我らこそは天が遣い八咫烏(笑)   作:ナスの森

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大名と奈落

 奈落が創設されるよりも前の話。

 朧がまだ日向コヅキと名乗っていた頃。第三次忍界大戦最中に大名の娘を守り通し、大名に気に入られたコヅキが大名側近の護衛として引き抜かれ、4代目に大名直属の暗部を設立すると告げ、人員を集めた直後の出来事である。

 

「……のう、コヅキよ」

 

 火の国大名、すなわちこの国で最も立場の高い地位にいる男が自分の横で護衛しているコヅキに問うた。顔に傷を残してまでして娘を守り通したコヅキを気に入っているこの火の国大名は、お世辞にも相応の威厳を兼ね備えているとは言い難い。国のトップに立つ人間としては些か楽天的な性格をしているのも難点であったが、それでも争いを好まない暖かい人間であることをコヅキは知っていた。

 

「余はとても疑問に思うのじゃ。あのような者らを集めたとて一体何になるというのかえ? 其方は余を守るための組織を結成すると言っておったが、それは木の葉に一任してもよいのではないのかえ?」

 

 大名の疑問は尤もな事だった。コヅキが自らを取り立ててくれた大名への恩返しとして、大名直属の忍勢力を結成するために集めた抜け忍たちを思い出す。元々が木の葉ではない他里の出身である上にその出身もバラバラ。おまけに火の国と敵対していた国の隠れ里の忍びもいる中で、彼らが組織として纏まるなど夢のまた夢の話である。大名だけでなく、四代目火影やダンゾウも同じ疑問を抱いているだろう。

 

「態々余所の忍、それも抜け忍を集めるくらいならば、最初から木の葉の忍たちの中から選抜した方がよいと余は思うのだが……さすがに余とてあの者らが勲章を与えたとて従うとは思わん。それは“白い牙の再来”と謳われた其方が一番理解しているのではないかえ?」

 

 直属の護衛組織を設立するならば、一番信頼できる自国の隠れ里から選抜するのが一番だ。現に原作では守護忍十二士と呼ばれる12人の精鋭によって構成された木の葉の忍たちによる直属の護衛部隊が結成されていた。態々自分一人を守るために数だけの寄せ集めの者達、それも抜け忍たちを集めるなど、普遍的な意味でも、火の国の体裁的な意味でも疑問が沸いてくるのだ。

 

「殿の疑問は尤もなことで御座います」

 

 コヅキは表情一つ変えずに答える。当然の疑問とばかりに受け止めたコヅキは、大名のそのような疑問をあらかじめ予期していたと言わんばかりに冷徹な表情のまま答える。……痛い所を突かれて内心冷や汗を流していたのは内緒である。

 

「第三次忍界大戦が終結し、各大国が軍縮のため里の戦力規模を縮小したのは殿も存じていると思います」

「……ふむ。それがどうかしたのかえ?」

「私めが殿をお守りする私兵組織を結成すると宣言してから、早々にあの人数の抜け忍を集められたのは偏にそのような事情が絡んでおります。軍縮により多くの里の忍が己の牙の使い所を見失い、里を抜ける。私が集めた奴らは謂わば、そのような牙の使い所を見失った野良犬を拾ったようなもの。奴らも機密の漏洩を恐れた自里からの処分から身を守る後ろ盾を欲する。組織結成という名目(えさ)の元に野良犬をつり上げるのは、容易きこと。おかげで時間をかけることなく人員を確保できました」

「……さ、左様であったか……」

 

 聞きたくもない事情を聞いてしまい、青ざめた表情を浮かべる大名。

 

「矛先を見失った野良犬の所業など知れたこと。抜け忍たちの大半が犯罪に手を染めるのはそのような事情もあります。故に、そうなる前に奴らの収まる鞘を作ることこそ、その抜け忍たちの犯罪件数の減少にも繋がることでしょう」

「……なるほどのう、そこまで考えておったか! さすがは“白き牙の再来”といったところかえ!」

「勿体なき御言葉。ですが、理由はそれだけでは御座いません」

 

 コヅキは大名へ向き直り、より詳しい事情を説明する。

 自らをブラック企業から解放してくれた大名への恩義を報いるため、時間はかからなかったとはいえせっせと集めた人員だ。組織を結成させるだけの十分な説得力を持つ理由をより明確に説明せねばならない。さっき言った理由は謂わば火の国にあらず世界的な情勢を踏まえた上での理由だ。大名、ひいては火の国のみに利のある理由を説明せねばなるまい。

 

「私が奴らを殿を守るに値する人材と判断したのは、何も実力だけではありません。殿、第三次忍界大戦が勃発した理由、覚えておいでですか?」

 

「確か、第二次忍界大戦以降の我が五大国の統治が揺らいだことで、国境付近での小競り合いが続いた結果、戦火が拡大していったと記憶しておるが……」

 

「はい。第三次忍界大戦とは謂わば、第二次忍界大戦の延長のようなもの。三代目風影の死亡により、その火種は決定的なものとなりました。……殿、ここまでの話を聞き、何か気付いたことはありますか?」

 

「……はて、何も見当がつかぬが、なにかあるのかえ?」

 

「殿、戦争とは基本的に国が起こすものです。ですが、第二次の延長となったこの第三次忍界大戦は、その火種の大半は他国の里に対しての憎しみ、恨み、妬みなどを長きに引っ張った忍たちによるものなのです。里と国が対等なのは、偏に武力と権威を分かつため。故に武力の面を背負う里の者たちに多くの犠牲者達が出るのは自明の理」

 

「確かにのう。このような戦の時代において人質として狙われるのは儂のような一国の大名や要人であるが、やはり犠牲になる者の多くは兵力として戦に参加した忍たちじゃな」

 

「その通りです。力なき国民はともかく、我ら忍には報復を成せるだけの力を備えていました。故に、その力が火種となり、再び戦を招いた。……そろそろお気づきになられましたか?」

 

「もしや……」

 

 ここまで聞かれれば、さしもの大名にも察しがついた。これではまるで、各国が抱える忍び里が原因で戦争が起こっているようなものではないか。

 

「戦とは本来、国が起こすもの。まかり違っても忍び里が起こすことはあってはならないのです。ですが、三度の戦争の禍根を背負わされ蓄えられた今となっては、里そのものが戦争を起こしかねない状況にあるのです」

 

 原作で言うのであれば、シカマルが例にあげた、戦争勃発の原因。暁に入ったサスケが雲隠れの里の人柱力、キラー・ビーを攫ったことが原因で木の葉隠れの里と雲隠れの里との間に不穏な亀裂が入った出来事。そのときシカマルがサクラや仲間達を諭すために説明した戦争勃発の原因。恨みを恨みで返し、気がつけば戦争だと、シカマルは仲間に諭していた。そのシカマルが挙げた原因の中に、国が関わっている要因が一つもなかった。

 暁という共通の敵がなければ、国が関わらない里同士の諍いで戦争が起こると、暗に告げていたのだ。それを思い起こしたコヅキは、更に深く説明する。

 

「現に、私が集めた抜け忍どもは、特定の里に恨みをもつものはいれど、国そのものに恨みを持つものはほとんどおりませんでした。抜け忍たちですらこの状況。現に里に属する忍たちについては、いわずもがなといった所でしょう」

 

 その恨みの始まりを作ったのは、確かに国だったかもしれない。第一次忍界大戦での千手一族とうちは一族の長きに渡る因縁は、一方の国がうちは一族か千手一族を雇えば、もう一方の国がもう片方の一族を雇うといったことが繰り返されたことによって重ねられたものだ。手を取り合う機会もなく禍根という溝だけが深まっていった原因は、確かに雇う側であった国にあったのだろう。

 だが、国と里が対等となった今では、禍根を作る側が雇う側ではなく雇われる側になってしまった。それはもう、本末転倒なのだ。

 だからこそ、コヅキに集められた彼らがいるのだ。

 

「余所者を信用できない殿の心情は理解しております。ですが、里に恨みはあれど国に恨みがない。里に肩入れをしない彼らこそ、国に忠を尽くす私兵となりうるのです」

「……」

 

 里同士で戦争になってしまう原因こそが、逆に国に忠を尽くしうる要因として利用できると、コヅキは語るのだ。

 

「今はまだ野良犬の群れに過ぎませぬ。ですが必ずや彼らを、殿を、ひいては国だけを守る徒士衆として纏め上げてみせましょう。何卒、この私に、奴らに、時間をお与え下さい」

「……コヅキ」

 

 感無量、といった表情になる大名。彼は確かに、娘を戦時中守り通してくれたコヅキに全幅の信頼を置いていた。娘も彼を気に入っていたようだった。娘が彼を好いていたのは見て取れたし、義息子として迎え入れるのも吝かではないくらいには気に入っていた。よもや彼がそこまで自分のことを想ってくれていたのが、嬉しかったのだ。

 

 そして暫く時が経ち、抜け忍の寄せ集めでしかなかった野良犬の群れは、大名の瞬く間に変貌していた。互いを信用しない、ただ自らを守る後ろ盾でしかない……国や仲間をそう捉え、纏まりの「ま」の字も見せていなかった彼らは、変わっていた。

 ……群れに交じっていた、一匹の烏によって。

 その烏に羽を貰い、彼らもまた烏となった。

 

 それぞれの隠れ里の額当ては外され、バラバラだった衣装も黒い徒士装束に統一、三度笠を被って顔を隠し、標準武装となった錫杖を引っさげて、自分たちに羽根をくれた烏に片膝をついている。彼らの体の一部に刻まれた八咫烏の入れ墨は、紛れもなく彼らの天に仕える烏として生きる覚悟の証であった。

 服従でもなく、屈服でもない。

 ただ一匹の烏に、ただ一人の少年に尽くさんと、彼らは一つに纏まっていたのだ。

 

「ああ、コヅキ……」

 

 大名はコヅキの、そして彼らの覚悟に心を打たれていた。纏まりのない野良犬の群れを、見事に纏め上げて見せた。声も出ない。とうに枯れた筈の涙が零れてくる。

 自分は何て幸せなのだろう。自分のために、国のために尽くしてくれる忠臣を持てて、何て幸せなのだろう。

 戦争で手柄を挙げた忍には、適当に名付けた勲章と大金を手渡す。それが戦果を挙げた里の忍に対する大名の対応だった。コヅキもその例に漏れない。勲章を手渡し、大金を与え、自分の側近の護衛として選抜する。それが大名がコヅキに与えた精一杯の報償のつもりだった。

 だが、それではもう足りない。それ以上のものを大名はコヅキから貰ったのだ。彼の頑張りに、その忠誠に報いるために、己ができることは――

 

(余も、頑張らなくては)

 

 大名はコヅキに説明された護衛組織結成の背景を思い出す。原因は里が起こす戦。国の武力そのものとして戦争の負の側面を背負わされ続けた彼らは、時に関係のない人々や、戦火に関わらない国の要人などを多く巻き込み戦うだろう。

 だが、最初にソレを背負わせたのは紛れもなく国側なのだ。コヅキに説明されたことで、大名はようやく里と国の見えない溝を認識した。

 

(あやつらには、木の葉の里の者達には苦労をかけてばかりであったかえ……)

 

 大本の責任は、最初の戦争を始めた国に、確かにあるのだ。その責任を、国の大名たる自分が背負わないわけにはいかないではないか。

 彼らに依頼を出し、報酬金を支払う。時には戦争の武力として駆り出す。それだけの関係に、何の対等性があろうか。それは一種の無責任ではないのだろうか。

 

(歩み寄ろうかえ。少しずつでいい、里の者達に―)

 

 この日から、火の国大名の意識は大きく変わった。

 

 一方、当のコヅキはいうと――

 

(あれ、何で皆俺に片膝突いてんの? 何で皆何処かで見覚えのある衣装着てんの? 何で皆して錫杖持ってんの? あれか、俺が調子乗って朧さんロールして錫杖振り回してたせい? 何そのみんな真似して持ってたらいつの間にか標準装備になってた的なノリ? ……というか何で俺こんな僧服なんぞ着てるんだ!? そんな錫杖チリンチリン鳴らしてたら忍者も暗殺も糞もないだろうがぁ!? 何だ、どうしてこうなったんだあああぁあぁ!?)

 

 日向コヅキ、後の朧。たった14のガキに元抜け忍たちが妙な装束を着て片膝を突いている状況に内心パニックである。

 確かに殿に恩を返すために組織を結成したが、本人は自分が頭領になる気なんてこれっぽっちもなかった。適当に集めた抜け忍の誰かから頭領を決めて貰って大名の護衛という役職も彼らに押しつけて自分は戦の報償で貰った大金で悠々自適に暮らす計画を立てていた中身屑野郎である。

 大名や火影に説明した国や里、戦争などの話も組織を結成するために適当にでっちあげた方便でしかなく、組織を結成し終わったらそれで恩返しを終えようと思っていたのである。せめてノブメだけでも生活費と住居をあげて組織を抜けさせようとしたが、当の彼女は自分に付いていくの一点張りである。

 

 衣装と装備を統一し、纏まり始めた組織は「天照院奈落」と名付けられ、コヅキは朧と改名し、ノブメもまた骸へと名を変えた。

 衣装といい、面子といい、組織名といい、どう考えてもアレである。

 

(どう見ても銀魂の天照院奈落ですッ!!! 本ッッッッ当にありがとうございましたあぁぁぁああぁあぁっ!!!)

 

 そこからはもう、後戻りがきかなかった。原作にあまりに介入しない国の組織故、原作改変は大して起こらないだろうと彼は高を括っていた。

 組織の規模も所詮は一里の暗部程度のもの。木の葉の里の規模や、ましてや原作(銀魂)のように銀時たちに倒されてもワラワラとゴキブリのごとく沸いてくるような規模の組織になり得る筈がなかった。原作(NARUTO)改変など、起こりよう筈もなかった。

 

 だが、彼はそこからも色々やらかした。ある時、人員の補充の問題解決を頭領としてやらざるを得ない場面に直面した。仕方なく解決策に乗り出すまではよかったのだが、他にも方法はあるだろうに、あろうことか軍縮により各小国から破棄された隠れ里を次々と買い取って奈落の養成機関に立て替えてしまい、人員が一気に増えて木の葉の里に並ぶ程の規模の組織に成長してしまったのである。

 もはや改変どころではない。完全に原作をぶち壊す規模である。

 おかげで今や一暗部どころか木の葉の対となる忍勢力として認知されてしまった。

 

 原作(銀魂)とは違う理由で結成されたこの世界の奈落であったが、やはり天照院奈落という名の運命から逃れることはできなかった。

 最初は大名の護衛という名目で設立された筈が、気がつけば原作みたく色々な暗部に手を染める禁忌の組織と化していたのである。中には大名には言えないであろう所業すら平気でやる。

 国を里の火種から守るために設立した筈の組織が、気がつけば火種をふりまく側になっていた。不幸中の幸いにも他里や他国の警戒が頭領であるコヅキもとい朧や組織に集中していたせいか、大名や国そのものに対するヘイトは薄い。隠れ里にとって大名とは所詮それだけの存在だからということなのだろうか。

 九尾事件で駆けつけなかったことや、仕事の一部を牛耳ってしまったことも相まって木の葉の里との表向きの関係は最悪である。

 そもそも奈落を名乗る前からこの組織は色々と危うい部分を抱えてはいた。抜け忍の集まりであるということは、すなわち出身の里の機密を持っているという事実に他ならない。それが集まるだけならばまだよかったが、それらが組織として一つに纏まってしまったのだ。これだけでも警戒に値するというのに、今度はそれが一里丸々取り込んで元々その里にあった機密や禁術と一纏まりになってしまったのだ。

 これだけのことをたった一人でやらかしておいて、警戒するなというのが無理な話である。

 

 奈落の頭領として担ぎ上げられてからの本人の心労は、間違いなく本人の自業自得であることを忘れてはならない。

 今日も、そんな因果応報な心労を抱えながら彼、日向コヅキ改め朧は奈落の首領として頑張っていくのであった。

 

 

     ◇

 

 

 多数の部隊を乗せた奈落の蒸気船が波の国へと進行していく、先行部隊と共にあらかじめ波の国に潜伏した頭の朧に変わり、この部隊の指揮をとるのは、うちはノブメ――もとい(むくろ)だった。

 他の奈落の忍たちと同じく黒い徒士の装束を着込んだ彼女は、まだ見ぬ波の国の地を無機質な眼で見つめる。

 木の葉の7班に嘘の依頼を出した者を切るか否かを烏を通じて頭である朧に問いただした骸であったが、帰ってきた返答は「お前に任せる」という内容だった。

 朧もまたそれを決めかねているということに他ならない。故に、この決定は骸に一任されている。

 タズナを切るか、否か。

 

 骸は副官として考える。

 骸本人としてはタズナを切る事に異論はない。五大国が一が保有する忍び里に嘘の依頼を出したのだ。切る大義名分は十分に此方にある。

 だが、同時に疑問に思うのだ。

 

「なぜ、そうまでして抗おうとするの?」

 

 三代目ヒルゼンから第7班が受けた依頼の内容は聞いている。嘘の依頼ではあるが、橋が完成するまでの間の護衛という内容は変わらないらしい。

 ガトーカンパニーによって支配されている波の国。大名にもBランク以上の依頼を出せる金はなく、確かに支配しやすい国でもあるだろう。

 水の国と火の国を戦争させ、その利益をかすめ取ろうとするのならば、確かにこれ以上にない場所に波の国は位置している。

 水の国と火の国を跨ぐ海の中に浮かび、雨隠れの里を保有する国のように五大国と陸続きで囲まれた地形ではないため戦場にはなりにくく、かつそれぞれの国に武器や兵器を長くない航路で提供できる場所だ。

 なるほど、ガトーもよく考えたものだ。

 とはいえ、疑問も沸いてくる。

 

(いくら各小国を牛耳るガトーとはいえ、下手すれば五大国を敵に回すような真似、本当にやるのかしら?)

 

 それをできるだけの戦力を保有しているとはいえ、まだバックに何者かがいるのではないかと疑ってしまう。

 ……霧隠れは、今は協力者なので除外する。……砂隠れは、木の葉隠れと同盟を結んでいるとはいえ、奈落や火の国そのものとは何の協定も存在しないので、候補には入る。……岩隠れは、第二次忍界大戦で木の葉と激戦を繰り広げたので、候補には入る。例にもよって土影の発言力が大名よりも高いので、国そのものを動かせる力もある。……最後に雲隠れ、これも候補に入る。元々日向一族の白眼を狙ったことで木の葉とは開戦寸前に陥ってた他、第三次忍界大戦時から白眼に眼をつけていたようで、暗部を動員して分家でありながら呪印を持たなかった当時の朧を付け狙っていたようだ。その結果多くの暗部が彼によって殺され、おそらく当時の朧にやられた暗部の中では一番の被害を出したであろう里だ。そう考えれば白眼の件も踏まえて朧や自分達奈落にも無関係ではない。さらには霧隠れとの関係も良くはない。

 五大国で候補が三つ。国規模や、その他小国を考えれば候補はキリがなく挙がる。

 

(……敵が多くなったものね、奈落(わたしたち)も……)

 

 浮かび上がる候補の数に、骸は思わず内心で自嘲する。国と里の戦力バランスを担う組織。里の火種から国を守り、そうすることで里を守る。それが奈落の在り方だ。木の葉を日の当たらぬ地中から支える根と同じく、奈落も自らの在り方に沿って多くの闇に手を染めてきた。

 地中に潜む根、闇の底の奈落――光が当たれば、必ず影ができる。影には、影の使命がある。その使命が、自らの想い人を苦しめたあの陰険な里の為というのは、骸にとっては業腹なのだが。

 

(五大国に限定すれば、一番の候補は、やはり雲隠れ。木の葉や奈落、そして霧隠れの全てに因縁がある。朧も三代目も、おそらく水影も同じ結論に至るでしょうし。後で調べを入れる必要がありそうね……)

 

 水気で肩にへばり付いた紺色の長髪を、骸は左手でさらっとふり払うことで気を一転させる。ふわりとあがった髪の、その奥には首の後ろに刻まれた八咫烏の入れ墨が覗かれた。バックにいるであろう黒幕のことを考えるのはまだ先だ。今はガトーの首と、そして――タズナのことだ。

 いくら自国のためとはいえ、一職人がそこまでするにはさすがに荷が重い。

 おまけにたった一人で木の葉の里まで歩いて依頼を出してきたということだ、善悪はともかくとして、相応の覚悟で嘘の依頼を出したのは本当のようだ。

 だから――

 

「斬られても、文句は言わないわよね?」

 

 ただ一人行動を起こしたということは、逆に言えば他の国民は諦めているということだ。逆にタズナ一人が行動を起こしたという理由だけで、他の国民が粛正対象になりうる可能性もある。現に、ガトーとはそういう男なのだ。

 それも承知で、一人で背負ってここまできたのだ。

 一人で背負ってきたのならば、死ぬときもまた一人なのだ。

 

「……斬っても…………一人で………ひとり……」

 

 ひとり――そう口にして、ようやく骸の眼に迷いが生まれた。

 そうだ、あの人も一人だった。あの人に救われた里の人間は多くいるのに、里の奴らは一人もあの人を救おうとはしなかった。他にもそういった人間が里にいたことは知っている。うちはシスイ然り、少数で背負おうとするものは必ずその重みに耐えきれず、誰も知らないまま一人朽ちていく。うちはイタチも、骸が今最も敵視しているダンゾウも、やがては同じ末路を辿るのだろうか。

 

(最初は朧についていった里の奴らも、(ひつぎ)を含めて結局は九尾事件で我慢しきれず奈落を抜けた……)

 

 最後まで残った里の者は、自分だけだった。けれど、結局私はあの人をひとりにすることしかできなかった。守られてばかりで、守ることなんてできなかった。だから、今の私にできることは、あの人の障害を取り除くことだけ。そのためなら、何だって斬ってみせる。いつその道に終わりがあるかなんて見当も付かない。

 もし彼がその重みに耐えきれなくなったとしても、骸は朧に従うだけだ。里を想う気持ちよりも、木の葉への憎しみが強くなったのなら、その憎しみに従うだけだ。奈落にいること自体が辛くなったのならば、今度は彼を縛る奈落という組織を敵に回すまでだ。

 朧は今のところその素振りを見せない。故に骸もまた奈落に居続ける。

 それでも、それでも終わりが来るのであれば、願わくば――

 

(もしあの人がコヅキに戻れる日が来るならば、私もまたノブメに戻って――)

 

 思わず頭に浮かんだ夢想を、骸は破棄する。

 今の思考は、一瞬の気の迷いだ。もう自分達に後戻りは許されないのだ。闇の道に足を踏み入れたものは決して戻れない。

 

 では、タズナは?

 未だに一人抗うことをやめない彼は、どうなの?

 一人で背負い立ち上がり、一人で孤独に死んでいくのが定め?

 それを認めるということは、私は朧を――あの人を……。

 

「……斬る前に、見極める必要はある、か……」

 

 真っ直ぐに見据えたその目は、ただ単に自らの中の迷いを、誤魔化しているようにも見えた。

 

 

 一方その頃、先行部隊と共に波の国に潜入していた朧は。

 

(なあにこれぇ……)

 

 波の国の陸地へと運ばれていく兵器の部品群の数々にドン引きしていた。確かにNARUTOにおいても通信機器が登場したりパソコンが普及していたり、かなり昔の出来事として語られたであろう柱間細胞の埋め込み実験の時の回想でさえかなり進んだ科学力が垣間見えていた。

 それを考えればこのような武器があっても決しては、おかしくはないのだが――これは、これはおかしい。世界観が崩壊する。いくら続編の映画に月を破壊できるチャクラ砲が登場するとはいえ、それでもおかしすぎる。

 まだ朧の前世の世界には及ばないとはいえ、ガトリング砲が既にあるのがおかしいのだ。固定式とはいえ、一度連射されればその射程内にいる人間は忍であろうと容易に蜂の巣になろう。

 朧が率いる奈落でさえ蒸気船に積む大砲が精々だというのに、連発して発射できる拳銃、はてには忍用にチャクラを纏った状態で発射できる弾丸もある。

 

 明らかにNARUTO原作の波の国偏と比べてスケールが違いすぎる。今までやらかしてきた原作崩壊のツケが、ここまで回ってきている。

 その事実に、朧は内心身震いするばかりであった。

 

 幸いにして、これらの兵器の扱い方を知る者は、ガトーが雇うチンピラたちや抜け忍たちにはまだ少ない。ガトーとて馬鹿じゃない。これらを持って反乱でも起こされたら堪ったものではないだろう。

 

(とりあえず、こいつらは最終的に資料や設計図ごと爆破して闇に葬るのは決定として――ナルトたちが心配だ……)

 

 朧は現在、変化の術でガトー一派に雇われた抜け忍の体を装って、彼らと一緒に部品を陸地へと運んでいる。共に潜入した奈落の忍たちの一部は既に国民に扮して紛れ込ませている。ガトーを暗殺するための準備は着々と進んでいる。

 ガトー一派に紛れ込んだ霧隠れのスパイの手引きにより、奈落の忍達は次々と町民やガトー一派の抜け忍を装って潜入することができた。

 後は、機を待つだけなのだが、朧には一つの懸念があった。

 それがナルト達についてである。

 こんな命の危険性がありまくりな任務、とっとと奈落の忍たちを総動員してガトー一派を一掃して彼らの命を保障してしまった方がいいだろう。

 波の国の地が血まみれになる代償はあるが、それでナルト達の命が助かるのならばお釣りが帰ってくる。

 たとえタズナが死んでしまったとしても、木の葉のペイン襲撃に関してはヤマトさえいればどうにかなるような気はする。

 

 だが、その判断を下せぬ材料が朧にはある。

 それはNARUTOの成長イベントの喪失である。波の国篇は良くも悪くも主人公であるナルトに忍の世界の残酷さの一端を知らしめ、彼の今後の成長や方針を決めるきっかけとなる大きなイベントだ。

 今まで散々原作を崩壊させておいて虫のいい話なのは承知であったが、それでもあれをなくすことだけは、あってはならない。

 

(タズナに関しては骸に一任したけれど、まあ多分あの子なら斬らないだろう。ああ見えて情には弱いし、根は優しいし。タズナやナルト達が覚悟を見せればなんとか……時々ちょっと怖いけれど……)

 

 斬ったら斬ったで、その時はその時で考えよう。

 

 今、朧の中での選択肢は大まかに二つ。

 とっとと奈落を総動員して殲滅するついでに水影の頼みも達成してしまうか、ナルト達を影で支援しつつガトーの首を取るか。

 奈落の首領としては前者、原作に近い展開を願うのであれば相当なフォローは必要であるが後者だ。おそらく自分だけでは手に負えない、奈落の忍たちを使ってのフォローは必須だ。どのみちガトー一派の勢力に関しては総動員で皆殺しという点は変わらない。

 

(……とりあえず、うまくやろう)

 

 そう意気込みつつ、朧は潜入を続けた。

 

 この時、彼はまだ知らなかった。

 波の国のイベントとかそれ以前に、過去にやらかしてしまった行動によって、ナルトがそもそも火影に憧れていないという最大の原作崩壊をしでかしてしまっていることを、彼はまだ知らなかった。

 

 奈落創設をはじめとしたやらかしのツケは、波のように押し掛かってくるのだ。

 

 




アニメで朧さんが死んでから「書かなきゃ……書かなきゃ……」と自分に言い聞かせながらはや数年……遅くなってすみません!

天照院奈落のどんなところが好き?

  • 錫杖を使っているところ
  • 弓を使っているところ
  • 装束が好み
  • 単純に朧が好きなだけ
  • 全部

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