plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode12 燃える

 

 

 

 

「――さて、それじゃあ準備は全員いいね?」

 

 声が直接聞こえる者、無線で連絡取れる者全員に声をかけると、皆思い思いの返事を返す。プロヒーローである彼らもそれなりの経験を積んでいるのだろう。皆冷静だ。

 

「え……エンデヴァー、君が最後の切り札だ。

 最後に外しましたじゃシャレにならないからね」

 

「フンッ、俺を誰だと思っているんだ貴様は」

 

 ブレイカーの言葉に、エンデヴァーは鼻を鳴らす。

 傲岸不遜。

 だがその実力と、度胸の良さは一級品。

 だから仮面の奥で笑みを浮かべながら、「うん、頼りにしてるよNo.2」とだけ言うと、真っ直ぐに敵を見る。

 飛行してる脳無も、筋肉質な脳無も逃げる様子がない。一応こちらに注意を引くように戦ってはいるが、意図的に動いているのに気付いていない。あるいは、ここの奴らを殲滅してからとでも考えているのだろうか。

 思考は単純だ。

 だからこそ――この作戦が行える。

 

「――やれ!!」

 

 その言葉とともに、ヒーローたちが動き出す。

 

「落ちろやゴラァ!!」

 

 重力を操るヒーローが、飛行している脳無の重力を一気に上げ、脳無を落とす。

 その間に、筋力を上昇させる増強型個性を持ったヒーローが筋肉質な脳無を拘束している。

 時間は一瞬だろう。

 だが落とす場所も、拘束する場所も位置関係上は同じ場所。

 結界が覆えるギリギリの範囲まで落とせれば良い。

 

「第二段階!!」

 

 ブレイカーが叫ぶと、今度はその結界を張れるヒーローが限界ギリギリの範囲で結界を広げる。

 計算通り――2体はそのまま結界の中に閉じ込められた。

 

「■■■■■■!!」

 

「■■■■■■■■■!!」

 

 脳無2体が捕まった事に気付き、透明な薄いガラスのようなシールドに体当たりし始める。

 まだ、時間はある。

 

「頼むよ、マ…マー……地味目の子!!」

 

「マニュアルですさっき自己紹介したでしょう!?」

 

 ブレイカーのぞんざいな扱いに文句を言いながら、マニュアルが自分の個性の限界にまで水を生成し、その結界の中に投げ入れる。

 攻撃力度外視。

 ただブレイカーが指示した量だけ入れてくれれば良いという指示を忠実に守っている。足を動かす度に少し跳ねる程度の水が、結界の中に入る。

 

「それで良い――あとは僕の仕事だ」

 

 そのまま2体の脳無の意識を外に逸らしながら、ブレイカーは結界内に入って水に両手を突っ込む。

 水は、水素と酸素の化合物だ。

 ではそれを分解すれば、非常に可燃性の高い空気が出来上がる。

 問題は、その間にはそれに集中していて攻撃を受ければ終わる事。

 それと――呼吸だ。

 濃度の高い酸素と水素の中に、どれくらい居られるかわからない。意識を失って外に出れなくなる可能性すらある。

 多すぎても厄介なのだ。

 だから、そのギリギリを見極める。

 

「――まだ、」

 

 手に触れている水を分解する感覚は奇妙な物だが、それ自体は練習していた時の感覚でわかる。

 まだ威力が足りない。もっと、もっと。

 

「ブレイカーさん! シールド何層にもしてるけど、長くは無理ですよ!!」

 

 結界を維持する為に踏ん張っているヒーローの声が聞こえる。それに答える余裕もない。

 もう少し、もう少しなんだ。

 

「ブレイカーさん、はやく!!」

 

 煩い今集中しているんだ、その言葉すら言う暇もなく分解していく。

 呼吸が苦しくなってくる。そろそろまずい。

 だが、あともう少しだけ。

 

 

 

「――――とっとと済ませろ!!

 壊!!」

 

 

 

「っ――出来た!!」

 

 一気に目標のレベルにまで達すると、ブレイカーは息苦しいのも無視してバックステップの要領で後方に跳躍する。

 そのまま、結界の外へ転がり出るように退避する。

 あとは仕上げだ。

 

 

 

「――燃え散れ、(ヴィラン)

 

 

 

 エンデヴァーが指先から小さな火種を投げ入れる。

 火種は小さくて良い。あとは勝手に、

 

 

 

 爆発してくれる。

 

 

 

 くぐもった爆発音。

 地面を揺らす衝撃。

 だが爆炎と衝撃の殆どを、その結界が内部に抑え込む。

 水素と酸素の爆発。

 結界はその衝撃に耐えきれずヒビを入れるが、それでも天井部分に開いた小さな穴程度で、衝撃は完全に殺した。

 ――僕の出番がなかった。

 その事だけがブレイカーを安心させるに足る。

 焦げ臭い匂いが周囲に広がる。

 嫌な匂い。肉の焼ける匂いとはこれほど嫌なものだったか。

 結界の中心を見る。そこには、筋肉質の脳無と空を飛んでいた脳無が2体仲良く倒れている。

 

「死んでいるのか?」

 

「……いや、息があるね。流石改人、と言うべきかな」

 

 結界を解除させ、爆発後の中に入って脈を(真っ当な生き物の生理活動をしているか不安だったが)測ってみれば、2体とも微かであるが触れている。

 

「だが、このままだとすぐに死ぬぞ。すぐに医療班を「それには及ばない」……どういう意味だ」

 

 エンデヴァーの言葉に、ブレイカーは苦笑する。

 

「ちょっ、こういう事に関しては本当の俺信用ないなぁ。自分の所為だって分かってるけど……呼ぶ必要はないって事」

 

 そう言いながらブレイカーが指差した先には、――ワープワーヴと、それに引きつられてくるサイドキック達だった。

 あそこから歩いてここに向かえば3時間だが、車という移動手段と非常時という状態のお陰か、随分早く駆けつけてきたようだ。

 

「ブレイカーさん! 敵2体倒したんですね! 流石……って、エンデヴァーさん!? 何故ここにいらっしゃるんですか!?」

 

「?……誰だ貴様!!」

 

「……あぁ、あんたの眼中に入ってないでしょうね僕なんて」

 

 センシティとの喧嘩の仲裁を何度もして顔を知って貰えていたワープワーヴは、少し傷付いたように顔を伏せた。

 そんな少し心が和らぐ空気の中、ブレイカーはワープワーヴに話しかける。

 

「この2体を頼む。厳重な拘束をしてから治癒してあげて、結構ギリギリだから」

 

「了解です……ブレイカーさんはどちらに?」

 

 ワープワーヴの言葉に、ブレイカーは少し考えるように間を置いてから、

 

「俺はこれから振武の所に向かう」

 

 信頼するから心配しない。

 なんて事にはならない。そんな風になっているならば最初から振武にあんな事はしないだろう。どんなに強くても、格好良くても、振武は自分の息子なのだ。

 息子の心配をしない親なんて1人もいない。

 

「現場の指揮権を、ワープワーヴにお返しします――行ってもよろしいでしょうか?」

 

 サイドキックに気を使っているのか、それとも戯けているのか、慇懃な言葉を使うブレイカーに、ワープワーヴは苦笑を浮かべる。

 この人も、一朝一夕で変わる人ではないのだと。

 

「ええ、構いませんブレイカー。

 ぶっちゃけ振武くんならば大丈夫だと思いますけど、彼はまだ子供ですから」

 

「感謝します。では――「待て!」ぐえ」

 

 走り出そうとしたブレイカーを、エンデヴァーが掴んで止めた。ちょうど襟首だったので、走り出す勢いで首が閉まる。

 

「ちょ、エンデヴァー! 危ないよ!!

 ていうかこっちは割とボロボロなんだからもっと優しく、」

 

「知るか! 何を貴様俺を差し置いて1人で勝手に行こうとしているんだ。

 そっちには俺の息子もいるんだ、俺も行くから置いて行くな!」

「理不尽!……ていうか、君の息子への所業に関しては僕も言いたい事あるんだけど」

「人の事を言えるのか――お前も似たようなもんだろう」

「……お互い、親という立場に向いていないのかな?」

「……行くぞ、壊」

「あ、誤魔化した。しかも現場で壊って呼ばないでくださいません? 《ブレイカー》ですからね僕」

「さっきの意趣返しか!?」

「どういう風に取っていただいても結構ですけどねぇ。でも自分で言ったことも守れないなんてぇ、ヒーロー失格? 論外?」

「貴様ぁ!! あとで覚悟しておけよ!!」

 

 賑やかというか、仲が良いのか悪いのか分からない会話をしながら走る2人を見て、

 

 

 

「……親子だなぁ」

 

 

 

 体育祭で振武と焦凍が喧嘩をしていた光景を思い出していた、ワープワーヴだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「――――止マレ――――」

 

 声が響く。

 刹那の静止。

 だが、それも本当に刹那の時間でしかない。

 

「ハァ!!」

 

 拳を刀に合わせるように振るい、真っ正面から弾き返す。

 

「――っ、手が出せんぞこれでは!!」

 

 飯田の声が細道に響く。

 どんな原理で、どういうものなのか分かっていないが――少なくとも時を操る個性ではない。その事が分かったとしても、発動の条件が分からない以上防ぐのも難しい状況。

 その中で唯一早く解除される振武だけが、オートマーダーの動きについていけていた。

 いや、それだけではない。

 

「……ねぇ、轟くん。あの子、」

 

「ああ、分かってる……どうやら俺らは眼中にないらしい」

 

 静止から自由になった出久と焦凍は飯田に聞こえるレベルの声量で話す。

 近寄れないように、定期的な個性の使用と原理の分からない「飛ぶ斬撃」でこちらに手出しをさせないように牽制。その割には振武には距離を取る気はないらしく、むしろ積極的に斬りつけている。

 まるで自分達には興味がないように。

 

「あいつの狙いはそれだったという事か?」

 

 振武との一騎打ち。

 それが狙いでここに来たのかと飯田が言うと、出久は首を振る。

 

「ここに動島くんが確実に来るとは分からないはずだ。彼女の目的はあくまで別だったんだと思う。

 でも、――彼女が動島くんに執着しているのは分かる」

 

 感情も何もかも乏しい少女だが、唯一見せているのはその一点だ。

 妙な繋がりがある2人だ、一方が何か思うところがあっても不思議ではない。

 

「……隙を見て、あの女を拘束すんぞ。

 動島はああ見えて冷静だ。こっちを何度か確認してる」

 

 体さばきや回避の時に自然とであるが、こちらがどう言う状況なのかしっかり見ている。

 自分達が手を拱いている事を理解しているのだろう。

 だが、自分達がタイミングを図っていることも理解出来ているはずだ。

 

「もうすぐヒーロー達が来る。それまで、俺達に出来る事をしよう」

 

「――うん!」

「ああ!!」

 

 焦凍の言葉に、出久と飯田は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 動島流のバリエーションは多い。

 刀術、居合術、短刀術、弓術、槍術、薙刀術、柔術、活殺術、銃砲術、棒術、隠密術、分鎖術。流派内にある12の武術はそれぞれが「力のコントロール」という基本理念を内包しながらも特性が変わって来る。

 当然だ、使う武器や何かが変わればその方法だって様々。しかも、使い手によって自由に変化させる事が認められていれば、当然その技の数だって様々。

 技に名を付けない者もいれば、付ける者もいる。付いている名前を告げるのも告げないのも自由。それが基本技ともなれば更に人によるだろう。

 技名を叫ぶのは、当然理由がある。

 気合が入るからだ。

 微妙な理由にも見えるだろうが、振武は少なくともそうだ。気合の掛け声や、自身に「その技を使うぞ」と命令する事で体のスイッチを意図的に切り替える。自己催眠のそれにも似ている。

 振武も名前を付けるのは好きな部類だが、それでも基本的に個性を使っての必殺技が多い。絶対に相手をその技で倒すと言う気合いの元放つが故に。

 だが、目の前の少女のそれは、

 

「動島流居合術――墜隼(ついしゅん)

 

 とにかく、技が豊富で名前もバリエーションがある。しかも、その技一つ一つを繰り出す時に発せられるそれにより、彼女の技の発動は異常に疾い。

 神速にも近い居合を、振武はギリギリのところで回避する。

 

「っ――お前の師匠は名前つけんの大好きか!?」

 

「そういうのが好きな方ですので。ですが此方も気に入っています」

 

「あぁそうかよ!!」

 

 そのままサイドステップし、壁を蹴り付けるようにして急カーブする。

 背後に回り込む為だ。

 しかし、

 

「無駄です」

 

 まるで背後に目があるかのように体を回転させ、逆にこちらに刃を向ける。

 

「チッ!!」

 

 それを籠手で逸らす。

 ――反射神経が爆豪並み、いや、それ以上の敵とか、笑えない。

 

「――無駄です。此方は『貴方に絶対に負けない』」

 

「――そう言うのは一撃だって当てられてから言え、」

 

 2人の睨み合い。

 時間は一瞬。

 だが、相手が相手に意識を向けてくれるだけで、

 

 

 

「だが――もう終わりだ」

 

 

 

 充分。

 振武がはっきりとそう宣言すると、まるでオートマーダーの退路を断つかのように、背後に巨大な氷の壁が出現する。

 今度は切り崩されないように高く、硬く。

 そう思い作り出したそれは一種の城壁にすら匹敵する。

 そしてオートマーダーを挟んだ位置に滑り込むように。

 

「「動島くん」」

 

 飯田と出久が飛び込んで来る。

 四面楚歌。

 逃げ道は上しかないが、飛んだり跳ねたりする力が彼女にない事は戦闘中確認済み。出来たとしても振武が追いつける。

 残るは地面だが、下はアスファルト。いくら攻撃しても下に逃げ道は作れない。

 そして相手は素足。すでに動き回ってボロボロの脚でここまで戦ったと言えるが、3人同時に相手する事は出来ない。

 

「――詰みです。なるほどこれは勝てません」

 

 今にも飛び込んで来そうな勢い3人を冷静に見ながらオートマーダーは溢す。

 振武以外の3人への牽制が足りなかった。

 そもそも命令とは言え、4人のそれなりの実力者を同時に相手にし、おまけにステインと一緒に逃げる事は叶わない。

 ここを逃れたとしてもヒーローがすぐ近くまで迫っている中自分より巨体な男と一緒に逃げ出す余裕があるのかも不安。

 だから、ポケットからとある機械を取り出す。

 既に起動済みの発信装置――、

 

「死柄木様風に言えば『ゲームオーバー』です。

 私の命令は『本当にダメな時は単独で逃げろ』ですので。もっとも厳密に言うとこれは単独ではないと思いますが」

 

 そう言った瞬間、彼女の地面に黒い靄が出現する。

 

「っ、まずい!!」

 

 見慣れた靄。

 敵連合のワープゲート。

 それを見て、振武も、出久も飯田も同時に加速する。

 だが間に合わない。

 

 

 

「当主様にご伝言ください――『動島知念がよろしくと伝えて欲しい』と」

 

 

 

 その言葉を残して、オートマーダーは一瞬にして黒い靄の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

「退路を確認していなかった、完全に出し抜かれたな」

 

 氷の壁を溶かしながら入ってきた焦凍が小さく呟く。

 その言葉に、その場にいる全員が微妙な顔をする。全員が、あれは完全に拘束できる流れだと思っていたのだ。

 

「……敵連合との繋がり、考えてなかった。脳無が出現した時点で考えておくべきだった」

 

 出久の悔しそうな顔に、振武は首を振る。

 

「いや、俺達の中であのワープゲートの奴に対抗できる手段はないし、本体はこの場にいなかった。ただゲートを開いただけだ。

 もしオートマーダーの手なり何なりを掴んだとしても、掴んだ奴がそのまま引き摺り込まれていたかもしれない……むしろ、ここの誰1人として捕まっていない。生きているって時点でこっちにしちゃ大金星だ」

 

 未だステインの個性の制御下にある、プロヒーロー1人と、出久、飯田、焦凍、振武。そして犯人であるステインも捕まえているのだ。

 むしろ、ヒーローの卵としては良くやった方だろう。

 

「取り敢えず、ステインの拘束……は、俺がやっておく。焦凍の氷結じゃ砕いちまう可能性がある。プロヒーローの方頼めるか?」

 

「ああ、分かった」

 

「ぼ、僕も、」

 

「緑谷、お前自分でも忘れてるみたいだけど腕バッキバキだからな? その場を動くな」

 

 腕を庇いながら手伝おうとする出久を制止してから、振武は手近のゴミ捨て場からロープを見つける。

 そしてステインのそばに向かうが……そこには、飯田天哉が立っていた。

 自分が2人で話したときとは違い、その目には殺意も何も映っていない。ただステインを純粋に見ているだけ。

 

「……まだ、殺したいか?」

 

 ステインの持っている武器を全て取り外して縛りながら、振武は聞く。

 すると、飯田は首を振った。

 

「緑谷くんと轟くんが止めてくれたし……何より、君の言った言葉が今では胸に突き刺さっている。何かをする気は無いさ」

 

「そりゃ何より。こっからお前を相手するのは骨が折れるからな」

 

 実際、このままステインをヒーローに渡したら、安心してぶっ倒れそうな気すらする。三日三晩の訓練という名の拷問に、ブレイカーとの戦闘。さらにステインとオートマーダーとの戦いで振武はヘトヘトだ。

 もしHPバーがあれば、もはや数値が見えない程ギリギリだったろう。

 

「……ステインとの会話を聞いていた。本気か?

 こいつは犯罪者だ。救われるべき人間では無い」

 

 振武を睨みつけるように見つめている飯田に、振武は少し躊躇う。

 飯田はステインに兄を傷つけられている。

 殺そうとまで考えた程兄を愛していた飯田が、自分の信念を聞けば当然怒るだろう。ここで殴られる事も覚悟しながら口を開く。

 

「飯田――俺は、救われるべきでは無い人間なんて、この世界に1人としていないと思ってる」

 

 皆、本当は救われたいのだ。

 ヒーローも、

 (ヴィラン)も、

 被害者達も、

 皆が薄暗い所に立っていたくない。誰もが手を差し伸べてくれれば掴みたいのだ。

 だがいつもそれは、何かが邪魔をする。事情、信念、罪悪感、凡ゆるモノが差し伸べる側の人間にも差し伸べられている側にも、邪魔をしてくる。

 

「お前や被害者達の気持ちは分かる。でもそれは、ステインを殺したって、加害者が死んだってどうにもならない。むしろ、その事が足枷になるかもしれない。

 俺はそれすらも〝たすけたい〟んだよ」

 

 振武の言葉に、飯田は目を閉じる。

 考えるような、堪えるような表情で。

 

「……僕にそれを言って、殴られるとか、怒られるとか、考えていないのか?」

 

「考えてる。だから、今縛りながら取り敢えず殴られた時倒れないようにしてるよ」

 

 気合入れないと、お前の拳でも沈みそうだし、俺。

 振武がそう言うと、目を開け、飯田は――微笑んだ。

 

「君じゃなかったら、戯言だと言う所なんだろうが……付き合いの薄い僕でも、君が本気なんだというのは重々理解した。それが途方も無い覚悟の上に立っているという事も。

 そして、それに関しては僕も賛同する。インゲニウムの名を継ぐヒーローとして」

 

「……良かった。これで気絶した奴がもう1人出来なくて」

 

「ムムッ! そんなに辛いのか!? ならその縄を縛るのは僕が、」

 

「お前も忘れてるんだろうけど、左腕グッサグサだからね。良いから休んでろタコ」

 

「口が悪いぞ動島くん!! 人々の規範となるヒーローがそのような口調では、」

 

「分かったからデカイ声出さないでね、ステイン起きるから」

 

 ステインを完全にグルグル巻きにすると、自分の方に背負う。武器を外してしまえば、身長は高くても細身だ。むしろ良くこれで動けていたなと思うほど、軽い。

 

「……振武、こっちは大丈夫だ。どうやら個性が解けたらしい」

 

「皆、プロなのに不甲斐なくてすまない……途中なんて俺が話しかけられないくらいのレベルだったし、凄いな君ら」

 

 焦凍の元に一緒にいるヒーロー……ネイティブアメリカンのようなコスチュームを着ているヒーローは、どこか申し訳なさそうにしている。それに「気にしないでください」とだけ返すと、振武は焦凍と伴って歩き始める。

 

「ステイン重くねぇのか?」

 

「むしろ成人男性にしちゃ軽いくらいだ。これで動けていたのが不思議なくらい」

 

「そうか……振武、」

 

「? なんだよ」

 

それで良いんだな(・・・・・・・・・)?」

 

 焦凍の言葉で、思わず足を止めてしまう。

 さっきの飯田の話を聞いていたのだろう。いや、狭い路地だ、飯田が聞いていたならば自分のやりたい事は既に出久や焦凍にも伝わっているだろう。

 何も言わずに、ただ確認するだけ。

 言葉を尽くし過ぎない焦凍らしい聞き方に、振武は小さく頷く。

 

「――おう、俺はもう譲らない」

 

 その言葉に、焦凍は小さく頷く。

 

「そうか……取り敢えず、お前の周りにいれば苦労しそうだってのは分かった。今更だし、俺や八百万、魔女子は文句言いながらも付き合ってそうだしな、結果的に」

「なんかその言い方酷くない? もうちょっと言い方ない?」

「?……『人を巻き込むのが上手いな』?」

「褒めてんの貶してんのつうか貶してるよなソレ!?」

「? 悪い」

「お前分かんない時に取り敢えず「悪い」って言うのやめない? 悪い癖だぜ」

「そう言うお前は、前に出よう出ようっていう悪い癖が出てた。俺が個性使い辛いからあれやめろ」

「ジャンル違うだろうが!」

 

 緊張が解けたからか。

 何かを為した事の喜びか。

 2人は結果、いつも通りの話し方をしていた。

 確認したのは、本人の覚悟だけ。

 それだけ聞けば、焦凍にとっては十分だった。どんな信念を動島振武が抱こうが、焦凍の心は決まっていた。

 それを出来るだけ手助けする。

 友達の手助けはするものだと、既に焦凍は思っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 




おまけコーナー「印象調査!?」その4

Q 動島振武あなたにとってどんな人間ですか?

爆豪「いつかブッコロス!!(BOOOOM!!)」

A 誰にでも言いそう



ここでステイン編終了……ではないです。
あと二、三話続きます。どうかお楽しみに。


次回! しんぶ の めのまえが まっくらに なった! だらだらして待て!!


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