plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode7 作戦は

 

 

 

 

 ――授業参観当日。

 

「どうしました動島くん。死んだ(なまず)のような目をしていますよ?」

 

「魚で良いじゃん、なんで一種類に限定すんの?」

 

 駅前で集合した魔女子と焦凍、そして百に、振武は困ったように笑う。

 

「手紙がなかなか書き上がらなくてなぁ、ギリギリまで手直ししてたんだよ」

 

 不満は尽きないが、それでもそれと同じくらい壊に感謝したい事もまた尽きない。それを手紙にするというのは、分量的にはさして苦痛ではなかった。

 だが最初に書き上がった物を読んでみると、話が重くなったり、壊の罪が露呈したりとかなりデリケートな話が多かった。

 個人的に送るのであれば話は別だが、皆の前では支障が出る。

 何度か自分で見直して、当たり障りのない内容に変更出来たのが、結局時日付が変わるかどうかという頃だった。

 5時起床、21時就寝。それがいつもの振武の生活サイクルだ。

 朝早く起きて、学校に行く前に祖父と、あるいは1人で鍛錬などを行い、シャワーをさっと浴びて朝食へというのが、朝のいつものパターンだし、9時になれば自然と眠くなる。

 現役高校生としては些か健康的過ぎる生活のように感じる人もいるし、実際上鳴辺りには驚かれた。

 だが、見たいテレビもない、基本的に夜する事と言えば読書か勉強かくらいなものだ。だから、いつも通り朝の鍛錬を行う為に早く起きた振武にとっては、今は少し寝不足な状態だ。

 訓練や動きに問題はないが、ちょっと疲れが取れていない感じがするのだ。

 

「ほうほう、では今日は本調子ではないと……言い訳ですか?

 テスト前に「いや〜俺全然勉強してないわぁ」って言っておいて成績が低くてもあまり気にされないようにするという、例の」

 

「例の、じゃねぇよ。別に普通に動けるし気持ちだけだから。つうか、それは言い訳じゃなくてフリな。テスト勉強していないと見せかけて徹夜漬けしてるやつの台詞だから」

 

 あいかわらずの魔女子の発言に、律儀にツッコミを入れる。

 

「振武さん、お体を大事にしないと……でも、悩まれる気持ちは分かりますわ。 私も母に送る手紙を考え出したら、気恥ずかしかったですわ。それに皆の前で読むと考えると、プライベート過ぎることは話せませんし……なかなか難しいんですのね、感謝の手紙って」

 

 かと言って、嘘はいけませんもの、と百も同情するような笑みを浮かべる。

 発表形式で無ければそういう事を書いても良いのだろうが、皆大なり小なり気恥ずかしさというものはあるだろう。

 

「塚井は誰に書いたんだ?」

 

「父が時間を空けてくださるのが分かりましたので、父に宛てて。

 普段私の世話をしているのは、まぁぶっちゃけ執事とメイド達なのですが、それを雇ってくださっているのは父ですからね」

 

 なんでもない風にさらっと言っているが、相変わらずスケールがでかい。

 魔女子の家の事情や、現在の生活などは、時々話に聞いている。

 聞いているのだが……なぁ、想像出来るか?

 家の敷地内に屋敷レベルのお家が2つあったり、

 メイドが5人もいたり、

 執事がいる生活は。

 振武の家は家政婦を雇ってはいるが、通いだしどちらかと言えば掃除のおばちゃんという雰囲気が強い人だ。

 

「執事ってのが日常生活の中に溶け込んでいるってシュールだな」

 

「? シュールですか?」

 

 しまった、百に振っても同意は得られないのを忘れていた。

 

「焦凍くんは、お母様に書いたんですか?」

 

 魔女子が躊躇もなくそう聞くと、焦凍は少し言い辛そうな素振りを見せながらも答えてくれる。

 

「母さんには母さんにで書いたんだがな……読むのは、姉ちゃん宛てだ」

 

「姉ちゃんって、確か先生やってる人だったっけ」

 

 その言葉に、焦凍は静かに頷いた。

 焦凍の家庭事情はかなり複雑だ。お母さんとは最近和解してから関係は良好そうだが、1番ネックなのが父親だろう。

 あの父親に感謝の手紙……どこに感謝する要素があるのか分からないくらいだろう。

 そう考えると、普段話に出てくる中で1番多い姉に感謝の言葉を伝えるというのも、あながち間違いではないのだろう。

 これもまた雑談の中で聞いた話ではあるが、会えるのは今回が初めて。

 

「普段、家事とか姉ちゃんがやってくれてるからな。こういう機会じゃねぇと感謝なんて伝えられないだろう」

 

「まぁ、そうだろうな。

 焦凍の姉ちゃんかぁ……ちょっと気になるな。似てるのかとかも含め」

 

「ほほう……お義姉(ねえ)様、ですか」

 

「魔女子さん、気が早すぎます」

 

 学校への道をのんびり歩きながら(始業時間まではまだ時間がある)、雑談に興じる。

 うんうん、学校生活とはこういうものだ。振武は話を続けながらも、心の中で小さな安堵を感じていた。

 学校に敵の集団が乗り込んで来たり、他人を妨害して1位を獲得しようとしたり、トーナメント形式で友人と鍔迫り合ったり、職業体験と称して辛い訓練や強い人殺し(他意はないぞ赤黒)などと戦うのばかりが自分たちの生活ではないのだ。

 というか良く良く考えてみると、ヒーローの卵だとしても色々起こりすぎだ。例に挙げた中の半分くらいは経験しなくても良いというか、経験するべきではないものばかり。

 トップヒーローの人生は基本的に運命に嫌われているか、もしくは好かれ過ぎているのか分からないレベルで受難が降りかかるものなのは分かっている。そして雄英高校も、受難を生徒に振り撒きそれを乗り越えてこそというのをモットーにしている。

 しかしこちらは、あくまで学生。あくまで十代。

 のんびりとこうやって学校やくだらない話をしたりして過ごしたって良いじゃないか。いつも災難に遭遇していては、身も心も疲れてしまう。

 ……勿論、火種は常に存在するものの、今くらいはのんびりしたい。本当に。

 日々、平穏に過ごして何が悪いと言うのか。

 究極的には、ヒーローという存在が必要ないのが1番なのだから。

 

 

 

 

 

 

 はい、そう思っていた時期がありましたよ俺にも。

 と冗談を言いたいが――そんな事を言っていられる状況でもなかった。

 

「ニゲテ、ソトニタスケヲモトメニイクノモキンシダ。ニゲタラ、ソノセイトノホゴシャヲスグニシマツスル」

 

 ――模擬市街地。

 教室で遅れている相澤を待っていた振武達が指定された場所はそこだった。相澤のメールから送信されたそれに、振武達は最初から困惑していた。

 時間には厳しい相澤先生本人が遅れている事もそうだが、教室に集めておいてわざわざ外に呼び出すのも解せない。合理主義が極まっている相澤なら、事前にその話をしそうなものである。

 だが、疑問に思いながらも指示は指示。バスに乗り、コスチュームに着替えてやって来た1年A組を待ち構えていたのは――保護者達を人質に取っている敵の姿だった。

 相澤は……犯人の言葉を信じるならば死んでいる。

 通信手段も遮断され、先ほども敵本人が言っていたように助けを呼びにいけば親が殺される。

 ガソリンが撒かれている底の中心に立っている塔、そこに置かれた檻の中に、殆どの生徒の親族が入っている。

 唯一入っていないのは、遅れてくると言っていた壊くらいだろう。

 

「ごめん魔女子、抵抗したんだけどダメだった……」

 

 その中には、上等なスーツを着ている男性もいる。言葉から察するに、彼が魔女子の父だろう。

 

「父まで捕らえられましたか……これは、ちょっと不味いですね」

 

 魔女子はいつにも増して焦るような様子を見せる。

 塚井徒勝。

 彼の空想上に存在する幻獣を生み出し操る個性《使徒》はかなり強力だ。ヒーローにこそならなかったものの、制御する為に必要な訓練は積んでいるし、自分の身を守る事は出来る。

 それでも、捕まってしまっている。

 相手がそれほど強い存在なのか……あるいは、それを上回ってしまう知力の持ち主なのだと想定出来る。

 

「――ダメです、全員動揺していますね」

 

 周囲を見渡せば、皆自分の親が人質にされている事に動揺しているもの達ばかりだ。

 当然だろう。

 自分の家族が、自分の親が、死ぬかもしれない状況なのだ。

 

「――塚井、俺が助けを呼びに行くってのはどうだ?」

 

 犯人に聞こえないように、隣に立って思案中の魔女子に小さい声で伝える。

「逃げたら逃げた生徒の保護者を殺す」というのであれば、振武は親が来ていないので対象外だ。皆が気を逸らしてくれている間に、助けを呼びに行けるかもしれない。

 だがその意見に、魔女子は首を振る。

 

「距離があり過ぎて貴方の足では時間がかかり過ぎます。第一、貴方の親がいないだけで、人質は大勢います。

 もし他の保護者の方に被害が及んだら――」

 

「――責任は取れないもんな」

 

 振武は悔しさから眉をひそめる。

 状況は最悪だ。いつも守ってくれる教師はいない。親が人質に取られ、こちらは下手に動けば全員が死ぬ。

 八方塞がりというのは、こう言う事を言うんだろう。

 

「――なんで、なんでこんな事を!!」

 

 出久の悲痛な叫びを聞いて、黒いマントを着込みヘルメットを被っている犯人はゆっくりと言い聞かせるように、機械で捻じ曲げられた声を使って話し始めた。

 

「ボクハ、ユウエイニオチタ。ユウエイニハイッテ、ヒーローニナルノガ、ボクノスベテダッタノニ。ユウシュウナボクガオチルナンテ、ヨノナカ、マチガッテイル。セケンデハ、ボクハタダノオチコボレ。ナノニ、キミタチハ、アカルイミライシカマッテイナイ。ダカラ――」

 

「要するに八つ当たりだろうが、クソ黒マントが!!」

 

 犯人の言葉を遮るように、爆豪が怒声を上げる。

 

「めんどうくせぇ、今すぐぶっ倒して「はいストップです爆豪さん」ぐぉ!?」

 

 掌で小爆発を繰り返しながら近づこうとする爆豪の服を、魔女子が掴んで引き戻す。

 

「お馬鹿ですか。いくら距離があるとは言え、あそこにはガソリンがあります。

 ガソリンは日本名にすると揮発油と呼ばれるくらい、揮発性が高いんです。貴方が大火力とか使い始めたら、普通に爆発しますから。

 そもそも、犯人は人質を壁のように使っています。爆豪さんの個性では保護者に危険が及びます」

 

「――っ、口で言えやクソ鳥女!!」

 

 爆豪の怒声をまるで無視しながら、魔女子は何人かの主だった面子に声をかける。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 出久、百、焦凍、飯田などの頭脳派チーム。

 振武? 振武は確かに頭が切れるが、作戦がやや脳筋になりがちなので、今回は除外だ

 相手の注意をそらしている面々の影で隠れるように話をする。。

 

「犯人のみを拘束する……前に、危険要素を気付かれないように排除して行くのが先ですかね。

 ガソリンを凍らせる……のは難しいでしょう−50度でも凍りませんから。

 焦凍くんは可能ですか?」

 

「やって見た事がねぇから博打になるぞ。

 それよりも、大きな蓋でも創った方が早くねぇか?」

 

「さすがにあの大きさの穴を塞ぐものと考えると、時間がかかりすぎますわ」

 

「それはまずいっ、人質の命を救う事を優先しなければっ」

 

「分かっています。ですが現状で出来る事も限られてくるのは事実です。

 ……緑谷くん、何かご意見があるようです、ここではハッキリと言っていただけると嬉しいです」

 

「ぼっ、僕!? 僕より塚井さんの方がずっと、」

 

「私だけでは、最悪の場合何かを犠牲にする事まで考え始めるかもしれません。

 犯人も含めた全員を救けるならば、貴方の知恵が必要です。ご協力願います」

 

「っ……分かった。

 僕が考えたのは――」

 

 出久の話に皆で聞く。

 出久の説明はこうだ。

 まず、今のようにA組で犯人の注意を引きつけてる間にも、百が個性で小型で威力の高いスタンガンを創ってもらう。そしてそれを持った葉隠を(全裸と書いて本気と読むバージョンで)麗日に浮かせてもらい移動。そのスタンガンで犯人を無力化する作戦だ。

 

「なるほど、リスクはありますが一定の効果がありそうです。

 ……ですが、このような言い方をして申し訳ないですが、足りません」

 

 もしその作戦がバレたら?

 相手に防がれてしまったならば?

 スタンガンに効果がなければ?

 どれもあり得ない話ではない。

 

「だが、不安要素を言い出したらきりがなくないか?」

 

 飯田の言葉に魔女子は頷く。

 

「勿論、可能性を100%にする事は無理でしょう。

 ですが、もっと高くする事は出来るはずなんです」

 

 二重三重に策を弄する事こそ、大事なのだ。

 1つの策で満足しては、足元を掬われる可能性だって上がる。

 

「……緑谷さんの作戦を組み込んだ上で、ある作戦があります。みんな聞いてくださいますか?」

 

 その言葉に、その場にいる全員が頷く。

 魔女子はそれを確認してから話し始めた――全員の表情が驚きに歪むという結果をもたらすまで。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 A組の中でも頭脳派の数人が作戦を考えている間に、

 

「ふざけんな! 卑怯な手使いやがって!!」

「やるならこっちに来いよ!!」

「こんなやり方、美しくないよ☆」

 

 振武も含めた他のメンバーが敵の視線を引きつける為に、犯人と話を始める。

 クレバーな連中が考えてくれている間に、気をそらし続けるのだ。

 

「ナントデモイエ。ボクハ、キミタチガザセツシテクレレバ、ソレデイイ」

 

「それで、僕たちの大切な人を奪うのか……」

「こんな事したってすぐに捕まっちゃうよ!!」

 

 尾白と芦戸の言葉にも動揺する様子も見せずに、犯人は鼻を鳴らす。

 

「ボクハ、ドウナッタッテカマワナイ。キミラノゼツボウヲ、ミレルノデアレバ、ソレデ――」

 

「――自分も死んでも構わない、と?」

 

 相手の言葉を遮って、振武は静かに言う。

 

「そのガソリンの中じゃ、下手をすればアンタも死ぬわけだけど……それはアンタにとってはありな訳?」

 

 同じ檻に入っているのだ。人質諸共、彼自身死んでしまうだろう。

 最悪爆死、良くて焼死と言ったところだろう。何か脱出方法でもあれば話は別だが、そういうものを用意しているのならば檻の中に一緒に入っている必要はない。

 檻の外から銃でも構えていれば良い。

 その予想通り、犯人は首を横に降る。

 

「カクゴノウエダ。ボクニ、ウシナウモノハナイ」

 

「命は失うだろうが……そこまでして、アンタは俺たちを苦しめたいって訳だな」

 

 あえて本人を狙わず、大切なものを狙ってくる。

 肉体的苦痛ではなく精神的喪失感を狙っている。

 目の前の犯人が欲しいのは人の命ではなく、振武達ヒーローの卵がヒーローを諦めるような状況を作り上げる事だ。

 ……歪んでいる。

 直情的に本人を狙わない、冷静な憎しみ。

 こう言うのは普通の敵よりも質が悪い。冷静に状況を分析し、やるとなればトコトンまでやり始める。

 しかも、相手は話すのが上手い。

 会話の中に何か情報があるかとも思って聞いていたが、彼の信念を語るだけで手段や準備されているもの、さらに個性などの情報は漏らさない。

 計算しながら喋っているならば――厄介な相手だ。

 

「アア、ボクハ、キミタチガクルシムスガタヲミレレバ、ソレデイイ

 ――ダケド、ソウダナ。キミハチガウ」

 

 犯人がどこか楽しそうに語る。

 

「コノバニオヤガイナイ、キミダケハ、ホカノレンチュウトハチガイ、カナシムヒツヨウガナイワケダ。

 

 

 

 ヨカッタナ(・・・・・)、オヤガ、タマタマオクレテキテイテ」

 

 

 

「テメェ!!」

 

「――――――切島っ、よせっ」

 

 自分の代わりに怒ってくれている鋭児郎を片手で制する。

 拳を力一杯握り締める。

 怒りをコントロールする。感情的に話したところで、向こうにはカケラも響かない。

 ここで、怒る事はしない。

 

「――生憎だったな。俺はもう10年以上前に、自分で体感しているよ」

 

 不敵な笑みを浮かべて、犯人を睨みつける。

 母が目の前で殺されたあの日に、これからクラスメイトたちが背負うかもしれない感情は全部経験している。

 目の前にいたのに助けられなかったという無力感も。

 最愛の家族を目の前で家族を失う悲しみも。

 死んだら何も戻っては来ない事も。

 全部理解している。

 だからこそだ。だからこそ、クラスメイトの家族だって死なせはしない。

 あの時の振武と同じような気持ちを、大事な友達に感じさせたくない。誰にも背負わせるつもりなどない。

 振武の言葉に、クラスメイトも、人質になっている保護者も、犯人も動きを止める。

 知っている人間はどこか悲しそうに。知らない人間は驚いたような顔をしている。

 ……そういえば、話していなかったな。そう思いながらも、振武は犯人を睨みつけるように見る。

 

「俺の母さんは、俺の目の前で死んだ。そんな結末は、俺は要らない。そんな悲しい事を2度と起こさない為に、俺はヒーローになる事を決めたんだ。

 

 

 

 この場にいる誰も死なせない――俺も、皆も、人質も、そしてアンタもだ」

 

 

 

 その言葉に、ピクリと犯人が反応する。

 ヘルメットで顔は見えなくても、手の微妙な動きなどでそれは分かる。

 

「――ボクマデ、タスケルツモリカ?」

 

「当たり前だろうが。

 アンタがどういう人かなんて知ったこっちゃないけどな、アンタにだって悲しんでくれる奴がいるんだろう。

 なぁ、ヒーロー志望なんだろう? 誰かを泣かせたくなんかないって思ってたんだろう? なら、自分が大事に思ってる奴を思い出せ。自分を大事に思ってくれる人を思い出せ。

 其奴らを泣かせるっつうのが、お前が今1番やっちゃいけない事だ」

 

 理論で言っても通じない。

 自分の感情を伝えたって届かない。

 なら、相手に思い出させるしかない。

 自分も周りにもそういう人間がいるという事を。

 しばらく逡巡するかのように動きを止めた犯人は――その言葉を鼻で笑い飛ばした。

 

 

 

「――クダラナイ」

 

 

 

 だがその言葉は、犯人には響かなかった。

 

「ボクニソンナニンゲンハ、イナイ。

 キレイゴトデ、ボクヲマドワソウトスルナ」

 

「………………」

 

 失敗した。

 だが、十分注意は引けている。

 

「――振武さん、そのまま話を聞いていてください」

 

 百が聞こえるか聞こえないかという小さな声で話し始める。

 

「作戦が決まりましたわ。まず――――――」

 

 他の人間にも何人か説明して回っているのか、注意を引きつけるメンバーが話をしている間にも、小さな話し声が飛び交う。

 その中でも、百の声はハッキリ聞こえている。

 全てを聞いた後――、

 

 

 

「――マジで? やれるのか、それ」

 

 

 

 思わず百の方を見ずに小さく溢す。

 クラスメイトの情報や考え、アイデアもいくつか入っているが、根幹は恐らく魔女子と出久が考えているんだろう。

 全員で、最善の結末を手に入れる為の作戦。

 そもそも魔女子が加わっている時点で無難なものが出てくるとは思っていなかった、最初から思っていなかった。思っていなかったが――。

 難しいだろう、どう考えても。

 というか賭けの要素もあるぞ、それ。

 

「『流れ的には可能』……そう魔女子さんは仰っていました。

 勿論、予想に依存していますので、何かあった時の保険をいくつか用意していますわ」

 

 百の言葉には多少緊張の色は混じっていても、不安や恐怖というものは感じない。

 ――信じているのか、大丈夫と油断しているのか。

 その差は微妙なものだ。

 だが、出来るか出来ないかで言えば、『出来る』と、あの魔女子が断言しているのだ。これ以上に最上というのは、自分でも思いつかない。

 

「皆は?」

 

「…………今全員に確認出来ました。問題ありませんわ」

 

 どうやら、全員納得したようだ。

 爆豪あたりは煩く言いそうなものだが、魔女子本人が説き伏せたのだろうか。

 

「合図は――です」

 

 百の言葉に、小さく了解、とだけ返す。

 

 

 

「――信じていますわ」

 

 

 

 それだけを言って、百はすっと後ろに下がる。

 

「――格好良い事言ってくれるよ」

 

 少しのタイムラグ、少しの躊躇。

 伝えられた作戦を考えると、それだけでも全てが瓦解する。失敗すれば、恐らく人質の命はないだろう。

 ――信じて、動く。

 ――信頼して、託す。

 今この場で必要なのは、ある意味それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 作戦開始は、もう少しだ

 

 

 

 

 

 




もうちょっと長くしようかなと思いましたが、引っ張り過ぎるのもちょっとあれなんで、授業参観本番です!!
楽しんでいただけたならと思います。


次回! 犯人がビックリしちゃうぞ!! 落ち着いて待て!!


感想・評価心よりお待ちしております。

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