する事で知られる忍だ」

 

 霧隠れの中忍の二人は何故自分たちの動きを見切れたのかを聞いてくるが、カカシはそれに説明し、事前に二人の襲撃、および隠れ場所を察知していたと答えた。

 

「あんた……それ知ってて何で餓鬼にやらせた?」

 

 冷や汗を流しつつも、タズナは訝し気な表情でカカシに聞く。

 この男が上忍であるというのなら態々部下たちを危険な目に晒させずに彼一人で片づける事だって出来た筈だ。

 ……なのに、何故?

 タズナの頭には嫌な予感が過っていた。

 

「私がその気になればこいつ等くらい瞬殺できます。――――が、私には知る必要があったんですよ、この敵のターゲットが誰であるのかをね」

 

 カカシの鋭い眼光がタズナを射抜く。

 その冷たい刃を突き付けられるような感覚にタズナは内心たじろぎながらも必死に平成を装い、聞き返した。

 

「……どういう事だ?」

 

「つまり、狙われているのは貴方なのか、それとも我々忍の内の誰かなのか……という事です」

 

「……」

 

「我々は貴方が忍に狙われているなんて言う話は聞いていない。依頼内容は、ギャングや盗賊などの武装集団からの護衛だった筈。これだと、Bランク以上の任務となります。依頼は橋を作るまでの支援護衛だった筈です。敵が忍者であるのなら、迷わず高ランクのBランクに設定されていた筈。何か訳ありみたいですが、依頼で嘘を付かれると困ります。

 

 ――――これだと、我々の任務外って事になりますよね?」

 

「……」

 

 タズナは冷や汗をかき、気まずそうな表情をしながらも沈黙を貫くばかりだった。

 

(だんまり、か……。それだけ隠し通さなきゃいけない理由があるのか、それとも単に木の葉が舐められているだけなのか……どの道正直に言って貰わないとね)

 

 もし依頼した先が他里、特に霧隠れの里だったりしたらこのタズナという老人の首はどうなるか分かったものではない。木の葉の里だって火の国の恵まれた環境の土地のせいで「甘ちゃん」だのよく言われているが、仮にも五大国に数えられる国が保有する里だ。偽りの依頼を通せる程甘くはない。

 

「話は変わりますがタズナさん、貴方が依頼人としてアカデミーの校長室に姿を現したとき、貴方は酒を飲んで酔っていましたよね?」

 

「……それがどうした?」

 

「いえね、仮にも公共の場に依頼に来るのだとしたら、まして橋造りの名人としての職を得ているのなら……普通飲酒しながら、しかもそれで酔いながら里に依頼に来る、なんて事はしません。何せそれはビジネスの場であれば失礼に当たる物ですから、ねえ?」

 

「……それは……悪かったとは思っている」

 

 心なしかカカシから申し訳なさそうに目を逸らすタズナ。

 

「いえいえ、それだけならまだちょっと失礼な依頼人だとかそんな話で済むのですよ。木の葉は其処ら辺に対してはフランクですから。

 本題はここからです。仮にも橋造りの職人である貴方なら猶更最低限の礼儀は弁えるはずなのに、態々何かから目をそらすかのように酒に酔っていた……それは、我々に対して後ろめたい事があったのか……もしくはこれから我々に対して後ろめいた事をするから、ではないのですか?」

 

「――――ッ!!?」

 

 全く的からはずれないカカシの指摘に、タズナは明らかな焦りの表情を見せる。

 如何にも図星、といったような表情にカカシは内心でため息を付いた。

 ――――やっぱり、舐められているな、木の葉……。

 正直、里に散々暗い感情を抱いてきたカカシにとっては非常に複雑だった。

 

「この任務、私たちにはまだ早すぎるわ! やめましょ!? ……ナルトの毒血を抜くにも麻酔がいるし……。里に帰って医者に見せないと!」

 

 ただでさえCランクの任務を受けることすら内心で忌避していたサクラは、それ以上の危険性の高い任務を受けさせられる事に危機感を抱き、七班のメンバーにそう提案した。

 単に自分の命が惜しいだけでなく仲間が心配であるからこそのサクラの考えにカカシは若干嬉しくなりつつも、ナルトの方を見やる。

 

「ふむ……」

 

 動き回ると毒が回るとカカシに言いつけられていたナルトは、毒を受けた自分の手の甲を見ながらどうしようかという表情でいた。

 

「こりゃ、荷が重いな。ナルトの治療ついでに、里に戻るか」

 

「……――――ッ!!」

 

 あくまで部下を死なせないためのカカシの発言……しかし、暗にそれは自分が足手まといだからこそ荷が重いとも言っているように聞こえてしまったナルト。

 ――――ふざけるな……オレってばイルカ先生や火影のじっちゃんに言ったんだ……自分はもうじいちゃんが思うような悪戯小僧じゃないんだって……!!

 ――――なのに、自分が毒を受けてしまったのが原因で里に逆戻りしたら、態々自分の我儘を聞いてくれたあの二人に合わせる顔がないってばよ!!

 心の中で憤ったナルトは唐突に懐から取り出した苦無を振り下ろし――――

 

 ――――それを、毒を受けた自分の手の甲に思い切り突き刺した。

 

『――――ッ!!?』

 

 そんなナルトに、他四人が一斉に目を見開く。

 血がドバッと飛び出し、言いようもない痛みがナルトを襲うが、ナルトはそれでも決して悲鳴を上げる事はなく、その苦渋の表情は痛みからのものではなく自分の無力による悔しさからくるものだった。

 

「どうしてこんなに違う……どうしてオレの方がいつも……ちくしょう……!!」

 

「ナルト!? 何やってんのよアンタ――――」

 

「オレってば……!!」

 

 ナルトのとち狂ったかのような行動にサクラは大声を上げるも、ナルトの迫力に押されて押し黙る。

 

「オレってば強くなっているはずなのに……どんどん任務こなして、一人で毎日、術の特訓してんのに……こんなんじゃ、あの人の隣に立つことなんて出来るわけねえ……!!」

 

 思い出すのはあの背中……白い法衣を身にまとい、腰後ろに刀を差した人物。

 自分ではどうしようもなかった状況をいとも容易く覆し、自分を助けるだけでなく、今まで自分に散々な扱いをしてきた大人たちの対応まで変えてくれたあの背中を、ナルトは一度たりとも忘れていない。

 態々、大人たちを煽って自分たちが嫌われるような真似までして汚名を当然のように被り、里の者達の矛先を自分から逸らさせてくれたあの背中を、ナルトは未だに幻視していた。

 ナルトは英雄になりたかった、だからその英雄に一番近いであろう火影を目指し、皆に認められようとした。

 ――――だが、あの日、本当の英雄とは誰かに認められようとする者ではないという事を思い知った。

 十の者達から貶され、誹謗・中傷を受け、それでもそれに流されることなく一の者を助ける。……それが人々の目からどんな悪行に映ろうとも、周りに流されずに己のすべき事を成し遂げるような人物。

 ――――それこそが、本物の英雄なんだと。

 

「オレってば、もう二度と助けられるような真似はしねえ! 怖気づいたり、逃げ腰にもならねえ! オレはサスケには負けねえ!」

 

「……」

 

「この左手の痛みに誓うってばよ! 嘘の依頼で、里の奴等がどんな事を言おうが、オレはおっさんを守る!」

 

 嘘の依頼がどうした、周りがそれを指摘して何と言おうと、それに流されずに自分は護衛し続けると決めた。

 ――――あの日、周りの非難など意にも介さず自分を助けてくれた、あの人のように!

 

「任務、続行だ!」

 

「……小僧」

 

 ナルトの強い決心を垣間見たタズナは、ただ茫然とするだけだった。

 そこに口を挟む輩が一人いた。

 

「ナルト~? 景気よく毒血を抜くのはいいが、それ以上は出血多量で死ぬぞ~」

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

 この後、ナルトは滅茶苦茶慌てた。

 

 

     ◇

 

 

 波の国の森林の中に立っているアジトの中。

 

「失敗したじゃとお!?」

 

 サングラスをかけ、黒いスーツを着用し、傍にいる同じスーツを着用したボディーガードの半分ほどの背丈しかない老人が、部屋のソファーに座っている包帯の覆面をした男に向かって怒鳴りつける。

 覆面の男の傍には彼の部下らしき忍が三人片膝をついて頭を垂れていた。

 

「お前たちが元腕利きな忍者だと言うから、高い金を出して雇ったんじゃぞ!」

 

「……愚痴愚痴うるせえよ」

 

「ひぃっ!?」

 

 覆面の男はそう呟くと同時、自分の身の丈よりも遥かに長い大刀を老人に突きつける。二人の間にはかなりの距離があるにも関わらず、その大刀はあと少しで老人の首を刎ねよう程、その大刀はでかかった。

 

「今度は俺様が、この首切り包丁(・・・・・)で、ソイツを殺してやるよぉ」

 

 その冷たい覇気に老人は恐怖でたじろいでしまうも、同時にこの男なら確実に殺してくれるだろうという安心感も抱く。

 しかし、やはり不安は残ってしまう。

 

「ほ、本当に大丈夫だろうな? 敵もかなりの忍を雇ったようだし……その上鬼兄弟の暗殺の失敗で警戒を強めているとなると……容易な事では――――」

 

「この俺様を誰だと思っている? 霧隠れの鬼人と呼ばれたこの、桃地 再不斬だ」

 

「……ッ!!」

 

 確かに、この男なら殺ってくれるだろう。

 だが、老人を襲う不安はそれだけではなかった。

 

(もしも……バレているのだとしたら……)

 

 ――――奴らが、来ている可能性だって……

 

 

     ◇

 

 

 とある海沿いにて、船の中から三人の人影が姿を現した。

 一人は赤い眼鏡をかけ、背中に大双剣を背負った水色の短髪の青年。

 一人は霧マークの額当てを額に巻き、右目に眼帯を身に着けた中年の男だった。

 そしてもう一人は……肩から上胸部までを露出させた青いドレスのような服を着用した、茶髪ロングの美女だった。

 

「水影様……本当にここでいいのでしょうか?」

 

「ええ、地図上だったらここで間違いない筈よ、長十郎」

 

 長十郎と呼ばれた青年は不安そうな表情で、女性に問い、女性は大丈夫と返す。

 水影と呼ばれた女性は当たりを見まわし周りの地形が地図と一致しているかを再確認し、長十郎へ向き合う。

 

「ここで大丈夫みたいね、周りの地形と地図の地形はちゃんと一致している。待ち合わせ場所はここで間違いないわ」

 

「で、ですが……」

 

「何弱気な表情をしている、長十郎!」

 

「あ、青さん」

 

 青年の不安な表情が見るに耐えかねたのか、青と呼ばれた男が長十郎に言いつける。

 

「確かに、今回は会う相手が相手だから不安な気持ちになるのも分かる! だが、そんな目に分かるような不安な気持ちでは、相手との交渉において不利になる。 もっと自分の在り方に自信と誇りを持って対応するんだ、長十郎!」

 

 まるで親が子に説教するような絵面ではあるが、確かに青のいう通りであると青年は反省する。

 そんな青年を慰めるかのように、女性は綺麗な笑顔で長十郎に言う。

 

「大丈夫よ、長十郎。貴方は強い、青も私も貴方の事を信頼しているわ。だからこそ、今回は(・・・)追い忍部隊を連れずに貴方達だけを連れてきたのですから。……もっと、自分に自信を持ちなさい、長十郎」

 

「は、はい……」

 

 水影と呼ばれた美女・照美メイの包み込むような笑顔に長十郎は頬を赤くしながらも、彼女に聞こえるように答えた。

 が、そんな返事では青は納得せず、また説教を入れた。

 

「“はい”ははっきりと言え! まったく、喉の調子が悪いわけでもなかろうに。喉の調子が悪いなら“ムコ○イン”でも――――」

 

 

 その一言が、いけなかった。

 

 

「ムコ○イン……婿(むこ)ない……」

 

 

「で、でも青さん。僕……やっぱり不安で……」

 

「そんな事でどうする!? まったく、これだから最近の若者は……それでは回りの人からお前を見て“もらえん”ぞ!」

 

 

 

「婿が……もらえない……」

 

 

「そもそもお前は――――」

 

 未だに長十郎に説教をしようとする青。

 ……しかし、そこにゆっくりと静かに怒り狂ったメイが青に歩み寄り、そして――――

 

「黙れ殺すぞ……」

 

「――――ッ!!?」

 

 婚期の遅れた女性の妄念を凝縮したかのような笑顔。

 それはまさしく絶世の美女の笑顔ともいうべき、されどそれは鬼が宿ったような笑顔だった。

 その恐ろしい笑顔に青は恐怖の顔を青ざめながら硬直し、金縛りがかかったかのように動けなくなってしまった。

 

「さて、長十郎、青。参りましょう」

 

「はい!」

 

 硬直した青を他所に、メイは長十郎を連れて船から離れる。

 

「――――って、あ、ちょ、待ってください! 水影さま~!!?」

 

 二人との距離が離れていく内にようやく現状を理解し、現実に戻った青はメイを大声で呼びながら二人の後を追いかけていった。

 

(今回会う相手……部下や追い忍部隊を遣わすのではなく、水影様が直々お会いになる程の相手……どれほどの者なんだろう。いや、どんな相手だろうと敵対してくるなら、僕が水影様を守ろう……出来る事なら)

 

 メイの後ろを歩きながら長十郎はそう考える。

 今回会う相手、それは国と対等な位置にある里に属する者ではなく、国に直接仕える忍組織の首領である。

 あまりいい噂は聞かず、「故郷の里と同規模の忍組織を結成したのは、いずれ里の役割を乗っ取って牛耳るため」だの、「ある事件において里を見捨て、自身の組織だけを拡大させた」など、あの忍の闇を象徴するダンゾウと並んで警戒すべき人物だった。

 

(火の国大名直属の暗殺組織・天照院奈落の首領にして、奈落最強の使い手と恐れられる男……奈落設立以前の大戦時代においては少年期であるにも関わらず「暗部殺し」、または「木の葉の白い牙の再来」とまで謳われていた。いずれにせよ、警戒するに越したことはない人物だ)

 

 内心でこれから会うであろう人物の経歴を再確認した青もまた、彼の者への警戒を強めながら二人と進んでいく。

 そして、まだ大した距離も歩いていない所で――――

 

 烏の鳴き声が、響いた。

 

「……どうやら、向こうは既に出迎えの用意が出来ていたようですね」

 

「「――――」」

 

 水影の発言の元、我に返った二人はその先を見る。

 

 チャイナ服を思わせるスリットの入った布袍を身に纏い、錫杖を持った集団が待ち構えていた。

 シャラン、と息のあった統率で錫杖をリズムよく鳴らしているのは、果たして彼らなりの歓迎の合図なのか。

 その特徴的な衣装と、彼らから感じる得体の知れない感覚から三人はすぐにそれを悟った。

 ――――間違いなく、暗殺組織・天照院奈落の忍たちであると。

 

(凄い……完璧な統率だ……)

 

 単に綺麗に整列しているだけでなく、あらゆる動きや、錫杖を鳴らすタイミングまでもが完全に一致している様を見て、長十郎はただ感心するだけだった。まるで一種の軍事パレードでも見ているかのようだ。

 それは青やメイも同じだったようで、この面子の中では最も長生きしている青ですらこれほど動きが揃った忍たちを見たことがなかった。

 ――――やはり、単に忍組織というだけでなく、国に仕える軍隊としてそこらへんの訓練も受けているのだろうか?

 

 ……そう思っている内に、奈落の忍びたちは整列を維持したまま道をあけ、そして、そこから一人の男が三人に近づいてきた。

 

 ――手には錫杖を持ち

 ――編み笠を被り

 ――白い法衣の上に、八咫烏の紋章が大きく入れられた黒い袈裟を架けていた。

 

「あれが……八咫烏」

 

 その姿を見て、長十郎は呟く。

 

 二人の先頭にいたメイがその男に向けて一歩踏み出し、頭を下げて自己紹介をした。

 

「お初にお目にかかります。五代目水影、照美メイと申す者です。以後よろしく」

 

「・・・・・・(おぼろ)だ。こちらから出向く算段だったのだが、水影自らがご来訪とは、律儀な方だ」

 

 頭を下げ、自らを水影と名乗ったメイに対し、朧もまた被った三度傘を上にずらし、その素顔を長十郎達に見せる。

 整った顔立ちとは裏腹に、お世辞にも整っているとは言えない白髪は意外にもこの男にはマッチしていた。

 

(私と同じ白眼……やはりあのときの少年・・・・・・)

 

 宗家でないにも関わらず、呪印を持たない分家の子供がいる・・・・・・その情報に釣られて霧隠れの追い忍部隊総勢四十人がこの男に襲い掛かり、そして全て返り討ちに遭い、全滅したという話は霧隠れの間でも有名だった。

 やっとの思いで日向の者から戦利品として手に入れた青としては、その情報は到底信じられぬものであったが、今こうして対面する事で信じざるを得なくなった。

 あの霧隠れの追い忍部隊が偽ではなく真の情報に釣られ、しかもその上で全滅に追い込まれたなど霧隠れ(こちら側)としては笑い話にもならないのだが。

 

「それで、此度の件であるが……」

 

「分かっています。ウチの里の者が其方の要人を襲ったという件……大した証拠も揃えられず申し訳ないのですが、我々は里のモノにそのような命は下しておりません」

 

「……」

 

「例え……勝手にそのような行動に出た者たちがいたとしても、霧隠れの自里の忍の管理は徹底しております。断じてそのような事はございません」

 

 沈黙したままメイの言葉を聞く朧。

 長十郎は息を飲みながらその様子を窺い、青もまた朧を内心で警戒しながら見ていた。

 そして青は、朧の恐ろしさを実感していた。

 

(あの気迫、大戦の時とはまったく違う。・・・・・・本当に、あの少年だとでもいうのか・・・・・・?)

 

 第三次忍界大戦時、まだ名も知れていない頃の朧――つまり、日向コヅキと青は一度戦場で鉢合わせたことがある。この頃には既に他の日向一族から戦利品として白眼を奪い、右目に埋め込んでいたのが、まだ若かった青はそこで欲をかいてしまった。

 既に分家の者を生け捕りにして白眼を得るという実績を得ていた青は、だからこそ当時少年だった男にも、その方法が通じると思っていた。

 だが、ものの数秒で周囲の部下は全滅。

 青自身も投擲針で点穴を穿たれ、身動きが取れない状態にされていた。甘く見ていたのは確かだ、だが決して油断していたわけではない。

 子供といえど日向一族・・・・・・十分な対策を練った上での戦いだった筈なのに、結果は上記で語った通りだった。

 どうして自分だけ生きて帰れたのか・・・・・・決まっている、青は当時少年だった朧に見逃されたのだ。

 

 ・・・・・・話を戻そう。

 青が初めて出会った時の日向コヅキには、まだ年相応の必死さというものが僅かながら感じられたのだ。・・・・・・その僅かに感じられた必死さですら、その圧倒的な実力と明らかに釣り合っていなかったのはさておいて。

 だが、今の朧はそれすら生ぬるい。

 まだ年相応に丸かった白眼はまるで刃物のように鋭く研ぎ澄まされている。今の彼は五大国の里に並ぶ程の組織の首領を長らく務めた経験を経て、今やあらゆる諸国から警戒される暗部の長になっているではないか。

 

(・・・・・・今もそうだ。この男、私と長十郎には目もくれていない。あの時見逃されたことといい、この男は一体何を考えている?)

 

 そう思いながら、青は朧を警戒し続ける。

 ――――なお、青が気にする朧の考えている事は――――

 

(うわ~、水影様美人だな~。……というか、露出した上胸部が絶妙にエロくてやばい!! 何ていうかこう、完全に露出した部分と、編みシャツで露出させているラインの部分の組み合わせがやばいんですけど!? 何かムラムラするんだけど……俺の股間が経絡操らないと今にもヒートアップしそうなんだけど!!?)

 

 実際は水影のメイの露出した上胸部に釘付けになるあまりに、長十郎や青の事を気にする余裕がないだけだった。

 しかも自分のアソコを鎮めるためだけに、今まで培ってきた「経絡系操作()」を必死に行使していた。

 アホである。どうしようもないアホである。

 もし青がここで白眼を発動させて朧の経絡系を観察しようものならば、偉い光景がその眼に映っていたことだろう。

 

「……それについて案ずる必要はない」

 

 朧は三度笠を下にずらして目を瞑り、言葉通りの意味をその表情からも三人に伝えた。

 ……本当はメイの胸から目を逸らしたかっただけなのだが。

 

「部下に拷問をさせた結果、貴様達の仕業でない事はもう知れた事」

 

 その言葉に、三人は内心でほっと胸を撫で下ろす。

 他里の忍が他国の要人を襲うといった事態……しかもそれが五大国の間で起こるとなれば大規模な戦争に発展しかねない。

 そういう意味では、奈落(向こう)が優秀であった事に感謝できた。

 

「では――――」

 

()()()()()()()、であろう? そうでなければ、態々水影自らが出向く筈がない。それも……信頼できる部下以外に聞かれてはいけない何か……相違ないか?」

 

『……』

 

 的を射た朧の言葉に三人は押し黙る。

 根っこはアホだが、暗殺組織の首領を続けてきた事もあって、ここら辺は大分敏感になっている朧。国同士の交易にも関わってきた者として、これくらいは朝飯前だった。

 

「そこまで見抜いていらっしゃるのであれば、全てお話ししましょう」

 

「……」

 

「貴方方もおそらく分かっているでしょうが、抜け忍達に私達霧隠れに変装させて其方を襲わせたのは、あのガトーカンパニーの社長、ガトーに間違いないでしょう」

 

「其方についても裏は取れている。問題は奴の居場所だが――――」

 

 実際の所、朧は原作知識でガトーの居場所はちゃんと分かっているのだが、よく考えてみれば波の国以外にもガトーは国の乗っ取りを行っていたため、常識的にガトーが波の国にいると何の証拠もなく分かる筈がないのだ。

 

「それについて心配はありません。予てからガトーの所にはウチの者を側近として潜ませています」

 

「……」

 

「ガトーは私達霧隠れの忍が其方の要人を襲ったとみせかけ、私達に戦争をさせ、そして会社で大量に製造した武器や兵器を売りつけて大儲けをしようという腹積りのようでした」

 

 前向きを淡々と述べる五代目水影・照美メイ。

 しかし、次の瞬間、目を鋭くさせ、朧の目をまっすぐに見る。

 

「単刀直入に言います。私達は貴方方と取引をしに参りました。貴方たちは、其方の要人に刺客を差し向けたガトーの首が欲しい、違いますか?」

 

「……だとすれば、どうする?」

 

 それが自分たちの目的だと今の段階では明言する訳にもいかず、朧はそのような曖昧な問いを返した。

 

奈落(貴方達)をガトーのいる波の国へと手引きをします。ですから――――」

 

 

 

 

 

 メイは頭を下げ、朧に言った。

 

 

 

 

 

「どうか、私たちの頼み事を聞いて欲しいのです」

 

 

 

 

 

 

天照院奈落のどんなところが好き?

  • 錫杖を使っているところ
  • 弓を使っているところ
  • 装束が好み
  • 単純に朧が好きなだけ
  • 全部

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