plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode11 愚者の夢を

 

 

 

 

「――で、状況を教えて貰えるか?」

 

 腕の折れた出久を庇うように振武は立つ。

 この状況は、ちょっとばかり振武の予想を外れている。

 出久、焦凍の2人がここに立っているのは分かる。ステインと飯田がいる事も、最悪なのは確かだが予想出来た。もう1人被害者であろうヒーローがいる事も。

 だが、目の前の少女はなんだ。

 自分の攻撃を受けてから即座に構え直しているが――あの構えは、

 

「なんで動島流習得者がここにいる? 道場で見かけた事はないが……師匠は誰だ?」

 

 振武の言葉に、少女は一度構えを解いて丁寧にお辞儀する。

 

「お初にお目にかかります動島振武様。

 此方の名前は見聞木操子。敵名は《自動殺戮(オートマーダー)》を頂いております。年齢は14歳。誕生日は10月23日の天秤座。家族はいません。師は動島知念――」

 

「ちょっ、待った!!」

 

 スラスラと自分のパーソナルデータを話し始める少女――見聞木、またはオートマーダーを――慌てて押し留める。

 

「何でしょう此方の言葉に何か不備がありましょうか」

 

「……んな話して大丈夫なの? それとも、嘘を話してこっち混乱せようってのが狙い?」

 

 自分の事を敵が話して良い事はない。どこの誰かを特定されれば、隠れ潜んでいる事にも苦労するようになる。最悪個性も知られる可能性がある。

 だが、そう言ってもオートマーダーは表情を変えない。

 

「此方は戸籍がないので追跡される心配はありません。動島流宗家の方には礼節をと師匠から仰せつかっています。さらに――『言うな』という命は受けておりません」

 

「……ああ、そういう感じ(・・・・・・)なのね、君は」

 

 命令を受けていなければそれを行わない。

 逆を言えば――命令を受ければどんな事でもする。

 オートマーダーとは良い名前だ。命令すれば自動で人殺しすら厭わない。

 元来そういう気性だったのか、それともそういう風に育てられた(・・・・・)のかは、今の所追究するのは難しい事だ。

 だがどちらにしろ、

 

「――君みたいな子にそういうクソッタレな事をさせる奴には用が出来た。動島って名前もそうだが、ちょっとそいつの話を聞かせて貰えるかな?」

 

「――申し訳ありません命令でそれは出来かねます」

 

 真っ正面から睨み合う。

 誰も彼もを救うと決めた。だがそれは相手を絶対に傷つけないって話じゃない。相手は本気で自分を殺しに来ているのだ、殺すのは絶対にダメだが無力化しないと話すら出来ないというのは無理とかではなく、本当の馬鹿になる。

 ――だが、今の状況が悠長にそれをやれる状況じゃないというのは、振武も理解している。

 今動けないプロヒーローが1人。右腕がバキバキな出久、動けるが腕から出血している飯田、見た所傷はなく動ける焦凍。

 飯田と出久で一人前と考えて3対2。

 だが相手はプロヒーローを嬲り殺す事だって出来る本物の殺人者と、人を殺す事に躊躇しない動島流習得者。おまけに個性不明。

 

「状況詰んでんなぁ……出久、情報くれ」

 

 1番分析力がある出久に話しかける。

 

「っ……ステインの個性は多分、相手の血を摂取すると、摂取された相手が動けなくなる個性。血液型で拘束時間も変わるみたい。

 オートマーダーって子の方は……ごめん、分からない。でもまるで時間を止めたような個性だ」

 

「時間操作? おいおいありえねぇだろう……って言いたいが、そういう言葉は現代社会じゃ通用しないもんな」

 

 どちらも相手より先に動く、一方的に動けない相手を嬲る所は同じ。刃物を使っている性質上近接限定。

 ――この2人、恐ろしく性質が似ている。

 性格の話ではなく戦い方のスタイルが。

 つまり、この2人は連携を取る必要性がない。お互い何が必要で何が邪魔になるか理解している、同じ戦闘方法な故に考えなくても連携を維持できる。

 

「とにかく2人いっぺんは、「――ペチャクチャとお喋りだな、偽物」ぐっ!!」

 

 出久に話しかけようとすると、一息する間にステインが距離を詰めて斬りつけてくる。

 構えも振るい方もめちゃくちゃ――というより、単純明快過ぎて武術や既存格闘技の匂いを感じない、純粋に相手を殺すだけに振るわれる刃。

 それを裏拳――籠手が守ってくれている場所で弾きながら、答えを見つける。

 我流。

 目の前の男は完全に自分の流儀で殺しを覚えている。

 

「――此方も動島流宗家は知念様しか知りません。お相手願いますか?」

 

 効果音を付けるならば、ぬるりとでもつきそうな、一瞬で死角に回り込んでの攻撃に振武はつい数時間前まで戦っていた相手のことを連想する。

 ブレイカーが使っていた――動島流隠密術。

 

「刀術だけじゃないって事か!!」

 

 最中に回り込んで来たオートマーダーに、向かって、一歩下がって肘をぶつける。

 攻撃力はないが、体勢を崩す。

 そこに、

 

「させん!!」

 

「動島くん! オートマーダーは僕らが!!」

 

 飯田と出久が間髪入れずに突っ込んでくる。

 出久は空いている拳で、飯田は蹴りでオートマーダーに攻撃していく。

 

「――――っ」

 

 無表情ではあるものの、動きに一瞬動揺が走っているのがわかる。

 そのまま後退するように対応しているオートマーダーを、出久と飯田が追った。

 

「――動島、ハァ……聞いた事があるとずっと考えていたが、そうか、あの(・・)動島か」

 

 ステインは振武が防ぐ際に折ってしまった刀を捨て、ナイフを取り出しながら小さく溢す。

 

「知られているとは光栄だね」

 

「当然。何度か習得者に遭遇しているからな――手強い偽物だった」

 

 動島流もピンキリだ。

 上位者になっていけばいくほど化け物と称されても文句は言えないレベルの人間もいれば、当然まだまだ習得して日の浅い人間だっている。

 ステインは強い。一合やり合っただけで分かる。

 一朝一夕で学べるものでもなければ、中途半端な覚悟で届く領域ではない。師匠もなしにコレだというんだから、ちゃんと師がついたらどうなるのか分からない。

 もっとも、こんな狂人に武術を教えようという人間がいるかは微妙な所だが。

 

「――なあ、ずっと疑問だったんだ」

 

 構えながら、振武は話しかける。

 ヒーロー殺し、ステイン。〝英雄回帰〟の信念を掲げる犯罪者。世界に溢れるヒーローを偽物だと断じ殺す殺戮者。

 

「なんであんた――諦めたんだ?」

 

「――どういう意味だ?」

 

 振武を殺そうとする目をしていたステインに、疑問の光が見える。

 時間を稼ぐという意味もある。

 ブレイカーにはここの場所を教えてある。ヒーロー達が来るまでの時間はそう長くはないだろう。脳無達が起こしている混乱も、ブレイカーが本格参戦すればすぐに解決出来るはずだ。

 だがそれだけではない。

 飯田と話してから調べたステインの情報は、今思えばブレイカーの言葉にかなり近い。

 真のヒーローなど、今の社会にいない。

 優しい人々に、この世界は優しくない。

 そう涙ながらに語ったブレイカーの悲嘆と、殺すことで証明しようとするステインの考えは類似点が多い。

 そしてどちらも――諦めている。

 片方は言葉ではなく行動として偽物の抹殺を選んだ。

 片方はあらゆる手段を使ってでもその歪みを内部から変えようとした。

 やり方は違ったし、ブレイカーは結局それすら諦めた人間。だから決定的に違いはある。

 

「人は絶対に変わらないって決めつけて――そいつを殺す事でしか社会を変えられないと考えた理由が知りたい」

 

 ステインがこういう手段しかないと断言する根拠、理由が知りたいのだ。

 その言葉に、ステインはハッと笑い声をあげて――ナイフを投げつける。

 

「――フッ」

 

 息を短く鋭く吐いてから、そのナイフを丁寧に叩き落とす。

 1秒にも満たない攻防。

 その瞬間に、ステインはすでに振武の横に立って別の刀で振武を斬ろうとする。

 瞬殺。その目的に至る為人必要な最小限の動きと素早い動き。

 

「――答えろよ、なあ」

 

 だがそれは振武には見えていた。

 そのまま刃を当たらないように避けながら腹に蹴りを叩き込む。

 狡猾で鋭い刃――しかし振武が戦っている舞台ではそれくらいは対応出来る。

 試すような攻撃。

 恐らく、彼はもっと上手くて速いはずなのだ。

 

「対応出来るのか、ハァ……強さは悪くない。

 だが、どうしてそんなことを聞く? 返答如何によっては――殺す」

 

 蹴りと後ろへの跳躍で相殺しながら、ステインは舌舐めずりをしながら答える。

 そんな質問をしてきたのは、彼だけではない。言葉は違えど、皆同じ事を言ってきた。『なぜこんな酷い事をするんだ』『人を殺す事ないじゃないか』というような、甘ったれた言葉。

 それは全て自分の命を守るための虚飾。

 所詮今のヒーローにまともな奴は少ないのだ。

 だからステインの目の前に立っている動島振武が同じ事を言い出したら、感慨なく殺そう。

 そう思って刀を構えた。

 

 

 

「んなもん決まってんだろ――アンタを、〝たすける〟事が出来るかもしれないだろうが」

 

 

 

「……ハァ?」

 

 吐息を漏らした訳ではない。

 驚いたのだ。

 

「アンタが諦めた〝理由〟が分かれば、改善出来る可能性だって出て来るだろう?

 アンタの考えは相当の極論だが、頷ける部分がある――だからこそ、人殺しなんつう雑なやり方じゃねぇ、もっと良いやり方を見つけられるかもしれねぇだろう。

 それに――アンタが考えているよりもずっと、世界は物分りが良いかもしれないだろう?」

 

 自分の意見は通らないという根本を解決させてしまえば、ステインがわざわざヒーローを殺して回る事はない。

 人を死なせず人を変える。

 そうすれば、誰だって救われる。

 今まで殺されたヒーローの身内は怒るかもしれない。

 傷つけられた人々は認めないかもしれない。

 ステインを殺せと望むかもしれない。

 だがそれでも――もっと良い結果が手に入るならば、振武はもうそれを諦める気は無いのだ。

 

「――は、はは、ハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 一瞬だけ2人の間に静寂が訪れるが、すぐにステインの笑い声が狭い細道に溢れる。

 苦戦しながらもオートマーダーを抑え込んでいた振武の仲間3人も、オートマーダーすら手を止めるほどの笑い声。

 何故笑うのか。

 そりゃあそうだろう。

 だって目の前の子供は、少年は――本気(・・)でそれを言っているのが見ていれば分かるからだ。

 様々な嘘や其の場凌ぎを聞いてきたステインだからこそ分かる。

 そう目の前の少年は思っているのだ。

 ステインの信念だって、受け入れられる部分があると。

 そういうところを広めてやろうじゃないか、もっと安全な方法でと。

 狂人の論と断じず、出来る事を冷静に考えながらも――まるで子供のわがままのように、世界を信じて声を発すると。

 目の前の少年は、本気で――ヒーロー殺し、許されぬ罪を重ね続けてきた犯罪者、ステインを「たすける」と言ったのだ。

 それが難しい事を承知で言っているのだ。

 馬鹿。

 愚か。

 甘い。

 向こう見ず。

 筆舌に尽くしがたいお人好し。

 色々な言葉があるが――その輝きは、ステインが考えている最高のヒーローと似て非なる、だが同じほど輝かしいモノだった。

 

良い(・・)!! 諦めぬ愚者、俺すら救おうというのか愚か者が!!!!

 正気か!? お前の抱いているそれ(・・)は夢を掛け合わせ過ぎてもはや幻想と言える所業だぞ!? それに挑もうというのか!?

 オールマイト(平和の象徴)にすら出来なかったそれを、お前が!!?」

 

「……出来るかは、分からない。道半ばに死ぬかもな。ついでに誰かに刺されてとか。

 でももう俺は諦めないんだ。救い切れなかった人間を無視する事も、そればかりを見続ける事も

 ――だから、ステイン。お前〝も〟救う」

 

 ブレない。

 足を止めない。

 例え、それが歩くたびに傷を作るという結果になろうとも。

 

「それに、俺には〝仲間〟がいるからな――頼む、焦凍(・・)!!」

 

 今まで沈黙していた男が、その声に反応して動く。

 まるで蛇が進むように冷気が這い、ステインとオートマーダーの足を凍らせる。

 足を崩させない、だが靴を凍らせ、足運びに一瞬の隙を生む微妙な氷結。

 だが近接、高速を尊ぶ戦い方をする2人には、それが致命的な感覚になる。

 

「ステイン――アンタを止めて、アンタを救う!!!!」

 

 その瞬間を、逃す振武ではない。

 足音もなく目の前に立った振武の拳は、まるでそこに収まるべくして収まるように、ステインの腹に当てられる。

 

 

 

「震振撃――破鎚」

 

 

 

 まるでショットガンのような、面の衝撃。

 それが、至近距離でステインの腹に突き刺さる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 保須の中心地。その広場で、エンデヴァーとブレイカーの共闘が続いていた。

 

「チッ、空を飛べる奴が厄介だ!! 他に飛べる者はこの場にいないのか!?」

 

 豪炎を手に生み出し、それをまるで光線のように飛ばすエンデヴァーはそう怒鳴る。

 空を舞う脳無は、まるで風に流されている凧のようにのらりくらりと回避し続けていた。

 

「俺の連れてきた人員にも残念ながらいない。空を飛べる人間というのはなかなか貴重なん――だ!!」

 

 ブレイカーは冷静に答えながら、筋肉質な巨体の脳無が投げつけてくる、大きな瓦礫を、周囲のヒーローに当たらないように分壊する。

 ――戦況は思わしく無い。

 空を飛ぶメリットは大きい。遠距離の攻撃手段を持っているものしか対応できず、おまけに空の敵はそれを回避し続けている。空を飛ぶ以外の個性が何かあるのか、攻撃はそう簡単に当たらない。風を応用しているのか、それとも回避系、相手の攻撃を誘導しているのかさえ分からない。

 巨体の脳無も同じだ。人1人を簡単に吹き飛ばせるだけの筋力を持っているのもあるが、さらにあいつはブレイカーの分壊の個性を〝弾いた〟。

 ブレイカーの個性は物体の分子同士が結合しているその繋がりを、個性が発する力で強引に解体する事だ。そのものの構造をそれなりに把握していないと分壊する事は難しい。その力を弾かれているのだ。

 個性を無効化しているわけでは無い、単純に防御力なのか……それとも、改造されている過程で通常の人体の作りとは違うからなのか。

 それを精査している時間はなさそうだ。

 

「どちらも出来れば纏めて倒しておきたいんだけど……炎司はなんか良い案あるー?」

 

「あったら最初から言っているわ! というか、現場で本名呼ぶな!! 《エンデヴァー》と呼べ《ブレイカー》!!」

 

 エンデヴァーの怒声にだよねーと少し緩く返しているブレイカーだが、頭の中では目まぐるしく思考が駆け巡っている。

 本当は空に飛んでいる脳無を倒すのが先決。空を飛ばれてどこかに逃げ、被害が拡大する可能性すらあるのだ。出来れば無効化しておきたい。だが地上でそれを行なっている間に筋肉質の脳無が邪魔をする。

 筋肉質の脳無を最初に倒そうとすれば当然空を飛んでいる脳無の対処が疎かになり、それこそ意味がない。

 ならば同時に倒すしかなくなってくるのだが、そうなると空にまで届く高火力の攻撃をぶちかまさなければいけない訳だが、そうすると周辺への被害は甚大になってくる。幸い避難は出来ているので、問題は建物の被害とヒーローの安全確保。

 敵を殺す為ならば多少の犠牲は……そう思うところを止める。

 息子の信念を否定できなかった手前、自分がそんな事をする訳にはいかない。

 ――だが、この戦闘の中で敵味方共に情報は揃ってきた。自分達が来るまで連携がバラバラで、一緒に戦っているという感じではなかったが、戦っていくうちに周囲の人間との呼吸も合ってきた。

 今の状況でならば、勝ち目がある作戦も思いつくはずだ。

 

「考えろ、ブレイカー!! そういうのはお前の方が得意だろう!!」

 

 炎を放ちながら叫ぶエンデヴァーに「分かってる」とだけ答える。

 今この場にいるヒーローは6人。最初はもっと多かったのだが、倒れたのと避難誘導している人員を差し引けばそんなものだ。

 水を出す地味目のヒーロー、彼がどこまでの量を出せるのか分からないが。

 自分の部下としてここにいる中にはシールドを発する個性、大きさと強度は一級品だし、「彼が許可したものの出入りを自由にする」という特性を持った独立出来るほど強力な個性だが、今の状況では使い所が難しい。

 重力を一時的に重くする個性、そういう個性を無効化する個性を持っているのか、空を飛ぶ脳無には1秒かそこらしか効果がなかった。

 膂力メインの増強型個性、確かに強いが出力が筋肉質の脳無をどうしても超えない。

 ……そして炎と分壊。

 今ある材料で出来る事――、

 

「――エンデヴァー、中学校2年の事覚えてる?」

 

「ああ!? なんだ思い出話なら後にしろ!!」

 

 空を飛ぶ脳無を牽制する炎を放ちながらエンデヴァーは怒鳴るが、ブレイカーはそのまま話を続ける。

 

「俺らがいつも個性を練習していた、人の使ってないプレハブ。そこでいつも個性を練習していたけど、あれが君の個性で燃えちゃった事があったよね」

 

「さり気なく俺の所為にしようとするな!! お前が理科の実験で面白い事を考えたんだとか言ったからだし、あれは燃えたというより――待て、本気か!?」

 

 話している間にも記憶が蘇ったのか、エンデヴァーは素っ頓狂な声を上げる。

 

「どんな規模でやろうとしているのか分からないが、拓けた場所で使えるもんじゃないだろう!

 下手をしたら敵を殺す事になるぞ!!」

 

「纏めて無効化するならば、丁度いい個性が集まっている。幸い被害は抑えられるし、昔より僕は微調整が効くようになった。あれからちゃんと研究してたんだよ……それに相手は人間以上の体力を持っているようだ、簡単には死なない。

 勿論、他の人間と相談してから、出来るか判断する。

 ――僕を信じて、炎司」

 

 仮面に表情は見えない。

 だが、その声と態度で、ブレイカー……壊が本気だという事が分かる。

 エンデヴァー……炎司は嫌でも分かっている。

 壊が自分よりもそういう事に長けている人間だという事を。

 

「――《エンデヴァー》だ。

 俺は何をすれば良い?」

 

「僕が言うまで足止め、出来れば空の脳無を筋肉質の脳無の上空にいさせて。

 準備が出来れば、その時に指示を出す。

 ちなみに、エンデヴァーはどれくらい精密な作業が出来る?」

 

「蝋燭についている火程の小さな火種だって飛ばせる。

 ――とっとと終わらせよう」

 

 目も合わせず、

 ハイタッチもない。

 お互いそんな事をする年齢じゃない。

 でも信じている。

 お互いならば上手く合わせられると。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ガハッ」

 

 ステインが吐血する。

 威力は限界ギリギリまで抑えているが、内臓のダメージは深刻。

 すぐに死なないが、戦闘は難しい。

 一瞬の隙。

 ただそれだけで掴み取ったダメージ。

 

「ッ……虚飾を使わず、真実で、騙す、かっ」

 

「悪いな、嘘を吐くのは性分じゃないんだ――ちょっとだけ眠っててくれ、話は後でも出来る」

 

 それだけ言って意識を失ったステインに、振武はそう言う。

 後から回復系個性を持っているヒーローがやって来ると分かっているからこその無茶。

 出久や飯田、そして焦凍が蓄積させた疲労とダメージが上手く作用したからこその無謀。

 本当はこんな事すら出来ればしたくない……そう思いながらも、傷を負わせる事は納得するしかないという矛盾。

 ――なるほど、こりゃあ茨の道だわな。

 突き刺さる棘を胸の中で抑え込む。

 

 

 

「動島流刀術――籠ノ鳥」

 

 

 

 ――まだ、戦いは終わっていないのだから。

 一瞬で周囲を取り囲むように振られた4つの斬撃。

 それを振武は、

 

「――踏鳴!!!!」

 

 振動した脚で放った衝撃で封殺する。

 

「――お見事です。さすが動島流宗家の嫡男。仲間の力すら利用し敵を追い詰める強さは見事と言う他ありません」

 

 そう言いながら、オートマーダーはこちらに歩み寄る。

 なぜ動ける。

 少しそう驚いたがなんて事はない――凍った靴を捨て裸足になっただけのことだ。

 見てみると、彼女のダメージも相当だ。服の腹の部分には飯田に蹴りを入れられたのか汚れがつき、頬も少し腫れている。これは出久の拳によるものだろう。

 むしろあの2人の本気の攻撃を受けて平然と立っているのが、不自然だった。

 灯籠流しと同じ、防御技が使えた可能性は――否定出来ない。

 だが、

 

「……利用なんて人聞きの悪い。信頼して任せたって言って欲しいな」

 

「どう違うのか此方には解りません。説明を求めます」

 

「流石にそれを説明すんのは野暮だろう……それより、君の話の方がこっちは興味がある。

 なんで――そんな未熟な腕でここに立っているんだ(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 その言葉に、オートマーダーは答えない。

 それでも振武は話し続ける。

 

「動島流刀術・籠ノ鳥……そう言うには、あの技には斬撃が足りなかった(・・・・・・)

 良く師が許可したもんだ」

 

 本来籠ノ鳥は6つの斬撃で相手を切り刻む事を考えて作られた技だ。

 つまり、2つ足りない。最低でも5つの斬撃を放たなければ、逃さず殺すと言う目的で作られた技の意味がなくなる。

 斬撃そのものもそうだ。1つ1つは鋭いが軽い。振武が無効化出来てしまう程。

 足運び。

 刀の振り方。

 どれを取っても、まだ習得者と名乗れるレベルには達していない……動島流として言えば、未熟者。

 中学校の時、1人で戦おうとした自分と同じ。

 

「……師は『実戦こそ最高の鍛錬』と言いました。故に此方にとってこれは必要な事と判断します。

 ですので――貴方との鍛錬を所望します」

 

 刀を振り上げる。

 

 

 

「――――止マレ――――」

 

 

 

 オートマーダーに注目していた全員がその個性にかかる。

 支配するのは静止。

 焦凍の個性のそれとは違い、それは完全なる止まった世界。

 それを最初に打ち破ったのは――、

 

 

 

「――ハァ!?」

 

 

 

 攻撃を受けようとしていた動島振武だった。

 時間にして1秒。

 たったそれだけの時間の静止。

 その間に放たれた斬撃は、振武の頭を斬り砕かん上段。他の流派では兜砕きと呼ばれるような、剛剣。

 それを振武は、白刃取りで受け止めたのだ。

 あと数秒固まっていれば、振武の頭は熟れたトマトのようにあっさりと潰れていただろう。いや、綺麗に両断されていた可能性すらあった。

 

「――っ、なんだ、一体何があった!?」

 

 数秒のタイムラグで、石のように固まっていた飯田が動き出し、困惑した声を上げながらオートマーダーを蹴りつける。

 それを横目で確認したオートマーダーは、白刃どりされた刀を支えに、蹴りを相殺するように蹴りを返す。

 

「――っ、解けた、ってなんで2人とも動けてるの!?」

 

「――やっぱそういう事か!!

 避けろ、振武、飯田!!」

 

 次に解けたのは、出久と焦凍。

 焦凍の声に即座に反応して身を下げると、焦凍の氷柱がオートマーダーに襲いかかる。

 

「動島流刀術――霧雨」

 

 刀の自由を取り戻したオートマーダーは、雨のような突きを氷に振るい、氷の塊だったそれを無害な大小の欠片に変化させる。

 

「動島くんと飯田くんは、どうして動けたの!?」

 

 出久の言葉に、飯田は首を振る。

 

「俺たちも同タイミングではなかった」

 

 ほんの数秒の差ではあったが、振武の方が早く動けるようになってた。

 つまり、

 

 

 

「少なくとも時間操作なんて大仰な真似はしてねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけコーナー「印象調査!?」その4

Q 動島振武あなたにとってどんな人間ですか?

出久「えっと、僕にとって尊敬出来る人だよ。強いだけじゃない、真っ直ぐで、僕より全然ヒーローらしいっていうか……そんな彼に認められてるってだけで、ちょっと嬉しいかな。
でも、あの格闘技術と個性の利用法は凄いよね! 振動ってかなり有用性の高い個性だとは思っていたけどまさかあそこまで応用範囲が広いとは思っていなかった武器を持っても拳でも使えるし耳郎さんの真似とか下手な増強型よりも全然良くてでもそれは多分動島流の技術で出来るんだろうけどあの動島流ってどういう(ブツブツ)」

A いつか動島流の勉強まで始めそうな勢い。


次回! 壊さんが水に手を突っ込むよ! ゴロゴロして待て!!


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