後、奈落の棘の読みですが。
活動報告での提案に乗っ取り、読みを棘(おどろ)から棘(いばら)に変更します。
では、どうぞ
また、あの人に助けられちまった。
ナルトは羞恥半分、嬉しさ半分の気分で疾走する。
ツナミとイナリから話を聞いた限りでは、自分を助けてくれた人たちは紛れもなく、自分が憧れ、焦がれる存在だったのだから。
その人がまだ自分を見てくれていることを嬉しく思いつつも、その人の手を煩わせてしまったことをナルトは恥じていたのだった。
このまま何もせず終わってはイルカ先生や自分を陰から支えてくれた3代目に対しても顔向けができないのである。
それに、今度は、この任務を受けたのは自分の我が儘が始まりだったとはいえ――今度は、託されたものがある。
その託されたバトンは、今、ナルトの額当てと一緒に巻かれている。英雄カイザから、イナリとツナミを通じてナルトへと渡った。このバトンは自分だけに渡されたものではない。タズナや仲間たちにも託されたものなのだ。
ならばこそ、自分はこれをもって仲間たちの所へ行き、そして全員で生きて帰るのだと。
「うずまきナルト……全力でこの国を守るってばよ!」
決意を新たにしたナルトは、橋で戦う仲間たちのもとへと急いだ。
そんなナルトの遥か後方にある隠れ家。
現在ツナミとイナリが隠れている場所の周辺の木々から、2人の人影が、シャラン、と錫杖の音を立てて着地した。
「……行かせてよかったのか?」
「カカシ班が受けた任務はタズナの護衛。あの子がタズナの元へ向かうことは、何らおかしいことではないでしょう?」
「そういうことではない」
降り立ったのは、二匹の
女性と男性。女性の烏は
「あの童を行かせては、人柱力が雲隠れに渡るリスクが増すだろう。
「……確かに、先輩の考えには同意します。だけど、あの子はきっとあれでいいのだと、そう思います」
「火の意志、とやらか? お前と頭が木の葉の出なのは知っての通りだが、相も変わらず要領を得んな。某でも、頭の考えることは時々分からん」
「あ、それ私もです」
この2人が言い渡された任務は、目が覚めるまでのナルトと、そしてイナリとツナミの影からの護衛であった。ここでおかしいのは、ナルトに関してはあくまで
戦力が他里に奪われてしまうリスクを考えるのならば、筵の言っていることは正しい。
先のナルトと親子のやり取りを影ながら聞いていた二人であったが、世の中があんな綺麗事ではどうにもならないことを、長年奈落の忍をやっている2人は知っている。
今回に限っては、そんな綺麗事がなくとも物事は収束に向かっているということ。
汚れなど、成果でいくらでも洗い流せる。
棘も先の綺麗事に理解は示しつつも、護衛対象が目を覚ましたら何もするなと命令してきた朧の真意までは掴めなかった。
「あの方から羽根を貰って、早10年経ちますけれど、相変わらず頭が何を考えているのか分からないままですね。思想には共感しますし、奈落の存在意義も、痛い程に分かってしまうのですが……結局、あの人自身のことは何も分からないままです」
「白い牙の再来……当時少年でしかなかった頭は、にも関わらずその名を欲しいままにする活躍をなされていた。本元の白い牙――はたけサクモと同様、多くの隠れ里から恨みを買っておられたが」
はたけサクモは里に殺され、結果として各里各国の忍はこの朗報を喜んだ。
だが、そのサクモの再来と言われた彼は、里では殺すことができなかった。烏は里の手の届かない場所へと飛び立ち、無数の同胞をかき集め、やがて彼らは天の遣いとなった。
それぞれ任務に対し正反対の選択肢を選びながらも、里の住民や仲間からの対応は奇しくも一致し、白き牙も、それに続きその再来の名も地に墜ちた。
だが、里は純白に輝く刀身を折ることはできても、天を飛ぶ烏を落とすことは終ぞ叶わなかったのである。
つまり、そこに2人の疑問はある。
「白い牙の名を継いだ頭の心情は、一体どういうものだったのだろうか……?」
戦が終われば、英雄もただの人間に還ってしまう。
白い牙の名も、戦では大いに猛威を振るったものの、それが終わった後ではその名は最早厄介者でしかなかった筈だ。
はたけサクモは英雄として猛威を振るいすぎた。故にその反動で、ただ一度の失敗を理由に里に殺された。
偉大な名であると同時に忌み名でもあるソレを継ぐ意味を、当時の朧が悟れないわけがないと2人は考えていた(実際は全然悟れていなかった上に、誹謗中傷に耳を傾ける余裕もなかっただけなのだが)。
里が、前大戦で活躍したその名を、第三次忍界大戦でも利用しようと考えたのだろう。もう一度、あの白い牙を使い捨てにしてやろうと。
あの朧をもってすれば、里のそのような意図など容易に見抜けるだろうに、何故里に尽くしたのか。
奈落を設立した理由も、里に対する恨みからはかけ離れたものだ。その意義を2人は実感こそしているものの、形にする理由が思い浮かばなかったのである。
「……結局、分かりませんね。同郷の私もお手上げです。骸様あたりが理由じゃないかなー、とか考えているんですが……」
「その骸様が奈落にいる今ならば、そうする必要もなかろうよ。結局、頭自身しか分からぬというわけだ」
「先輩は、奈落に入る前は、頭を恨んだりしなかったんですか? 白い牙と来れば、他里から見れば畏怖の象徴でしょうし、その名を継いだ頭に、先輩の仲間も沢山殺されてる筈、ですよね……?」
「好奇心、猫をも殺すという言葉を知らんのか、
ギロリ、と筵の双眸が棘を睨み付ける。
三度笠の下から覗かれる刃物のような眼光に、棘を苦笑して後ずさった。
「す、すみません! アハハ、やっぱ私駄目ですねー。以後お口チャックしまーす!」
「まったく、お前も既に小隊を率いる身であろうに。何故こうも相変わらず繊細のなきところに踏み込むのだ……」
「分かってますよーだ。もう……査問会はごめんですし」
「毎回庇っていた私の身にもなれ」
呆れて溜息を吐く筵。
この棘という後輩は、木の葉から奈落に移籍してきた当初は、まったくといって奈落の仕事に馴染めてはいなかった。
要人の護衛などはともかく、此方側から攻勢をかける暗殺などでは、それこそ甘さが祟って標的を取り逃がしてしまったり、元は罪なき人を手にかけることを躊躇するなど、とにかく奈落には向いていなかったのだ。その度に査問会にかけられてよく懲罰を食らっていたものだ。
今でこそ割り切り、小隊も任され汚れ仕事もこなしているが、慣れてきた今ですら、この娘は奈落に向いていないんじゃないかと筵は心配していた。
「白い牙といえば、カカシ上忍が部下と共にこの国に残ることを選ぶのは、少し意外でした・・・・・・」
「任務遂行を最優先にする忍と聞いているが?」
「一見、そういう風に見えるんですけれどね・・・・・・」
暗部時代ですら、カカシのその冷酷な態度はガワだけのものであると棘は知っている。
なのに、今ではそのガワさえ剥がれ、いい意味で垢抜けた印象を棘はカカシから感じていた。
――あの強面の頭も、優しくなるとああなるのかな・・・・・・。
一瞬、そんな考えが浮かんだ棘であったが、即座に顔を横にぶんぶんと振り、頭の中の想像を振り払う。
目下の隈と顔の大きな傷、そして常に冷たくて静かに怒っているかのようなあの表情が、如何にして和らぐか等、棘には想像もしようがなかったのである。
カー、と烏の鳴き声が小さく響く。
烏は筵の腕に止まり、その意を身振り手振りで筵に伝えた。
「どうやら、市街地に派遣されたガトー一派の殲滅は終わったようだな。某の隊は先にあちらの部隊へ合流する。お前の隊は、あの親子を町民たちの避難場所に連れてゆけとのことだ」
「では、私たちの隊もそれが済み次第、合流の手筈ということでよろしいですね?」
「相違ない。……ではな」
そう言って、筵は棘の前から姿を消した。
一人になった棘は、空を仰いで考える。
――まさか、あの日、頭と一緒に助けた少年を、自分の部隊がまた助けることになるとは夢にも思わなかった。
あの後、また周囲から忌み嫌われ、孤独の時を過ごしているのではないかと心配していたが、あの様子を見る限りではなんとか真っ直ぐな少年に育ったように見える。
「よかった……」
あの時、頭があの子を助ける判断をしたのは、自分の気持ちを汲んでくれたからなのか、それとも懇願してきた日向宗家の娘の願いを聞き入れたからなのか、はたまた別の思惑があったのかもう分からない。
それでも、あの出来事が、あの少年が真っ直ぐに育つ一助にもなったのであれば、頭が助けた意味もあったというものだろう。
「さて、こちらもやるべきことをやりますか……」
暫しほほ笑んだ後、自身の感情を殺し、棘もまた部下を引き連れて任務に専念する。
自分は、あの少年とは違う。
日を浴びる一葉であったこの身は、今では奈落の影を飛ぶ烏。
自分の進む先は闇の道――それでも、
◇
ナルトが影分身を用いた陽動を駆使して、忍たちの包囲網を突破し、タズナたちの所に到着したとき、事態はかなり進んでいた。
抜け忍たちの死体は、一週間前に味わったナルトのトラウマを掘り起こしたが、ナルトは自身の心に鞭を打って耐える。
そして、霧の濃い中を必死に探し回り、ようやく見つけた。
満身創痍の、サスケを。
「サスケッ!」
名を呼び、ナルトはサスケに駆け寄った。
体中に千本や当て身を食らったサスケの身体は既にボロボロで、致命傷こそないものの、無数の小さい刺し傷からの出血が酷かった。
それでも、サスケは何とかナルトの方へ振り向き。
「ハァ、ハァ……ようやくッ……来やがったかよ……この、ウスラトンカチ……が……」
息絶え絶えながらも、不敵に笑ってナルトに憎まれ口を返した。
「サ、サスケ……オマエ、その、傷……」
「……オレのことは、いいッ」
立ち上がろうとするサスケだが、片膝をついた途端に崩れ落ちる。
サスケの身体を支えようとするが、サスケはそれを手で制する。
「それよりも、アイツだ……」
「アイツって……」
「俺達を欺いて、再不斬を逃がしたあの面の奴は、なんとか倒せた……」
「ッ⁉」
サスケの衝撃的な発言に、ナルトは思わず固まる。
悔しさ半分と、怒り半分。
自分と変わらない年でありながら再不斬を殺してみせ、更にはそれが茶番であったことを叩きつけられたナルトは、再不斬同様にあの面の少年に対しても一泡吹かせてやりたいと思っていたのだから。
そのために、自分も、サスケも必死に修行していた筈だ。
なのに、先を越された。
そして、サスケがソレに勝ったということは、すなわちサスケはその面の少年と戦い、勝利はしたものの、このような深手を追ってしまったということ。……普段は、サスケのことを気に入らないと思っていた筈なのに、何故か怒りが込み上げてきたのだ。
右手は悔しさに、左手は怒りに、それぞれ違う感情で拳を握る。
「だが……」
「……?」
「こんな深い霧だ。深手は負わせただろうが……仕留められたかどうかまでは、分からねえ……後は、分かるな……?」
「ッ!」
「悔しい……が、トドメは、お前に譲って……や、る……」
言い方は大分挑発的だが、サスケの真剣な表情に、ナルトはごくりと唾を飲んだ。
これほどになるまでのサスケの死闘は、おそらくナルトには想像も付かないものだろう。
そんな死闘の中でサスケはあの面の少年から勝ちを握り取った。
イナリに大見得を張った直後に恰好悪い所を見せてしまった自分とは大違いだ。
そんなサスケが、ナルトに譲ってやると言っているが、実の所は違う。頼んでいるのだ。
自分はもう動けないから、代わりに確認してきてくれ、と。
そうだ、悔しがっている場合じゃない。この死闘を勝ち残った仲間が、自分に頼んできたのだ。ならば、その意志を継いで行くまで。
「おう、任せてとけってばよ!」
ツナミから貰ったカイザの鉢巻きを再度引き締めて、ナルトはサスケの指さす方向へと走る。
霧のヴェールを走り抜けると、そこに、見覚えのある衣装の少年が倒れていた。
うつ伏せに倒れていて顔は見えないが、ナルトはその少年を近すぎず遠すぎずの距離で見つめる。
「……う……ぅ」
ガリ、と地面と指の擦れる音と共に、少年はうめき声を上げる。
少年の身体は焦げ跡だらけであったが、それでも少年――白には息があった。
すんでの所で氷遁の術で防御し、サスケの龍火の術のダメージを軽減していた。氷遁は水遁の性質も内包しているため、火遁には強い。
本来ならば完璧に防げている筈だった。
しかし、魔鏡氷晶を発動し、あまつさえサスケに手心を加え、術の継続時間を延ばし、その分だけチャクラも消耗した状態に加え、あらゆる箇所に炎を流すチャクラ糸を繋げられていたのだ。
チャクラが残り少なかったのはサスケも同じだとはいえ、それでも防ぎきれる筈がない。
手心を加えた挙句、先に背中を見せてしまった白の行為は、明らかに致命的だった。
腕に手を付いて、ナルトに背中を見せつつも何とか立ち上がろうとする。
白の足下には、あの憎たらしい追い忍の仮面の破片が転がっている。火遁の術を受けた衝撃で割れたものだ。
ナルトは、少年を睨み付ける。
覚悟しろよ、面取ったその顔、ぜってぇ拝んでやる。
そんでもって、サスケの仇も討つ。
「うおおぉぉ!!」
掛け声を上げ、苦無を構えて突撃する。
今度こそ、恰好悪い所は見せられない。もう、あの時のように躊躇はしない。一度体験したことなのだ。
今度は……殺す!
そして、あの時と同じように、苦無がその首を突き刺す直前の距離まで迫った所で。
白は、ナルトの方へ振り向いた。
追い忍の面の下の、その素顔を。
「……お……お前は……」
気が付けば、殺意は霧散し、その手は止まっていた。
相も変わらず、綺麗なその美しい顔を、ナルトは忘れない。
そして、こんな命の危機が迫っている状況の中でも、白はナルトの刃を受け入れようとしていた。
「……あ、あの時の……」
ナルトは、その顔を知っていた。
『何で修行なんかしてるんですか? 君は十分強そうに見えますよ……一体、何のために……?』
『オレを助けてくれた人に恩を返すため!! その人の隣に立って、役に立ちてーんだよ!! それに今は
修行から6日目の朝――つまり昨朝で、修行疲れで木の下で眠っている時に出会った、綺麗な女顔の少年。
『人は……大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれるものなんです』
『うん! それはオレもよく分かってるってばよ!』
不思議と息があった。
その時、この目の前の少年にも守りたい大切な何かがあるのだと、ナルトは思った。
『君は強くなる……またどこかで会いましょう』
『うん!』
短い間であったが、それでも、初めて会ったナルトに対して、里の人間たちのように忌み嫌うのではなく、ナルトのことを『強い』と認めてくれた少年がいた。
その言葉は、確かに嬉しかったのだ。
「何故止めたんです……?」
「ッ!」
暫し昨日の朝のことを振り返っていたナルトの意識は、白の言葉によって現実に戻された。
「あの子に頼まれて、ボクにトドメをさしにきたのでしょう? ボクを殺せないんですか?」
「……」
「君が殺らなければ、ボクをここまで追い込んだ彼の努力を無駄にすることになりますよ?」
白の言葉にそれは駄目だ、とナルトは即座に思う。
今度こそ、躊躇してはいけない。
油断してはいけないのだ。
……だけど、相手も、サスケと同じだ。
生きているだけで、もう動けそうな体ではない。こんな、身体中をヤケドしたその体では、満足に動くこともできないだろう。
そんな相手を……しかも、自分を認めてくれた人間を、躊躇なく殺せとでもいうのか?
「よく勘違いをしている人がいます、倒すべき敵を倒さずに情けをかけた……命だけは見逃そう……などと……。知っていますか、夢もなく誰からも必要とされず……
「……それは……何が言いたいんだ?」
「再不斬さんにとって弱い忍は必要ない。さっきの彼と、あの面をした彼女に、ボクの存在理由は奪われてしまった」
二コリ、と恐れもなく笑う白に、ナルトは怒りにも近い疑問を抱く。
白の言葉を思い出す――人は大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなることができる、と。
ならば、白にとっての大切な何か、とは。
「なんで……なんであんな奴のために……悪人から金もらって悪いことしてるような奴が、あの眉なしが、お前の大切な人なんだよ⁉」
ナルトの疑問に、白は暫し切なそうに笑うと、話し始めた。
「再不斬さんだけではありませんよ。……ずっと昔にも、大切な人がいました……ボクの両親です」
白は語り始める。
優しい両親だったが、自分の代で眠っていた遺伝子の力が発現してしまい、その力を恐れた父親によって殺されかけたこと。
同じ血を引いていた母親を父親が殺し、そして自分にまで手を掛けようとした。その父親を、白は逆に殺した。
強力な力は様々な厄災を呼び込む。人間は自分たちにはないその力を恐れると同時、魅了もされる。恐れと欲望が多くの争いを引き起こし、結果として汚れた血族と恐れられる。
白が能力を発現したことで母がその血族であることが父親に知られ、その父親を白は殺した。つまり、自分が生まれたせいで、母も父も死んだのだと、白は語った。
そしてやがて悟ってしまったのだ――自分がこの世に必要とされていない存在なのだと。
だからこそ、その血を認め、自分を必要としてくれた人間が現れたことが、この上なく嬉しくて、至福だったのだ。
「ナルト君、ボクはもうこの身体では、再不斬さんの所へ駆けつけることさえできない。ですから……ボクを殺して下さい」
「ッ!?」
「ボクは、君に来てほしくはなかった。君はボクに似ていると思ったから……君と戦いたくはなかった。けれど、結局、君はここに来てしまった。当然だ、君にも今、守りたいものがある。ならば、君に殺されることが、ボクの運命だったのでしょう……さあ――」
早く、と白は急かす。
使えなくなった道具は、捨てられる。白はもう、再不斬の道具として役に立つことはできない。ならば、いっそのこと捨てられる前に、再不斬の道具として果てたい。
それが白の願いだった。
「……オレってば、守りたい人間と、今、認められたいと思う人がいるんだ」
「……」
「オレもおめーと同じだった……初めて、オレを認めてくれた人がいて……どんなにドジやっても、悪戯しても、拳骨もすげーいてーけど、いつもラーメン奢ってくれて……」
「……そう、ですか……」
「オレを立派な忍だって、認めてくれて……すげー嬉しかった。けどさ!けどさ! もう一人、助けてくれた人がいて……多分、その人は、オレなんか必要ないくらいつええんだと思う」
「…………」
ナルトが彼に庇われた時、最初に感じたのは歓喜ではなく恐怖だった。
その背中から感じたのは、イルカから感じた“優しさ”などではなく、ただただ“圧倒的な力”だった。
だが、その力に、ナルトは確かに救われたのだ。
「顔も分かんなかったし、ただめっちゃ偉い人だってことだけが分かってて。お前にとっての再不斬なんかのように、その人のことを何でも知ってるわけじゃねえんだってばよ」
ただ、助けてくれたという、漠然的な事実が脳裏に刻まれているだけ。
「けれど、君はその人の役に、立ちたいと?」
「ああ。何でオレを助けてくれたかなんて分かんねぇ。ひょっとしたら気紛れなのかもしれねえ」
だが、思いは分からずとも、その行動に、背中に、ナルトは英雄を見た。
「何が、言いたいのですか?」
「結局、分かんねえじゃねえか!! その人が自分をどう思ってんのかって……そんなのきっと分かんねえ。あの人は、本当はオレのことなんてどうでもよかったのかもしれねえ……だけど、オレはあの人に認められたいんだってばよ!!」
最初に、自分を認めてくれた人がいた/その人を守りたいと思った。
よく分からない人が自分を助けてくれた/その人に認められたいと思った。
「あの眉無しがお前を道具と思ってるなんて……そんなのお前がそう思っているだけかもしんねーじゃん!! それならさぁ!! もっと……こうさぁ……ああもう何て言っていいのかわからねーってばよ……!!」
頭を掻き毟りながら言うナルトに、白は思わず微笑んでしまった。
――ああ、やっぱり、君は優しいですね……。
憧れは、理解からは最も遠い感情かもしれない。ナルトを助けてくれた人間がどう思っていたかなんて、ナルト自身には分からない。
だから、白を道具だと言い切った再不斬だって、結局白をどう思っているかなんて、白に分かるわけがないのだ。もしかしたら、違う想いだってあるかもしれない。
「それなのに……それなのに……自分を道具と言い切っちまうなんて……そんなの、悲しすぎるってばよ……!!」
「……悲しくはありませんよ。君の言う通りです、結局、再不斬さんがボクのことをどう思っているかなんて、ボク自身が分かる筈もありません。
……けど、それでいいんです。ボクはあの人のことを何も知らないかもしれないけれど、ただ一つ、あの人には夢があるということだけは知っている」
「……ッ……」
「あの人がどう思おうと、その夢の一助になれるというのであれば、ボクは喜んであの人の道具になります――それが、ボクの忍道ですから」
忍道――その言葉を出されては、ナルトはもう何も言えなくなった。
白にとって、再不斬が自分をどう思っていようと、最早些末なことなのだ。白自身が、再不斬の道具として終わることを望んでいる。
――けれど、そんなの……。
その時だった。
霧が、少しずつ晴れる。
少しずつだが、朧気に周囲の風景も見えるようになってくる。
そして、ナルトの目に入ったのは――白の背後にあった光景。
再不斬が、カカシに口寄せされた忍犬たちに捕まり、動けなくなっている姿だった。
「ナルト!?」
「来ておったのか、ナルト!?」
そして、自身の背後から聞き覚えのある声がした。
サクラとタズナだ。
彼らもまた霧が少しだけ晴れたことにより、ナルトの姿が見えるようになった。
「カカシ先生に、サクラちゃんに、おっさん……」
霧のせいで見えなかったが、こうして護衛対象と仲間全員がまだ一人欠けることなく立っていることに、ナルトは安堵を覚えた。
だが、一人、見覚えのない者までもが、タズナとサクラの隣にいる。
その衣装は、追い忍の面をかぶっている時の白とよく似ていた。
(……一体、誰だってばよ?)
そう思った、その刹那。
一部の抜け忍の視線が、三人へと集中する。
倒れて身動きの取れないサスケと白、そしてナルト。
まだ子供で力を使いこなせていない、貴重な血継限界持ちが2人と、人柱力が一人。
霧が徐々に晴れ、カカシも消耗し、再不斬も身動きが取れない。
この瞬間を、彼らは待っていた。
一斉に迫る抜け忍たち。
「ナルトッ!!」
「いかん、ナルトッ!!」
サクラとタズナの大声に触発され、ナルトは迫りくる抜け忍たちに気付いた。
(や、やべえってばよ!!)
またさっきと同じ状況だ。
嫌な予感を感じたナルトは、瞬時に地面を飛びあがり、元いた位置に影分身を置く。
それと同時――地面から飛び出た腕が、その影分身体を捕まえた。
電撃で気絶させるつもりだったのか、地面から出てきた腕から流された電撃によって影分身は煙となって消えた。
――そう何度も同じ手に引っかかるかってばよ!!
心の中でそう毒つく中、空中を見下ろす機会を得たナルトは、あることに気付いた。
(こいつら、オレだけじゃねえ!! サスケとあいつまで……!!)
彼らの魔手は、仲間であるサスケや、白の方にまで向かっている。
この時点で、ナルトの中で答えはもう決まっていた。
何故彼らが白まで狙うのかまでは分からない。だが、もう決めたのだ。
(もう関係ねえ!!
答えは既に決まっている。
ならばどうやって守るか。
ナルトは考える。
自分の18番である多重影分身による集団戦法は、おそらく通じない。前の奇襲でそれは痛い程分かっている。
つまり、自分では彼らを倒すことはできない。
――だが、少しの間でも、止める事だけならば……!!
(こいつ等を止めるには、これしかねえってばよ……!!)
まず最初に、多重影分身の印。
本体のナルトを中心にして、大量の煙が上がる。
そして更に――印をもう一つ。
それは――変化の印。
この術に引っかからない人間は、ナルトの経験上今まで一人もいない。敵の動きを止める用途として、最も信頼できる術をナルトは、今――。
――ハーレムの術!!
ナルトの影分身達が、さらに、肌を晒した絶世の美女へと、変化した。
『―――――――は?』
水気に満ちている筈なのに、何故だか乾いた風が、静寂の中、あじけなく通り過ぎた。
ナルトの目論見通り、全員が、その動きを止めたのである。
サスケも、サクラも、カカシも、タズナも、白も――忍犬に捕まっている再不斬ですらもが、口をあんぐりと開けたまま停止していた。……抜け忍たちに関しては、言うに及ばず。
(こ―――)
少なくとも、心に関しては、この場で誰よりも早く復活したもの一人。
(こんな時に何ふざけてんのよしゃんなろおおおおおおおおおぉぉッッ!!)
サクラの中の内なるサクラが、大きく突っ込みを入れる。
やはり女性は一早く復活が早かったようだ。
誰もが予想しない術で打って出たナルト。
そして、ナルトの目論見通り、彼らの動きは止まってくれた。
今はそれだけで十分だった。
「「「「「「「「「「隙ありだってばよ!」」」」」」」」」」
彼らの止まった隙を見たナルトの影分身達の一部が、白とサスケのところへそれぞれ向かう。
戦闘では彼らに敵わないことはナルトもさすがに学んでいる。
ならば先に2人を保護して安全な場所へ運べばいいのだ。文字通り、誰もが止まっている、この隙に。
「しまったッ⁉」
「くそッ⁉ あのガキより先にあの2人を捕まえろ!!」
「め、目のやり場が……!!」
だが、彼らも任務遂行するために来ている身。
そうは問屋が下ろさない。ナルトの影分身たちよりも先んじて、サスケと白を捉えようと疾駆する。
勿論、早さではナルトは彼らに敵わない。
故に、お色気影分身の半分を妨害に当てる。
「ふむ、面白いぞよ、童。その術、わしの傀儡にも組み込みたいくらいじゃ」
更に、ナルトの影分身達の動きが変わる。
速さも業のキレも何もかもが。
「こやつらが動きを見せた時は、周囲の屍を使うつもりじゃったが、気が変わった。
声の主は、タズナとサクラの隣にいた追い忍の衣装を着た女性――
その指から無数のチャクラ糸が伸び、分かれ、ナルトのお色気影分身体に繋がってゆく。
「な、なんだこれ!? 勝手に体が動くってば……!?」
体が自分の意志で動かず勝手に、抜け忍たちを撃退していくことに困惑するナルトと影分身達。
全裸の美少女たちが、抜け忍たちを凌ぐ動きで、次々と抜け忍たちを撃退していく。
ただ肌を晒しているだけならば、抜け忍たちもまだ動きに支障を出さないだろうが、ここは霧という水気に満ちたフィールド。
誰もが目を引く美しいスタイルの肌に、水気が汗のように肌にべたつき、その煽情を余計に引き立てる。
そのあまりにも生々しいエロさと、それに見合わぬ戦闘力を持った美少女たちが大勢で迎え撃ってくるのだ。ペースを乱されない方がおかしい。
「こ、こ……これ、は……は、は……ひどい」
カカシの呟きが虚空に消える。
いくら意外性No.1とはいえ、これはさすがに酷過ぎる。
ナルトもそうだが、その術に動揺することなく、むしろ利用して操って見せる
再不斬が動けなくなったことで霧は徐々に晴れ、その光景は徐々に目に入れることすら恥ずかしくなる。
結局、白とサスケ、そしてナルトを狙った抜け忍たちは、屍の操るお色気影分身によって全て撃退され、さらにはそのマスクの下の顔まで晒され、やがて縄に縛られることとなった。
「……やはりな。
『……貴様らッ!!』
「木の葉はともかく、そこの雪一族の童の持つ血継限界は元来我ら霧隠れのモノ。情報漏洩を防ぐ追い忍として、渡すわけには行かないぞよ」
追い忍の体を装って話す
この女が実は追い忍ではないという事実に気付いてるのは、この場ではカカシと、白のみである。
「カカシ先生……どういう事ですか?」
「……あの追い忍が全て話してくれる、3人とも、聞いていろ」
困惑しつつも頷くナルトとサスケとサクラの3人。
捕まった者以外の抜け忍たちも事態に混乱しているのか、動く様子はなく、屍の説明を聞いていた。
「すべては、こやつら雲隠れが、ガトーに技術を横流ししたことから始まったぞよ。わしら霧隠れはその真相を突き止め、こうしてこ奴等が尻尾を表すまで待っておったのじゃ」
ごくり、と3人とタズナ、そして周囲の抜け忍たちが息を飲む。
「わしら霧隠れと、火の国・奈落、双方を争わせ、国力を疲弊させる。同時に戦争を起こした罪をガトーに押し付け、自分達は漁夫の利を得られるまで静観する。元々の目的はそうであったのだろうな」
『……』
捕まった抜け忍たち――基、雲隠れの忍たちは冷や汗を流しつつ、誰も何も言わなかった。
「ガトーがお主ら抜け忍たちを集めたのも、横流しで手に入った技術から製造兵器を売り捌く土台を作るため。ようするに、わしら大国同士の戦争を利用することを考えた。ここまで雲隠れの思惑通り。だが、わしら水の国が感づいたことにより、こ奴等の目的は既に破錠しかかっていた。このままでは禁術にも等しい技術を無駄に横流ししたことになる。故にいざ失敗した時のために、無駄な技術の流出を防ごうと、ガトーを監視もしくは暗殺するために寄越されたのがこ奴らぞよ」
「だが、そこに幸運が舞い込んだ。悪く言えば無駄な欲が出た。ガトーの所にはそこの雪一族という血継限界持ちの童と、さらにそこのタズナの依頼により木の葉隠れからも血継限界持ちの、年端もゆかぬ童が派遣された。ついでに、特大な
おまけ付き、という部分で屍はナルトの方を一瞥する。
血継限界はともかく、人柱力のことは伏せるつもりだったので、このようなぼかす言い方にしたのだ。
「故に、こやつら雲隠れはガトーの監視ついでに、軍事増強のために血継限界持ちの童を攫う計画も企てた。わしらが疲弊するこの瞬間を狙ってな」
「つまり、其方らはガトーと一緒に、こやつら雲隠れに踊らされておっただけぞよ」
抜け忍たちに語り掛ける屍。
聞いた抜け忍たちは捕まった抜け忍たち――に扮した雲隠れの忍たちを恨めしそうに見下す。彼らにとって、ガトーカンパニーは数少ない良好な庇護下だったのだ。
それに大きな問題を持ち込んで、ここまでの事態に発展したのだ。
誰もが思うだろう――もう、ガトーの庇護下にはいられないと。大きく動いてしまったガトーは、やがて今回の罪と共に、今までの罪も白日の下に晒されることだろう。
そうなれば、庇護はもうないも同然だったのだから。
「クククク、そんな事だろうと思ったよォ」
その時だった。
コツ、と杖が地面に叩かれる音。
全員が一斉に、その声のした方向へ振り向く。
そこには、彼ら抜け忍たちの雇い主であるガトーと、そして、その後ろに大勢の部下達が武器を持って待機していた。
「ガトー……どうしてお前がここに来る? それに何だ、その部下どもは!?」
忍犬に拘束されたままの再不斬が、この場全員の意を代弁する。
「ククク、少々予定が変わってねぇ――と言うよりは、初めからこうするつもりだったんだが……再不斬、
「……何だと?」
「お前達に金を支払うつもりなんて毛頭ないからねェ……」
「そこの女が言ったように、私はそこで無様に這いつくばっている奴等に踊らされていた。そして私は一早くそれに気付いた。故に、炙り出そうとしたんだよ。私にこんな真似をしてくれた愚か者どもをねェ」
「そこでどう炙り出してやろうかと思ったら、そこのタズナが丁度木の葉の忍を雇ったと聞いてねェ。そこで賭けたんだ。再不斬、お前達をぶつけて、雲隠れの連中を炙り出すのに丁度いい実力を持っているのかをな……」
ナルト達を嘲笑うように一瞥し、ガトーは説明を続ける。
「そして、木の葉の奴等は私の期待に応えてくれたよ。敵対関係にある上に、再不斬を撃退する程の実力を持つお前達なら、きっと炙り出してくれるとな。見事私の試験を突破してくれたお前達と、再不斬、お前に私は1週間の猶予をくれてやった。お互い、最もコンディションのいい状態でお前達をぶつけ合わせ、ここ一番の混乱を起こさせる。もし私を利用しようとした奴等が潜り込んでいるとするならば、必ず漁夫の利を狙って動くとねェ……」
おかしくて仕方ない、と言った様子でガトーは笑いだす。
「ククク、お前達はよくやってくれた。おかげでこの不届き者共を炙り出すことができた。使いっぱしりの忍風情が、私を盤上でこき使おうなんざ100年早いんだよ」
大国の目を逃れ、悪事を繰り返してきたガトー。
この波の国でのこれまでの戦いは、全てがこの男の掌の上だったのだ。
「ついで、金がかかるからってのもあるが、この話を聞いたお前達を生かしておくわけにはいかない。そこでこいつらが漁夫の利に乗って、逆に炙り出された後を、更に私が漁夫の利に乗ってやるわけさ。今の、この状況のようにな」
ガトーは彼らを生かして返すつもりはない。
この話を聞いていない他の抜け忍たちは引き続き駒として雇い、聞いてしまったこの場全員に関してはここで皆殺しにするつもりなのだった。
「まあ、利用される所だったとはいえ、せっかく齎してくれた技術だ。精々、お前達の思惑通り、大国同士の戦争で使わせてもらうとするよォ……」
「……馬鹿な……」
「……うん?」
捕まっていた雲隠れの一人が、声を上げる。
「お前がそうするためには、我々の当初の目的が達成されていることが前提だ。しかし、そこの女が言った通り、霧隠れには勘づかれてしまった。だからこそ我々はこの地へ送られて来た。ガトー――お前を抹殺および監視して、無駄な技術の流出を防ぐためにな!!」
「ククク、何だァ、忍ってのは頭の出来まで忍んでいるのかぁ? 少しは私のように頭を使う努力をしてみたらどうだね?」
「くッ!?」
自分の頭を指でトントンと指して煽るガトー。
雲隠れの忍の表情は苦渋に歪む。
「方法はいくらでもある。例えば――私がお前達の技術で作った兵器を、火の国に大量に売り込み、それと共に今回のお前達の仕業を伝える。大国は5つもあるんだ。何も水や火に限らなくていい。
「貴様ぁッ!!」
我慢しきれなくなったのか、雲隠れの一人が、拘束を振りほどき、ガトーの所へ刀で斬りかからんと迫る。
戦いでチャクラを消費してしまっているのか、忍でないガトーにとっても、その動きはただ運動神経が少し高いだけの人間に過ぎなかったのだ。
ガトーが、ニヤリと笑う。
同時、ガトーに斬りかかろうとした雲隠れの忍が、一瞬で蜂の巣になった。
断末魔も上げる暇もなく、血を散らして沈黙する雲隠れの忍。
「い、一体なんだってばよ⁉」
狼狽えるナルト。
他の皆も同様だった。
「ククク……」
笑いながら、ガトーは背後の部下達を一瞥する。
それに釣られて、他の者達もまた視線を其方へ向ける。
そこにあったのは、大きな筒だった。
荷車の上に乗せられた、無数の筒が束になり、一つの筒となったような形状の砲身が伸びていた。
それらの筒が、さらにもう5台、ナルト達に向けられている。
「お前達の技術で作らせてもらったガトリング砲だ。我が社独自の商品改良も施してある。本元のお前達ですら作ることはできまい……!! さあ選べ諸君!!」
大声で、ガトーはナルト達に呼びかける。
「好きな死に様を選ばせてやろう!! 後ろのこいつ等に全員切り殺されるか、それとも……こいつで蜂の巣になるか。好きな方を選ぶといい、ククク……」
勝ち誇ったように笑うガトー。
後ろの部下達も笑う。
「……カカシ、こいつらを退かせられるか?」
笑うガトーを尻目に、忍犬に拘束されたままの再不斬が小声でカカシに語り掛ける。
「ガトーがオレ達を裏切った今、もう俺達がタズナを狙う理由もねえ。……お前と戦う理由もなくなったわけだ」
「……いいだろう。オレも口寄せにチャクラを消費し続けるわけにもいかないしね」
カカシが口寄せ用の巻物を仕舞うと同時、再不斬の動きを拘束していた忍犬たちも煙を立てて消えていく。
自由を取り戻した再不斬は、身を低くしてガトーを睨み付ける。
その様子を、ガトーは更に嘲笑った。
「それにしてもお前にはほとほと呆れたよ再不斬。こんな大勢でかかっておきながらタズナ一人も仕留められないとは、霧隠れの鬼人が聞いて呆れるわ。私から言わせりゃあなんだ……ただのかわいい
「ッ、こんのぉッ……」
そんな挑発に乗る程、再不斬は子供ではない。
しかし、代わりにキレるものがいた。
その子供は我慢しきれず、再不斬やカカシの前に走り出る。
「待て、ナルト――⁉」
「さっきから黙ってきいてりゃ好き勝手いいやがって!! なんでだよ⁉ こいつらはな、お前のために、こうして俺達と戦ってたんだ!!」
背後の抜け忍たちを指さし、ナルトはガトーに怒鳴り付ける。
とうの抜け忍たちは、まさか敵である自分たちのためにナルトが怒っているとは思わず、一瞬、唖然となった。再不斬も同様だ。
「金のためだったのかもしんねえけど、それでもコイツらは、お前のその信頼に応えようとしたんだろ⁉ なのに!なのに! 何でそうやって簡単に裏切れるんだよォ!!!」
「落ち着けナルト!!」
ガトーを指さし、ナルトは怒鳴り続ける。
今、事を荒立てるのは得策ではないと考えるカカシは、ナルトを止めようとするが、ナルトの憤怒は止まらない。
それだけ、受け入れられないのだ。
白のことも然り、この理不尽を受け入れることなど、ナルトにはできないのだ。
「オメエだけは……オメエだけは、この手でぶっ飛ばすッ!!」
「……ふん、うるさい餓鬼だ。気が変わった。最初に再不斬か、それとも私の腕を折ってくれたそこのガキか迷っていたが、まずはお前からだ!!」
「ッ⁉ いかんナルト、避けろッ!」
後ろのガトリングの砲身がナルトに向けられるのも見たカカシが、ナルトに呼びかけるが。
もう遅い。
砲身が、回転をし始める。
「抵抗はするなよ⁉ 今、この島中の民衆どもを人質にとっている。もうすぐここに連れてこられるだろう。お前らは何もできやしな――」
砲身から弾が発射されるであろうその時。
止まったのは、ナルトの息の根ではなく――ガトーの台詞だった。
シャラン、と鳴る金属音。
ガトーの腹から生えた、直刀の刃物。
何者かが、背後からその仕込み刀を投擲し、ガトーの身体に突き刺さった。
その柄には、見覚えのある錫杖の先端の金属部品のようなものが取りつけらており――
「あ、れ――?」
自分の腹から生えた刃物を見下ろしたガトーは、そのまま地面に膝と手をついてしまった。
誰もが、ナルト達の中の誰もが、目を点にしてその一部始終を見つめた。
「知っている筈だ」
静寂の中で、一つの声が響く。
その声に全員の視線がガトーの背後に待機している部下達へと移った。
ならず者やギャング達が――白い煙を立てて、その姿を変えていく。
シャラン、シャラン、シャラン、シャラン。
その姿が顕になる度に鳴る。錫杖の鳴り音。
白い煙の中から、三度笠に修行僧のような衣装を身に纏った者達が姿を現す。
「
続けて、道を開けた彼らの奥から、その声の主が現れる。
誰もが、その人物を目の当たりにし、騒然とした。
特にナルトは、信じられないものを見るかのように、その人物に釘付けになる。
白い法衣の上に、白い八咫烏の紋章が大きく刻まれた黒い袈裟をかけた、灰銀色の髪の男。
ゆっくりとその者達の前に出たその人物は、三度笠を上にずらし、その白き眼光を覗かせる。
「この烏たちの羽からは、何者も逃れられはしない。
天照院奈落首領。
ガトーの部下に扮していた烏達を引き連れ、ここに裁きを下すべく舞い降りた。
活動報告にて、奈落モブの衣装について少し愚痴っております。
天照院奈落のどんなところが好き?
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錫杖を使っているところ
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弓を使っているところ
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装束が好み
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単純に朧が好きなだけ
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全部